ブラック企業に勤めてた俺。転生して悪徳奴隷商人を目指します。
コメツブ
第一話 転生と悪徳商人
ハッキリ言おう。この世界はクソだ。
努力しても、死ぬほど頑張っても報われない。
誰かのためにという言葉なんて偽善だ。
ブラック企業と言う言葉を、一回は聞いたことがあるだろう。
休みを取らせず、馬車馬のように人を働かし涙のような給料しか払わない。
労基なんて物もあるが、義務感や閉塞感。その他人間の心理での疲弊をもって申告を不可とさせる。
さて、そんな俺が大した青春もなく成人を迎え、すぐ入社した会社。
察しが早い人はもうわかるであろう。そう、ブラック企業だったのだ。
勤め上げて約十年。
花の20代なんてものは仕事に消え、アラサーを迎えていた。
体のあちこちにはガタが早くも出てきている。
肩こりに慢性的な頭痛。胃潰瘍に、その他生活習慣病。
会社に行けば、クソみたいな上司に仕事を振られるのだ。
膨大な量の仕事を、物理的不可能な期日で割り振られる。
成果は横取りされ、悲しくも上司の株を上げるだけ。
上司の口癖は、「社会にはお前の代わり何て幾らでもいるんだぞ」
そんな環境に約十年。自分を褒めたくなってくる。
だが、そんなのも。今日で終わりだ。
辞めよう辞めようと、言いだそうにも言えなかった。
しかし、今日は努めて10年という区切りの日なのだ。
どんなことを言われようとも、何をされようとも辞めてやる。
そう思いながら、何回も通った会社へと通ずる道を歩く。
いつもと同じ景色、ごった返す人。
うだるような夏の暑さの中、歩みを進めているととあることに気付く。
道路の真ん中に、黒猫が一匹寝転がっていた。
猫からは少し離れているが、ここから見ても外傷が酷い。
痩せこけ、ボロボロに汚れている。
大きい道路では無いが、この道路はある程度車通りが有るのだ。
あんな場所で倒れていれば、いつかは車に轢かれてしまう。
そう考えていると、道路の向こうからかなりのスピードで走るトラックが目に入る。
何時もなら助けない。気づきすらしなかっただろう。
だが、俺の体は手に持っていた鞄を投げ捨て走り出していた。
白いガードレールを飛び越え、一心不乱に猫の元へと走る。
何でこんなことをしているのだろうか。自分でも分からない。
ただ、あの猫を見てると今までの自分だと思っただけ。
可哀想だと思うのは、人間のエゴ。だけど、だけど。
助けたい、こんな俺の命でも。あいつが助かるんだったら。
助けてやりたい、そう思ったのだ。
俺は猫を抱えて庇うように飛び込んだ。
その瞬間、俺の体全身にドンッという大きな衝撃が走る。
体が大きく吹き飛び、ゴロゴロと転がった。
道路脇の側溝が俺の体を止め、俺はぎゅっと抱えていた腕を開く。
道路に飛び込んだ後、俺は猫を抱えてクッションの代わりになったのだ。
もう幾ばくかしか残っていない力を振り絞って猫の安否を確認する。
ハハッ、生きてるじゃねぇか。
良かった。まぁ、この後は誰かが何とかするだろ。
……なぁ、猫。お前さ、俺の分まで生きてくれよな。
頑張れよ。
そこで、俺は意識を失った。
次に目を覚ますと、俺は不思議な空間に居た。
形容するならば、そこは雲の中のような場所で。
幻想的で、今まで見てきたどの景色よりも綺麗な。そんな場所である。
「……ここ、何処だ?体の傷も、無いし」
そう、俺はトラックに引かれて死んだはずなのだ。
それなのにも関わらず、意識ははっきりとしていて負傷見当たらない。
意味が解らない、こんなのまるで――
「ラノベの主人公みたい、でしょう?その認識で間違ってないですよ。貴方は一度死んでいます」
後ろから、急に声がした。
振り返ってみると、そこには白色の椅子に座る一人の女性がいた。
その姿は、この美しい空間と比較するのもおこがましいくらい綺麗。
金色の絹のような長い髪。女性的な肉体に、白色のベールを羽織っていた。
美しい。その言葉が直球に脳裏に宿る。
こんな見た目は、形容するなら。女神のよう……。
もしかして、もしかするとだ。先ほど言っていたことを加味すると、だ。
「もしかして、本当に女神様だったりします?」
「えぇ、私は女神で有っていますよ。今回貴方の担当になりました」
女神だった。本当に女神だった。
まじで?何か俺悪いことしたかな。やべぇ、地獄に送られるとか言わられたらどうしよ。
嫌だなぁ、死んだあとくらい幸せになりてぇ。天国がいいなぁ。
ん?てかさっきの会話繋がってるのっておかしくね?
女神様ってさ、俺の心の中で言ってる事聞けてたりするのか?これ。
「そうですねぇ。貴方が心の中で思っている事は全て。神様なので、それくらいは」
「……本物、かぁ。俺死んだんだなぁ、割と生きてんじゃないかなって思ってたんだけど」
クソみたいな人生だった。幸せと思う事はなかった。
だけれども、こうして終わってしまうと何処か虚しい気持ちになってしまう。
というか、俺は結局あの企業を辞める事が出来なかったんだ。
一区切りつけてから死んでやろうとは思ったんだがなぁ……。
「あぁ、その企業について。貴方が死んだあとの顛末、聞きますか?」
「顛末……?まぁ、聞けるなら聞いときたいっすね」
その後、女神さまの口から語られ始めるのは俺のあの死があのくそったれブラック企業にもたらした影響だった。
轢かれた後の俺の死体を確認すると、事故以前に体があちこちボロボロすぎるという事が確認できたらしい。
俺の友人知人とかに話を聞いたら、俺の会社がヤバイっていう話が出始めて。
明らかにおかしい状態だったので、俺の勤めている会社に行政が確認に。
まぁ、そんなこんなでどんどん不正ややばい事が見つかりはじめ……最後は倒産。
ハハッ、あんな会社潰れて同然だ。最後の最後にやり返した、そう思うと俺の人生は悪いもんじゃなかったと思う。
「フフッ、潰れたんすね。まぁ、それなら思い残す事は無いです。煮るなり焼くなり、好きにしてください」
「えぇ、本来なら貴方は天国に行く予定だったんですがぁ。貴方の死因が少しイレギュラーでして……」
「イレギュラー?そんなんがあるんですか?死因って言っても猫助けて死んだくらいしか」
「その猫が、少し特殊と言いますか。あの猫、実は神様なんですよ。私の上司です」
ん?今なんて言ったこの人。いや人じゃねぇ女神様。
あの助けた猫、神様っつったか?え?あれ猫じゃねぇの。
あれ?じゃぁ何で神様が怪我した猫になって転がってたんだ?
「ハァ、あの上司。こうなるから人を試す遊びは辞めてくださいと言っていたのに……」
「あ、あのぉ。俺ってもしかしてあそこで死ぬはずじゃなかったりします?」
「察しがよくて助かります。貴方は本来あそこで死ぬはずじゃなかったんです。なのにあのクソ上司」
「度々ああゆう事をしでかすんですよ。取り返しのつかないことをしてしまいました。上司に変わって私に謝らさせてください」
女神様が、深々と頭を下げる。
……いけ好かない。こんなの見たくない。
上司のミスを、自分が謝って。しかも上司のミスは遊んでただけで。
死んだことは、別に俺はそこまで気にしてない。気にしたい事があるとすれば、この女神様だ。
「頭、上げてください。俺はそこまで気にしてないっすよ。それよりも、貴方の上司さん呼んでくれますか?」
「上司、ですか?え、えぇ。分かりました。少しお待ちください、すぐ呼んでまいります」
そう言うと目の前にいた女神様がふっと消える。
先程まで其処にいた、という事すら有り得なく思う程一瞬で。
お待ちくださいという事なので素直に待つ。
何でいきなり女神様の上司を呼ぶなんてことをしているのか。上司と言えば神様だぞ?
自分でも良く分からないが……まぁいい。もう死んでんだ、好き勝手やってやる。
体感時間おおよそ5分ほどだろうか、最初に会ったときの様にまた急に戻ってきた。
最初と違うのは、女神様の後ろに雲のようなものに寝転がりフワフワと浮いている少年のような見た目の方だった。
恐らく、あの方が女神様の上司で俺の死因となった猫。
「お待たせしました、こちら紹介します。地球を管轄しておられます、最高神です」
「ふぁ~。んで、この人?僕のこと呼んだの。何の用?」
「初めまして、早速ですが本題に入りましょう。貴方、私が助けた猫で有ってます?」
俺がそう問いかけると、神様はまた大きくあくびをしてこちらを見つめてくる。
その瞳は俺の全てを見通している様で。先程の女神様には感じられなかった形容しがたい恐怖を感じる。
怖い、のか?何に怖がっているのかが分からない。プレッシャーというんだろうか。
今すぐにでもここを逃げたい、そう思い始めたとき神様の口が開いた。
「あぁ、ごめん。僕の力は君達人間には少し大きすぎたね。ほら、楽になったろ?」
彼がそういった瞬間、感じていた重圧がフッと消える。
ハァ、俺はなんて存在を相手にしてんだか……さっきまで生きてたただの人間なのに。
「でも、凄いね君。普通の人間だったら俺が見つめるだけで魂が砕け散っちゃうのに」
「そんなのを、ただ重圧に感じる位って。珍しいにもほどがあるよ」
「そ、そうなんですか?まぁ、良い方に捉えておきます」
「うん、誇っていいよ?というか、会話が出来てるんだ。本当にすごいなぁ……」
何か物騒な事を言われたがいいとしよう。先ほどから如何やら話をそらされている。
「さぁ、聞きたいことはそれだけですか?私の質問にまだお答えなされていないようで」
「んぅ。誤魔化せないかぁ、普通なら僕にあった時点で消えちゃうから誤魔化せると思ったんだけどなぁ」
「だから言いましたでしょう?この方の魂の強度は普通の輪廻転生では耐えられない位だと」
「わかった、わかったよ。ごめんなさい、君の死因の猫は僕だ。こんなことになってしまって本当に悪かったね」
何だこの感覚は、この神様を相手にしていると何故か小学生を相手にしているように感じる。
フフッ、そう考えたら少し笑えて来た。まぁ、いいか。謝ってくれたし。
んで、後は……
「はい。俺は、正直死んだことは気にしてません。そこは良いんですが、一つやっていただきたい事が有ります」
「ん、何だい?この際だ何でもお願いを聞いてあげる。何をしてほしい?あ、天使になるとかおすすめだよ?」
「今後、というか今回も。自分のミスは、自分でお片付けなさるようにしていてください」
「……えぇ。本当にそれでいいの?本当にそれにするの?」
「はい。女神様に任せるとか、しないでください。あと部下は労わってくださいね」
「ハァ……いいよ。これからは僕の失態は僕で片づける」
よし、これで俺の気が晴れた。
さっき聞いた女神様の愚痴。あれが引っ掛かっていたのだ。
また、俺みたいだなって思った。
あの時の自分が、出来なかったこと。
出来た。出来たんだ、俺。
笑みがこぼれてしまう。今までの人生が報われた気がした。
「ねぇ。一人で満足しているところ悪いけどさ、君はまだやることがあるよ?」
「え。やる事、ですか?」
「うん、さっき女神から聞かなかった?君は転生するんだ。うーん、例えるなら異世界転生ってやつだね」
「剣と魔法の世界、まぁ好きに生きていい。記憶はそのままにしといてあげるよ。サービスね」
えっ?マジ?本当に転生するの俺?
ハハッ。冗談、じょぉだんですよね?
嘘、ほんとじゃないのこれ。
俺の体さっきから何か消えかかってるんですけど。
ふわふわ~って体から光を放ってるんですけど。
「あ~はははっ。そんなに驚かんでもいいんじゃないの?まぁ、楽しみなよ」
その声を最後に、また俺の意識は消えるのだった。
次に目を覚ましたのは、豪華な屋敷?のベットの上。
何か、妙に装飾がされていて。あれ?俺って金持ち?
「坊ちゃま、おはようござます。さて、起きてすぐに申し訳ございません。本日は、父上様の引継ぎがあるのです」
「引き継ぎ?何のだ?」
「はて、お忘れになられたのですか?父上様がお亡くなりなられて、父上様の商会を引き継ぐという算段になっております」
「あんなに心待ちになされていたじゃないですか。ささ、着替えをさせていただきます。失礼しますよ」
そこからは目まぐるしいくらいに早かった。
何かドアの奥からメイドさんが沢山来て俺の服を脱がしていく。
着替え、というから俺が着替えるのかと思ったが間違っていたらしい。
着替える事も、髪のセットも。ありとあらゆるものが準備され、立っているだけで終わってしまう。
服もきらびやかというか、なんか貴族!って感じの服を着せられる。
ごわごわするというか、なんだか落ち着かないというのが本音だ。
まぁ、着終わった後にも朝ご飯やら契約の手続きとか色々あったが……ハァ。
疲れた、何で転生初日から訳も分からずこんなことになってるんだか。
さて、記念すべき初日は訳も分からず終わりを迎えようとしている訳だが。
ここまでで分かった事を纏めると、如何やら俺が転生したのは悪徳商人の御曹司らしい。
まぁ、御曹司って言っても俺はもう取り合えずで作られた子らしいのだが。
父親が先日毒殺されちゃったらしいのだ。
何で商会のトップが気軽に毒殺されてんだよ、という疑問は置いといて。
急にトップがいなくなったらそりゃ商会は回らない、という事で俺に継がせることにしたらしいのだ。
ハァ、本当にに何が何だかだよ。
んで、ここまでなら転生先当たりじゃん!金持ちじゃん。と手放しに喜べたのだが。
引き継いだ商会の扱っている主な商品が問題なのだ。
一言でいうなら、奴隷。
まぁ奴隷って言っても犯罪奴隷やらただの奴隷やらいろいろあるらしいのだが……
しかも、だ。どうやら俺の父親は経営が下手だったらしく、いろんなものに私腹を肥やしながら借金しまくっていた。
商会の収支はここ数年ずっと赤字、借金額は……察してくれ。凄い金額だった。
神様?こんなのに転生させてどうやって楽しめと?本当にどうしてくれんの?
ハァ、そう文句を言っても変わるものは全くないのだ。
という事で、折角拾った二回目の人生。どう生きてくれようか。
前みたいに働きづめで上と下に圧迫されるような人生はしたくない。
……あっ!思いついた。俺も父親みたいに悪徳商人になればいいんじゃないか?
前の人生は、使われる側にずっといたからああだったんだ。
だったら、今回は使う側に回ってやる!
~あとがき~
さてさてさて。お久しぶりな方はお久しぶりです。
初めて読んでくださった方は初めまして。
新シリーズ、です。今書いてる方のシリーズに詰まっちゃってこのシリーズに逃げてきました。
ゆるくほのぼの進めてけたらなぁと思うんで。読んで頂けたら幸いです!
次回予告!「転生した俺、猫の獣人の奴隷を買う」お楽しみに!
ブラック企業に勤めてた俺。転生して悪徳奴隷商人を目指します。 コメツブ @koetubu
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