第2話 好きになってはいけない人
あの人と連絡先を交換してから、毎日のように連絡を取り合ってる。
「おはよう」から「おやすみ」まで、まるで恋人みたいに。
そんな関係じゃないことくらい、分かってるのに。
それでもスマホの画面に名前が光るたび、嬉しくて仕方がなかった。
***
その日、あの人は仕事終わりに友達とご飯に行くと言っていた。
俺が仕事終わりにスマホのメッセージを確認すると、あの人からメッセージが。
「まだお仕事中ですか?」
「今ちょうど終わりました。どうしたんですか?」
すぐに返信が返ってくる。
「今から予定ってありますか?」
「ないです。でも、友達とご飯に行くって言ってませんでした?」
「友達が来れなくなったので、なくなったんです」
--これは、もしかして。
「もしよかったら、ご飯行きませんか?」
その一文を読んだ瞬間、心臓が跳ねた。
手早く返信を打ち、駅に向かいながら鏡に映る自分の髪を整える。
「お疲れ様です。急に誘ってごめんなさい」
「いえ、むしろ嬉しかったです。どこか飲み屋でも行きましょうか」
入ったのは、仕事帰りの人で賑わう小さな居酒屋だった。
グラスがぶつかる音と焼き鳥の匂い。
気づけば、仕事の話、好きな映画、子どもの頃の話までしていた。
初めて知ることばかりで、どれも聞いていたくなった。
***
店を出たのは二十時過ぎ。
夜風が少し冷たくなってきて、あの人はコートの襟を直した。
「どうします?二件目、行きますか?」
お酒のせいか、ほんのり顔を赤くしたあの人に尋ねる。
「そうですね。まだ、帰りたくないので」
好きな人にそう言われて、帰す男なんていない。
「いいんですか?彼氏さん、心配するんじゃ…」
「友達の家に泊まるって言えば、大丈夫です」
ほんの一瞬、躊躇うように笑った。
その笑顔が、どうしようもなく綺麗で。
(そんなこと、言われたら)
一瞬、視線が泳いだ。その目が、ほんの少しだけ震えていた。
その迷いごと、俺は掴んでしまった。
あの人の手は、思っていたよりも温かかった。
部屋にたどり着くまで、その手は一度も離れなかった。
--こんなこと、だめなのに。
触れるたび、心が深く沈んでいく。
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さよなら、お姉さん。 深海 遥 @aono_log
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