第25話 ダンジョン美食展 ダンジョン外編
「ダンジョン外で効果を発揮する食材、勿論ありますよ。まぁ例に漏れず大体が高額ですけどねえ。一般の方でも知っていそうな部類でいくと……これかな?」
カメラの前に置かれたのはなんの変哲もない液体の入った瓶。
ラベルも何も無いため一見すると酒のようにも見えるそれに酒に興味がないらしい視聴者はなんだ酒か、とそっけないコメント。
これはお酒なんかじゃなくて女性なら大喜びなものなんだよねえ。
「これはお酒じゃなくてお酢ですよ。『奇跡の雫』っていう名前で、これはドロップ品ではなくて宝箱産なのでもっと入手難易度は上がりますけどね。中身はりんご酢、いや純りんご酢に近いのかな??」
お、純りんご酢に食いついた人もいるねえ。物によっちゃ高級品だからかね?
けどまだまだ。
驚くのはこっからってね。
「そしてこの奇跡の雫の効果なんですが、女性必見。美白・美肌効果がえげつないほど高いんですわ。俺もお酢好きだしたまーに炭酸で割って飲んだりヨーグルトに混ぜて食べたりしてますけどそれからはシミとも肌荒れともニキビともご縁なし。更には一度飲めば効果が消えることは無く、疲労知らずの老い知らずともきてますから世の女優さんやモデルさん方がこれを我先にって買い求める気持ちもわかりますねえ」
“………はえ???”
“何その喉から手が出る程欲しくなる効果!?”
“あ、それ知ってる!!有名女優がSNSで言ってたやつ!”
“セレブも愛用してるやつか”
“あれか!ダンジョン産とは知らなかった……”
“効果消えないマ??”
“合法でそんなもんあるのやば”
“確かにお酢ってそういう効果あるけど、コレ効果があるよー程度じゃなくてガッツリ美肌にしてくれるやつやん”
“雨月顔は隠してるけど確かにほっぺとかぷるぷるツヤツヤな美肌だなあって思ってたけど……そんな高級品を惜しげなく使っていたなんて!”
“羨ましい……!!奇跡の雫を求めて何度も宝箱を開けたってのに一回も手に入れれたこと無いんですけどぉ!?”
“私もよ!?なんで雨月はぽんぽんそんなレアもの入手して使ってるの!?”
おおっとこちらに飛び火が。
これ以上使用感話すと別の意味で炎上しそうなんで辞めておきますかねえ。
「金額としては、まぁ……お察しくださいな。小瓶サイズもあるんで、最低7桁とだけ言っておきます」
“小瓶で7桁!?”
“え、うわ、うわぁ……”
“だからうちのパーティの女性探索者死に物狂いで宝箱開けてんのか……すまん、今度から協力する”
“俺も……女性からしたら本気で欲しいだろうし、買ってあげるって気軽には言えねえ額だもんなあ”
“なんか男性探索者が反省する事態になっとる”
“速報:彼女と一緒に見てた俺氏、彼女から奇跡の雫をおねだりされるが値段を見て断念してもらう。いやほんと、これは無理……”
男の探索者からすれば高かろうとたかがお酢なんだからいらねえだろって思われがちなんだよねえ、これが。
俺は普通にお酢好きだから飲んでるけど、水琴は分けてあげたら発狂してたし雅はいまいち理解してなくて首傾げてたし、そんなもんなんだろうけど。
「興味のある方はダンジョン省のお店やダンジョン省主催のオークションとかでも取り扱ってたりするんで見てみてくださいな。そんじゃまだまだ行きますよー」
容赦なくカメラの前に次の食材を出す北斗。
次いで出されたのは籠に盛られたきのこの山だった。
ん?某お菓子と紛らわしい?大丈夫、ただきのこを沢山載せてるだけだから問題無い。
“きのこ?”
“きのこだ”
“これが高額なの?”
“なんか松茸ぽい見た目だけど”
“見た目松茸だから高いとか?”
「このきのこの名前は『美髪茸』。コメントにもある通り松茸っぽい見た目と、味とか香りも松茸に近いきのこです。ネーミングはどうかと思いますが……名は体を表す。その名の通り、食べただけでたちどころにサラツヤの枝毛とも癖っ毛ともおさらばな髪質になります。これも丸ごと1個食べれば効果は永続性があるみたいですね。んで、これまた宝箱産です。美髪茸も奇跡の雫もユニークアイテム扱いじゃ無いのバグだと思うんですけどねえ……食べられるから食材扱いは如何なものかと」
美髪。
先程の奇跡の雫と合わせて女性が望んでやまない効果を持ち合わせるきのこに、コメント欄が再び凄まじい勢いで流れ出す。
“食べただけで美髪になるってこと??”
“欲しいいいいい!!!!”
“どこで売ってるんだよ!”
“高級なお店だったら薄く切ったやつ食べれるみたいだけど、効果は永続性ないのかぁ……あれでも数万円するのに”
“薄切りが普通の松茸より高い!?”
“美髪羨ましい……欲しい……でも絶対丸々一本高いんでしょ……??”
「ご推察の通り。1本で数十万、何個か買おうとなんてしたら数百万は吹っ飛びます。あ、俺のこれは買ったんじゃ無くて宝箱から手に入れました。何故か美髪茸が山盛り入ってたんですわ」
別にドロップ率アップみたいなスキルは持ってないんだがねえ。リアルラックが高いのかなんなのか。
まあ、貰えるもんは貰っておきますよってことで即アイテムボックスにぶち込んだが。
“強い雨月は運も強いのかよおおおおお!!!!“
“山盛りって……しなびた美髪茸の残骸が出てきた俺って……あはは“
“↑気を強くもて……“
“数百万……私が石油王だったら……!!!“
“石油王志願している人おるが“
“ダンジョン産の食材をふんだんに使おうとしたら大富豪か石油王か成功している探索者くらい稼がないと無理よ……“
奇跡の雫も美髪茸も興味を引けたようで何より。
んー、他にも紹介したいものはあるけど……でも結構配信の時間使ったしなあ……。
あんまりダラダラ長く続けても視聴者も飽きるだろうし、あと1つ、許可してもらったアレだけ紹介してしまおうかね。
「じゃあ最後にこれだけ紹介して終わろうと思います」
カメラに映し出されたのは、平べったい形をした桃のようなもの。
これは桃なのか、はたまた色が似ているだけの別物なのか、区別がつかない視聴者は困惑しコメントの速度が緩くなったが、それに構わず北斗は続ける。
「これは
“え、ばんとうって、まさか“
“おいおいおい、洒落にならんぞそれは“
“そんなものまでダンジョンって手に入れれるの!?“
“え、何々??なんでみんなそんなに驚いてるの?“
“私もわからん……“
「察しの良い方々がいますね。そう、これは今普通に食べれる蟠桃とは違います。西遊記はご存知ですかね?天界で西王母が育てていた桃を盗み食いしたエピソードは有名ですよね。そう、この蟠桃は伝説上で食べると不老不死の仙人になれると言われている蟠桃なんです。これは冗談でもなく、俺のスキル、神眼でも見ていますしダンジョン省のお抱え鑑定士にも見てもらっているので間違いありません。んで、流石に個人が所有するにはやばすぎる代物なんでこのあと速攻ダンジョン省に引き渡してあっちで管理してもらう手筈になっています。あ、この配信で話す許可は貰ってますんでご安心を」
もはやコメント欄は北斗の言葉を聞いていなかった。
不老不死になる伝説の桃。
そんなものが実在すると知っては居ても立っても居られないのだろう。
まあ、これはダンジョン省から政府、ひいては天皇陛下に献上されることになるだろうからもうお目にかかることはないだろうけど。
さて、終わるとしますか。
「とまあ、いい時間になりましたしそろそろお開きとしますか。この配信が好評だったらまた似たような配信をしようと思いますんで、もしよろしければチャンネル登録とグッドボタンをお願いしますねえ。雨月紫雲でした」
配信を切り、後片付けを終えダンジョン省に蟠桃を引き渡し、のんびりとしていた北斗は知らない。
この配信がまたしても爆速的に広がり、SNSに世界各国から連絡が届きまくることを。
あとがき
もっと色々書きたかったけど食材だけで10話くらい行きそうだったから流石に自重。
いちばんインパクトある食材って何だろうって考えた結果、不老不死の伝説をもつ蟠桃に至りました。
楽しかったです。
これからも北斗くんのやらかし沢山書いていきますよー!
無自覚最強探索者がゆく、お気楽ダンジョン珍道中 ゆきおんな @setu1997yukime
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