ストーカーとヤンデレを弱火でじっくり煮込んだとろ甘スープ
あ、まん。
ストーカー男とヤミが限界突破した女
日曜日の昼前。
高校2年生の
同じ高校で同じクラス。
高校の入学式に一目惚れしてしまった。
だが、この1年とちょっとの間、彼女とは一度も話したことがない。
詩陽には友だちと呼ぶべきものは存在しない。
休み時間中はスマホをいじっても大丈夫なユルユルな校風に助けられ、スマホのゲームに没頭することで、なんとか自我を保っていた。
半年前、たまたま彼女が近所のマンションに住んでいることが判明した。
それ以来、こうやってたまに彼女の後をつけて行動を観察して満足している。
しかし、今日はいつもと様子が違う。
これまで見たことのないチョーカーを首に巻き、可愛いスカート姿をしている。
どこかそわそわしている感じ。
イヤな予感がするが、詩陽は控えめに言ってストーカー。犯罪者がどうこう言える立場ではない。
「ゴメンね。待った?」
「かなり待った」
「お昼で手を打って、ね?」
「──うーん、じゃあ、それで許す」
「やった! 希衣のそういうトコ好き」
「なっ/// ちょっとよくそんな恥ずかしいことを平気で言えるね?」
「だって本当だもん。可愛いのに可愛いって言って何がダメなの?」
「もう……」
ウチの高校のサッカー部2年。
隣のクラスで、同じクラスにはなったことはない。
だが、その外見や話し方でモテるのが分かる。
非モテ男が言ったら、クラスの女子に強制排除されそうなアホっぽいセリフでも、一軍男子が言えば、普通に口説き文句になる。
付き合ってるのか?
これはデートなのか?
ふたりは
これまで桃田希衣のまわりに友達としての男子はいたものの、交際をしていそうなヤツはいなかった。
しかし、この男は明らかに違う。
詩陽が何年かけても踏み入れられない彼女の神聖な領域にズカズカと入っていってしまう。
「ここのタピオカってウィンスタ映えするんだって」
「ホント? じゃあ、並ぼ」
目抜き通りの一番目立つ角に先月できたばかりの海外からやってきたタピオカ店。学割を使って、買ったのはストローが1本しかない、飲み物はひとつ……。
桃田希衣が先に飲んだのを、サッカー部の男が当たり前のようにストローに口をつける。
──こりゃダメだ。
間接キスとかお構いなしにストローに口をつけた男子を見て、2人の現在の距離感がわかってしまった。
こんなにも好きなのに相手に伝えることもなく、目の前で突然現れた男に横取りされた。
通りの歩道に植えられている街路樹の裏で、急に木の幹に自分の頭を打ち付けたくなる衝動に駆られた。
ゴッゴッゴッゴッ。
そうそうこんな感じに派手にこう思い切り頭を──んっ?
1本隣の街路樹に一心不乱に自分の頭を打ち付けている女子を発見した……。
じーーーーっ!
あっ、まずいっ!
目が合ってしまった。
背中まで届く長い黒髪。
つい先ほどまで頭を打ち付けていたせいで、髪がメチャクチャに乱れて、顔が髪にほとんど隠れて片目しか見えていない。おでこを激しく打ち付けせいで、ツーっと頬に赤く滴り落ちているのはおそらく血。──って、こわっ! 本格的にこわっ!
もう手後れかもしれないが、気づかなかったことにして、前の方でアオハルしている二人に視線を戻す。
じーーーーっ!
いや、近近近近近近近近っ!
詩陽が隠れていた街路樹までやってきて、こちらに鏡写しのように街路樹から顔を覗かせているが、詩陽との互いの距離はクリームパン一個分くらいしかない……。
凄い目してる。
人間の目って、こんなに大きく見開いて、充血できるもんなんだ。
もう、目の前の存在が貞●にしか見えない。
突然ですが、母さんゴメンナサイ。
今朝、昼食の唐揚げを隙を見て、自分の弁当に一個足したの謝ります。
父さんの昼食が一個少なくなるの知ってました。
ほんの出来心なんです。
勘弁してください!
今日の過ちを懺悔したので許してください。
今、置かれている状況に心がポッキリと折れてしまいそうです!
後悔に後悔を重ねて、東京タワーまでその高さが達しようとした時、ぐるん、と凄い勢いで後ろを振り向いた貞●は、ふたたび、こちらに向き直り、ニタリと笑った。
くいくいっ!
ついてこいって言ってる?
手の甲を向けたピースマークの人差し指と中指を何度か畳んで詩陽に合図を送ってきた。
気づいたら、桃田希衣とサッカー部エースがタピオカ店を離れて通りの向こうへ歩き出している。
どうやら貞●もあの二人の後を尾けているようだ。
歩道にある街路樹や看板などを駆使して、高速移動しているが、周囲の人たちからヤバい人間認定されていて、皆、道を譲っていて、もはや尾行と呼べる代物ではない。二人が後ろを一度でも振り向いたら即アウトである。
その後、桃田希衣とサッカー部エースはレストランでお昼を食べて映画館に入った。もちろん、詩陽と貞●もずっと二人の後を追って、レストランや映画館の中で監視していた。なぜ、こんな状況にいるのか謎だが、貞●とはひと言も口を利かず行動を共にした。映画館を出た二人は夕方、海の見える公園で夕陽をバックに互いの顔が重なったのを見た。
「仕方ないよ、アンタにもきっといい人が見つかるさ」
なぐさめの言葉なんて、大して意味が無いのは知っている。
だが、貞●をなぐさめると同時に、詩陽は自分に無理やり言い聞かせていた。
──それから、1週間が経った。
「あっ……」
詩陽の所属するクラスに、隣のクラスから女子がクラス替えでやってきた。
見間違えるはずもなく、1週間前に一緒に尾行を共にした貞●だった。
「こちら
え、なにその紹介?
先生、病んでる?
そういえば昨日あたりから顔色が悪いような気が……。
「じゃあ、大山の席から前に一個ずつズレて。幽谷さんが詩陽の隣に座るのは、1万年と2000年前から決まっているから」
なにそれ、怖い怖い。
ちょっ! 先生、何言ってくれてんの?
貞●に洗脳でも掛けられた?
詩陽の隣に座った貞●は、1日中ずっとこちらを凝視していたが、学科ごとに教師たちは全員見て見ぬフリしてきた。
──もしかして憑りつかれた?
ストーカーとヤンデレを弱火でじっくり煮込んだとろ甘スープ あ、まん。 @47aman
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