激闘 メイド喫茶
~第五章:ギャル、萌えを制す~
1. ギャルの決意と、萌えの特訓
すべての始まりは、やはり凛花の一言からだった。 カードショップでの大会から数週間後、俺の部屋でゲームをしていたときのことだ。
「ねぇ、拳ちゃん。あーし、バイト始めようと思って」 「ああ、いいんじゃな――は? バイト? なんの?」 「メイド喫茶!」
俺はコントローラーを取り落とした。 凛花は、SNSで見つけた求人情報を見せながら、キラキラした瞳で俺に訴えかける。 「なんかさ、制服めっちゃ可愛くない? あと、拳ちゃんの世界、もっと深く知るには、あーしがその世界に入るのが一番でしょ?」 「待て待て待て! 凛花がメイド喫茶で働くなんて、世界線がおかしいだろ!?」
俺が通うようなメイド喫茶は、もちろん凛花の華やかなオーラとは無縁の、薄暗くて、優しく、そして極度に「萌え」に特化した空間だ。そこに、派手なギャルメイクと、普段「あーし」という一人称を使う凛花が適応できるはずがない。
しかし、凛花は一度決めたら聞かない。俺は、彼女に嫌な思いをさせたくない一心で、渋々「萌えのコーチ」を引き受けることになった。
【特訓:萌えの基本と、ギャル語の封印】
俺の部屋で、特訓は行われた。 課題は山積みだ。
「いいか、凛花。基本中の基本だ。『ご主人様、お帰りなさいませ』。声は優しく、トーンは高めに。やってみろ」 「おっ、お帰りなさいませ、ご主人様ぁ〜? ……どう?」 凛花は試行錯誤するが、その語尾には「〜っしょ」と「マジで」のアクセントが混ざってしまう。
「もっと、こう……ふんわりと、包み込むように。『ご主人様』が心から安らげるようにだ」 「ふんわり……ムズい! あーし、ふんわりとか柄じゃないし!」 凛花はイライラすると、鏡の前でメイド服のフリルを乱暴に引っ張った。
最も苦戦したのは、例の「あれ」だった。 「そして、オムライスを出す時の魔法だ。『美味しくなーれ、萌え萌えキュン』。これは完璧にマスターしろ。手をハートの形にして……」 「『美味しくなーれ、萌え萌えキュン!』……よっし、こんな感じ?」 凛花は全力で「萌え萌えキュン」を発したが、その迫力は、まるで格闘ゲームの必殺技のようだった。威圧感がすごい。
「い、いや、キュンはもっと静かに、優しく、ご主人様の心臓を優しく射抜くイメージだ!」 「うるさくちゃダメなの? あーし、全力でやらないと気が済まないし!」 俺は、その全力の「萌え」に押しつぶされそうになりながらも、彼女の熱意を評価せざるを得なかった。 ギャルの持つ「全力で可愛くあろうとするプロ意識」は、オタクの文化と意外なところで共鳴していた。
2. メイド喫茶『パステル・ドリーム』潜入
数日後、俺は覚悟を決め、凛花がアルバイトを始めたメイド喫茶『パステル・ドリーム』を訪れた。 店は、俺の行きつけとは違う、比較的新しい、メルヘン調の可愛らしい内装の店だった。ピンクと白を基調とした、徹底的に「パステル」な空間。 扉を開けると、チリンチリンという可愛らしい鈴の音。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
複数のメイドさんの声が響く。だが、その中に、一つだけ、聞き慣れた、そして聞き慣れない声があった。 声の主を探すと、店の奥から、フリルたっぷりのエプロンと、レースのヘッドドレスを身につけた凛花が、小走りで近づいてきた。
――衝撃だった。 いつもの派手な服とは違う、清楚なメイド服に包まれた凛花。 ギャルメイクはそのままだったが、衣装の力で、その派手さが逆に「個性的で目を引くメイド」という方向へと昇華されていた。 しかし、彼女の視線は、俺を通り過ぎた。
「あの……お一人様ですか?」 凛花は、俺の存在を完全に無視し、客として対応している。 プロ意識か、それとも照れ隠しか。俺は緊張で体が硬直したまま、席へと案内された。
席に着き、メニューを広げる。 周りの客は、俺と同じようなオタク風の男性が多いが、中には女性客やカップルもいる。皆、メイドさんたちの「萌え」のサービスに、満面の笑みを浮かべていた。
そして、俺のテーブル担当は、もちろん凛花だった。
3. ギャルメイド、降臨
「ご主人様、ご注文はお決まりですか?」 凛花の声は、練習よりも少し高めで、抑揚がきいている。努力しているのがよく分かった。 「あ、ああ……じゃあ、オムライスと、あと、いちごソーダを」 俺は緊張のあまり、ほとんど棒読みで答えた。
「かしこまりました! お料理が届くまで、ごゆっくりとお過ごしくださいませ」 凛花は満面の笑顔で応え、そのまま他のテーブルへと移動した。 俺は、他の客の視線を気にしながら、彼女の様子を観察した。
凛花のサービスは、他のメイドとは一線を画していた。 他のメイドさんが優しく、か弱く、控えめな「静」の萌えだとしたら、凛花は**「動」の萌え**だった。 彼女は、客からの冗談にも大声で笑い、注文時には「はいよー!」と言いそうになるのを必死に堪え、その代わりに「承知いたしました! ご主人様!」と、腹の底から声を出す。
そして、彼女のテーブルの客は、皆、明らかに楽しそうだった。 ある客は、「お嬢様みたいで新鮮だ!」と大喜びし、またある客は「あのメイドさん、なんか圧が強くて最高」と興奮していた。
(マジかよ……凛花、適応してる。というか、あの空間を自分の色に染め始めている……)
俺の心の中では、俺の知っている「メイド喫茶」の概念が、ガラガラと音を立てて崩壊していた。 あの練習であれほど苦戦していたのに、本番の場で、彼女は「ギャルの持つ圧倒的なコミュニケーション能力」と「楽しませることへのプロ意識」を、メイド服を通して発揮していたのだ。
4. 萌え萌えキュン!、の崩壊
やがて、俺の注文したオムライスといちごソーダが運ばれてきた。 凛花が、フリルスカートをひらめかせながら、トレイを手に俺の前に立つ。
「ご主人様、お待たせいたしました! 愛を込めて、このオムライスに魔法をかけますね!」 凛花は両手を胸の前でハート型に作った。
「いくよ、拳ちゃん……じゃなくて、ご主人様?」 彼女は一瞬、俺と目を合わせた。その瞳の奥には、「マジで緊張してるから助けて」というSOSの光が灯っていた。
俺は小さく頷いた。
「せーのっ! 美味しくなーれ、萌え萌えキュンッ!」
全力だった。 その声量は、他のテーブルの客が全員こちらを向くほどの迫力だった。
そして、俺のオムライスにケチャップでハートを描きながら、凛花は失敗した。 ハートを描き終えた瞬間、彼女は思わずいつもの癖で、俺に向かってウインクをしたのだ。 ただのウインクではない。ギャルが友達に向かってやる、少し挑発的で、楽しげな、あのウインクだ。
そして、小声で、舌打ちをするかのように、しかし嬉しそうに呟いた。
「マジで緊張したし、これ。……美味しく食べてね、拳ちゃん」
最後の「拳ちゃん」は、周囲には聞こえない、二人だけの秘密の囁きだった。 俺は一瞬、時間が止まったような錯覚に陥った。 メイド服を着た凛花が、店のルールを破り、俺の目の前で「ギャルの凛花」に戻ったのだ。
「……おう。美味しくいただくよ、凛花」
俺も、周囲に悟られないように、唇だけで答えた。 この、二つの文化、二つの役割が交差する瞬間が、俺にとってはこの上なく甘美だった。 俺はご主人様ではない。彼女の彼氏だ。そして彼女は、俺のオタク趣味のために、最高のメイドを演じてくれている。
5. 萌えの疲労と、愛の報酬
俺は、凛花が描いてくれたケチャップハートのオムライスを、一言も発さずに完食した。 他のメイドさんたちが、俺のテーブルに運んでくるサービスも、彼女たちの萌えの努力も素晴らしい。だが、凛花の全力で、少し荒削りな「ギャル萌え」が、俺の心には最も深く突き刺さった。
一時間ほどで店を出る。 「またのお帰りをお待ちしております、ご主人様!」 凛花は、最後までプロとして、完璧に見送ってくれた。
数時間後。駅前の広場で、シフトを終えた凛花と待ち合わせた。 彼女は、いつもの私服(ハイブランドのロゴ入りパーカーとミニスカート)に戻っていた。だが、髪からは、メイド服から移ったのか、甘い石鹸の香りが漂っていた。
「あー、マジ疲れた! 喉カラッカラ!」 凛花は駅前の自販機で買った炭酸飲料を一気飲みした。
「よく頑張ったな、凛花。凄かったぞ。あんなに完璧に萌えをやり切るとは思わなかった」 「マジ? ウケる。でも、あれ、体力いるんだね。なんか、ずっと笑顔でいるのって、すごい疲れる」 凛花は、ソファに沈み込むように、俺の肩に体重を預けてきた。
「ねえ、拳ちゃん。あーしね、今日わかったんだ」 「なんだ?」 「あのメイドさんたちってさ、マジで凄いよ。あんなに頑張って、誰かの夢を壊さないように、全力で可愛い『非日常』を提供してるんだもん。あれは、一種のプロ意識だね」 彼女は、表面的な「萌え」ではなく、その裏にあるメイドたちの「献身」と「努力」を見ていたのだ。
「……俺は、凛花が俺のために、あそこまで頑張ってくれたのが、一番嬉しかった」 「ふふ、当たり前じゃん。あーしは、拳ちゃんだけのメイドさんだし」
凛花は、俺の顔を覗き込み、唇に軽くキスをした。
「今日のバイト代でさ、拳ちゃんが欲しがってたあのレアカード、買ってあげるね? あーしの愛の報酬!」 「え、いいのか?」 「いいの! だって、あーしはもう、拳ちゃんの世界を完全に理解したんだし? そのお祝い」
そう言って笑う凛花の瞳は、メイド服を着ている時よりも、誰よりも「萌え」に満ち溢れていた。 ギャルは、俺のオタク文化の鎧を一つ一つ脱がせ、その本質を理解し、そして俺の全てを包み込んでくれる。
俺たちの愛の物語は、メイド喫茶のフリルと、ケチャップのハートと共に、さらに深まっていくのだった。
「君の理想のヒロインになりたい」と黒髪美少女が言った結果、俺にだけ優しい金髪ゆるふわ白ギャルが爆誕した件について ラズベリーパイ大好きおじさん @Rikka_nozomi
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