第5話 理想の残滓
レイドとミナは、王国の首都、エテルナの近郊にある騎士団の訓練所へと潜入した。
彼らの目的は、元騎士団副団長であるゼノン・ディードを仲間に引き入れることだった。
ゼノンは、貴族社会において数少ない真の騎士道精神を持つ男として知られていた。
平民出身の彼が高い地位に昇り詰めたのは、純粋な剣術と、魔力に頼らない戦術的思考に長けていたからだ。
しかし、その高潔さゆえに、貴族の不合理な命令や、私腹を肥やすための不当な搾取に異議を唱え、わずか一週間前に副団長の地位を追われていた。
レイドは、訓練所裏手の薄暗い酒場で、荒れた様子のゼノンを見つけた。
彼の隣には、安物の酒の瓶が転がっていた。
「ゼノンさん。あなたの戦い方は、最適な戦術解を常に導き出す、論理の剣です」
レイドは、酒を呷るゼノンの正面に立ち、何の臆病風にも吹かれず、そう告げた。
ミナはレイドの後ろで緊張していた。
ゼノンは顔を上げ、レイドの幼い姿と、その冷徹な目に一瞬驚いたが、すぐに自嘲気味に笑った。
「戦術解、だと? その『論理』で、貴族の『血の優位性』という不合理を打ち破れたか? 打ち破れない。俺の剣は、結局、貴族の権力の前には無力だった」
彼は過去の挫折の記憶を吐き出した。
数年前、ゼノンは上官である貴族の命令で、貴族に逆らった平民の村を焼き払う戦いに参加させられた。
彼は、無辜の民を虐殺する命令に強く反対したが、力ある貴族の魔術師の前に、彼の論理は通じなかった。
「これが、騎士団の、王国の『正義』だというのか!」
彼は剣を振るうことができなかった。あの時、彼が捨てたのは、騎士団の地位ではない。
彼の信じた『騎士の理想』だった。
レイドは、彼の回想の記憶を、知識のコアの分析を通じて理解していた。
「あなたは、不合理な命令に逆らい、無力な者たちを守ろうとした。それは、この世界で最も美しい騎士道です。しかし、力と知識が伴わなければ、その理想は単なる感傷で終わる」
レイドは、酒の入ったグラスに、指先からわずかな魔力を流し込んだ。
グラスの中の液体は、一瞬で結晶化し、透き通った氷塊となった。
「あなたの剣術と、私の知識を融合させれば、『論理と科学の軍隊』を創れます。それは、貴族の不合理な血筋ではなく、理性と平等に基づいて指揮される、真に理想的な軍団です」
ゼノンは、驚きで目を見開いた。
魔力を持たないはずの少年が、極めて高度な魔力操作を、何の詠唱もなく、理屈に基づいて行ったのだ。
しかも、その魔力は、貴族の魔法師が使う、感情的な『炎』や『風』ではない。
物質の法則そのものに介入する、冷徹な力だった。
「…騎士団の連中には理解できない、異質な魔力操作。この少年の知識は、本当に世界を変えるかもしれない…。」
ゼノンの目に、一度は失われたはずの『理想の残滓』が、再び灯り始めた。
レイドの創る「自由な国」の理想は、彼が過去に犯した「無力であった過ち」を償い、失われた名誉を回復する、唯一の道に見えた。
ゼノンは立ち上がった。
その目は、迷いを捨て、強い決意を秘めていた。
「面白い。レイド…宰相と呼ばせてもらおう。あなたの『論理』と、私の『剣』が、貴族の『法則』を打ち破る瞬間を、この目で見届けてやろう」
彼は、床に転がっていた酒瓶を蹴散らし、レイドに向かって深く頭を下げた。
「元騎士団副団長、ゼノン・ディード。あなたの創世に、私のすべてを捧げます」
レイドは無表情のまま、ゼノンの肩に手を置いた。
「ありがとう、ゼノン。これで、私たちの創世記の土台が築かれました」
レイド、ミナ、そしてゼノン。
三人は、この不公平な世界を変えるという、巨大な使命を胸に、貴族の支配から遠く離れた、未開の地へと向けて、旅を始めた。
***
本話の表現意図
ゼノンのレイドへの共闘の動機付けを、単なる「レイドの可能性への興味」ではなく、「過去の過ち(無力)を償い、失われた名誉(理想)を回復する唯一の道」という、人間的葛藤と決意の重さを持たせました。
レイドの力が、貴族の魔法とは一線を画す「法則の論理的制御」であることを視覚的に示し、ゼノンが騎士として信じている「論理的戦術」と、レイドの「科学的知識」が同質であることを強調しました。
現時点では「建国後の最高指導者となるべき人物への、仲間内での尊称・役割名」として「宰相」という呼称を使用しました。
リステディア創世記〜転生した俺はチートな地球文明で革命を起こす〜 ねこあし @nekoasi2025
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