両親の復讐を決意したら、なぜか次期当主様に溺愛されました

ノキ

両親の復讐を決意したら、なぜか次期当主様に溺愛されました

俺の両親は殺された。目の前の貴族────「メッサスゴイー家」によって。

 

俺の一族は代々この家に仕えていた。しかしある日突然、当主の逆鱗に触れたか何かで両親は死罪になったという。代々仕えていた家臣でも、貴族の機嫌次第で首が飛ぶ。その命の扱いの軽さに俺は愕然とした。

 

 当時赤子だった俺はなぜか生かされ、今も尚メッサスゴイー家の家臣としてそばで育てられている。しかし俺は、両親の過去を知ったその日から復讐を夢見ていた。

 

 同じ年の次期当主となるアランに付け入るため、俺は努力を怠らなかった。結果、武術も学問も全てにおいてアランの引けを取らないレベルまで極め、やがてアランの優秀な右腕となり、全幅の信頼を得た。


 いつかこの一家を根絶やしにする───────その機をずっと伺って生きてきた。


 だが、今日を境にその決意は跡形もなく吹き飛ばされた。


 両親が、生きていたのである。


 おい、死んだんじゃなかったのか。

 老夫婦のようにボロボロになった両親と話をした。

 どうやら話を聞く限り、死罪ではなく追放だったらしい。メッサスゴイー家が表向きだけ死罪ということにしてくれたとのこと。

 ”してくれた”という両親にひっかかる。なんだその、恩情の匂いがする言い方は。

 

「普通にわしらが悪い。メッサスゴイー家の応接間でメイドと情交に勤しみアヘ顔ダブルピースしているところを当主様に目撃されたんじゃ」

 なんだと────────

 

「メイドと神聖な空間でそんな…?!お父様、嘘ですよね…?」

「ちなみにアヘ顔ダブルピースしてたのはわしじゃ」

 嘘であってくれ───────

 

「メイドに掘られて絶頂していたところを目撃されたんじゃ」

「で、でも!お母様は無関係じゃ──」

「お母様は昔から手癖が悪くてメッサスゴイー家の家宝の剣をパクったんじゃよ」

 そりゃ追放される──────

 

 待ってくれ、家宝なら他にもあっただろ。貴金属や、美術品。この家にはいくらでもあるはずだ。

 

「お母様は盗む難易度が上がれば上がるほど湧き立つ性分でな。舌なめずりしながら剣を盗んでいるところを見つかったんじゃ」

 何してくれとんじゃこいつら────

 

「う、嘘だと言ってくれ。ここまで両親の死罪が真っ当なことあるかよ。追放でとどめて俺を生かしてくれたメッサスゴイー家の懐、深すぎるだろ」

「わしらも…こんなにも慈悲深いメッサスゴイー家に代々仕えることが血筋で決まってるから人生に完全勝利を感じて…調子に乗ってしまった…」

「血筋ガチャ大当たりだったのにね、あなた」

 こっちは親ガチャ大外れだよ─────

 

「それで…ミゼルにお願いがあるんだ」

 両親は俺の手をそっと握った。

「お願い?」

「わしらを追放したメッサスゴイー家にまた家臣として戻してもらえるよう、ミゼルから頼んでもらえないか」

 無理だろ─────死罪を免れただけでも感謝すべきだ。

 それでも、追放後もやはり忠義が残っていたのか。両親は俺の目をまっすぐに見て言った。

 

「また、あの頃の贅沢を味わいたくて…」

 シンプルにクズ──────。



「ミゼル。どうしたんだ?」

 この男はメッサスゴイー家の次期当主であり、俺の仕える主人であり、復讐の対象だったアラン。華のある笑顔からは、生まれつき平民を湧き立たせる才覚が見えた。

「…………」

 今までの俺なら、ニコリと笑ってなにか返していたであろう。どす黒い復讐心と殺意を心に秘めながら。

 しかし、真実を知ってしまった以上、彼に向ける眼差しを変えざるを得ない。

「え?なに?」

 俺、こんな善人を殺そうとしてたってまじか─────

 

 万が一復讐なんてしようものなら、追放したクズ両親の子供をお情けで助けたら反乱を起こしたとかいう恩を仇で返すレベルMAX最悪エンドロールになっていただろう。ここで真実を知ったことで食い止めることができたと思うべきかもしれないが、もうこいつとはろくに顔を合わすことができないだろう。俺はこの数十年、こいつらを殺すことだけを考えて生きてきたというのに。

 

「……いえ。」

「ははぁ。また母君から縁談の話でもされたか?またうまく断っておいてくれよ」

 

 俺の主人のアランは、母君が持ってくる縁談を断り続けている。もうすぐ18歳となるのに身元を固めないなんてどういうことかと母君を悩ませているのは事実だ。

 俺がメッサスゴイー家を根絶やしにすると思っていた時期は、縁談なんて復讐の邪魔でしかないと思っていたが、今は違う。頼むから幸せになってほしい、この目の前の次期当主に。

 

「…アラン様。どんな女性ならば良いのでしょう?」

「どんな女性でも俺には必要ない。まだ何も成していないのに後継など先の話だろう。…それに………いや、いい。」

 アランは、何か一瞬言いかけてやめた。

 

 困ったな。俺は今までこのメッサスゴイー家を根絶やしにすることしか考えてこなかったからまともに家臣としてこの家に忠義を持ったことがない。だがしかし、確実に、俺は今もう自ら下僕に成り下がりたいという気持ちがある。十数年、親の失態を知っていて尚俺をここまで生かしてくれたメッサスゴイー家に恩しかない。

 

 心を入れ替えて、今日から俺はこの家の手足となり馬車馬のように働きたいと思った。こいつの言う事は絶対で、なんでもやって、どんなことも叶えてみせると。

 

「…許嫁、とまで行かなくても。友達を探すつもりで会ってみるのもいいんじゃないですか。」

「…必要ない。君まで、そんな事言い出すなんて」

 まずい、機嫌を損ねてしまったようだ。

「俺は……ミゼルさえいればいいのに…」

「貴方を支えられるのは俺だけじゃありませんよ。将来を見据えて、視野を広げてみていかがでしょうか?」

「俺はこの先もずっと…君といたいのだが…」

 

 なんか…流れ……変わったな…………


「俺はこの先もずっといますよ。そうじゃなくて、番となる相手を探してみてはと」

「君と番いたいと言っているのだが」


 完全に……変わったな………


 さっきまで俺はこの人の仰せのままに、何がなんでも聞こうと決心したところだったが…

 流石にこれは想定外だった。

 どうやらアランは、俺のことが好きらしい。おい、頬を赤らめるな。

 この家のためならなんでもするとは言ったけどこれはどうすればいいんだ。腹を括って恋人になるのが正解なのか?しかしこの一家の繁栄を思うと、次期当主に後継がいないのはまずいだろう。

 そんなことを考えていると、俺が答えを出さないのに痺れを切らしたのか、アランが俺を壁際に追いやった。

 

「俺は……ずっと君のことを思い続けてきた」

 俺はお前のこと今日の今日まで殺そうとしてたんだけど………

 

「君の全てを…俺は欲しいと思った。もちろんお前の両親の罪も、全て背負う。」

「…俺の両親の罪を知って…?!」

「ああ。君の父親が応接間でアヘ顔ダブルピースしてるところを発見されたことも、君の母親が俺の家の家宝の剣を盗んだことも…」

 改めて最悪すぎる。夢ならばどれほどよかったでしょう。

 

「その父親がぶちまけた時に敷かれていた応接間のカーペットが国交の証に西の国から送られてきた記念品だったことも」

 

 おい待て……!

 

「母親が家宝を盗んだ際に剣で傷をつけた美術品が重要文化財だったことも」

 

 待て…………!!!

 

「君の父親が俺たちの乗馬に使う馬を別の意味で使っていたことも、君の母親が先祖の墓からミイラを盗んでいたことも、全部目を瞑る」

 

 余罪がデカすぎる…………!!!!!

 

「なんで死罪になってないんだよ?!追放なんてまどろっこしいことしないでマジで早く殺した方がいいですよ」

「君の両親だろう?なんでそんなことが言えるんだ」

「ダメだ……罪が重すぎる………そんなの………真っ当に死罪がお似合いじゃないか……」

「それほどの罪を君の両親が背負っていても、君への処罰はない。両親が死罪が免れたのも、そう、全て君さ。」

「俺…?!」

「君の存在が、全ての罪をチャラにするほど尊かった。俺がそばにいてもらえるように父君と母君にお願いしていたんだ」

 俺…知らん間にすげー寵愛受けてた……?

 どうやら俺たちはこの18年間、お互いに真逆の感情で深く想い続けていたらしい。

「最初は父君もミゼルの成長を心配したよ。モンスター両親を持った子どもがどう育つのか…そんな心配をよそに、君は素直に、忠実に、優秀な俺の右腕になってくれた。」

 そりゃ殺そうとしてたからね。

「そんな君のことを、俺は尊敬してたし、ずっと好きだったんだ。」

 そう言って押し倒されたベッドが軋んだ。

「いや待って待って待って」

 展開が早すぎる。

「ミゼル……これだけ待ったんだ。俺はもう、我慢できない」

 クソッ…!さっき忠誠を誓ったばかりの主人のお願いだ!全てを受け入れるしかないのか?!

「俺は君にアヘ顔ダブルピースをさせてあげられる自信はないけど…」

 そんな自信いらねぇよ……!

「たった今日、君の両親がうっかり隣国の王族の行列を江戸走りで横切って戦争になりかけたけど、それを止めるくらいはできるからさ」

「………………」

 ニコニコと目を細めたアランが俺を見た。

「はいよろこんでェ!!!!!」

 完

 

 

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