ふたり、ことば。

篁 しいら

第1話


「なぁ、かなで

昼休み、教室でメロンパンに噛みついている私を見つけた幼馴染みのりょうが廊下側の窓を開けながら話しかけてきた。


「はひふへほ?」

「カナ、行儀悪くて草ァ」


友達が私の様子を見て、ペットボトルの蓋を開けながら私へジュースを渡した。


「んー! あんがと」


メロンパンをジュースと共に飲み込んだ私は、友達へお礼を言ったあとに遼の方へ顔を向けた。


「遼、なーに?」


体を半回転させて返事する、遼はいつものようにエナドリの口部分へ触れないように指で持ちながら、気だるそうに話を続けた。


「放課後、俺の用事付き合って」

「それ、DMで良くない?」


めんどくさそうに目を細めると、遼は少し笑いながら謝る。


「ごめんごめん、DMする前に奏見つけたからさ」

「良いけど、今日部活は?」


帰宅部を謳歌している私と違い、遼は一応部活に入っている。 大きな大会に出るほどの強さではないし、遼曰く「超緩くて最高」らしいけども、高校入ってから放課後つるむことはなくなっていた。


遼は私の問いに今度は歯を見せて笑いながら答える。


「中間で先輩たちが赤取って補習してっから、一週間部活無し」

「マ? めっちゃ草」


遼の話に私と友達はクススッと笑い、それに釣られて遼もニシシッとにやける。


「じゃあ、放課後俺のクラス来てよ」

「りょ~、付き合った礼にスタバな?」

「へーへー。 じゃ、またー」


遼はヒラヒラと手を振りながら、私たちへ背を向けて廊下に戻っていった。


「遼のやつ、なんか怪しくね?」


事の次第を見ていた友達が、にやにやしながら私へ話しかけた。


「何が?」

「今日なんか、様子へンじゃない?」


食べ終わった自作のお弁当を丁寧に包みへ入れながら、彼女は遼を観察して思ったことを口にした。


「なんか、よそよそしかった気がする」

「いやーフツーでしょ」


私はメロンパンの続きにかぶり付きながら、スマホを取り出してDMを見つめる。


いつもと同じ行為にも関わらず、先ほど遼が話しかけてきたという違和感でうまくスクロールが出来ずにいると、彼女がさらに言葉を放った。


「それに、胸ポケットにスマホ無かったじゃん。 心此処に在らず~みたいに、私にはみえたかなぁ」


ま、気のせいかな?と独り言を述べた友達の前で少し、私の指が止まる。


教室に戻ったであろう遼のDMを読んで、流しながら聞いていた彼女の言葉が本当かもしれないと思ったからだ。



『スマホ、教室忘れてたわ笑 また放課後な!』



私はメロンパンを口一杯に頬張ると、一度袋に戻してまたジュースで胃のなかに流し込んだ。





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