第24話 ダンジョン美食展 希少編

「ここから紹介するのはさっきの二つとは桁違いに高値で取引されてたり滅多に入手もドロップもしないものばかりなんで、見逃し現金ってことで。まずは……これからいきましょうか」


ことり、とカメラの前に置かれたのは、小瓶に入れられた美しいたち。

首を傾げる視聴者の心の内をわかっているように北斗は解説を始めた。


「これはジュエルドロップ。名前から想像つきますかねえ、まあ簡単に言うと宝石の飴です。宝石の形をした飴ではなく、宝石そのものが飴になってるって感じですねえ。味はいちご、りんご、ぶどうといったフルーツ系で、高級な飴が一番近いかもしれませんね。つまりめっちゃ美味いです」


“やば、めっちゃ綺麗……”

“え、これ宝石なのに飴なの?ん?高級な飴によくある宝石型の飴じゃなくて……?”

“これ、何がやばいって本当に宝石なんだよ。溶けないし質感なんてまじで石。でも食べたら甘いから脳がバグるんだよなあ”

“食べたことある人いた!?!?”

“ちなみにクランマスターがドロップしたからって分けてくれただけでそれ以降本当に見たことなんてないぞ”

“ち、ちなみに気になるお値段は……?”


「んー、その時によるから絶対この金額っていうのはないけど……ここに入ってる宝石、結構大粒でしょ?ダイヤモンドしかりルビーしかり。それを踏まえて俺が知ってる最高金額は……確かアメリカの方で10億くらいだったかねえ?」


あれみた時は流石に驚いた。

確かに宝石だし効果もえげつないけどこんな金額つくんだなあって。


“やっっっっば……”

“10億っておいくら……?”

“ちょっと知らない桁数ですねえ……”

“い、いくら宝石の飴とはいえ、なんでそんなに高いん……?”


「ああ、それはですねえ、この飴効果も凄まじいんです。ルビーは火炎耐性、サファイアは水中呼吸、エメラルドは暗視、ダイヤモンドは硬化って感じでね。10億で買ったのもアメリカの大手クランだったはずですし、下層エリアの深いところ以降を攻略するならあって損のないアイテムです。で、気になると思うんでお伝えすると、このジュエルドロップを落とすのはユリシスっていう青い蝶のモンスターです。モンスターとは名ばかり、攻撃もしないでヒラヒラ下層エリア内を飛んでるだけなんで倒すのは簡単なんですが……いかんせんドロップ率が低くて。一旦沸いてるユリシスを100匹単位で倒しても落ちて1個がいいところです」


俺も何度も潜って何千匹って狩ってようやく10個くらいストックがあるくらいだから本当にドロップ率おかしいんだよこの飴。

効果が本当に強いから重宝する場面もあるけど、ひたすら蝶を狩まくるのはちょっと辛いものがあるからどうにかならんものかねえ。


“バカみたいな効果ついとる”

“チートアイテムか、そうなのか”

“紛うことなきチートアイテム”

“ひえ……金額に納得してしまった自分が怖い……”

“なんでこれはユニークアイテムじゃないん……?”


「それについては俺もよくわかりません。飴だからなんですかねえ?っと、このままだとジュエルドロップオンリーで終わりそうなんで次に行かせていただきますね。お次はこれです」


またもやカメラの前に置かれたアイテム。

今度のアイテムはジュエルドロップとは違い見た目の華美さはなく、小さな箱に4粒の白く丸い何かが収められていた。


「これはスノウショコラ。まーた甘いものって思われるかもしれませんが、これもとんでも効果付きのトリュフチョコですねえ。ドロップするのは雪蜜草っていう植物型のモンスターです。さっきのユリシスが人畜無害なモンスターって言ったからこれもじゃないかって思われるかもしれませんが残念、こいつは食虫……いや、食植物です、がっつり襲ってきますんでご注意を」


“食人植物って……”

“植物までモンスターなの本当やべえよなダンジョン”

“そんなモンスターからドロップしたアイテムってだけで怖さあるけど……どんな効果あるの?”

“気になるー”

“あのモンスターやばいのにしれっと倒してる雨月が怖いよ……”

“溶解液吐いてくるもんな、あいつ……”

“なんかサラッと怖いこと書いてる人いるって”

“溶解液吐いてくる植物……?”


雪蜜草はなあ……ダンジョンの床すら溶かすから一撃必殺が絶対なんだよな。

俺も初見の時は太刀を溶かされて焦ったし。


「焦らすのもよくないんでこのスノウショコラの効果もお伝えしましょう。このチョコの効果は結界。一粒でワイバーンの攻撃を数撃程度なら持ち堪えることが出来るチート効果ですねえ。しかも一度食べておけばダンジョンを出るまでは効果が継続されるので、よほどの強敵にあたって結界を壊されなければ怖いものなしです」


“おうふ”

“チートに次ぐチート食材きちゃ”

“ワイバーンがどれだけ強いかいまいち想像できないけどダンジョン出るまで有効なの強すぎる”

“つまり弱いモンスターの攻撃なら全部無効化できるってこと??”

“チョコなのに付属効果やばすぎい”


俺も最初手に入れた時はそう思った、本当に。

ダンジョン産の食べ物ってどうしてこうも全部にとんでも効果がついているのかねえ……?


「まあ俺もこのチョコに助けられたこともありますし、効果については感謝ですねえ。モンスターの大群との戦い、愚か者探索者達からの奇襲とか……あはは」


“絶対不穏なルビあったでしょ今”

“愚か者って……うん、深くは聞くまい”

“あー……あるあるというか、なんというか……”


北斗や視聴者の探索者がはっきりと断言することを避けていること。

それは、探索者の敵はモンスターや罠だけではないということだ。

探索者は適正やスキルがあれば誰でもなれるが、必ず全員稼げるようになるかと言われればそうではない。

思い描いたように稼げず、活躍できず、そうして落ちぶれていった探索者が辿り着く成れの果ては……言葉にせずともわかるだろう。

同胞を襲うようになるのだ。

北斗も成功した側として幾度となく狙われたことがある。そうした時スノウショコラに何度救われたことか。


「ま、このことは置いといて。そのくらい有能なんですよこのチョコ。ただまあ、その性能ゆえにお値段もお察しってところで。最低価格8桁です」


“知 っ て た”

“ですよねえ……”

“今度下層エリア攻略に挑むために買ってみようかなって思った俺がバカでした……そんな金額のもの買えない”

“↑どんまい……”

“素材とかドロップ品が高いことはなんとなく知ってたけど、食材類も馬鹿高いんだねえ……”

“これ、知り合いに強い探索者がいたらワンチャン一般人でも食べれるかもだけど基本的に夢のまた夢だなあ”


悲喜交々なコメント欄を見つつ、物が物だから安くなることはないからそれしか一般の人が手に入れる方法はないんだよなあ……と少し申し訳ない気持ちを覚える北斗。

とはいえそれはそれ、と気を取り直して次々に食材を紹介していく。

食べるだけで魔力の量が増えるクッキー。

口に含むことでその色の属性の魔法が一時的に行使できる琥珀糖。

果たして食材に含んで良いのかすらわからないが、名前が名前のため含まれているモンスターに投げつけると爆発を起こしダメージを与えることが出来るグミ。

菓子類が多くないか?と思われるだろうが、普通の食材に酷似しており値段も比較的安価な食材は翡翠蜜や稲妻チーズ系に多いため致し方ない。

普通グミが爆発することなんてないからねえ……神の眼で鑑定せずに試しで食べていたらと思うと流石にゾッとしたししばらくアイテムボックスから取り出そうとすらしなかったもんなあ。

今じゃ普通に陽動に使ったりしているから慣れって恐ろしいもんだよねえ。

しみじみとそんなことを考えつつ、さて今度はどれを紹介しようかとアイテムに視線を向けようとしたが、とあるコメントが目に留まり笑みを浮かべた。

なるほど、確かに気になる人も多そうだ。


「それじゃ、いい機会だからこの質問にも答えつつご紹介しましょうか」


──今まで聞いた感じダンジョン内での効果に特化している食材が多いみたいですが、稲妻チーズや翡翠蜜みたいにダンジョンの外で食べることができて面白い効果を持っている食べ物ってないんですか?














あとがき


コメント返信が出来ず……というよりもそもそも返信が出来る場所を勘違いしておりお騒がせいたしました。もしかしたら近況ノートやお知らせで見られた方もいるかもしれませんので、解決した事をお伝えしておきます。私の確認不足です、はい。


お伝えしたい事をお伝えさせていただいたところで、青い蝶のモンスター、ユリシスについてちょっと解説を。

モデルは和名をオオルリアゲハという蝶です。ユリシスとも呼ぶみたいですね。

写真なら見た事があるかもしれませんね、綺麗な青色に羽先が黒い蝶です。みた事ない方で虫が大丈夫だよという方はオオルリアゲハで調べてみて下さい、綺麗な蝶が出てきます。無理な方は無理をせずに。

生息地はインドネシア東部やオーストラリア北部、パプアニューギニアなどで広く分布してる蝶みたいです。私も調べてみて初めて知りました。

なんでもこの蝶の美しい青色を見ることが出来たら幸せになれるというジンクスから『幸せの青い蝶』とも呼ばれているとか。


日本で生息してないのにダンジョン内に登場させたのは名前やジンクスがいいなぁと思っただけで決してオオルリアゲハアンチという訳ではありません。北斗くんが大量に倒しているのにそういう意図は全くございません!!!

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