双糸操愛のディストーション
星野 道夫
第0話 黒玉≒糸撚り機
とある日の昼休み。
大学の食堂で、俺・
「なぁハル、お前ダンジョン潜ってるんだっけ?」
「あ?あぁ、まだまだ浅い所しか行けてないけどな」
いつも頼むカツ丼の温玉乗せの卵をレンゲに乗せながら、友人の問いにそう返した。
「あぁ、じゃあ丁度良かったわ!これの処分頼めないか?」
机の反対側から飛んできたものを受け取ると、黒く濁ったビー玉のようなモノが手の中にあった。
スキルオーブだ。末端価格50万也。
余りにも粗雑に扱われるそれに驚き、その勢いで落としそうになるそれを慌てて掴みなおす。
「ちょっおまっ…………なんつーもんを投げてんだお前!?これの価値分かってんのかよ⁉」
「あーあーうるさいうるさい。周りの迷惑というか俺とお前にも厄介事が来るから静かに飯を食いながら俺の話を聞いてくれ。ついでにオーブはポケットにでもしまっといてくれ」
言いたいことは多かったが、食堂のおばちゃん(カツ丼ばっかり頼むせいで顔を覚えられている)にも悪いと思いなおして、オーブを胸ポケットにしまってスプーンを持った。
うん、今日もカツ丼が美味い。
親の飯よりおばちゃんのカツ丼を多く食ってるような気がする。
「よし、それで良い。んで、前回の迷宮実習で偶々ドロップしたんだけどさ……見ればわかるけど、それ黒なんだよな」
そう、黒である。
スキルオーブには階級的な物があるが、黒オーブは最底辺に位置する。
理由は明確、黒には獲得スキル以外に必ずデメリットが付随するのだ。
「デメリット付き、だな?」
「そう、デメリット付き。しかも濁ってるってことは、大体が外れスキルって訳だ」
色が純粋であるほど、より使いやすいスキルが埋まっている。
丁度このカツ丼の黄金色の衣くらいが最優だな。
「やはりおばちゃんのカツ丼は最強……!」
「お前がババ専なのは分かったから」
「それはない」
食堂のおばちゃんはなんだろう、そういうんじゃないんだよな。
聖女として聖別されるべき尊き存在というか。
人間国宝なんだよね。
よってお前には不敬罪としてすねをド突いてやろう。
「痛い痛い、ごめんって、話終わんないから戻すぞ!?。どんなに外れでも、組合で売ればそこそこの値段にはなるだろ?」
「まぁそうだな、中身が何なのかも組合に行かないと分かんないけどな」
「だからお前にやるよ。俺には無用のモンだしな」
さわやかな笑顔で言い放った友人だが、俺は知っている。
こいつはそんなことをする善人じゃないという事を。
「で?条件は何だい我が友よ」
「分かってくれるか我が親友よ!それじゃあカツ丼を一切れ……」
「ころすぞ」
万死に値するぞそれは。
大学二年にしてはそこそこ強い私相手にいい度胸だな。
ちょっとだけ本気の目で見つめると、慌てて内容を訂正して来た。
「ごめんて。借金のカタにしてくれないか?」
「いいぞ。そんくらいならな」
そう、こいつは俺に借金をしているのである。
総額5万、大学生にしてはそこそこだな。
こっちも金には困ってないからそこまで気にせず貸してたしな。
カツ丼の残りをかきこんで、片づけやすいようにお盆の上を整える。
「まじ?ほんとにいいのか?」
「ま、そこまで気にしてはいなかったしな。そんじゃ、俺は午後の講義無いから迷宮行ってくるわ」
「おう、マジで助かったわ!ありがとな!」
頭を下げる友人に手を振って立ち上がり、おばちゃんの元へお盆を返しに行った。
おばちゃんからは「まるで魔王みたいね!」とのお言葉を賜った。
周りを見ると、さっきの威圧で食堂内の目線が俺に集まっていた。
俺は土下座した。
双糸操愛のディストーション 星野 道夫 @keserasera_cu
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