探し人

あやお

探し人



『運命の人、探してます!見つけた方はご連絡ください。080-⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎-⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』


電柱に貼られた探し人のポスターに、そんな文字がデカデカと書かれていた。

異様なのは文章だけではなく、ポスターはピンク色のリボンや、ハートのシールでデコレーションされている。

肝心の探し人だが、普通のおじさんなのだ。

50代くらいの、そのあたりにいそうな普通のサラリーマン風のおじさん。

そのおじさんが、ニコリと微笑んでピースをしている写真だ。


特に用事もなく、散歩がてらコンビニに向かっていた私は行き先を変更することにした。



私はポスターを貼った人物に興味があった。

おそらく大学生の私と同い年くらいの女の子だろう。いや、あのセンスはもっと下かもしれない。

何故あのおじさんを探しているんだろう。

一体、何があって運命を感じたんだろう。

気になってしょうがない。

本当は、今にも電話を掛けて話を聞きたいところだが流石にマナー違反だろうと、ぐっと我慢する。


駅前に着くと、沢山の人達が立ち止まっていた。待ち合わせをしているのだろう。

私は駅前がよく見える喫茶店に入り、窓際の席を陣取る。

人通りの多いところを張るのが一番効率がいいだろう、というのが私の作戦だ。


あれはデート、あれは友達と約束か、あれは……パパ活か?

私は視線を左右に動かして、人を選別していく。

あのおじさん、もしかしてパパ活相手だったりするのかなぁ、逃げられちゃって探してる、とか?いやーだとしてもあそこまでやらないか。

ブツブツと呟きながら、選別を続けると、ひとりの男に視線がとまる。


「嘘……いるのかよ」


そこには、確かにポスターの男がいた。

人が多くて見えにくいが、誰かと待ち合わせをしているのだろうか。

ポスターと同じ笑顔で、駅前にぴくりとも動かず立っている。


私はすぐに喫茶店を出て、押さえてあったポスターの番号に電話を掛ける。

人通りが多くてみえにくいが、おじさんの被っている深緑色のキャスケットが辛うじてみえるため、ほっとする。

数回のコールの後、もしもしと声が聞こえてきた。

想像していたよりも若くはなかったが、甲高い声だった。

「あの、探し人のポスターを見て、今見つけまして」

「わぁ!ありがとうございます。見つけてくださったんですねぇ。私の運命の人です!」

妙に舌足らずな喋り方に、少し気色悪さを感じるが、好奇心の方が勝り私は続ける。

「今、池袋の交差点近くにいますよ」

「えぇ、もう少しわかりやすい建物とかありませんかぁ?」

「あ、私は今喫茶店の前にいるんですけど、その人は……」

「今行きますねぇ〜」

ブツンと急に電話が切れ、私は驚く。

運命の人に会えるから、忙しないのだろうか。

「あ!やば」

おじさんから視線を逸らしてしまったことに気がついて、あわててキャスケットを探す。

しかし、どこにも見当たらない。

「うわ、やっちゃった……」

見失ってしまった……なんて言おう、電話したほうがいいのかな、でもまだ近くにいるかもだし、と頭をかかえていると、あのぉと話しかけられた。


その甲高い声に、私はなんて謝ろうと頭で考えながら顔をあげる。


そこには、深緑色のキャスケットを被った、探し人のおじさんが立っていた。

写真と同じように、にこりと笑いながら、舌足らずな口調で私に語りかける。



「あなたが、私の運命の人なんですねぇ」





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探し人 あやお @ayao-novel

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