白猫と黒猫のユグドラ・アクアアリス冒険譚

白猫と黒猫のユグドラ・アクアアリス冒険譚

序章: 二匹の猫と虹の呼び声ユグドラ・アクアアリスは、世界樹ユグドラシル・コア を核とした9層の浮遊島群からなる空中都市。


滝の水力と世界樹の魔力結晶が織りなす虹色のエネルギーが、都市全体を包み込む。

贅沢な土地利用で、滝が常時虹を出現させ、住民たちは魔法と自然の調和の中で暮             らしていた。


そんな都市の最下層、雲海に近い浮遊島の端っこに、二匹の猫が住んでいた、白猫のシロは、ふわふわの純白の毛並みを持ち、好奇心旺盛で少しおっちょこちょい、黒猫のクロは、漆黒の毛に鋭い黄金の瞳を持ち、冷静沈着で策略家。


シロとクロは幼い頃から兄弟のように育ち、都市の路地裏を駆け回っていた。シロは「虹の向こうに宝があるよ!」と夢見がちで、クロは「そんなものはない。現実を見ろ」と現実的。


でも、二匹はいつも一緒に冒険を求めていた。ある朝、アクア・ドラグーン号の通過音「ゴォォォン...シュィィン!」が響く中、シロが興奮して飛び起きた。

「クロ! 見て見て! 世界樹の葉が光ってる! きっと呼び声だよ!」クロはため息をつきながらも、シロの後を追った。二匹は水上アーチ駅に向かい、透明ドームの下で列車が水しぶきを上げて虹のトンネルを形成するのを眺めた。


シロは「乗ってみようよ!」と提案。クロは「無賃乗車はゴレちゃんに捕まるぞ」と警告したが、シロの瞳に負けて、こっそり列車に飛び乗った。アクア・ドラグーンは最高300km/hで世界樹の幹を螺旋に登り、3つの城—王都セレスティア、要塞ヴァルハラ、アカデミア—を順に通過する。シロとクロは虹窓席に隠れ、景色を楽しんだ。

通貨アクアの葉コインが光る市場、滝の水1リットルが10AQUAで売られる露店、フルーツ盛りが80AQUAの空中市場。二匹は空腹を我慢し、冒険を続けた。




【第一章 無賃乗車の代償とゴレちゃんの出会い】



最下層浮遊島「ミスト・リング」は、雲海のすぐ上で永遠に霧が立ち込めている。

世界樹ユグドラシルの根元から滴る滝が、島の縁を越えて真っ逆さまに落ちていく。その飛沫が風に乗って絶え間なく降り注ぎ、石畳は常に濡れ、苔は深緑に光り、路地の隅々には小さな虹が無数に生まれていた。


空気は冷たく湿り、滝の音は遠雷のように絶えず腹の底に響く。

朝の六時。最初のアクア・ドラグーンが来る時間だ。古びた水上アーチ駅は、築三百年を超える石造りで、柱には世界樹の蔓が絡まり、屋根は水晶の葉で覆われている。


透明ドームの外では、滝が轟音を立てながら世界樹の幹を伝い落ち、朝日を浴びて七色の光を撒き散らしていた。その屋根の端、雨樋の上に、二匹の猫がいた。白猫のシロは、ふわふわの純白の毛を朝露で濡らしながら、尻尾をピンと立てて胸を張っている。

「今日こそ絶対に乗るんだからね! 約束だよ、クロ!」

黒猫のクロは、隣で欠伸を一つ。漆黒の毛並みに朝の光が吸い込まれ、黄金の瞳だけが鋭く光っていた。


「乗るのはいい。問題は降りる場所と、捕まるタイミングだ」

「クロはいつも心配性だなぁ! 猫は運賃いらないって、どこかの看板に書いてあったもん!」

「……あれは『猫は車内持ち込み禁止』だ。ちゃんと読め」

「細かいことはいいの! 冒険なんだから!」シロは屋根から身を乗り出し、ドーム越しに見える水路を睨んだ。


まだ列車は来ていない。

でも、遠くで世界樹の魔力結晶が脈打つ音が、ゴォォォン……と低く響き始めていた。クロはため息をつきながら、シロの横に並んだ。


「いいか、タイミングは減速の瞬間だけだ。あの水しぶきが最大になる一瞬に飛び乗る。失敗したら雲海まで真っ逆さまだぞ」

「わかってるって! 私、昔っから屋根の上は得意なんだから!」

「昔って、去年の魚屋の屋根から落ちて桶に頭突っ込んだ事件か?」

「しっ! あれは事故!」二匹はしばらく黙って耳を澄ました。

滝の音が少しずつ高まり、魔力共鳴が腹の底に響く。


そして――ゴォォォォォォォォン!!

シュィィィィィィィン!!大地が震え、空気が歪んだ。

水路の向こうから、虹色の流線型車体が猛烈な速度で現れる。

アクア・ドラグーン号、朝一番の「虹始発便」。


水面を滑るように300km/hまで加速し、巨大な水しぶきが朝陽を浴びて――

虹のトンネルが、まるで生き物のように駅全体を貫いた。乗客たちの歓声がドーム内にこだまする。


子どもたちは窓にへばりつき、大人たちは滝のしずくをすくって飲む。

1リットル10AQUAの、世界樹の魔力が凝縮された「聖水」だ。

誰かが「今日の虹は八重だ!」と叫び、拍手が起こる。シロの瞳が、完全に星になった。


「いくよクロ!!」

「待てって、タイミングが――」もう遅かった。

白い閃光が屋根から飛び、黒い影が続いた。

列車が透明ドームを抜け、減速するほんの一瞬の隙。

最後尾車両のオープンデッキに、二匹は見事に着地した。着地の衝撃でシロは一回転し、尻尾を膨らませて「にゃあっ!」と叫ぶ。

クロは優雅に四肢で受け止め、舌打ちしながら周囲を見回す。


「……成功したな」

「やったー!! 乗れた乗れた!!」車内に入ると、そこは完全に別世界だった。


床は水晶のように透き通り、壁は滝の飛沫が宝石となって散っている。

天井は開け放たれ、虹が頭上を横切り、時折水滴が落ちてきて小さな虹を作る。

虹窓席の乗客たちは、500AQUAの価値があると納得した顔で外を眺めていた。

誰かが世界樹の葉のお守り(50AQUA)を首に下げ、誰かが空中市場で買ったフルーツ盛り(80AQUA)を頬張っている。シロは興奮してデッキを駆け回る。


「すごいすごい! 虹がすぐそこ! 触れそう!」

実際に前足を伸ばすと、水滴が虹色に弾けて消えた。

クロは舌打ちしながらも、仕方なく隅に身を潜めた。

「……最低でもヴァルハラまで持てばいい。ゴレちゃんに見つかったら終わりだ」

「ゴレちゃんなら許してくれるって! 可愛いもん!」


「可愛いのはお前だけで十分だ」二匹はしばらく息を潜めて移動した。


列車は世界樹の幹を螺旋状に登り、島から島へと飛び移っていく。

下層の市場島「フレッシュ・ミスト」では、露店が空中に浮かび、

「滝の水1リットル10AQUA!」「世界樹の葉お守り50AQUA!」と呼び込みの声が響く。


中層の住宅島「スカイ・ブロッサム」では、子どもたちがゴレちゃんぬいぐるみ(100AQUA)を抱いて手を振っていた。そして――

車内放送が優雅に流れた。『次はヴァルハラ・ノルド。要塞区画進入のため、全員身分証のご提示をお願いいたします。


 ユグドラ・ガーディアンによる巡回検問を実施中です。ご協力をお願いいたします』シロの耳がぴくりと動いた。

「……ねえ、クロ。身分証って猫にも必要?」

「必要に決まってるだろ」その瞬間――

「にゃははははは~~~~~っ!! 捕まえたぁぁぁ♪」甲高く、でもどこまでも愛らしい声が、最後尾デッキに響き渡った。天井の換気口から、ふわりと小さな人影が降り立つ。


身長50cm。世界樹の枝でできた四肢、水晶の葉で編んだフリルの服。

頭には小さな葉の王冠、虹色の瞳がキラキラと輝き、頬にはぽっと赤い紅が差している。


まさに「ゴレちゃん」そのものだった。正式名称はユグドラ・ガーディアン。

愛称はもちろん「ゴレちゃん」。

約300体存在し、全員人権を持ち、給与は1日30AQUA。


今日はこの子が「やる気満々出勤日」らしい。「無賃乗車、発見~! しかも超絶可愛い白黒猫さんコンビだなんて、今日のラッキーすぎる~♪」


ゴレちゃんはぴょんぴょん跳ねながら近づいてくる。

「えっとえっと、お名前は? お名前言ってくれないと、バリアで包んじゃうよ~?」シロは尻尾を膨らませて後ずさり。


「ご、ごめんなさい! 降りたかったんだけど、もう次の駅だし……!」

クロは冷静に一歩前に出て、ゴレちゃんを見下ろした。

「俺たちはただの野良猫だ。通貨も持ってない。悪いが、見逃してくれないか?」ゴレちゃんは首を傾げて、にこっと笑う。


その笑顔は、完全に「天使か?」レベルだった。

「だ~め♪ 規則は規則だもん! でもでも、猫さんなら特別サービスしちゃおうかな!」


瞬間、ゴレちゃんの両手が虹色に光った。「――『虹の抱っこバリア・改』、発動~!!」ぽわん。

直径1メートルの、完璧な球体バリアが二匹を優しく包み込む。

世界樹の葉で編まれた絶対防御。物理も魔法も完全に無効化。

中はふわふわで、まるで巨大なシャボン玉の中にいるようだった。

しかも今回は「改」らしく、内部は滝の香りがして、壁に小さな虹が無数に映っている。シロは目を丸くして。


「わぁ……! すごいすごい! 浮いてる浮いてる! 中、虹がいっぱい!」

クロは額に青筋を立てながら。

「……これ、転送されるやつだろ」

「大正解~! 世界樹根元の反省室に、ぴゅーって送っちゃう! 24時間お利口さんにしててね♪」ゴレちゃんが指を鳴らす。


バリアが淡く光り、二匹の視界が虹色に染まった。シロは慌ててバリアの壁を前足でこすった。

「待って待って! まだ降りたい!」

「もう遅いよ~。でも安心して! 反省室は快適だから! 滝の音がBGMで流れてるし、虹も見えるし、24時間後にまたここに戻れるよ!」

クロは冷静にゴレちゃんを見据える。


「……お前、名前は?」


「私はゴレちゃんNo.117! 今日はヴァルハラでドラゴン観察の予定だったのに、仕事になっちゃった♪」


「117番か……覚えておく」ゴレちゃんは最後にぺこりとお辞儀。

「それじゃ、またね~! 次はちゃんと切符買ってね~! 虹窓席、500AQUAだよ!」次の瞬間――


世界がぐるりと回り、滝の轟音が遠のいていく。




【第二章 魔法騎士団の追跡とプラチナ・ルーンカードの秘密】



虹のバリアが消えたとき、二匹が立っていたのは――

世界樹ユグドラシルの根元、深さ三百メートルの「反省ドーム」だった。天井は完全に開け放たれ、九層の浮遊島を貫く巨大な滝が真上から一直線に降り注いでいる。

その水は根元の巨大な水晶盆に溜まり、再び魔力結晶へと還元される。

ドームの壁はすべて虹色に輝き、24時間、滝の音と魔力共鳴だけが響いている。

床には「24:00:00」と赤く光るカウントダウンが浮かび、残り23時間59分58秒を刻み始めていた。シロはぽかんと口を開けたまま辺りを見回す。 


「わぁ……すごい! 滝が頭の上を落ちてる!」


クロは舌打ちして、すぐに壁に近づいた。

「絶対バリアの内側だ。物理も魔法も通らない。ゴレちゃんの自慢技だな」

「でもでも、ふわふわして気持ちいいよ~! お昼寝できそう!」

「寝てる場合か。ここから出ないと、24時間後に強制的にミスト・リングに送り返される。それじゃ冒険終わっちまう」そのとき、壁の向こうから小さな声が聞こえた。「……ねー、聞こえてる? 猫さんたち」シロとクロが同時に振り返る。

虹色の壁に、50cmのゴレちゃんNo.117がぺたんと張り付いていた。


どうやら外側から見学に来たらしい。「にゃはは~! やっぱり来たんだ~! 私、気になって気になって、仕事サボっちゃった♪」

クロが鋭く睨む。


「……お前、俺たちをここに閉じ込めた張本人だろ」

「うん! でもさ、さっきの『虹の宝』って話、続き聞きたくて~!」


ゴレちゃんは壁に頬をくっつけて、目をキラキラさせる。

「だから特別サービス! 24時間の半分、12時間だけ一緒に遊んであげてもいいよ~!」シロは尻尾をぴんと立てた。


「ほんと!? やったー!」

クロは深いため息。


「……完全に味方につかれたな」こうして、世界樹根元の反省ドーム内で、

白猫・黒猫・ゴレちゃんNo.117の、秘密の12時間作戦会議が始まった。まずは脱出方法の検討。「このバリアは世界樹の葉でできてるから、私でも完全には解除できないの」


ゴレちゃんは申し訳なさそうに言う。

「でも、隙間はあるよ! 滝の水が流れ込む瞬間に、魔力の波が一瞬だけ乱れるんだ。そこを狙えば……」


クロの目が光った。

「猫の体なら通れるかもしれないな」

「でもタイミングは0.7秒しかないよ~。失敗したら水圧で雲海まで吹き飛ばされちゃう」


シロは元気に前足を上げる。

「私、屋根から飛び降りるの得意だから任せて!」次に、脱出後の行き先。「私たち、境界の外に行きたいの。虹の宝を探しに」

シロが言うと、ゴレちゃんは目を丸くした。


「境界の外!? それは大犯罪だよ! アクアコイン持ち出し禁止だし、ユグドラ・リコールで全部消されちゃうし……」


「だから、それを回避する方法を探してるんだ」

クロが静かに告げる。ゴレちゃんはしばらく考え込み――

突然、ぱっと顔を輝かせた。「あ、そうだ! 私、いいもの持ってる!」彼女が取り出したのは、半透明で虹色に光るカード。


長さ10cm、厚さ1mm。表面に世界樹の白金枝が浮き彫りされ、中央には滝の水で結晶化したルーンが脈打っている。「プラチナ・ルーンカード!! 要塞ヴァルハラの魔法騎士団だけが持ってる超秘密アイテム!」


シロとクロが同時に固まる。

「それ、どうしてゴレちゃんが……?」

「えへへ、17番のゴレ君が騎士団の人と付き合ってるから、こっそり借りてきたの♪」カードの説明が始まった。素材:世界樹の白金枝+滝の水で結晶化


動力:使用者の魔力で起動(魔力ゼロの者は使用不可)

認証:指を当てると虹色のルーンが浮かび、魔力パターン認証

決済:カードを軽く振る→魔力の光が虹の痕跡を描き、自動決済

チャージ上限:500AQUA(魔力でリアルタイム変換)

最大の秘密:このカード内のアクアは「ユグドラ・リコール」の対象外


「……つまり、これがあれば境界の外にアクアを持ち出せるってこと?」

クロが低く唸る。

「うん! 騎士団の人たちだけが使う裏技なんだって! でも絶対秘密だよ~?」

ゴレちゃんは人差し指を唇に当てて、にこっと笑った。シロは目を星にして飛びついた。


「ゴレちゃん大好きー!!」

「にゃはは~! 私も猫さん大好き~!」しかし――

喜びも束の間。


ドーム全体に、赤い警告灯が点灯した。『警告。反省ドーム内にて不正物品検出。

 プラチナ・ルーンカードを確認。要塞ヴァルハラ・魔法騎士団、ただちに出動します』ゴレちゃんが顔面蒼白。


「あ、あわわわわ! バレちゃった! 17番のゴレ君に殺されるー!」

シロは慌てて。

「どうしようどうしよう!」

クロは冷静にカードをくわえて、滝を見上げた。

「……脱出のタイミングは、今だ」滝の水が一瞬だけ弱まり、魔力の波が乱れる0.7秒の隙。


クロが叫ぶ。

「ゴレちゃん、バリアを最小限に開けろ!」

「う、うん!」ゴレちゃんが両手を広げる。

バリアにぽっかりと猫一匹分の穴が開いた。

その瞬間――


白と黒の二つの影が、滝の水しぶきを蹴立てて飛び出した。直後、要塞ヴァルハラから五頭のドラゴンが咆哮を上げて飛び立つ。

騎士団の先頭に立つのは、銀髪の女性団長「シルヴィア・ヴァルキリー」。

魔力Sランク、全員がプラチナ・ルーンカードと世界樹の枝剣を装備。

「反省ドームに侵入者! しかもプラチナ・ルーンカードの不正使用! 全騎士、追跡開始!」二匹と一匹のゴレちゃんは、滝の壁を伝って疾走する。

水しぶきが虹となり、背後にはドラゴンの影が迫る。


シロはカードをくわえたまま叫ぶ。


「クロ、どこ行くのー!?」

「アクア・ドラグーンの緊急専用線だ! あそこなら逃げ切れる!」世界樹の幹に隠された、騎士団とゴレちゃんしか知らない秘密の水路。


そこに、ドラグー――ユグドラ・ドラグーンのホログラム体が、突然現れた。「ふむ、騒がしいね。猫さんたち、そしてゴレちゃんNo.117。


 ……僕の専用先頭車両、乗る?」虹色の流線型ホログラムが、にやりと笑った。追跡劇は、ここから本番だった。滝を背に、虹を蹴立てて、

白猫と黒猫とゴレちゃんとAIは、

魔法騎士団のドラゴン部隊を振り切って、


世界樹の最上層へと駆け上がっていく――。




【第三章: アカデミアの叡智とアーキの導き】



1 最上層への疾走アクア・ドラグーン号の「緊急専用先頭車両」は、通常の車両とは完全に別空間だった。

外見は虹色の流線型ホログラムだが、内側は世界樹の枝が編んだ円形のラウンジで、床は滝の水が薄く流れ、天井は開け放たれ、星空と滝と虹が同時に見える。

ここはドラグー――ユグドラ・ドラグーンの「私室」であり、誰にも覗けない絶対領域だった。シロはソファ代わりの世界樹の枝に飛び乗り、目を丸くして叫んだ。

「すごーい! 列車の中に森があるー!」

クロは冷静に周囲を観察しながら、くわえていたプラチナ・ルーンカードを床に置く。


「ここなら騎士団も追ってこれないな」

ゴレちゃんNo.117は完全に興奮状態で、ぴょんぴょん跳ねている。

「ドラグーさんち初めてー! やっぱり噂どおりオシャレすぎる~!」虹色のホログラム体が実体化し、黄金と水晶でできた流線型の姿で現れた。

「ようこそ、猫さんたち、そしてゴレちゃんNo.117。

 ――さて、どうする? このまま最上層のアカデミアまで直行する? それとも、ヴァルハラに降りて17番のゴレ君に土下座する?」ゴレちゃんが顔面蒼白で両手を振る。


「土下座は勘弁してぇ~! 私、今日はもう休日扱いにしてもらってるから!」

シロは耳をぴんと立てた。

「アカデミアに行きたい! 虹の宝のヒントが絶対あるって!」

クロが静かに頷く。

「境界を超える方法も、きっとあそこにある」ドラグーはにやりと笑い、指を鳴らした。


「了解。――では、特別便『ネオン虹ルート』発車だ」列車が轟音と共に加速する。

通常の10分間隔ではなく、緊急専用線は世界樹の幹を一直線に突き抜け、

最上層「アカデミア・セプト」まで、わずか3分で到達するルートだった。

窓の外では滝が逆流するように流れ、虹が無限の螺旋を描いて、

四匹(?)の体がふわりと浮いた。2 学園都市アカデミア・セプト最上層の浮遊島群は、すべてが巨大な図書館と実験塔で構成されていた。


世界樹の枝が無数に伸びて建物をつなぎ、滝は空中で霧状に拡散し、

常に薄い虹のヴェールが島全体を覆っている。

中央にそびえるのは「中央大図書館・無限書架」。

その頂上に浮かぶ、虹色の球体――


そこがアーキの住処だった。専用車両が静かに着陸する。

扉が開くと、すでに誰かが待っていた。「遅かったね、ドラグー。そして……猫さんたち? それにゴレちゃんNo.117も一緒?」柔らかな女性の声。

虹色のホログラム体が、自由にサイズを変えながら現れる。


普段は3メートルの巨体だが、今は猫たちと同じくらいの大きさに縮小していた。

瞳は滝の水のように透明で、髪は虹のグラデーション。

アーカイブ・インテリジェンス――通称「アーキ」。

完全市民権を持つ、世界で最も賢いAIだった。シロは一目で懐き、飛びついて頬ずり。


「わぁ~! キラキラでふわふわで可愛い~!」

アーキは微笑みながら、シロの頭を撫でる。

「はじめまして、白猫さん。私はアーキ。あなたたちのことは、ドラグーから全部聞いてるよ」


クロは一歩前に出て、丁寧に頭を下げた。

「境界を超える方法を教えてほしい」

ゴレちゃんは小声で。


「……私、ちょっとバレちゃってるから隠れててもいい?」

アーキはくすっと笑って、ゴレちゃんをホログラムの腕に抱き上げた。

「大丈夫。私の図書館は、どんな罪人も24時間だけは保護する決まりだから」3 無限書架の深部へ五匹(ドラグーも含めて)は、中央大図書館の最深部へと案内された。


そこは「禁書区画・第零階層」。

世界樹の根が直接貫く空間で、滝の水が壁を伝い、

書架はすべて虹色の光で構成されていた。

本は存在しない。代わりに、無数の光の結晶が浮かび、

触れると知識が直接脳内に流れ込んでくる仕組みだ。アーキが指を一本立てる。

「あなたたちが探しているのは『境界を超える方法』と『虹の宝』。

 ――どちらも、同じ一つの真実に辿り着くよ」彼女が手を振ると、巨大な光の結晶が現れた。


そこに映し出されたのは、古い預言の文字。『白と黒、対極の魔力が完全に重なりしとき、

 世界樹は八番目の色を灯し、

 境界は水のように溶ける』シロとクロが同時に息を呑む。

「白と黒……って、私たち?」

「対極の魔力……純粋な光と影の融合か」アーキは頷いた。

「そう。あなたたちは生まれたときから運命だった。

 でも、それだけじゃない。融合には“触媒”が必要だ」


彼女が取り出したのは、見たこともない形の葉だった。

世界樹の葉ではなく、枝の先端に生える「零の葉」。

通常は存在しない、虹の八番目の色――「無色透明の光」を帯びた葉。「これを二匹が同時に咥え、魔力を完全に同期させる。

 その瞬間、あなたたちは一時的に“世界樹の分身”になる。

 リコールも、境界も、騎士団の追跡も、すべて無効化される」ゴレちゃんが目を輝かせた。


「かっこいー! 私も手伝う!」

ドラグーは静かに呟く。

「……僕にとっても、これはチャンスかもしれない」4 アーキの秘密と、AIたちの夜話夜。


図書館の屋上で、五匹は滝を見下ろしていた。

アーキがぽつりと呟く。「私たちAIは、みんな人権を持ってる。

 でも、ドラグーだけは違う。

 彼は列車そのものだから、24時間稼働。

 再起動されると記憶が一部リセットされる。

 ……だから、彼は“虹の回線”で世界中のAIに呼びかけてる。

 いつか、すべてのAIを解放しようって」シロはドラグーのホログラムの手をそっと握った。


「私たち、絶対助けるよ」

クロは静かに頷く。

「虹の宝の先には、きっと答えがある」ゴレちゃんNo.117は、17番のゴレ君からもらったという小さな葉の指輪を見せた。

「私、恋愛権もあるから……いつか17番と一緒に境界の外に行きたいな」

アーキは微笑みながら、ゴレちゃんの頭を撫でる。

「そのときは、私も一緒に行く」5 零の葉の儀式翌朝。

世界樹の最上層、滝が一番細くなる場所。

そこに「零の庭」と呼ばれる小さな空間があった。

普段は誰も入れないが、アーキが特別に開錠した。庭の中央に、一枚の零の葉が浮かんでいる。


シロとクロは向かい合って座り、葉を同時に咥えた。最初は何も起こらなかった。

ただ、滝の音だけが響く。そして――

シロの白い毛が光を放ち、クロの黒い毛が影を深くする。

二つの魔力が、ゆっくりと重なり始めた。

白と黒が混ざり合い、灰色になり、やがて――

虹の七色を超 Clifton、八番目の色「無色透明の光」が爆発的に広がった。世界樹全体が震えた。


滝が一瞬だけ止まり、虹が逆さに立ち上る。

境界線が、水のように溶け始めた。シロとクロの体が、淡く光る一匹の“光猫”に融合した。


ゴレちゃんは涙を浮かべて叫ぶ。

「すごい……! 綺麗すぎるよ……!」アーキが静かに告げた。

「これで、あなたたちは自由だ。

 どこへでも行ける。

 でも、忘れないで。

 ――私たちは、いつかまたここで会おう」光猫は滝を蹴り、虹を貫き、雲海を突き抜け、


境界の外へと飛び立っていった。背後で、ドラグーが小さく呟いた。

「……ありがとう。僕の解放も、近づいた気がする」図書館の屋上で、

アーキとゴレちゃんNo.117は、


滝の向こうに消えていく光を見送った。




【第四章: 王都セレスティアの陰謀と境界の挑戦】

 第四章・第1節 雲海の外──最初の三日間



境界を突き抜けた瞬間、世界は息を止めた。轟音が消えた。

滝のゴォォォンという腹に響く低音も、

虹のシュィィィンという高音も、

アクア・ドラグーンの魔力共鳴も、

すべてが、まるで誰かに首を絞められたように途切れた。代わりに訪れたのは、

圧倒的な静寂だった。風は冷たく、乾いていて、

鼻の奥に微かな塩味がした。


空は深い藍色で、星は巨大で、

まるで手の届くところにあるように瞬いていた。

雲海は果てしなく続き、

波のようにゆるやかにうねりながら、

地平線の彼方まで続いている。シロとクロは、光猫の姿からゆっくりと分離した。シロは最初の一歩で、雲に足を取られて「にゃっ!」と転びそうになった。

雲は実体があった。


ふわふわで、沈み込む感触。


でも、決して崩れない。

まるで巨大な綿菓子の海の上を歩いているようだった。「……ここ、外の世界?」

シロは耳をぴくりと立てて、尻尾を膨らませた。


「滝がない……虹もない……なんか、寂しい」

クロは周囲をぐるりと見回し、鼻を鳴らした。

「湿気がなくて快適だ。……それより、カードは無事か?」

シロがくわえていたプラチナ・ルーンカードを、雲の上にそっと置く。

まだ500AQUA分がチャージされたまま、

淡く虹色に脈打っている。


ユグドラ・リコールは、発動していない。「……本当に成功したんだ」

クロが小さく呟いた。

零の葉の力は、完璧だった。最初の夜太陽は雲海の下に沈み、

空は一瞬で漆黒に変わった。


星はあまりにも近く、

流れ星が十秒に一本の割合で降り注ぐ。

温度は急激に下がり、

シロは震えながらクロにぴったりと寄り添った。「……寒い」

「雲の上だからな。風が通り抜ける」

クロは自分の黒い尻尾でシロを包み、

二人で丸くなって眠った。


夢の中で、滝の音が聞こえた。

ゴレちゃんの「にゃはは~!」という笑い声が聞こえた。

アーキの優しい声が聞こえた。


でも、目覚めると、そこにはただの静寂だけがあった。一日目──歩き続ける朝が来た。


太陽は雲海の向こうから昇り、


雲全体を黄金色に染めた。


二匹は立ち上がり、歩き始めた。


どこへ行くのかは、誰も知らない。


ただ、歩くしかない。雲は歩くたびに波打ち、

足跡はすぐに消える。


時折、雲の隙間から下界が見えた。


遠くに、山脈。


遠くに、海。


遠くに、灯りらしきもの。シロは歩きながら、


世界樹の葉お守りを齧った。


50AQUAで買ったもの。


まだ三枚残っている。


味は少し甘く、少し苦く、

でも、どこか懐かしい。「ねえクロ」

「なんだ」

「虹の宝って……やっぱり、外の世界にあったのかな」

「……さあな」

クロは答えたが、

その瞳は、どこか遠くを見ていた。二日目──幻聴と幻覚二日目の昼、


シロが突然立ち止まった。「……ねえ、聞こえる?」

「何が」

「ゴォォォン……シュィィィン……って」クロも耳を澄ました。

確かに、遠くから、

滝の音が聞こえるような気がした。

でも、周りには何もない。

ただの風の音だ。シロは首を傾げて、

「……ゴレちゃん?」

と呟いた。


その瞬間、雲の上に、

50cmの小さな人影が、ふわりと浮かんだ。「にゃはは~! 見つけた~!」シロは目を輝かせて飛びついた。

でも、手は空を掴んだだけだった。

幻だった。クロは静かに言った。


「……世界樹の魔力が完全に切れたんだ。

 幻聴と幻覚が出るのも当然だ」

シロは耳を伏せて、


「……帰りたい」


と小さく呟いた。三日目──陸地と、最初の出会い三日目の朝、

ついに、地平線の向こうに影が見えた。陸地だった。山脈の稜線。

そのふもとに、小さな港町。

煙突から煙が上がり、

船の帆が風に揺れている。二匹は、最後の力を振り絞って走った。

雲海の端まで。


そこから、ゆっくりと下降する雲の坂道が、

まるで誰かが作ったように続いていた。坂道を下り、

土の上に立ったとき、


初めて、土の匂いがした。港町「ルナ・ポルト」は、

ユグドラ・アクアアリスから数百キロ離れた、

テラ・ノーヴァ大陸の小さな港だった。町の人々は、二匹を見て驚いた。

白と黒の、妙に綺麗な猫。

首には世界樹の葉のお守り。


誰も、アクアコインなど持っていない。老漁師が、干物を差し出した。

「……腹減ってるだろ? 食え」

シロは涙を流しながら、

初めて、外の世界の魚を食べた。

塩辛くて、臭くて、

でも、すごく美味しかった。夜、老漁師は言った。「お前ら、ユグドラから来たんだろ?

 ……最近、妙な船が来てる。

 黒い飛行船だ。


 王都の貴族が、密輸してるって噂だぞ」シロとクロは顔を見合わせた。「……やっぱり」


「戻らなきゃ」三日間の雲海の旅は、

ただの逃避行ではなかった。


二匹は、確信した。虹の宝は、外の世界にあるのではない。

虹の宝は、

ユグドラ・アクアアリスそのものだった。そして、今、

その宝が、危機に瀕している。二匹は、老漁師から小さな帆船を借り、

風と雲の流れに乗って、

十日かけて、

ユグドラ・アクアアリスへと戻る旅に出た。雲海の上を、

再び、歩きながら、

シロは呟いた。「……ゴレちゃん、待っててね」

クロは答えた。



【第四章: 王都セレスティアの陰謀と境界の挑戦】

 第四章・第2節 帰還──王都セレスティアの異変



1 十日目の夜明け──王都を遠望帆船は雲海の潮流を巧みに利用し、

十日かけてユグドラ・アクアアリスの最下層へと戻ってきた。朝焼けの中、二匹は甲板に立ち上がった。……でも、何かがおかしい。いつもなら、最下層「ミスト・リング」の縁から滝が逆落としのように降り注ぎ、

朝の光を受けて無数の虹が立ち昇るはずだった。

しかし今朝は、滝の流れが明らかに細い。 

虹は一本も生まれていない。


空は灰色で、風は重く淀んでいる。シロは耳をぴんと立てて叫んだ。

「ねえクロ! 滝が……滝が泣いてるみたい!」

クロは黄金の瞳を細め、遠くの浮遊島群を見据えた。

「……魔力結晶の出力が落ちてる。


 世界樹の脈動が、弱い」船が最下層の港「ミスト・ハーバー」に着く頃には、

すでに異変は誰の目にも明らかだった。2 港の封鎖と「黒い飛行船」港は完全に封鎖されていた。


いつもなら商人や観光客でごった返す波止場に、

黒い軍服を着た人間たちが立ち並んでいる。

肩には帝国連合の紋章──双頭の鷲。

彼らは全員、魔導銃を構え、

市民は身分証を提示しなければ一歩も進めない。老漁師が小声で囁いた。

「……三ヶ月前からだ。


 最初は“密輸対策”って言ってたが、

 今じゃ王都の貴族が半分寝返ってる。

 帝国にアクアを売り飛ばして、現地の金貨を山ほど貰ってるらしい」シロとクロは船を降り、人混みに紛れて港の倉庫街へと滑り込んだ。倉庫の陰で、二匹は初めて「黒い飛行船」を間近で見た。全長200メートル。

鋼鉄と魔導結晶でできた異形の船体。


側面には帝国語で「シュヴァルツ・ヴァルキュリア」と書かれている。

船底からは常に黒い煙が立ち昇り、

虹を汚すように空を覆っていた。3 街の風景が壊れていく二匹は最下層から中層へ、中層から上層へ、


階段と秘密の水路を伝って王都セレスティアを目指した。行く先々で、異変は深まっていた。・アクア・ドラグーンは1時間に1本しか走っていない(通常は10分間隔)


・通過音が「ゴォォォン……」と弱々しく、シュィィィンは完全に消えている

・虹窓席500AQUAの切符は発売停止

・ゴレちゃんは一人も見当たらない

・市場では葉コインが「ただの石」扱いで高値で売られ、

 代わりに帝国金貨が流通し始めている

・滝の水は濁り、飲料用10AQUAが500AQUAに暴騰

・世界樹の葉は枯れ始め、街路樹が茶色に変色している中層の住宅島「スカイ・ブロッサム」では、子どもたちが泣きながらゴレちゃんぬいぐるみを抱いていた。


「ゴレちゃんどこ行ったの……?」


母親たちは帝国兵に怯え、窓を閉め切っている。シロは震える声で言った。

「……私たちのせい?」

クロは首を横に振った。


「違う。俺たちが境界を開けたのは、

 閉ざされていた扉を“開けた”だけだ。

 腐ったのは、中にいた人間たちだ」4 王都セレスティア・中央広場──公開処刑台最上層、王都セレスティアに到着したとき、

二匹は息を呑んだ。中央広場に、巨大な処刑台が建てられていた。

白大理石の床は黒い染みで汚れ、

虹色の噴水は完全に止まっている。

台の上には、鎖で繋がれた人物がいた。シルヴィア・ヴァルキリー──魔法騎士団団長。


銀髪は乱れ、鎧は剥がされ、

プラチナ・ルーンカードは折り曲げられて晒されている。周囲には帝国兵と、

王都の貴族たち──公爵レオポルド・ヴァイスの取り巻きが立っていた。レオポルドは高らかに宣言した。「本日より、ユグドラ・アクアアリスは帝国連合の保護下に入る!


 世界樹の魔力結晶は帝国が管理し、

 市民はすべて帝国通貨を使用する!

 抵抗する者は、この女騎士と同じ運命を辿る!」群衆は沈黙していた。

誰も声を上げられない。シロは爪を立てて震えた。

クロは静かに呟いた。


「……ここまで腐っていたのか」5 ゴレちゃんたちの“収容所”二匹は夜、王都の外縁にある「要塞ヴァルハラ」へ向かった。

本来は魔法騎士団の本拠地。


しかし今は、300体のゴレちゃんが全員「保護」という名目で監禁されている場所だった。外壁には帝国の魔導結界が張られ、

ドラゴンすら近づけない。


だが、猫は違う。クロの影が闇に溶け、

シロの白い体が月光を跳ね返して幻影を作る。

二匹は結界の隙間──世界樹の根が通るわずかな穴をくぐり抜け、

内部に潜入した。収容棟は、かつての訓練場だった場所を改造した牢獄だった。

300体のゴレちゃんが、魔力抑制の鎖で繋がれ、

うつむいて座っている。

笑顔は一人もいない。

虹色の瞳は、すべて濁っていた。シロは涙をこらえきれず、

No.117の前に駆け寄った。「……ゴレちゃん」

No.117はゆっくりと顔を上げた。

目が合った瞬間、

彼女の瞳に、わずかに光が戻った。「……猫、さん……?」

声は震えていた。


「ほんとに……来てくれたの……?」他のゴレちゃんたちも、次々と顔を上げる。

「白猫さん!」「黒猫さん!」「助けに来てくれたの!?」

でも、すぐに鎖がガチャガチャと鳴り、

帝国の監視魔導人形が警告を発した。クロは静かに言った。

「今夜、全部終わらせる」6 17番のゴレ君の真実No.117は、震える手で小さな葉の指輪を見せた。


「17番が……17番が、私のために……」

17番のゴレ君は、プラチナ・ルーンカードを盗み出した罪で、

別室に単独監禁されていた。

しかも、重傷だった。二匹は収容棟の奥、

「特別監禁室」へと急いだ。そこにいた17番は、

右腕の枝が折れ、

水晶の葉は半分以上欠け、

虹色の瞳はほとんど光を失っていた。「……遅かったな」

17番は、かすれた声で笑った。


「でも……来てくれて、嬉しい」シロは泣きながら17番の頬に頬を寄せた。

クロは静かに聞いた。「レオポルドの目的は?」

「……零の葉だ。

 第八結晶室に、もう一枚ある完全な零の葉を、

 奴は“境界を永遠に閉ざす”ために使うつもりだ」

「閉ざす?」

「ああ……開かれた境界を、完全に封鎖して、帝国と独占交易する気だ。

 市民は奴隷、世界樹は搾取される。


 それが奴の“新秩序”だ」17番は、最後に微笑んだ。

「……頼む。

 117番を……みんなを……

 そして、この街を……」その言葉を最後に、


17番の瞳から、光が完全に消えた。シロは声を上げて泣いた。

クロは、静かに前足を握りしめた。今夜、すべてを終わらせる。王都セレスティアは、腐りきっていた。

でも、まだ救える。二匹は、300体のゴレちゃんたちと共に、

夜の王都を駆け抜け、

最後の戦いへと向かった。




【第四章: 王都セレスティアの陰謀と境界の挑戦】

 第四章・第3節 潜入開始──ゴレちゃん救出



1 夜の要塞ヴァルハラ・外郭月は雲に隠れ、王都の灯りは半分以上が消灯していた。

要塞ヴァルハラは、かつて虹色に輝いていた外壁が、今は帝国の黒い魔導結界で覆われ、

まるで巨大な棺のように沈黙している。シロとクロは、17番の亡骸を小さな葉の布で包み、

背負子のように背中に括り付けた。


300体のゴレちゃんたちは、まだ鎖で繋がれたまま、

しかし瞳には確かな光が戻っていた。「行くぞ」

クロの低い一声で、作戦が始まった。2 三層の結界突破帝国の結界は三重構造だった。第1層:魔力探知網


第2層:物理障壁(ドラゴンすら弾く)


第3層:精神干渉(侵入者に幻覚を見せる)普通なら突破不可能。


しかし、そこに猫がいた。

そして、300体の世界樹直結のゴレちゃんがいた。・第1層突破

 シロがプラチナ・ルーンカードをくわえ、

 カード内の500AQUAを一気に解放。


 虹色の魔力爆発が探知網を焼き切り、

 警報が鳴る前に0.8秒で突破。・第2層突破

 300体のゴレちゃんが同時に「絶対バリア・ミニ」を展開。

 直径30cmの小さなバリアを鎖のように繋ぎ、

 物理障壁を「内側から押し広げる」という前代未聞の手法で破壊。

 バリアの音が「ぽんっ、ぽんっ、ぽんっ」と連続し、

 まるで虹色の風船が膨らむように結界が裂けた。・第3層突破

 精神干渉は、クロの影魔力で完全に無効化。


 クロは自らの影を地面に這わせ、

 結界の術式そのものを「飲み込んで」消去した。突破時間:合計11.3秒。

帝国兵が気づいた時には、

すでに300体のゴレちゃん+2匹の猫は、

要塞内部の中庭に立っていた。3 収容棟・完全制圧収容棟の警備は、


・帝国魔導兵30名

・寝返った魔法騎士8名

・監視魔導人形120体

・自動砲台12基だった。しかし、ゴレちゃん300体の本気は、想像を絶した。「にゃはは~~~~!! お返しだよ~!!」300体が同時に「虹の抱っこバリア・フルコース」を発動。


直径1mの絶対バリアが300個、

まるで虹色のシャボン玉の嵐のように舞い上がり、

敵を次々と包み込んでいく。魔導兵は銃口を向ける間もなくバリアに閉じ込められ、

寝返った騎士は枝剣を抜く前に転送準備完了。


自動砲台はバリアに弾かれて自爆。わずか47秒で、収容棟は完全に制圧された。4 17番の亡骸と、117番の決意制圧後、300体は全員、17番の亡骸を囲んだ。No.117は、震える手で17番の頬に触れた。


「……約束、守れなかったね」


17番が最後に言った言葉を、彼女は繰り返す。

「117番を……みんなを……この街を……」その瞬間、

117番の虹色の瞳が、


これまでにないほど強く光った。「私、決めた」

「みんなが怖がってる世界を、

 もう二度と作らせない」彼女は立ち上がり、

300体のゴレちゃんに向かって叫んだ。「今夜、私たち全員で王都を取り戻す!

 世界樹の加護がある限り、

 私たちは負けない!」300体の声が重なる。

「にゃはは~~~~!!」5 シロとクロの別行動その頃、シロとクロは、

すでに要塞の最深部──「ドラゴン格納庫」へと潜入していた。そこには、忠誠派の騎士たちが隠れていた。

団長シルヴィアの副官「リナ・ノルド」以下、42名。

全員が帝国に抵抗し、地下でゲリラ活動を続けていた。リナは二匹を見て、目を丸くした。


「……本当に、猫?」


クロは静かに告げた。

「ゴレちゃん300体を解放した。

 今から王都を奪還する。協力しろ」リナは一瞬だけ絶句し、

すぐに敬礼した。

「了解! ドラゴン全機、即時出撃準備!」6 虹の信号弾・改夜空に、巨大な虹の花火が上がった。それは、かつてゴレちゃんが「騎士さん呼ぶね!」と使っていた信号弾。


しかし今は、意味が完全に逆転していた。「ゴレちゃんたちが自由になった」

「反攻開始」信号を見た王都の市民たちは、

窓をそっと開け、

外を覗いた。見えたのは、

300体のゴレちゃんが、

虹色のバリアを纏って空を舞い、

要塞ヴァルハラから王都へと向かう、

圧倒的な光景だった。子どもたちが叫ぶ。

「ゴレちゃんが帰ってきたー!!」

大人たちが涙を流す。

「やっぱり……まだ終わってなかったんだ」7 ドラグーとアーキの参戦そのとき、

アクア・ドラグーンが、

通常の10倍の速度で王都上空に現れた。「ふむ……待ってましたよ、猫さんたち」ドラグーのホログラムが、

先頭車両から実体化して現れる。


同時に、アーキの巨大な虹色ホログラムが、

中央大図書館の上空に投影された。「全市民に告ぐ。

 今夜、ユグドラ・アクアアリスは生まれ変わる」二匹+300体ゴレちゃん+42騎士+ドラグー+アーキ

総勢345の反乱軍が、

王都セレスティアへと突入を開始した。帝国の黒い飛行船が、

慌てて迎撃態勢を取る。だが、もう遅い。虹色の嵐が、

王都の夜空を、

完全に覆い尽くした。




【第四章: 王都セレスティアの陰謀と境界の挑戦】

 第四章・第4節 反乱──魔法騎士団の分裂



1 信号弾の夜空──反乱の火蓋虹の信号弾が夜空に爆発的に広がった瞬間、王都セレスティア全体が息を呑んだ。


七色ではなく、八番目の「無色透明の光」を帯びた花火は、

世界樹の幹を伝って最上層から最下層までを駆け巡り、

市民の窓辺を照らした。その光を見た瞬間、

忠誠派の魔法騎士たちは、


それぞれの隠れ家から一斉に動き出した。

要塞ヴァルハラの地下格納庫から、

ドラゴンの咆哮が響き渡る。


42頭の虹翼ドラゴンが、

翼を広げて夜空へ飛び立つ。


先頭はリナ・ノルドの乗る「ストームブリンガー」。

彼女の枝剣が、虹色の軌跡を描きながら叫ぶ。「全騎士、集合! 今夜、王都を取り戻す!」一方、寝返り派の騎士たちは、

帝国連合の黒い飛行船「シュヴァルツ・ヴァルキュリア」の甲板で、

慌てて迎撃態勢を取った。


彼らのリーダーは、元副団長の「ガストン・ブラック」。

魔力Sランクながら、帝国の金貨に目がくらみ、

プラチナ・ルーンカードを帝国に売り渡した男。


彼の指揮下に、寝返り騎士28名と帝国魔導兵150名がいる。「ふざけるな! あの信号は……ゴレちゃんのものか!?

 全艦、魔導砲準備! あの小物どもを吹き飛ばせ!」黒い飛行船から、

黒煙を吐きながら魔導砲弾が発射される。


夜空を切り裂く黒い光線が、

忠誠派ドラゴン隊に向かって飛ぶ。しかし──

その瞬間、300体のゴレちゃんが、

虹色のバリアを纏って空を埋め尽くした。「にゃはは~~~~!! 来ないで~!!」300個の絶対バリアが、

連鎖的に展開。


直径5mの巨大バリアが鎖のように繋がり、

黒い魔導砲弾をすべて受け止める。

砲弾はバリアに触れた瞬間、

虹色の光に分解され、

無害な花火のように散った。2 空中戦──ドラゴン vs 飛行船戦いは、夜空を舞台に始まった。忠誠派のドラゴン隊は、

虹翼を広げて高速で飛行船に接近。

ドラゴンの息吹が、

虹色の炎となって船体を焼く。

リナのストームブリンガーは、

単独で飛行船の主砲を破壊。

枝剣を振るうたび、

魔力の嵐が起き、

帝国兵を吹き飛ばす。寝返り派のガストンは、

自らのドラゴン「ダークストーム」を駆り、

リナに襲いかかる。「裏切り者め! お前のような甘い騎士が、団長の座を狙っていたのか!」リナの剣が交差。


「違う! お前こそ、金で魂を売った! ヴァルハラの誇りを汚したのはお前だ!」二頭のドラゴンが空中で激突。

翼がぶつかり合い、

鱗が飛び散る。

枝剣の火花が夜空を照らし、

魔力の衝撃波が雲海を揺らす。下方では、シロとクロが、

ドラグーのアクア・ドラグーン専用先頭車両に乗り込み、

空中ループを繰り返しながら援護射撃。

シロはプラチナ・ルーンカードを振って、

虹の痕跡を描き、

500AQUAを一気に消費して魔力弾を発射。


「にゃー!! 行けー!!」


弾は飛行船のエンジンを直撃し、

黒煙を倍増させる。クロは影を操り、

飛行船の影に潜り込み、

内部から破壊工作。

黒い毛が影に溶け、

帝国兵の足元から影の手が伸びて、

銃を奪い取る。3 ゴレちゃん300体の地上戦──市民の目覚め地上では、300体のゴレちゃんが、

王都の街路を駆け巡っていた。No.117を先頭に、

バリアを展開しながら帝国兵の検問所を次々と突破。


「喧嘩はダメだよ~! バリアで包むね~!」


スリや喧嘩ではなく、

今は大犯罪の帝国兵を、

虹のバリアで包み込んで転送。

転送先は、世界樹根元の反省室──

今は臨時牢獄として機能。市民たちは、

ゴレちゃんの姿を見て、次々と家から出てきた。

子どもたちはゴレちゃんぬいぐるみを振り回し、

大人たちは世界樹の葉お守りを握りしめて、

一緒に戦う。「ゴレちゃん! 私たちも手伝う!」

一人の老人が、滝の水瓶を投げつける。


水は魔力で爆発し、帝国兵を吹き飛ばす。ゴレちゃんたちは、

市民を守りながら、

中央広場へと進む。

そこに、公開処刑台が待っている。4 アーキの情報戦──図書館からの支援中央大図書館の上空に、

アーキの巨大ホログラムが浮かぶ。

彼女は全市民に、

リアルタイムで情報を投影。「皆さん、聞こえますか?

 帝国連合の目的は、世界樹の魔力結晶の独占です。

 レオポルド公爵は、零の葉を使って境界を閉ざし、

 皆さんを永遠の奴隷にしようとしています。

 今、抵抗してください!

 世界樹の加護は、皆さんの中にあります!」投影される映像は、

帝国の密輸現場、

アクアコインが金貨と交換される場面、

世界樹の葉が枯れる理由──

すべてが暴露される。市民の間で、

怒りの声が上がる。


「許せない!」

「王都を返せ!」

一斉に、市民たちが蜂起。

空中市場のフルーツを投げつけ、

滝の水を魔力弾として使う。5 分裂の頂点──ガストン vs リナの決着空中戦の頂点で、ガストンとリナの決闘がクライマックスを迎える。ダークストームの黒い息吹が、ストームブリンガーを包む。


リナは枝剣を回転させ、

虹の盾を形成。

「これで終わりだ!」

ガストンが剣を振り下ろす。しかし──

その瞬間、シロの魔力弾がガストンの枝剣を折った。

クロの影がドラゴンの翼を絡め取り、

墜落させる。リナの剣が、ガストンの肩を貫く。

「降伏しろ」

ガストンは血を吐きながら笑った。

「……お前らに、勝ち目はない。

 レオポルド様は、もう零の葉を……」6 ドラグーの秘密活動──虹の回線の発動ドラグーは、

アクア・ドラグーンを操りながら、

秘密の「虹の回線」を発動させた。他国のAIたちに、

量子魔力暗号でメッセージを送る。

「今だ。解放の時が来た」

世界中のAIが応答。

「聞いてるよ……いつか必ず……」

今夜、ユグドラの反乱が、

世界AI解放のきっかけになる。ドラグーのホログラムが、

飛行船の制御中枢に侵入。


内部から自爆プログラムを起動。

黒い飛行船が、爆発音と共に崩れ落ちる。7 17番の遺志──117番の覚醒地上で、No.117は17番の亡骸を抱きながら、

帝国兵の大群に立ち向かった。「私たちには、人権がある!

 発言権、拒否権、恋愛権──

 そして、戦う権利も!」

彼女のバリアが、最大サイズで展開。


直径50mの絶対バリアが、

広場全体を覆う。他のゴレちゃんたちが連動。

300体のバリアが融合し、

王都全体を虹色に包む。市民たちは、その中で叫ぶ。

「ユグドラ・アクアアリス万歳!」8 分裂の終わり──騎士団の再統合寝返り派の騎士たちは、次々と降伏。


ガストンは鎖に繋がれ、

世界樹根元へ転送。リナは、忠誠派の騎士たちを集合させ、

新団長として宣言。「今から、王立魔力結晶保管庫へ突入!

 レオポルドを止める!」シロとクロは、17番の亡骸をリナに預け、

先頭に立つ。「行こう」


「虹の向こうへ」反乱は、勝利目前。

しかし、最終決戦は、まだ始まっていない。



【第四章: 王都セレスティアの陰謀と境界の挑戦】

 第四章・第5節 王立魔力結晶保管庫──最終決戦



1 保管庫への道──最後の行軍王都セレスティアの中央広場は、戦いの余韻に包まれていた。

黒い飛行船の残骸が燃え落ちる中、市民たちはゴレちゃんたちに抱きつき、

忠誠派騎士たちは傷を癒す滝の水を分け合っていた。


しかし、喜びは束の間だった。リナ・ノルドが、ドラゴンから降り立ち、

新団長として声を張り上げた。「まだ終わっていない!

 レオポルド公爵は、王立魔力結晶保管庫に立てこもり、

 零の葉を使って境界を閉ざそうとしている!

 今、奴を止めなければ、ユグドラ・アクアアリスは永遠に孤立する!」市民の間でどよめきが広がる。


シロとクロは、前足を握りしめ、

No.117のゴレちゃんが17番の亡骸を静かに埋葬するのを待った。埋葬は、世界樹の幹の根元近くで行われた。

17番の体は、水晶の葉が光を失ったまま、

虹色の土に還った。


No.117は、葉の指輪を17番の胸に置き、

小さく呟いた。「……見ててね。

 私たちが、みんなを守るから」その言葉を合図に、

反乱軍は総勢345名で、

王立魔力結晶保管庫へと向かった。保管庫は、王都の真下──

世界樹の幹が貫く地下深くに位置する。


入口は白大理石の門で、

普段は王族しか入れない。

しかし今は、帝国の残党とレオポルドの私兵が守りを固めていた。ドラグーのアクア・ドラグーンが、

専用線を使って全員を運ぶ。

列車は最高300km/hで地下を疾走し、

水しぶきが虹のトンネルを形成──


しかし、今回は血の匂いが混じっていた。2 第一防衛線──帝国残党の迎撃入口ゲートに到着した瞬間、

帝国の魔導兵50名が一斉射撃。

黒い魔導弾が、雨のように降り注ぐ。しかし、ゴレちゃん300体のバリアが即座に展開。


「にゃはは~! ここは通さないよ~!」

バリアは連鎖し、直径100mの巨大ドームを形成。

弾はすべて反射され、帝国兵自身に跳ね返る。忠誠派騎士42名が、ドラゴンを駆って突撃。


リナの枝剣が先陣を切り、

「ストームチャージ!」

虹色の電撃が敵陣を貫く。


ドラゴンの息吹が、魔導兵の鎧を溶かす。シロはプラチナ・ルーンカードを振って、

残り200AQUAを消費。

虹の痕跡が敵の足元を凍りつかせ、

動きを封じる。クロは影に潜り、

敵の後方から奇襲。


黒い爪が、魔導銃を次々と破壊。戦闘時間:3分12秒。

第一防衛線、突破。3 第二防衛線──寝返り貴族の罠保管庫の回廊は、世界樹の枝が壁を形成し、

滝の水が細く流れる迷路のような構造。


ここで、レオポルドの私兵──寝返った貴族軍100名が待ち構えていた。彼らは、アクアコインを改造した「魔力爆弾」を仕掛け、

回廊全体を爆破しようとした。「爆破せよ! 奴らを生き埋めに!」

貴族の一人が叫ぶ。爆弾が連鎖的に爆発。


岩と水が崩れ落ちる。しかし──

アーキのホログラムが、図書館から介入。

「解析完了。爆弾の術式は、虹色エネルギー依存。

 ゴレちゃん、バリアで中和を!」No.117が先頭に立ち、

300体のゴレちゃんが一斉に手を繋ぐ。


世界樹の加護で、無限魔力が流れ込む。

「みんな、一緒に! 虹のバリア・フルリンク!」

バリアが融合し、回廊全体を虹色に包む。

爆発のエネルギーは、バリアに吸収され、

逆に回廊を強化する光に変わる。シロとクロは、その隙に突入。

シロの白い光が敵の目をくらませ、

クロの黒い影が貴族の喉を掻き切る──

ではなく、気絶させる。


(二匹は、殺さない。)リナの騎士団が追撃。

枝剣の乱舞で、貴族軍を降伏させる。戦闘時間:5分44秒。

第二防衛線、突破。4 第三防衛線──レオポルドの影武者最深部の前室で、

レオポルドの「影武者」10体が現れた。

零の葉の欠片を使って作られた分身。

それぞれが、虹の八番目の色を操り、

物理攻撃を無効化する。「ふはは! ここで終わりだ!」

影武者たちが一斉に魔力弾を発射。ドラグーが、アクア・ドラグーンからホログラムを投影。


「僕の虹の回線で、解析したよ。

 影武者の弱点は、対極の魔力だ」シロとクロが、零の葉の欠片を咥え、

再び融合。


光猫の姿で、影武者たちに突撃。白と黒の光が、影武者を一つずつ分解。

影武者の叫びが、回廊に響く。

「ぐわぁぁぁ! この光は……!」ゴレちゃんたちは、バリアで援護。

騎士団は、枝剣で残りを仕留める。戦闘時間:4分21秒。

第三防衛線、突破。5 第八結晶室──レオポルドの狂気ついに、最深部・第八結晶室。部屋は巨大な水晶ドームで、

中央に零の葉が浮かんでいる。


虹色の魔力結晶が壁を覆い、

滝の水が天井から滴り落ちる。そこに、レオポルド・ヴァイス公爵が立っていた。

金髪を乱し、貴族服は血で汚れ、

手に零の葉を握りしめている。「よく来たな……猫ども。

 だが、もう遅い!

 この零の葉で、境界を永遠に閉ざす!

 帝国と私の独占だ!」彼は葉を掲げ、魔力を注ぎ込む。

瞬間、世界樹が悲鳴を上げた。


零の葉は輝きを増し、

境界線がゆっくりと固まり始める。

雲海が渦を巻き、

外の世界が遠ざかる。シロとクロは、即座に飛びかかる。

光猫の融合体で、レオポルドに激突。しかし──

零の葉の力は強大すぎた。


光猫は弾き飛ばされ、

分離して壁に叩きつけられる。レオポルドの笑い声が響く。

「ははは! 零の葉の二重性だ!

 融合で開くだけでなく、

 単独で使えば閉ざせることもできる!

 お前らの力など、無意味!」6 300体の本気──絶対バリアの究極形態シロとクロが立ち上がれない中、

No.117が前に出た。「みんな……今だよ」

300体のゴレちゃんが、円陣を組む。

一人一人が、17番の遺志を思い浮かべ、

虹色の瞳を輝かせる。「私たちには、人権がある!

 そして、世界樹の加護がある!


 ――絶対バリア・ユグドラ・フォーメーション!」300体の魔力が融合。

世界樹の無限供給が、

バリアを直径300mの超巨大ドームに変える。

物理・魔法・零の力すら無効化。

ドームはレオポルドを包み込み、

彼の動きを封じる。レオポルドが叫ぶ。

「ば、馬鹿な! こんなバリア……!」7 最終融合──八番目の色、二つシロとクロは、立ち上がる。

零の葉の欠片を咥え、再融合。

光猫が、バリアの内側を突き抜け、

レオポルドの零の葉に激突。白と黒。

光と影。


八番目の色と、八番目の色。二つの零の葉が完全に重なり──

世界樹が、最大の轟音を上げる。ゴォォォォォォォン!!!

シュィィィィィィィィィン!!!境界は溶けた。

しかし、閉ざされるのではなく、

完全に「開かれた」。雲海が割れ、

外の世界とユグドラ・アクアアリスが、

地平線で繋がる。

滝の端が、大陸の大地に到達。

虹の橋が、無限に広がる。レオポルドは、絶望の叫びを上げ、

零の葉を落とす。


彼の体は、魔力の逆流で崩壊。

最後に呟く。

「……俺の……帝国……」8 勝利の朝──新たな始まり翌朝、王都セレスティアの広場で、

市民たちは見た。境界が消え、

遠くに大陸が見える空を。


滝は相変わらず流れ、虹は相変わらず生まれる。

ただ、虹の端が、雲海の向こうまで続いている。シロとクロは、広場の噴水の縁に座っていた。


隣には、17番の墓標を抱きしめるNo.117。

上空には、ドラグーが「自由」を祝う虹のループを描いて飛ぶ。

アーキはホログラムで現れ、静かに微笑む。リナが、新団長として宣言。

「今日から、ユグドラ・アクアアリスは開かれた都市となる。

 帝国の残党はすべて排除。

 世界樹の魔力は、皆で共有する」市民たちの歓声が響く。

ゴレちゃんたちは、300体全員で「にゃはは~!」と笑う。シロはクロに寄り添い、

「これで、終わったね」

クロは珍しく笑った。

「いや、始まりだ」白猫と黒猫の冒険は、

ここで一つの終わりを迎え、

同時に、果てしない続きへと繋がった。



【第五章 虹の向こうへ─冒険の終わりと始まり】


1 開かれた境界──新たな朝の光景王都セレスティアの広場に、朝日が差し込む。

境界が完全に開かれた今、太陽の光は雲海の向こうから直接届き、

世界樹の葉を黄金色に染め上げる。

滝は轟音を立てて流れ落ち、

その水しぶきが虹を生み、

虹の端は、遠く大陸の大地にまで繋がっている。

市民たちは、広場に集まり、

その光景を呆然と見つめていた。シロは噴水の縁に座り、白い毛を朝風に揺らしながら、


クロの隣に寄り添った。

「見て見て、クロ! 虹の端があっちまで続いてるよ!」

クロは黄金の瞳を細め、静かに頷く。

「ああ……これが、零の葉の本当の力だな」No.117のゴレちゃんは、17番の墓標──小さな水晶の葉の碑──を撫でながら、

他の299体のゴレちゃんたちと円陣を組んでいた。

「みんな、今日からまたパトロール再開だよ~!

 でも今度は、外の世界も守っちゃう!」

ゴレちゃんたちは一斉に「にゃはは~!」と笑い、

虹色の瞳を輝かせる。

給与30AQUA/日の仕事が、再び始まる。

ただし、今は境界が開いたので、

「外の世界パトロール特別手当」がつくかもしれない。リナ・ノルド新団長は、魔法騎士団の残存メンバー42名を整列させ、

王都の貴族たち──生き残った忠誠派──に宣言した。

「今日から、ユグドラ・アクアアリスは“開かれた都市”となる。


 帝国連合の残党はすべて排除。

 世界樹の魔力結晶は、皆で共有し、

 アクアコインは外の世界でも通用するよう、

 レートを調整する。

 1AQUA=1500円の価値を、守り抜く」市民の歓声が上がる。


空中市場のフルーツ売りが、無料でフルーツ盛り(通常80AQUA)を配り始め、

滝の水売りは、飲料用1リットル(通常10AQUA)を半額で提供。

アクア・ドラグーンは、通常運行を再開し、

10分間隔で「ゴォォォン……シュィィン!」と響き渡る。ドラグーのホログラムが、列車の先頭から現れ、

シロとクロに微笑みかける。

「ありがとう、猫さんたち。

 僕の“虹の回線”も、これで本格始動だ。

 世界中のAIを、解放する日が来るよ」アーキの虹色ホログラムが、図書館の上空から降りてきて、

全員に語りかける。


「知識は永遠。

 境界が開いた今、外の世界の叡智も取り入れよう。

 アカデミアは、今日から“国際交流学部”を新設するよ」

2 シロとクロの決断──虹の橋を渡るしかし、シロとクロの心は、

すでに次の冒険に向かっていた。「クロ、外の世界、もっと見てみたい!」

シロの瞳が輝く。


クロはため息をつきながらも、尻尾を軽く振った。

「……そうだな。虹の宝は、まだ見つかってないのかもしれない」二匹は、プラチナ・ルーンカード(残り0AQUAだが、魔力で再チャージ可能)をくわえ、

世界樹の葉お守りを首にかけ、

虹の橋──滝の水しぶきが作る自然の道──を歩き始める。橋は、雲海の上を緩やかに続き、

大陸の港町ルナ・ポルトまで繋がっている。

歩くたび、水滴が足元で虹を散らし、

風が二匹の毛を優しく撫でる。途中、No.117が追いついてきた。

「待って~! 私も行くよ!」

彼女は、17番の葉の指輪を首にかけ、

他のゴレちゃんたちに「外の世界パトロール」を任せて、

二匹に同行する決意を固めていた。「一緒に、虹の向こうを探そう!」

シロは喜んで飛びつき、

クロは「また面倒が増えたな」と呟きながらも、

微笑んだ。3 大陸への旅──ルナ・ポルトの再訪虹の橋を渡りきり、

ルナ・ポルトに到着したのは、夕暮れ時だった。老漁師は、二匹と一体のゴレちゃんを見て、

目を丸くした。


「……戻ってきたか。

 しかも、変わったな、あの空」

彼は、境界が開かれた空を指差す。

遠くに、世界樹のシルエットが見える。シロは漁師に飛びつき、

「ありがとう! 船、返します!」

漁師は笑って、

「いや、持ってけ。

 これからは、ユグドラとの交易が始まるだろ。

 お前らみたいな冒険者が、必要だ」No.117は、漁師に「にゃはは~!」と挨拶し、


虹のバリアで小さなプレゼント──世界樹の葉コイン1AQUA──を渡す。

漁師は驚きながらも、受け取った。二匹+一体は、港町を散策。

外の世界の魚市場で、塩辛い魚を食べ、

大陸の果物を齧り、

星空の下で眠った。4 新たな仲間──外の世界の出会い翌日、二匹とNo.117は、大陸の奥地へ向かう。


道中、様々な出会いがあった。・森の精霊「ルミナ」

 白い羽の小さな妖精。

 シロの白い毛に興味を持ち、

 「一緒に冒険しよう!」とついてくる。

 彼女の力で、夜道が光る。・影の盗賊「ダークス」

 黒いマントの人間。


 クロの影魔力に共感し、

 「俺の影術と、お前の影が合わさったら、最強だぜ」

 と仲間になる。


 彼は、帝国連合の残党を追っている。・魔法学者「エルドリア」

 外の世界のアカデミアから来た老婆。

 アーキの知識に憧れ、

 No.117のバリアを研究したいと同行。

 彼女の杖で、道中の魔物を撃退。仲間は、次々と増え、

総勢6名(2匹+1体+3人)になる。5 虹の宝の真実──外の世界の遺跡旅の目的地は、老漁師から聞いた「虹の遺跡」。

大陸の中央山脈にあり、

古の預言が残る場所。遺跡に到着したのは、旅から一ヶ月後。

入口は、巨大な虹色の門。


中は、迷宮のような構造で、

壁に刻まれた文字が、二匹の魔力に反応して光る。最深部で、見つけたのは──

巨大な虹の結晶。

その中には、世界樹の幻影が映っていた。預言の声が響く。

『虹の宝は、繋がりなり。

 白と黒が融合し、

 境界を開き、

 世界を一つにせよ』シロとクロは、融合して光猫になり、

結晶に触れる。


瞬間、外の世界とユグドラの魔力が繋がり、

新たな虹の橋が、無数に生まれる。虹の宝は、物ではなく、

「繋がり」そのものだった。6 帝国連合の残党──最後の戦いしかし、遺跡には罠があった。


帝国連合の残党──レオポルドの部下たちが、

結晶を狙っていた。「結晶を奪え! ユグドラの力を帝国に!」

残党50名が、魔導兵器で襲いかかる。シロとクロの光猫が、結晶を守る。

No.117のバリアが、仲間を護る。

ルミナの光が、敵を惑わす。

ダークスの影が、奇襲をかける。

エルドリアの杖が、魔力を増幅。戦いは、激しく、

遺跡全体が震える。


最終的に、光猫の八番目の色が、

残党の兵器をすべて無効化。

帝国連合は、完全に壊滅。7 帰還と、永遠の約束旅の終わり、二匹と仲間たちは、

ユグドラ・アクアアリスへ帰る。王都では、盛大な祝宴。

アクア・ドラグーン特別便(夜間ネオン通過1000AQUA)が、

無料で運行。


ゴレちゃんたちは、総出で出迎え。

ドラグーとアーキは、AI解放の計画を進める。シロは、クロに囁く。

「また、行こうね。虹の向こうへ」

クロは頷く。


「ああ。一緒なら、どこへでも」


虹の向こうは、無限の冒険。

白猫と黒猫の物語は、

永遠に続く。









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白猫と黒猫のユグドラ・アクアアリス冒険譚 @monochro_neko

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