密室体内時計ゲーム

ちびまるフォイ

11日以上、300日未満

「お母様の余命はあと300日でしょう」


「なんとか治療できないんですか!?」


「海外の大きな病院では治療も可能です。

 ただし費用は1000万ほどかかります」


「い、一千万……!」


自分のどの臓器を売りつくしても手に入らない金額。

諦めかけた自分に舞い込んだあるゲームは、まさに渡りに船だった。


ゲームへ参加すると、時間のわかるものはすべて没収。


時計。

スマホ。

ゲーム機。


痛み具合で時間が測れてしまうので食品すらNG。


通されたのは真っ白な部屋だった。

窓もなく、リモコンが置かれている。


ボタンを押すと食事が提供される。

ボタンを押すと布団で眠れる。

消灯、明点も自由自在でなに不自由ない密室生活。


「ここで生活して気が狂わなければ賞金が?」


「いいえ。ここで暮らした日が"何日だったか"を

 出るときにぴたり当てられれば賞金です」


この密室に居座るのも出るのも自由。

ただし一度出たら戻ることはできないし、回答も1回限り。


経過日数によって報酬が変化する。


1日いて、1日だと正解できたら1万円。

2日いて、2日だと正解できたら1×2=2万円。

3日いて、正解できたら1×2×3=6万円


目標金額の1000万までは、最低でも11日待機する必要がある。


「今、どれくらい経過したんだろう……」


時計も没収されて、日の光も入らない。

そんな密室でも日数をぴたり当てられるのだろうか。


リモコンで希望を出せば暇つぶし道具も提供される。

ただし時間がわからないように本や塗り絵、パズルにボードゲームなど。


無機質な部屋では時間が止まっている感覚にすらなった。


「58、59、60……これで1分」


自分の体内時計が狂わないように、自分の脈拍で時間を計測する。

11日以上経過タイミングで外に出なければならない。


「ふう……少し……寝るか。

 眠くなったってことは、きっと1日経ったんだ……」


リモコンで寝具を提供させて眠りについた。

目を覚ましても無機質な壁と天井が目に入る。


「ふあぁ……。たぶんこれで1日くらい経っただろう」


部屋にいるときは常に規則正しいルーティンをこなした。


筋トレを規定回数。

部屋の中をぐるぐる歩き回ったり。


その回数がある種の時計の役割をしている。


規定回数の運動をすれば体にはエネルギーが足りなくなるので、

同じタイミングで食事が必要になるし、睡眠や排泄も同様。


同じ動きを繰り返せば、1日のルーティンの達成時間で経過日数のおおよそがわかる。

まさに完璧な計画だと思った。


ある日、布団から起きると全身の痛みにもんどりうった。


「なんだ……この痛み……寝違えたか……?」


腰回りがいたくてルーティンがこなせない。

これにより、1日の経過時間のおおよそを測ることができなくなった。


さらに悪いことに食事や睡眠は慣れきっている時間に食べたくなる。

食事や排泄と運動タイミングのずれにより自分の計画は破綻した。


もう何日経過したかなんてわからない。


「大丈夫……俺にはまだ秘策がある……」


再び眠りについた。



起きた。


食事をした。


眠る。



起きる。


食事をする。




眠る。




起きる。眠る。



食事。


寝る。起きる。寝る。




眠る。




眠る。



食事。



食事。





起きる。



眠る。







「あれ……今、何日……?」



何もない無機質な部屋は、ゴミだらけ。


頭はいつもぼーっとしていて判然としない。

体調は良いのに風邪のような状態。


食事は食べたのか?

今まで自分は寝ていたのか?


何をしていたのかもうわからない。


完全に体内時計も狂ってしまい、

それにより自分の身体調整機能も壊れてしまったのだろう。


「11日は経過……した……のか?」


なにもない部屋なので体感的には過ぎたような気もする。

でも退屈な時間は長く感じる。

11日も過ぎていないのではとも思える。


なにか11日以上過ぎたことをわかる手段がないのか。


「あっ……」


ふと視界に横切る黒い影に気がついた。


前髪。


前髪が長くなって、視界に入り込んでいる。

もし11日未満だとしたら、こんなには伸びない。


「これだけ前髪が伸びてるってことは、11日以上は経過したはずだ!」


リモコンの脱出ボタンを押した。

無機質な壁から外へとつながる扉が現れた。


扉をあけると、そこはゲーム開始時に通った会場。

客席にはたくさんのゲームファンが集まっている。


ステージ中央の司会者はマイクをこちらに六重kる。


「〇〇さん、おかえりなさい!!

 さあ、では最後の質問です!」


「は、はいっ」


「今、あなたがあの部屋で過ごした日数を当ててください!!」


「そ……それは……」


「それは?」


ただでさえ不明瞭な頭がぐるぐると混乱する。

そのとき、客席にいた協力者を見つけることができる。


これが秘策。


自分に気がついた協力者は、こちらにも見えるような大きなホワイトボードを出す。

そこには自分が過ごした日数の答えを書いていた。



「さあ答えは!!」




「うそだ……」



「うそ?」


「そんなはずない……」


「で、回答は? 何日ですか?」



何度見直してもホワイトボードの数字は変わらない。





「あの部屋で420日も過ごしてたなんてウソだ……」




「おおおお!! 大正解です!! すばらしい!

 本ゲームで史上最高金額!! おめでとうございます!!!」




一生かかっても使い切れないお金が手に入った。



お金の使い道はもう間に合わなかった母親へ

過剰なほど立派な墓を建てるしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

密室体内時計ゲーム ちびまるフォイ @firestorage

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ