十月にみつけたもの、十一月になくしたもの
紺乃緋霞
第1話
やっと街に着いた。
白髪の魔法使いは仲間と宿を探す。
「×××さんが亡くなってしまってかなしいねぇ」
「あんないい人らはいないよ」
どうやら最近街で名の知れた人達が亡くなったらしい。
そこら中でその話題で持ち切りだ。
「魔法使い様。宿が見つかりました」
「ここをまっすぐ突き当たりまで進んで左だってよ」
「そう」
その日は三人で無事宿に泊まる事ができた。
目が覚めた時には一人だった。
辺りは見覚えのない道だ。
キョロキョロ魔法探知をしていると、いきなり空気を切り裂くような攻撃が飛んできた。
「あんた、魔法使い?見ない顔だけど、協会の許可が出ていない者の魔法行使は違法だよ。それとも魔族かな?」
攻撃してきたのは黒髪の魔法使い。
その横には、モノクルに長い茶髭を生やしたドワーフ。
「いや、今の時代魔法使いは珍しくないでしょ」
再度攻撃。
「じゃあ敵決定ね」
急に近づいた。
黒髪ではなく白髪が引き寄せられたのだ。
そのまま白髪の顔面に蹴りを入れる黒髪。
「っ?!」
間一髪で障壁をはる白髪。
今度はドワーフが水魔法で攻撃してくる。
「っ」
それも防ぐ白髪。
黒髪は更に杖を振り回して追撃していく。
白髪は障壁を張るだけで攻撃をしない。
「ねぇ。なんで反撃しないの?その力量ならあたしなんて軽く倒せるでしょ?」
攻撃しながら問いかける黒髪に白髪は答える。
「まだ状況が分からない。貴方が敵なのかも分からない」
そこでドワーフが黒髪の前にでる。
「ちょっと?!」
「少し話を聞こうではないか。本気でこちらを攻撃してくる気配がない」
納得しきれていないが、黒髪は渋々杖を下ろした。
「話を聞こう」
「まずここはどこ?」
「△△△街だ」
「今は何月何日?」
「10月15日」
そこで白髪は理解した。
「なるほど。通りで時間の流れに違和感があったわけだ」
「どういうこと?」
一人納得する白髪に疑問を問う黒髪。
「私の記憶では今日は11月15日のはず。場所は同じだから時間だけズレているんだ」
「そうなの?それは...悪いことしたね」
「いいよ。魔法使いは判断が遅れると命取りになるから」
ようやく落ち着いた双方。
ドワーフが自慢の髭を撫でる。
「それなら、早いとこ元の時間軸に帰った方が良い。あまり長居しすぎると、時間に取り残されて帰れなくなる」
「ねぇ」
時間遡行の魔法を構築しようという時、黒髪が引き止めた。
「さっきの防御の魔法どうやったの?見たことないから教えて欲しいんだけど」
「(障壁魔法なんて初歩の初歩だけど...)」
「いいよ。減るもんでもないし」
「やった」
「明日までなら大丈夫だろう」
ドワーフの言葉で、白髪は一日中黒髪に魔法を教えることになった。
翌日。
「まさかあれこれ教えるはめになるとは...」
「ごめんごめん。見たことない魔法ばっかりでさ」
あまり申し訳なさそうではない黒髪だが、貴重な魔法でもないし「まぁいいか」と白髪は背を伸ばす。
「じゃあ帰るね」
「ねぇ。私達あの街に1ヶ月いるからさ、戻ったらまた魔法教えてよ」
黒髪はすっかり白髪に懐いたようだった。
白髪は少し口角が上がった。
「...いいよ。戻ったらまた教えてあげる」
そうして白髪は元の時間軸に帰ったのだった。
「随分嬉しそうだな」
「だって、こんなに良く接してもらったの初めてだもん」
「魔法使いは忌み嫌われるからな」
そして1ヶ月が過ぎた。
「.......」
「あの魔法使いはまだ来ていないらしい」
「....やっぱりあたしのこと疎ましかったのかな」
「そんなわけないだろ。あんなに好意的だったじゃないか」
「.....そうだね」
来る日も来る日も二人は白髪を待った。
しかしいつまでも現れない。
「....今日は雨なんだね」
黒髪はボーッと目が虚ろだった。
「また1年時間遡行したのか?!あれは心身の負担が大きいからやめろと言っているだろう!」
そして数年後。
「魔法使いさんとドワーフさん、いい人達ねぇ」
「アタシらの為に魔法で街に結界を張ってくれて助かるわぁ」
更に数年後。
白髪は現れなかった。
白髪が戻った時は日中の宿の中だった。
「魔法使い様、昨日一日どこに行っていたんですか?」
「ちょっとね」
着替えながら受け答える魔法使い。
外に出るようだ。
「どこか出かけるんですか?」
「ちょっと人探しにね」
「すみません。黒髪の魔法使いとモノクルをかけた茶髭のドワーフを見ませんでしたか?」
「ああ、×××さんらなら1週間前に亡くなってしまったよ」
妙だ。
まだ1ヶ月しか経っていないのに亡くなるなんて。
あまりにも早すぎる。
襲撃を疑ったがこの街は平和だ。
一体何があったのやら。
「×××さん達ね、1000年もこの街を守ってくれて。本当に皆感謝していたのよ」
「街の人ら総出で葬式を執り行ったわ」
「いいのですか?魔法使い様」
「うん。花は送ったから」
「知り合いか?」
「うん。友達」
十月にみつけたもの、十一月になくしたもの 紺乃緋霞 @higasa_konno
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