何もかも失った人

何もかも失った人

　３年前、僕は死んだ。僕はこうして公園で幽霊として過ごしている。とても寂しい日々だ。いつになったらお迎えた来て、転生できるんだろう。その時をずっと待つばかりだ。だが、なかなかその時が来ない。僕はあの時、道を踏み外していなかったら、もっといい日々を送っていたのに、もっと生きていたかもしれないのに、どんなに後悔してもあの時は戻ってこない。

　僕は４０年ほど前、大阪市で生まれた。あの頃は順風満帆だった。両親の愛情を受けて、順調に育った。そして、多くの友達に恵まれ、楽しい日々を送った。小学校では人気者で、たくさんの友達ができたな。とてもいい日々だった。あの頃の僕は絶頂期で、明るい未来を保証されていたな。

　思えばあの頃の夢は教員だった。両親が教員だったからではない。子供が好きだったからだ。もっと子供と付き合う仕事がしたいと思って考えたのが、教員だった。両親は喜んだという。中学校、高校と僕は成績優秀だった。そして、どの先生からも期待されていたな。君は偉い人になるぞと。その為にはもっと頑張らなければならない。僕は努力なしでは強くなれないと思っていた。だから、自分は勉強をやめなかった。どんなに勉強をしても、まだまだだと思っていた。

　僕が進んだ大学は、都内でもトップクラスの大学だ。両親のみならず、家族は喜び、そして僕の将来に期待した。上京して、もっと強くなるんだ。そして、親孝行するんだ。

　そして、上京した僕だが、それ以後はうまくいかなかった。初めての一人暮らしでの戸惑いや、インターネットにはまったせいで、勉強が厳かになってしまった。そして、成績が急降下した。その中で自分は、自信というものを無くした。一度失った自信を取り戻すのは大変で、その中で自分は孤立し、周りの大学生より遅れていった。そんな中で教員になろうとしたが、先生からの信頼を得られずに教員になれなかった。そして、４年生の時に就職活動をしなかったために、就職浪人になってしまった。

　就職浪人になってからは、両親に怒られるばかりで、大阪に帰れと言われまくった。だが、東京で過ごしたいと思っていた。もう大阪で暮らしたくないと思ったのは、自分が大阪にいる頃、ひどいいじめにあっていたからだ。もう大阪には住みたくなかった。東京で暮らして、つらい過去から決別したかったからだ。だが、誰にもその理由は言わなかった。広い東京で頑張りたいという想いが強いからと言ってきた。

　何とか就職はできたものの、なかなか定着できずに、入退社を繰り返すだけだった。そして、その度に厳しい事を言われるばかりだ。どうしたら僕は仕事に定着できるんだろうと思った。だが、その答えが全く見つからない。頑張っているのに、努力しているのに、なかなか身につかない。本当に大学卒業なのかと言われるばかりだ。どうして僕はこんな道を歩んでしまったんだろうと後悔するばかりだ。

　そして僕はお金があまりなくなり、家を追い出され、公園で暮らすようになった。日雇い派遣で生活する毎日だ。とても大学卒業とは思えない有様だ。こんな未来を、誰が予想できたんだろう。誰も予想できなかっただろう。

　僕は思い浮かべた。小中高、そして大学の同級生は今頃、何をしているんだろうか？　きっと、結婚して、子供に恵まれて、順調な日々を送っているんだろうか？　そうならば、とても楽しいだろうな。家がある、車が買える、家族がいる、そんな日々を当たり前のように過ごしている。だが、僕はそのどれもかなわなかった。あまりにも悲惨な人生だった。だけど、それが自分の人生だ。といっても、みんな笑うだろうな。かわいそうだと言ってくれないだろうな。もしも大学で道を踏み外していなければ、彼らのような幸せな日々を送っていたのに。いくらあの頃に戻りたいと思っても、あの頃はもう戻ってこない。あまりにも悲惨だな。

　３年前、都内の公園で僕は孤独なまま死んだ。誰にも看取られずに。寂しい最期だった。

　そして今も僕は死んだ公園にいる。目の前には幸せそうな家族がいる。彼らは楽しそうに遊んでいる。とても楽しそうだな。こんな風に自分もなりたかったな。どんなに叫んでも、誰も気づいてくれない。もう僕という存在はそこにもいないから。

　今でも僕は思っているんだ。同級生は今頃、どうしているんだろうか？　幸せな日々を送っているんだろうか？　僕が憧れた人生を歩んでいるんだろうか？　そんな日々を、僕も送りたかったな。もしも生まれ変わったら、彼らのような順風満帆な日々を送りたいな。だけど、それがかなうかわからない。それは自分の力が決めるものだと思う。ずっとずっと努力さえしていれば、明るい未来は開けただろう。だけど、自分にはそれができなかった。

　こんな人生だけど、誰もかわいそうだと思ってくれないだろうな。だって、それは自分が努力していなかったから、こうなっただけなのだから。

　これだけは言いたい。どうかみんな、こんな人生を送って、こうして孤独な日々を送る事になるんじゃないぞ。努力って、大事な事なんだぞ。