第5話 僕
完全に動かなくなったデブスを残し、僕は路上を歩いた。
気付くと、東京タワーが遠くに見える夜景が美しいビルの屋上。
金網を乗り越えて下を眺める。下界にはアリのような車が走っていた。
視界を上に振る。
(今夜は満月か……)
満月には願いを叶える効力があると、オンラインゲームのギルドチャットでネネに教えた事があったっけ。
オフ会で、初めて彼女に会った瞬間、引きこもりで真っ暗だった自分の世界に光が差した。
君は僕の女神。僕の生きがい。僕の命。だったのに。
「ぐっ、うっ」
熱い水滴が頬を伝う。だが、その熱は一瞬だけで、冷たい風が氷に変えてゆく。
氷結。それが、今の心だった。
僕は月に願いをかける。
(あの世でネネちゃんに逢えますように)
そして僕は、小さなアリがうごめく地上に迷うことなく身を投げた。
ポストに差し入れた、ハムタマゴのサンドイッチ。それを美味しそう食べる彼女を思い描きながら……。
満月に願いをかけるストーカー ユウユウ @Moko7014
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