第2話 (後編)

 彼の登場で場はさらに混沌へと包まれる。


「ユーリ様ッ!」


 ミーアがユーリ様に駆け寄り抱き着く。あっこれ不貞相手はユーリ様だな……

 私はそう考え事態を見守ろうとしてよく観察してみた。


 ミーアはユーリ様を抱きしめて顔をうずめている。それもそのはずユーリ様は王国の第二王子ではあるが年齢は11歳ほどで子供なのだ。ダニエル王子とは違い妾の子ではあるがその容貌は美少年と言っても過言ではなく。ひそかに人気があった。ただそれを口にすれば男女関係なく「ショタコン」のレッテルを張られる。


 ミーアをよく見てみると泣いていると見せかけてどうもユーリ様の金髪の匂いを吸っているようにすら見える。ミーアはショタコンだったのか。




「ユ、ユーリ!お前もう10時だぞ?良い子はねんねの時間だ!」


「だって夜にお手洗いに起きたらそっちで騒いでたんだんだから。気になってきちゃった」


「フンそうか。ただな!弟から離れろショタコン令嬢!」


 ダニエル王子が激高する。異母兄弟ではあるが年が離れていたので仲は良く、ダニエル様はずっとユーリ様のことを一番大切にしていた。


「失礼ですわね。私のことを慰めてくれているんですわよ。ね?」


「う、うん」


 ユーリ様は背伸びしてミーアの頭をなでなでする。羨ましい……


「あぁ最高ですわ。ユーリ様は私のことを慰めてくださるんですのね」


 ミーアは今にも昇天しそうな声を出す。やっぱこの人もショタコンだ!


 マーガレットはその姿を見て不快感をあらわにする。


「あらあらミーア様はとっくにユーリ様に気持ちが移っているようですわよ。汚らわしい。きっとダニエル様に近づいたのはユーリ様に合法的に近づくためですわ」


「やはりそうか。お前みたいなショタコンに弟はやらん!」


「べ、別に私はユーリ様のことを弟みたいだなとしか思っていませんわ。そのもちもちのほっぺ、幼い匂い、すぐに折れそうな手足のことなんて気にしてませんわよ」


 絶対に気にしてんじゃん!バレバレだよ!


 そんなことを気にしていると新たな爆弾が投げ込まれる。


 ユーリ様は顔を右から出すとマーガレットを見て。


「あっ!マーガレット様。この前はお菓子ありがとうございました!」


 と述べてしまったのだ。彼からすれば無邪気な感謝の気持ちだったのだろうが事態はさらに複雑化する。


「何ですのまさかマーガレットも狙っていたとか?」


「べ、別に狙ってませんわよ!つい弟みたいだと思ってお菓子を献上しただけで……」


 マーガレットがそう言い訳すると。


「嘘をつくなっ!」


 近くにいた第二王子付きの壮年の騎士隊長が言う。


「ユーリ様にはお付きを付けずに勝手に城内を出歩く悪癖があるのはご承知だと思われるが、そこでワシが陰で見張ってたらマーガレット嬢がそっとお菓子の箱を渡したでは無いか!本来献上する者ならば少なくともワシらがいる場で堂々と献上するべきであろう!」


「そ、それはそんなに堅苦しいものは嫌いかと思いまして」


「それも嘘であろう!後でユーリ様が食べる前にメイドに箱を取り返させて中身を調べたら媚薬が入っておったわ。アンタ11歳の少年に何しようとしてた!と言うかこれで媚薬入りのお菓子貰うの何回目だ……」


「え?まさかアーノルド勝手にお菓子の中身変えちゃったの?!」


「申し訳ありません殿下。しかし公的な身分にあらせられる貴方様の周囲は危険だらけなのです。後貴方様の貞操の為なのです」


「てーそーって良く分かんないけど。多分アーノルドが言ってるならそれが正しいんだね」


 ユーリ様は納得する。流石アーノルド騎士隊長。仮にユーリ様が国王になったら絶対宰相クラスになれるレベルの信頼だ。


「あなたまさか本当に私のユーリ様に手を出そうとしてたんですの?」


「それはこちらのセリフですわ。ユーリ様を返しなさい!」


 本当に王子をとりあってる。これ案外ミーアが嫉妬で嫌がらせしてたって言うのも本当なのかも……しかし良く考えて欲しいユーリ王子は10歳、ミーアとマーガレットは19歳なのだ。そう要はショタコン同士の取り合いなのだ。と言うかアーノルドのセリフによればもっと多くの数の媚薬入りお菓子があるらしい。もうダメだ。この国にはショタコンしかいないのか……




 気になってダニエル王子の方を見てみると「まさか二人とも俺じゃなくユーリを奪い合っていたのか……」と落胆する始末。更にルナティック卿とマーガレットの父親は互いの娘の醜態に頭を抱えている。この騒ぎは夜明けまで続きそうなので私は先にお暇することにした。


 アーノルドが告げる。


「そろそろもう殿下を寝かせる時間だ。早く寝所に!」


「じゃあ私が連れて行きます」


 私は手を挙げて走って行き、ユーリ様の手を掴んだ。


「「あっ!エリスアンタ!」」


 二人の一言をよそに私はユーリ様を寝所に連れて行く。




 二人で廊下を歩きながら。


「ねぇエリス……僕何か悪いことしたかな?」


「直接はしていません。ただ間接的に凄く悪いことをしていますわ」


 私はそう告げる。そして寝所の前に着いた。


「さぁお休みください。もう一緒にメイドが寝てはくれないのですよ」


「う、うん!」


 ユーリ様は布団にもぞもぞ入る。可愛い……


 寝る前にユーリ様は聞く。


「ねぇエリスに質問があるんだけど……」


「何ですの?」


「何で僕のベッドのある部屋を知ってるの?」


 しばらくの沈黙が流れる。そう言えばいつも通りに動いていたから忘れていた。でもごまかそう。


「そんなこと貴族の基本常識です。すぐ守れるように待機しているので」


 夜ふかししたからだろう。ユーリ様はすぐに寝てしまった。




 さっきの理由は嘘だ。王子の寝所の場所なんて一貴族令嬢が知れる訳がない。だって周囲には厳重な警戒が敷かれるのだから。本当の理由は……




 私がたまに夜這いしていたから。


 私はユーリ様の頬に触れた。すべすべで気持ち良い。


 あの二人は気づいていたようだけれど私も実はショタコンの一人だったのだ。


 もうこうなったら二人には絶対にこの王子は渡さない。


 私はユーリ様の頬に口づけをした。

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こんな婚約破棄は嫌だ~ショタコンたちの争い UMA未確認党 @uma-mikakunin

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