サッカーが好き
クランベア*
第1話
「ねぇ浩介。中学受験してみない?」
小四の春、やっと高学年の仲間入りになったオレにこう言ってきたのは母ちゃんだった。
「え、ヤダ。俺サッカーやってるし」
「そんな事言わないで。サッカーは中学生になってまたやったらいいじゃない」
「えー」
サッカーは小学校に入ってからずっとやってる。最近は難しい技もちょっとずつできるようになって、友達からびっくりされたばっかだった。
「なんで急に受験なの。サッカーで良いじゃん」
「それじゃダメなのよ。近くにちょっと頭良い学校あるでしょ?そこ、サッカー強いらしいのよ」
「別に、今のままでいい。今のサッカーが楽しいし」
しばらくの間、リビングのテーブルを囲んで母ちゃんは俺を説得してたけど、俺は聞く気なんかこれっぽっちもなくて。
そんな俺を見兼ねてか、母ちゃんは最終手段に出た。
「じゃあ、もし受験合格したら、わんちゃん買ってあげる。小さい、子犬くらいの子」
その一声から数日後、俺は母ちゃんが買ってきた算数のワークを一人家で解いていた。
「ここにはこれが入るから、でもこれがあるから、こうで…」
学校から帰ってきたらすぐにサッカーボールをもって公園に集合していた時間を丸々ワークやドリルに費やせば、元々点数はそこまで悪くなかったオレのテストの点数は大幅に上がった。
その点数にもっと期待を持ったのか、母ちゃんはワークの他に参考書も買ってくるようになった。
「これでもっと詳しく勉強できるようになるよ」
「…ありがとう。がんばる」
静かに重なっていく重さに気付かないふりをしながら、オレは買ってもらったワークを解くこととと慣れない参考書を使いこなすことに必死だった。
「な、今日も無理なの?」
「うん、勉強しなきゃいけないから。まだ昨日の分終わってないし」
「ふーん」
サッカーをしなくなってから少し経って、朝の会で歌う曲がこいのぼりの歌になったくらいの時、そうやって友達から聞かれることが多くなった。
その度に勉強を理由に断って、友達に少ししょんぼりされる。
しょんぼりされたって、オレ、どうしようもないんだけど。
「もう、こうすけとは遊べないってこと?」
「いや、受験が終わったら遊べる」
「だってそれすんの六年生のときでしょ。それまで遊べないってことじゃん」
掃除の時間、班が一緒の達也にそう聞かれて返事に困った。ジャンケンで勝ち取ったホウキを右、左と動かしながら考えて、確かに、と思った。
「え、あ確かに」
「だろ!遊べなくなるなら今遊ぼうぜ」
「いやでもまだワーク残ってるし」
ゴミを集め終わって、達也にチリトリを持っててもらう。その中にゴミを集めていく中、達也が顔を上げずにぽつりと呟いた。
「お前にとっての一番がよく分かんねぇんだよな」
「は?」
「勉強が大事ってしてるクセに遊びたいんだろ」
「…」
「ならもう普通にサッカーすりゃーいいじゃん」
返事に困ったのは、きっと図星だと思ったからだ。
「こうすけが欲しいのってどっちなの?」
「え?なにが?」
「だからー、受験終わったあとのご褒美、ほんとに欲しいの?俺にはそんなに欲しくなさそうに見える」
「え」
ホウキの方向がずれる。ちゃんとゴミ入れろよ、なんて達也から文句が飛んできた。
「ご褒美なんかよりも欲しいのはサッカーなんじゃないの?」
掃除おーわり!そう言って立ち上がった達也に、ハッとして着いていく。
一言も話さなくなった俺と無言で歩く達也の顔を何となく見れない。
ゴミ回収場に着いてから、俺はやっと話す心構えができた。
「サッカー、やりたいって母ちゃんに言ったら、どうなると思う」
急にまた話し始めた俺に、特に驚く様子が無いまま達也は聞いて一言
「知らねー。まぁでも、多分お前の母ちゃん優しいから許してくれんでしょ」
とだけ言った。
そんな投げやりにも聞こえる達也の言葉に、なんだか一気に全部ばからしくなってしまったオレは、久しぶりに苦しくなるくらい笑った。
ふはっ
「なんだよそれ!」
サッカーが好き クランベア* @cranbear_3
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