路上占い、あれこれ114【占い師は創作する】

崔 梨遙(再)

単発の4089文字。会話調なのでスグ読めますよ。

“起きろ……”

「……」

“起きろ……起きろ……”

「…………」

“起きろ! ヤエ!”

「はっ! 何? ここはどこ? 私は誰?」

“ここは境界線”

「何? 上も下も右も左も真っ白な世界なんやけど?」

“ここは生と死の境界線”

「私は死んだんか?」

“死んだ”

「ああ! もうアカン。早く私を天国に連れて行ってや」

“それは出来ない”

「え! なんで? ほな、私は地獄へ行くんか?」

“それも出来ない”

「え! なんで? どういうこと?」

“天国からも地獄からも受け取り拒否されているからだ”

「なんで? 郵便局やないんやから!」

“なので、お前は中学生に転生する。もう一度、人生をやり直してみろ”

「え! 転生できるの?」

“お前は80歳まで何をしていた?”

「え? 婚活」

“今度は天国に行けるように頑張れ”

「はい、はい~! 転生万歳!」

“では行け! 豚子!”

「待って!」

“どうした?”

「名前をなんとかしてや」

“では行け! 豚美!”

「ちょっと、名前! 名前!」

“えーい! 面倒臭い! 行け! 毒島妙子!”

「うわー!」



「は! ここは? 学校?」


 妙子は急いでトイレに入った。鏡を見る。若い! 本当に転生したのだ。


「ふふふ……ははは……ぐわははははは!」


妙子は中学2年生に戻った現状に満足した。授業中も、嬉しくて笑い続けていた。


 妙子が昼休みにトイレから席に戻ると、机の中に手紙が入っていた。妙子はダッシュで再度トイレに入って手紙を読んだ。


“放課後、屋上で待っています”


 放課後、妙子は上機嫌で屋上へ行った。そこには、1人の男子生徒の後ろ姿があった。男の子が振り向く。男の子は普通の顔だった。イケメンではない。中肉中背。パッとしない男の子だった。


「毒島さん、来てくれたの?」

「あんた、誰や?」

「嫌だなぁ、同じクラスの多田野一郎だよ」

「あんた、成績は?」

「平均点くらい」

「スポーツは?」

「文芸部」

「さよなら」

「待ってよ! ヒドイよ」

「うるさいなぁ、ほな、あんたはキープや!」

「キープって……僕はボトルじゃないんだけど」

「あんたはこれから私に協力しなさい。この学年の1番のイケメンは誰や?」

「1組の一条君だと思う」

「ほな、明日の放課後、一条君を放課後の屋上に呼び出しといてや」

「え! なんで僕が?」

「ええから、言う通りにしなさい!」

「わかったよ」



 翌日、放課後、屋上。


「僕を呼び出したんは君か?」

「そうや、あんたラッキーやなぁ、この私と付き合えるで」

「何を言ってるんだかわからないんやけど」

「細かいことはええねん、あんたは私と付き合ったら幸せになれるんやから」

「俺、彼女がいるで。学年で1番美人の美崎や」

「それはもう過去の話や。だって、私の方が美人やろ?」

「は? どこが? お前ブサイクやんか」

「私、スタイル抜群やし」

「いやいや、太ってるし」

「これは、“少しぽっちゃり”って言うねん」

「とにかく、お前と付き合う気は無いから」



「多田野君、1番勉強できる男子は誰や?」

「学年の1番は二条君だよ」

「ほな、二条君を明日の放課後、屋上に呼び出しといてや。勉強できる子は将来有望やからなぁ」



 翌日、放課後、屋上。


「俺を呼び出したのは君?」

「あんた、ラッキーやなぁ、私と付き合えるで」

「いやいや、君とは付き合いたくないよ」

「無理せんでもええで。私が美人やから緊張してるんか?」

「いや、お前、ブサイクやし」

「この抜群のスタイルを見て思うことがあるやろ?」

「太ってるやんか」

「“少しぽっちゃり”と言わんかい!」

「とにかく、君には興味が無いから。さよなら」



「多田野君、スポーツ特待生になれるくらいスポーツが出来るのは誰や?」

「え! まだやるの?」

「スポーツ選手の妻というのも悪くない」

「サッカー部の三条君だけど」

「ほな、三条君を……」

「わかったよ、呼び出したらいいんでしょう?」

「そういうことや」



 翌日、放課後、屋上。


「僕を呼び出したの、君?」

「あんた、ラッキーやなぁ、私と付き合えるで」



「あれ? おかしいなぁ」

「毒島さん、同じことを繰り返すのはやめようよ」

「もうええわ、同い年には興味が無くなった。年上を口説き落とす」

「今度は誰?」

「教育実習生の四条先生や」

「まさか、屋上に呼び出すの?」

「それはせえへん。まあ、任せなさい。作戦があるねん」



 翌日、昼休み、職員室。


「先生、手作りのお弁当です。食べてください」

「何、これ?」

「すき焼き弁当です」

「うわぁ、ご飯が“つゆだく”だぁ。これ、毒島さんの手作り?」

「私の母の手作り弁当です。すき焼きは昨夜の残りです」

「肉が無いね」

「まあまあ、食べてくださいよ」

「……」



 放課後。自転車置き場。


「せ・ん・せ・い~♪」

「うわ、びっくりした」

「先生、これから帰るんですか?」

「うん、そうだけど」


「なんでついてくるの?」

「私もこっちなんです」


「ついてきちゃだめだよ」

「私もこっちなんです」


「君、困るよ。アパートに着いちゃったよ、君は帰りなさい」

「あ、先生、トイレを貸してください」

「ダメだよ、女子生徒を先生の部屋に入れるなんて出来ないよ」

「あ、ダメです、漏れそうです。ここで漏らしてもいいんですか?」

「仕方ないなぁ、トイレがすんだらスグに帰ってくれよ」

「お邪魔します。あ、先生のベッドや-!」

「こら、ベッドに入るんじゃない」

「先生、わかってるくせに。私を好きにしていいんですよ」

「君は生徒じゃないか、帰りなさい」

「嫌です-! 先生と付き合えるまで帰りません」

「君は! なんという子なんだ!」

「何もしなくても、“いろいろされた”って言いふらしますよ」

「君という子は、とんでもない子だな」

「先生、もう私から逃げられませんよ」


 先生は部屋を出ていった。妙子はベッドの中でウキウキしながら四条先生の帰りを待っていた。やがて、先生は帰って来た。教頭先生と一緒に。



「最悪やわ」

「毒島さん、無茶し過ぎだよ。中学だから謹慎ですんだけど、高校なら退学だよ」

「ふん、あれは相手が年上過ぎて私の魅力が伝わらなかっただけや」

「これから、どうするの?」

「先輩って、ええよな?」

「え! 先輩?」

「1番イケてる3年の先輩って誰や?」

「多分、五条先輩だと思う。勉強もスポーツも出来てイケメン」

「ほな、次は五条先輩やな」

「え! 先輩を屋上に呼び出すのは無理だよ」

「呼び出さへん。五条先輩はどこや?」

「グラウンドだよ。サッカー部だから」



「ほら、あの人が五条先輩だよ」

「OK! 顔はおぼえた。私は先輩が帰るまで待つわ」



 夕方、駐輪場。


「五条先輩~♪」

「君、誰?」

「2年の毒島妙子です」

「そう、俺に何か用?」

「いえ、別に」


「おい、ついてくるなよ」

「私もこっちなんです」


「ついてくるなや」

「私もこっちなんですよ」


「おい、俺の家に着いてしもたやないか」

「ここが先輩の家ですか、いい家ですね」

「もう帰れや!」

「あ!」

「どないしたんや?」

「お腹が痛いんです。ちょっとトイレ貸してください」

「アカン、帰れ!」

「漏れそうなんです」

「漏らせや!」

「小ちゃいますよ、大ですよ」

「漏らしながら帰れ」

「家の前でう〇こ漏らしていいんですか? 多分、臭いですよ」

「わかった、トイレを貸すだけやで」

「お邪魔します、今、家にどなたかいらっしゃるんですか?」

「ウチの両親は共働きや。まだ戻ってへんわ。おい、トイレはそこやで」

「先輩の部屋は?」

「2階やけど、って、おい、なんで勝手に2階に上がるねん!」

「先輩の部屋発見-! あ、先輩のベッドやー!」

「おい、なんでベッドに寝転んでるねん?」

「先輩、私を好きにしてもいいんですよ-!」

「いらん、帰れ!」

「まあ、そう言わずに。何もしなくても、いろいろされたって言いふらしますよ-!」

「お前、どこまで性格悪いねん!」

「五郎! 誰かお客様?」

「あ、オカン、ちょうど良かったわ」


 妙子はベッドの上でウキウキしていた。だが、五条君は現れない。しばらくすると、部屋に大人達が押しかけて来た。五条君の母親と妙子の担任だった。



「いやぁ、参ったわ」

「毒島さん、やり方が間違ってると思うんだけど」

「多田野君にはわからへんねん」

「また謹慎処分になったじゃないか」

「わかった、私が間違ってた」

「やっと間違いに気付いたの?」

「うん、やっぱり年下や。かわいいからな。1年生で1番モテてるのは誰や?」

「いや、間違ってると思うポイントが間違ってると思うんだけど」

「ごちゃごちゃうるさいわ! 1年の1番人気は誰やねん?」

「多分、六条君」

「六条君はどこにいてるの?」

「部活でグラウンド、野球部だから」



「ほら、あの男の子」

「わかった、顔はおぼえた。あんたは帰ってええで。私は六条君と帰るから」

「え! さすがに、もう強引なことはしないよね?」

「私のことは大丈夫や」



「六条君」

「はい?」

「私、2年の毒島妙子。家が同じ方向やから一緒に帰ろう!」

「はあ……」


「あの……僕の家に着いちゃったんですけど」

「あ、そうなんや。ごめん、トイレ貸して!」


 六条君の母親が帰って来た時、母親は、どうしたらいいのかわからなくて怯えて泣いている我が子と、我が子のベッドに寝そべる妙子を発見した。勿論、母親はスグに学校に連絡した。



「なんで謹慎になるんやろか?」

「なるに決まってるじゃん! もう3回目だよ!」

「1度結ばれたら、後は愛情が生まれると思うんやけどなぁ」

「あのね、僕達は中学生だし、毒島さんのやり方は強引すぎるんだよ」

「強引かなぁ?」

「強引に家の中に入ってるじゃん! 強引にベッドから誘ったんでしょ?」

「女性にベッドから誘われたら、男やったら喜ぶんとちゃうの?」

「相手によるでしょ?」

「相手は私やで! この私やで! 学校で1番の美人やんか」

「美人かどうかは、好みによると思うけど、僕の目から見ても毒島さんはそんなに美人じゃないと思うよ」

「ほな、なんで私を屋上に呼び出したんや」

「顔とかスタイルの問題じゃなくて、僕は笑ってる毒島さんが好きなんだ」

「あ!」

「何?」

「聞き忘れてたわ、多田野君、あんたのお父さんの職業は何や?」

「父さん? 父さんは医者だよ。開業医だよ。僕も医者になるように言われてるけど」

「た・だ・の・君~♪」

「何? なんか急に雰囲気が変わったみたいだけど」



「あんた、ラッキーやなぁ、私と付き合えるで!」




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路上占い、あれこれ114【占い師は創作する】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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