路上占い、あれこれ99【占い師は呼び出される】

崔 梨遙(再)

夕食には遅い 1777文字 です。

 僕が夜のミナミで路上占いをしていた頃のお話です。



 目の前に、小柄なカワイイ女性が座りました。多分、20代前半。よって、年上や熟女が好きな僕には無関係な人。


『何を占いましょうか?』

『え? あ、はい、そうですね、じゃあ、仕事を・・・』

『はい。・・・・・・すみません、よくないですね。もしかすると、転職をお考えではないですか?』

『え? あ、はい・・・・・・』

『来年から良くなりますが、もしかすると転職して運が良くなるかもしれません』

『あ、そうなんですね。すみません、お名刺をいただけますか?』

『はい、どうぞ(占い師の名刺、本業の名刺ではないです)』

『崔さんですか?』

『はい、崔です』

『石橋です』

『石橋さんですか、何かご質問などございますか?』

『はあ・・・あの、お願いがあるんですけど』

『なんでしょう?』

『来週の土曜日にウチの会社のイベントがあるんです。来てもらえませんか?』

『いえいえ、ここでチラシを渡されても』

『お願いします。毛皮のコートの即売会です。ジュエリーの即売会も同時にやっていますので、お願いですから来てください』

『あのですね、僕、以前にも似たようなことがあったんです。これって、デート商法の延長線上ですよね? 行きませんよ』

『来てくださるだけでいいんです』

『行くだけ無駄でしょ? だって、僕、絶対に買いませんもん』

『買わなくてもいいです』

『以前もね、「来るだけでいい」って言われて、行って、その女の子の上司にめっちゃ営業されたことがあるんですよ。どうせ、同じ展開でしょ? 行きません』

『お願いします。来てくれるだけでも、私の評価に繋がるんです』

『お嬢さん、泣いてますやん。転職したらどうですか? 転職先でしたら紹介できるかもしれませんよ、僕、昼間は求人広告屋なので』

『転職は考えています。ですが、目先の土曜日のイベントの方が大事なんです』

『すみません、僕は行きません』

『どうしたら来てもらえますか?』

『そうですね・・・僕に抱かれてくれたら』

『・・・・・・抱かれます。その代わり、買ってくださいね』

『やめよう、今のあなたはきっと病んでいます。「抱かれる代わりに買ってくれ」とか、普通の判断が出来ていませんよ。重症ですよ。転職しましょう』

『今の会社、なかなか辞めさせてもらえないんです』

『僕が退職手続きに付き合います』

『すみません、絶対に来てください! じゃあ、お願いします!』


 女の子は走り去って行きました。そこで、僕は気付きました。石橋さんが料金を払っていなかったことに・・・。



 土曜の昼。ずっと着信音が鳴り続けました。僕はマナーモードにして寝ていました。少し寝て気付くと、鬼のようにショートメッセージが届いていました。要するに、今すぐ来て欲しい、買わなくてもいい、来てくれなかったら、田舎の実家に帰ります。という無いようでした。


 ここで、僕は行ってしまうんですよね・・・。


 はい。ビルの入口で石橋さんは待ち構えていました。イベント会場に入るとすぐにやり手上司(男女)に挟まれて応接ブースへ。僕は終始、


『僕は、買いません。来るだけでもいいと言われたから来ただけです』


と、繰り返していました。それでも石橋さんの上司は僕にガッツリ営業していましたが、上司達の方が根負けして、僕は軟禁状態から解放されました。


 解放されてトイレに行って、イベント会場をヒョイと覗いたら石橋さんが上司達に叱られて泣いていました。僕はズカズカ踏み行って、石橋さんの腕を取り、引っ張りました。


『え? え? 崔さん? 何?』

『上司の皆さん、今日はこれから石橋さんと商談しますので連れて行きますね』

『え? え? え?』

『石橋さん、行こう! ええから、大丈夫やから』


 僕は石橋さんを会場から連れ出しました。



 僕は自宅のあるマンションの近くのカフェに石橋さんを連れていきました。


『ちょっと待っててください。すぐに戻ります』


『お待たせしました』

『なんですか? このファイルの山は?』

『僕があなたに紹介出来る会社の名刺です』

『え? え? え?』

『転職するのでしたら、お手伝いしますよ』

『え? 私、転職できるんですか? どの会社にしようかなぁ・・・』

『ノートパソコンも持って来ました。会社のホームページも見れますよ』

『そうなんですか? 凄い』

『退職の手続きが怖ければ、僕が同行しますよ』

『ありがとうございます!』



 僕は初めて石橋さんの笑顔を見た。




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路上占い、あれこれ99【占い師は呼び出される】 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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