名前
小狸
掌編
その筆名は何と読むのか――と
そう訊かれないくらいに有名になる、と自らを鼓舞してきた。
仕事と休暇の合間に、飽きもせずに
私は、さる動物の名に一文字加えた筆名を、小説投稿サイトでは用いている。
ありふれた、田舎ならばあちこちにいる動物である。
そして別名義でもう一つ、私は筆名を持っている。
持っている、という表現が間違っているのなら、決めている、といっそ言ってしまった方が良いか。
そちらは、小説投稿サイト以外で、小説の類を書く際に使っている、主流の筆名である。決めた順番は、先の動物の名に手を加えたものよりもこちらの方が先である。
私の記憶が正しければ、高校の受験期が無事終わり、中学3年の卒業式の前日に、己に名付けたように思う。
執筆活動を再開して、何とはなしに辞書辞典の類を閲覧していた時に、筆名の下の名前にあたる表現を、偶然発見したのである。
検索エンジンで探せば、私の筆名の下は、ネット辞書にも掲載されていることだろう。
少なくとも、私の電子辞書の『
まあ、ありふれた表現でないことは事実である。
少なくとも、日常生活を送る上でまず見る表現ではない。
末尾の一文字に関して言うのなら、訓読みは知っていても、音読みの読み方すら分からないと思われても不思議ではない。
故に、冒頭の「その筆名は何と読むのか」という疑問は、自然なものなのである。
筆名の苗字のほうは比較的ありふれたものなので、恐らくほとんどの人が読むことができるだろう。
ただ名前は、となると、初見で読める方は限られる――と思う。
読めないということは、覚えづらい、ということでもある。
遠い未来の夢物語かもしれないが、もし小説家として文壇に立つことがあった場合、他の作家先生よりも記憶に残りづらい、という危険性も
それでも。
中学時代から、決めていた。
もし小説家になったら、この筆名の、自分でありたい――と。
誰に影響を受けようとも、誰の
これからもきっと私は、その名を名乗るだろう。
結果が出ようとも出ずとも、必ず私は、この筆名の私でいたい。
だからこそ、せめてこの小説を読んでくださった方には、読みを明かしておこうと思う。
その名は4文字で、8つの音で構成されている。
私の、始まりの名前である。
(「名前」――了)
名前 小狸 @segen_gen
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