美プラ戦記

小河白明夫

美プラ戦記

 これは侵略国家アルムアード帝国からの襲撃を受けている、システィエラ王国という国での出来事。


「国王陛下、このままではわが軍の兵が全滅です! 我々では、あの巨大ロボットとかいうものに対抗するのは不可能です!」

「くっ…。アルムアードの勇者、何という恐るべき力」


 アルムアード帝国はシスティエラへの侵攻の際に、異世界から勇者を召喚して戦列に加えていた。

 そしてその勇者の能力とは、自分が作ったプラモデルを本物にする能力である。


 彼はその能力でロボットのプラモデルを本物の巨大ロボットと化し、それに乗り込んでシスティエラへの攻撃を行っていたのである。


「ふははははははっ! このオレ様の愛機の前に、ただの兵士どもなどザコ同然! このまま一気に蹴散らしてやるぜ!」


 次々と倒れていくシスティエラの兵たち。

 これではシスティエラ王国が滅びるのも時間の問題だろう。


「陛下、何か奴に対抗する手段は…」

「こうなったらこちらも使うしかない」

「使う…とは?」

「勇者召喚の議を行うのだ。当たりの勇者が出る可能性は限りなく低いが、もはやそれに賭けるほかない」


 そしてシスティエラの国王は宮廷魔導師たちに勇者召喚の議を行わせた。


「国王陛下っ、まもなく現れます、異世界の勇者がっ!」


 そしてシスティエラにも異世界の勇者が降り立った。


「ん、ここはどこだ? まさかっ、異世界召喚っ?」

「ずいぶんと話が早い勇者ですね」

「う…うむ。向こうの世界の者は、異世界に召喚されるのが日常茶飯事なのだろうか」


 このずいぶんと状況理解が早い勇者は、一見するとごく普通の青年でしかないが、勇者として召喚された者は必ず何らかの特別なスキルを有しているはずなのである。

 ただし、そのスキルが有用なものであるかどうかは分からないが。


「異世界の勇者殿…」

「おおっ、やっぱり俺勇者として召喚されたのか。すげー」

「勇者殿はこちらに召喚された際に、何らかのスキルを得ているはずなのだが、それが何か分かるか?」

「スキル?」


 国王にそう尋ねられた勇者は最初、自分に本当にそんなものがあるのかが分からずぽかーんとするが、勇者はすぐに自分の中にあるその力について知ることとなった。


「今、頭の中に声が聞こえてきた。えっと……自分が作ったプラモを、本物にする能力?」


 それは奇しくも、敵国アルムアードの勇者と全く同じ能力であった。


「おお、アルムアードの勇者と同じ能力なら、十分に対抗できる! どうか勇者殿、その力で我が国に攻め込んできている巨大ロボットとかいうものを打ち倒してくれぬだろうか」


 勇者は思った。

 戦いに出向くのは正直ちょっと怖いが、だがこのプラモを本物に変えるというチート能力はぜひとも使ってみたい…と。


「いいぜ。この俺の作ったプラモで、敵のロボットなんてぶっ倒してやろうじゃねえか!」


 早速勇者はプラモづくりを始める。

 まず最初に勇者がスキルを発動させると、これまでに彼が作ったことのあるプラモのキットと、それを作るために必要な工具などが出現する。


「これは、アルムアードの勇者が乗っていたものと同じものですね。色は違いますが…」

「まあ、カラバリってやつだな」

「カラバリ?」


 騎士団長は聞きなれない言葉に少々戸惑っているが、そんなことはお構いなしに勇者はどんどんプラモを組み上げていく。

 そしてついにそれは完成した。


「よし、完成! あとはこれを本物に……あれ? 全然本物にならないぞ」

「どういうことなのだ?勇者殿!」


 焦る国王。

 だが勇者にもなぜこのプラモが本物にならないのかが分からないため、勇者はもう一度頭の中の声に耳を傾けた。

 そして…


「なんか、俺が向こうの世界で最後まで完成させたことのあるプラモじゃないと、本物には出来ないらしい」

「勇者殿は、それを完成させたことがなかったのか?」

「これ、美プラの手足パーツ用に買ったやつだからな。……あっ、ということはあれなら作れるのか」


 勇者は再び新たなキットを出現させて、それを組み始めた。

 そして完成したそのプラモに対してスキルを発動させると、そのプラモは大きくなって本物の姿へと変貌していく。

 露出度の高い格好の美少女の姿へと。


「ゆ…勇者殿、何なのだ?その破廉恥な格好の娘は」

「破廉恥とは失礼だな、王様。これは美少女プラモ、リシェティア(アイリスウェア)だ!」

「……は?」


 国王は理解が追い付かない。


「マスター、わたしは何をすればいいですか? ご命令を!」

「おおっ、ちゃんと喋れるのか。しかも公式の声優と同じ声だ。よし、じゃあリシェティア、ロボに乗ってこの国に攻め込んできてる敵国の勇者をぶっ倒してくれ!」

「了解しました、マスター! じゃあリシェティア、行ってきます!」


 そしてリシェティアは背中に装備した飛行ユニットの力で飛び上がり、アルムアードの勇者が乗る巨大ロボットのもとへと飛んで行った。


「……ん? 何だあれは。この世界には空を飛べる人間がいるのか? ……いや違う、あれはリシェティア(アイリスウェア)か!」


 どうやらアルムアードの勇者もプラモづくりを趣味とする人間であったため、目の前に現れた存在がリシェティアであることには気づいたようだ。


「なるほど、この国にもオレ様と同じスキルを持つ勇者が現れたということか。だがそんな美プラごときで、このオレ様のイグニクス02に勝てると思うなよ!」

「たあぁぁっ!」


 武器を構えて突撃するリシェティア。

 だがやはり武装も大きさもはるかに勝るイグニクスの前では歯が立たず、あっさりその攻撃ははじかれてしまった。


「きゃあっ!」

「やはりその程度か、話にならんな」


 そのころ地上では、システィエラの勇者や国王などがこの戦いを眺めていたのだが、明らかなリシェティアの劣勢に、国王は愕然としていた。


「も…もうだめだ。やはりあんな破廉恥な娘では、巨大ロボットになどかなわない…」

「まだあきらめるのは早いぜ、王様。確かに武装は向こうのほうが強力だが、だったらこちらも同じのを使えばいいまでだ」

「どうするつもりなのだ?勇者殿」

「こうするのさ」


 勇者はつい先ほど作ったものの本物にすることは出来なかったプラモ、イグニクス01の手足と装備を手に持って掲げた。

 するとそれらが空中で戦っているリシェティアに換装されていく。


「よし、やはりこのやり方なら使えるな。これで武装は互角!」


 だが装備を換装したリシェティアを前にしても、アルムアードの勇者は決してひるまない。

 なぜなら…


「装備が同じになったからどうだというんだ。そっちはしょせん1/12スケールの美プラ。だがこっちは1/144スケール。本物になったときの大きさが十二倍違うんだよ!」


 そう、元が同じ巨大ロボのプラモであっても、美少女プラモの装備として使用した場合、本物になったときの大きさはそちらの基準になってしまう。

 ゆえに同じ装備であっても、その大きさの差は歴然。


「この勝負、やはりオレ様の勝ちだ!」


 イグニクス02の剣がリシェティアに振り下ろされる……が…


「わたしはこんな攻撃じゃ、やられません!」


 なんとリシェティアは敵の十二分の一しかない剣でその攻撃を受け止めてしまった。


「ば…馬鹿なっ! なぜそんな小さな体でこの攻撃が受け止められるっ!」


 予想外の出来事に焦りだすアルムアードの勇者に、システィエラの勇者は告げる。


「大きさの違いが戦力の差だと思っているのが間違いなんだよ」

「何…だと?」

「これはプラモだぞ。武装が同じなら、より魂を込めて作ったほうが強いに決まっている!」

「は? だが魂を込めたほうが上というのなら、オレ様のほうが強いはずだろうが! フル塗装したオレ様のプラモが、部分塗装しかしていないお前のプラモに負けるわけがない」

「お前は何も分かっていない。お前のプラモはただ、漫然と全体に色を塗っただけだ。だが俺はリシェティアをエロかわいくするために、リアルタッチマーカーを駆使してよりエロい肌の質感の再現にこだわった」


 その勇者の言葉を聞いて、国王や騎士団長、宮廷魔導師たちは思った。

 そういえばあの子、胸の谷間やおへそがほんのりピンクだったな…と。


「これでどちらがより魂を込めたかが分かったろう。さあ反撃だ、リシェティア!」

「はい、マスター! たあぁぁぁっ!」

「うっ…うわあぁぁぁっ! ま…まさか、こんなエロに負けるだなんてぇぇっ!」


 アルムアードの勇者が乗るイグニクス02は撃墜され、システィエラ王国は最大の危機を乗り越えることに成功した。


「俺のリシェティアの完全勝利!」


 だがこのとき国王は思った。

 うちの勇者、ほんとにあれでよかったの?…と。

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