第8話 恋い慕う


みいは夢には出てきてくれなかった。なにか絵を描いている夢だったと思う。


そして1週間が経った、毎日思い出すけど悲しい気持ちはない。日々充実しながらみいを思い出し、あたたかい気持ちになっている。我ながら幸せな生活を送れているとおもう。うん、幸せだ。


それなのに僕は空港にいた。

みいを送り出した帰りのように何も考えずに空港に着いていた。

そして手には水族館の1000円くじのぬいぐるみを1つ持っていた。ぬいぐるみを理由にまさか会いに行こうとしているんじゃないかと自問自答した。よかった、冷静になれた。

とんでもないストーカー男になるところだった。綺麗な思い出のまま終わらせよう。

そしてまた会えたら会おう。


ベンチに座った。視界が悪い、少し涙が滲んでいるようだ。自らやっと行動できたのにまた諦めるのかという悔しさからだろうか。

恥ずかしいから頑張って涙がこぼれないように必死に目を開ける。もう涙で全く見えない。とうとう零れそうになり俯く。ハンカチなんて持ってきていなかったため顔を隠しながらトイレに向かおうと立ち上がったところ、タオルらしき物が目の前に差し出された。

色々な人が僕を見ていたのはなんとなく視線を感じていたから分かっていた。恥ずかしながらハンカチを借りることにした。


すみません、洗って返しますという僕。


みっきーがくれたハンカチだよ、

ぬいぐるみ忘れたから帰ってきちゃった


という穏やかな口調の心地よい声が聞こえた。

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恋い慕う @nayihc

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