五  ウルシュラ──Ⅱ

 モンセギュールにおけるユゼフの消息を知る手がかりは残されていない、と先に記したが、実は出征後に一度だけ、モンス・ラヌンクリに戻ったのではないかと思われる節がある。記録も目撃者もないが、そうとしか考えられない一つの徴があるのだ。それについては後ほど触れよう。


 ユゼフが出征してのちしばらく、マリアは兄弟セバスティアンに宛てて、攻囲戦の戦況はどうなっているか、ユゼフからの音信はないか、頻繁に姉妹コンスタンスに言付けた。しかし帰ってくる返事はいつも同じであった。

《ご主人は立派に主の御心に沿うてお勤めなさっておいでです。共に祈りましょう》

見当違いだと知りつつも、兄弟に対して憎しみにも似た腹立ちを覚えながら、なお半年ほど同じやり取りを繰り返して年が明け、それきりマリアはふっつりと言付けをしなくなった。

 三月某日、厨房で食事の支度を手伝っていた最中、マリアは漂い始めた芳しいスープの香りに突然口元を抑えて表へ飛び出した。姉妹ジョゼフィーヌは驚いて鍋を火から外すと後を追った。

「どうしたんだい、マリア。気分が悪いのかい?」

 勝手口を出た隅でうずくまりえずくマリアの背を、姉妹は傍に膝をついてさすりながらしきりに訊ねるが、マリアは苦しげにかぶりを振るばかりで答えない。刹那、姉妹の脳裏に実家にいた頃の記憶が蘇る。ジョゼフィーヌを筆頭にすでに四人の子どもを抱えた家族が、新たに五人目を授かったと知った頃、母が鶏を煮ながらしばしば悪阻を訴えてジョゼフィーヌが火の番を任されたことがあった。

「あんた、まさか……」

姉妹は問いかけて口をつぐむ。──いや、そんなはずはない。いくら里の人だって、ここは修道院だ。それにマリアの亭主だという殿方は、去年の春頃から隣の山の異端討伐に出て留守だって言うじゃないか。

 それでも姉妹はこの手伝いの婦人を親身に介抱しながら、一旦浮かんだ可能性を消し去ることができない。


「わざわざ来ていただいて、ごめんなさいね。お加減はどう?」

 院長室の扉を叩いたマリアを、姉妹クレマンスは丁重に迎え入れ椅子を勧めた。厨房の姉妹ジョゼフィーヌから報告を受けた時は彼女の懸念を一笑に付したものの、院長は事実を己の目で確かめようとこの敬虔な婦人を自室に呼んだのである。

 心なしか、昨夏にマグダラのマリアに扮してもらった時より、痩せて顔色もすぐれぬように見える。心痛の種は良人ユゼフ殿のことであろう。参加された攻囲戦は異端の砦が陥落するという形で決着がついたと聞いたが、良人が戻ったという報は未だ耳にしていない。

「ご主人、心配ね……でも必ず、主がお守りくださっているわ。信じて待ちましょう」

姉妹の慰めにも何処か上の空の返事をするマリアの虚ろな瞳に、姉妹はその胸の内が垣間見えまいかと眼差しを凝らす。

「夜はちゃんと眠れているのかしら? お加減が優れなければしばらくお仕事をお休みしてもいいのよ」

「ありがとうございます」マリアは低く、しかし存外にしっかりとした声で応える。「少し……お話ししてもよいでしょうか」

「ええ、構わないわ。何でも話して」

姉妹が内心ほっとしながら促すと、マリアはしばし視線を彷徨わせた後、静かに切り出した。

「最近、自分がよく判らないのです」

「判らない、って?」

「起きているのか、眠っているのか。生きているのか、もうこの世のものではないのか。判らなくなって……ユゼフは」

マリアは言葉を切ると、意を決するようにこくりと喉を鳴らす。

「……良人はもういないのに。なのにまだ隣にいる気がする。ありありとそう感じるんです」

「ご主人は生きておられます、だからそう感じるんですよ」

姉妹は急いで宥めるが、マリアはかすかに微笑み、

「いいえ、判るんです。あの人はもうこの世にはいない……ふた月ほど前、あの人は夢に現れて言ったんです。己の良心に従わなければならない、許してほしい、と。良心って何のこと、と私は訊きました。すると良人は、信じるべきを信じることだ、と。だからもう戻れない、と……」

「ねえ、マリアさん」

告白の最中、瞬くように去来した一つの気づきを確かめようと、姉妹は慎重に問う。

「変なことを訊くようでごめんなさいね。それは……本当に夢だったのかしら……?」

 マリアは見開いた目でゆっくりと顔を上げた。やがてその目から涙が溢れ出す。

「判りません……判らないんです……」

 姉妹は立ち上がって歩み寄り、堰を切ったように涙を流すマリアを抱擁する。──お泣きなさい、涙は時に百薬にも勝る心の慰めとなるのですから。

 真偽なら、後から追って見極めれば良いのです。


 とは言え──姉妹はマリアを帰すと自席に戻って思案する。マリアが本当に身籠っているとするなら本院に報告し、いずれは教区監督の耳にも届くだろう。事が事だけに、最悪の場合この女子修道院、ひいてはクリュニー会モンス・ラヌンクリ修道院自体が解散の危機に瀕しかねない。

 姉妹の胸中にいくつもの選択肢が浮かんでは消える。

 このことを女子修道院内で秘匿し続けるか。いや、赤子が生まれればその声は遠くまで響く。いずれ秘匿したことが明るみになれば最悪の結果を招くことは必定だ。

 それならばいっその事、奇跡として告知してはどうか。母マリア、そして不在の父。そう、無原罪の御宿りとして。──そしてすぐさま思いつきを払いのけ、十字を切って赦しを乞う。何と罰当たりなことを。

 姉妹はふと顔を上げる。ラザレット、と言葉が口を衝いて出る。レプラや流行り病の者を隔離して看護するラザレットなら、いっとき子を産み育てる間だけでも彼女の存在を里や教区から秘匿しておけまいか。幸いにして、姉妹クレマンスの実妹がトロサにほど近いラザレットで看護の奉仕をしている。内々に打診するにも心安い。

 己の思いつきに顔を綻ばせた姉妹は、すぐに新たな懸念に突き当たる。ウルシュラは? その間、あの小さな娘はどうなる。一緒にラザレットに送るわけにはいくまい。あの幼子が父だけでなく母からも遠ざけられるのはあまりに不憫だ。しかし……他に方法はあるか。

 日が傾くまで思案に耽った後、姉妹クレマンスは意を決して書記室の姉妹コンスタンスを呼びに部屋を出た。


 女子修道院からの文書を受け取り、書記室に戻りながら目を走らせた兄弟セバスティアンは回廊の半ばで立ち尽くした。ヴィエルグス殿の奥方が身籠られた……? あり得ない。暦の上でもあり得るはずがない。何かの間違いではないのか。こういう時に直接言葉を交わせないのはひどくもどかしい、と兄弟は歯噛みする。こんな話をそのまま院長のもとに持っていけば、何を言われるか判ったものではない。かと言って自分のところで留めておくことも叶わぬ。一体どういうことなのですか、ヴィエルグス殿?

 自室の扉を後ろ手で閉じると、兄弟は今一度文書を精読する。文面はいつも通り姉妹コンスタンスの手になる端正な筆致で綴られ、「マリアに懐妊の兆候がある」こと、「マリアが不特定の殿方と接触した形跡はなく、従って目下女子修道院の安全と隔離にも問題はないと考えられるが、女子修道院長としての私見では、何らかの方法でユゼフ殿と会われたのではないか、と考えている」こと、「許されるならばラザレットで一時的に保護してもらえまいか打診する用意がある」こと、「その間の幼い娘の処遇が気がかりである」ことなどが綴られていた。

 兄弟は一心に考える。もし事が事実であるなら、姉妹クレマンスの腹案は最も妥当であろう。院長様には初めからこの打開案ありきでご説明申し上げよう。ただ、言及されている通りあの娘だけが不憫にすぎる。

 兄弟は家族が到着した日に手ずから清めた小さくいとけない足を思い出し、知らず両手を組んで懇願する。──ああ主よ、どうか、これ以上の試練をあの子にお与えくださいますな。どうか、どうかお慈悲を賜りますよう──


 ウルシュラはこのところ、なぜと知れず心が騒めくのを覚える。母が仕事から戻るのを待ち侘びてはその腰にしがみつき、柔らかな腹部に顔を埋めると騒めきは次第に鎮まるのであった。マリアは疲れを覚えながらも寝台に腰を下ろすとウルシュラを抱き寄せ、しばらくはしたいようにさせるのが常であった。何となれば、マリアもこのひとときに深く癒されていたのだ。

「まるでもう一度赤ちゃんに戻ったみたいね、〝小鳥さん〟?」

 その日もマリアは小さな頭を撫でながら、少しからかうように訊ねる。

「赤ちゃんじゃないわ」ウルシュラは顔を埋めたまま言った。「わたしはもうおねえさんよ。……ね、じょぜっぷ」

マリアの手が止まる。今、何て?

「〝小鳥さん〟、ジョゼップって……」

「じょぜっぷは、じょぜっぷよ」

ウルシュラは顔を上げてマリアを見上げながら、小さな手をそっとマリアの腹部に置く。

 こちらを真っ直ぐ見上げる娘の眼差しをしばらく見返し、やがてマリアは両手で口元を覆う。


 女子修道院で起きた不始末の報告を兄弟セバスティアンから受け取った院長は、押し黙って兄弟を睨み上げる。

 ああ、そうだろう──兄弟は胸中で深く肯んずる。責めはもとより全て私が負う約束だ。如何ようにもお咎めくださればよい。ここを去る覚悟も済ませてある。

 長い沈黙を破って院長が言う。

「しかるべき手筈を整えるよう、姉妹クレマンスに伝えなさい」

兄弟は院長の鋭い視線に深く頭を下げる。その顔が上がるのを待って、院長は低く付け加える。

「言い残すことがあれば、今のうちに申しておけ」

兄弟はしばし黙考し、再度深々と辞儀をして応える。

「万端、弁えております。長い間、ありがとうございました」

 部屋を辞する兄弟の背中に向かって、院長が苦渋を滲ませた声をかける。

「少し……増長したな? セバスティアンよ」

兄弟は振り返り、追うような院長の目を捉えて返す。

「尊者ピエール様なら、こうなさったかと」

 閉じた扉の向こうから漏れ聞こえる院長の含み笑いに一礼すると、兄弟は澄んだ陽の差す回廊に目を向ける。さあ、これからどうしたものか──。自ら招じ入れた母子のその後を見届けられないという心残りは拭えない。それでも存外に晴れやかな心持ちで、セバスティアンは静かに背筋を伸ばした。


 本院からの返答を受け取った女子修道院は、一人の客人をラザレットに送るべく慌ただしく、しかしあくまで秘めやかに動き出した。姉妹ジョゼフィーヌをはじめ、マリアと接する機会を持つ姉妹たちには厳に箝口令が布かれた。

 姉妹クレマンスは妹ブランシュに宛て、姉妹コンスタンスの手を借りて手紙をしたためる。トロサの南、モンス・ラヌンクリからはアリエーガ川水系に沿って北へ馬車で二、三日山を降ったアウトリウァのラザレットで、ブランシュは病の人々に寄り添い奉仕の日々を送っている。姉妹クレマンスの誇りであり、密かな自慢の種でもあった。


《神の愛に結ばれし、愛しき妹ブランシュへ

 ラヌンクリの静域に住まう、いたらぬ姉、主の御前にあって貴女のために祈る者クレマンスより、我らの主キリスト・イエスの平安と慰めとが、いついかなるときにも貴女の上に豊かに注がれますよう、心より祈りつつ、文をしたためます。

 わたくしは、主の家に住まいて貴女を思わぬ日はございません。かのラザロの家に仕え、傷ついた兄弟たちに黙して寄り添い、その痛みと孤独に心を傾け続ける貴女の働きの全てを、尊び、敬い、感謝をもって見守っております。

 主のために捧げられたその手、その心を、わたくしの俗なる願いのために煩わせることを、心苦しく、また恥ずかしく思います。されど、信仰と慈しみのうちに、ある一人の魂のため、どうか貴女のお慈悲をお借りしたく、便りを送る決心をいたしました。

 ああ、神の業のなんと不可思議にして憐み深きことでありましょう。

 あるひとりの婦人が、数奇なる運命と不遇のなかにあって身籠りました。この命は、主の御旨のうちに生まれ出しものでありましょう。わたくしは、彼女が安らかに子を産み、その命が幼き数年を経て地にしっかりと根を張るまで、どうか貴女の眼差しと手の温もりのうちに見守っていただけないかと願っております。このささやかな願いを、貴女の聖なる働きの一葉に加えていただけたら、どれほどの喜びでしょうか。

 もし、貴女の務めに差し支えることがあれば、遠慮なくその旨をお知らせください。無理をお願いするつもりはございません。ただ、主がもしお望みであれば、この一つの命のために、主ご自身が道を開かれることでしょう。

 わたくしは、貴女のことを、山の静けさのうちに、昼も夜も思い出し、主にあって祈っております。その手を労わり、心を守り、病む者の上に平安がありますように。

 貴女の姉、クレマンスより》


 一週間と間をおかずに届いた返信に、姉妹クレマンスは顔を綻ばせる。妹ブランシュは姉の申し入れに全面的な協力の意を示し、また施設からも許可を得たという。加えて、施設に迎える婦人と会って話をしたいから、近々モンス・ラヌンクリを訪いたい、とまで書き添えられていたのであった。

 五月に入ったある日、女子修道院の門前に一台の馬車が付けられる。降り立ったのは、姉妹クレマンスによく似た、けれどその眼差しに聖門の姉妹には見られない強い光を宿した婦人である。歳の頃は三十を過ぎたあたりだろうか。荷を肩に下げると修道院の堂を見上げ、大きく深呼吸する。

「久しぶりね、クレム姉さん。ああ、会いたかった」

 姉妹クレマンスが足早に客間に入ると、婦人は弾けるように立ち上がって抱擁を求めた。

「ああ、ブランシュット、本当に来てくれたのね、嬉しいわ」

 ひとしきり接吻を交わし互いの消息を確かめ合うと、ブランシュは目を輝かせて切り出した。

「手紙は読んだわ、何度もね。姉さんが私のいる施設をこんな形で思い出してくれて本当に嬉しい。だってそうでしょう、ラザレットに赤ん坊! そんな話聞いたこともないわ。みんな驚いてるけれど、でも姉さんの依頼をとっても喜んでいるのよ」

そして押され気味の姉を気にせずさっさと椅子に腰掛けると、真顔で姉を見上げる。

「……でもその分、片付けておかなければならないことも多いわね」


 ブランシュはまず姉に、そもそもの発端から詳しい説明を求めた。今回保護の必要な婦人の出自や人となり、幼い娘がいること、良人がいるが目下行方知れずであること、集落で産ませるわけにはいかない理由、本院の書記修道士がこの不祥事の責を問われ修道院を去ったことなど、判断に必要と思われることは細大漏らさず聞き取っていく。

 それが済むと、次に当のマリアとウルシュラとの面談を望んだ。まずマリア一人を呼び、姉のクレマンスから出産と向こう数年の育児期間をラザレットで過ごしてもらう用意があることを告げてもらう間、自身は奥に控えた。

 ブランシュは、世俗の人々がラザレットにいかな恐怖を抱いているかを熟知していた。マリアがこの提案に強い拒否感を示すであろうことを容易に予測していたのだ。

 案の定、マリアは姉妹クレマンスの提案に顔をこわばらせ絶句した。それを扉の影から見定めて、ブランシュは手にした鈴を二、三度鳴らしてから姿を表す。

「初めまして、マリアさん。姉妹クレマンスの妹、ブランシュです」

 まずブランシュは、鳴らした鈴──地域によっては角笛や拍子木──について、レプラ患者が外出の際に携行を義務付けられたものであり、患者は外界ではそれをもって自らの存在を知らしめるべしと定められていることを説明する。

「健常者と患者との接触は、常に互いの注意で避けられているんです。でも一番に知っていただきたいのは、レプラには簡単には感染しない、ということ。私はもう四年、施設で看護奉仕をしていますけれど感染はしていません。他の奉仕姉妹たちも同様です。正しい知識を持つことで感染は防げます。無論マリアさんには、施設の患者さん方とは極力接する機会のないお部屋を用意します。食事だけは大部屋で皆さんと摂っていただく事になりますが」

 マリアはブランシュの勢いに押されながら、それでも身のうちに漲っていた恐怖が少しずつ薄れていくのを感じる。

「お心遣いには感謝いたします、ブランシュさん。私……その、レプラの方にはまだお目にかかったことがないのですけれど……驚いてしまったら申し訳ないし……それに、娘もご迷惑ではないかしら……」

ブランシュは傍の姉妹クレマンスと目を見交わし、微笑んで言う。

「患者さんの症状はそれぞれですから、重い方とお会いしたら少し驚かれるかも知れません。けれど、それもじきに慣れます。いずれも主がお与えになった姿ですから。それより……」

そこまで言うと、真剣な面持ちで居住いを正す。

「マリアさん。ラザレットは看護施設です。残念ながら、娘さんとご一緒はできないのです」

マリアは言葉を失ってブランシュを見つめる。傍の姉妹クレマンスに問いただすように視線を移し、再びブランシュを見つめ、やがてゆっくりとかぶりを振る。

「それは……できません、娘を一人にしていくだなんて。娘はまだ六つです。父親がいなくなって日も浅いのに、この上母の私までいなくなったら、あの子はどうすればいいのですか」

「お気持ちは解るわ、マリアさん」姉妹クレマンスが割って入る。「修道院としても、これは苦渋の判断なの。修道院内で子を成したことが教区に知れたら、私たちはあなた方母娘も、私たち自身のことも守りきれなくなってしまう」

「それならば、私たちはどこか遠くへ行きましょう。皆様にご迷惑のかからないところまで」

そう言って腰を浮かせるマリアを、ブランシュは鷹揚に宥めて座らせる。

「ねえ、マリアさん。こう考えてみてください。……母と幼い娘、それに赤子が生まれればなおのこと、自力で生きていくのはたやすいことではありません。幸い、この修道院には姉をはじめ、すでにお二人をよく知っている方々がいますし、お嬢さんにもお友達がたくさんいると聞いています。お嬢さんは住み込みの子たちと一緒に暮らす事になるでしょう。お母様がいない寂しさも、きっとお友達との時間が紛れさせてくれるのではないかしら。マリアさんは無事にお子さんを産んで、その子の命が健やかに定まるまでラザレットで暮らす。そうしたら、またここへ戻るのです。その後ご家族でどう暮らされるかは、その時にゆっくり考えれば良い……どうでしょうか」

 あまりに重い決断を迫られてマリアは押し黙る。ブランシュと姉妹クレマンスは長い沈黙に黙して従う。

 やがてマリアは顔を上げると押し出すように言う。

「少し……お時間をいただけませんか。娘と、話をしてみます」

「構いません」ブランシュは再び姉と視線を交わして了解し合うと、マリアに頷く。「私はもう数日ここに滞在します。お気持ちが定まったら、聞かせてくださいね」


「……わかった」

 その夜、マリアが散々迷った末に昼間の提案を噛んで含めるように話して聞かせると、ウルシュラは何の迷いもなく頷いたのであった。

 マリアは驚いて、本当にわかったの?、と問い糺す。

「しばらく母様と離れるのよ、赤ちゃんと一緒に戻るまで一年になるか、二年になるか……それまで我慢できる? 無理しなくていいのよ、母様、他の方法を考えるから」

「だいじょうぶ」

雑多に広げたパリンプセスト──屋敷から持参し、描いては削りを繰り返した羊皮紙──に取り留めもなく落描きをしながら、ウルシュラはこくりと頷く。執事フベルトに作ってもらった木炭は小指ほどに短くなり、ウルシュラの小さな手にすっぽり収まっている。

「……そう……」

マリアは当てが外れたような心持ちで娘を見る。

 考えてみれば、ここに辿り着いてもうすぐ三年になるのだ。幸いにもウルカには友達もできて、もう甘えるばかりの幼子ではないのかも知れない。そう考えてマリアは不意に胸が詰まる。

 そうか、離れられないのはウルカではない。堪らなく寂しいのは、私の方なのだ。

「ウルカ、そばに来て。母様をぎゅっとしてちょうだい」

娘は振り返り、歩み寄ると精一杯に腕を伸ばして母を抱きしめる。

「だいじょうぶ。だいじょうぶよ。わたし、お姉さんになるから。だから心ぱいしないで」

娘はあやすようにそう言いながら、母の肩を優しく撫でる。

「そうね、〝小鳥さん〟ももう、お姉さんだものね──」

そう頷きながら、マリアは娘の腕に隠れて熱く溢れるものに抗い歯を食いしばる。──この子に甘えてはいけない、私は私のなすべきことをするのだ。


 翌日、マリアはブランシュに面会を乞い、単身でラザレットに赴く意向を伝えた。その決断に深く敬意を表したブランシュは、準備の一切を自ら引き受けると請け合った。

 そしてブランシュは、今度はウルシュラを招く。授業の終わりに姉妹コンスタンスに連れられて客間に現れた子どもを、ブランシュは一人の意思ある者として丁重に迎えた。この奉仕姉妹にとっては、この子どももまた尊い決断をした勇気ある者であったのだ。

「初めまして、ウルシュラ。私はブランシュ。あなたのこと、ウルサと呼んでも構わない?」

ウルシュラはブランシュと向かい合って腰掛けると、少し警戒する眼差しで頷く。

「ありがとう、ウルサ。私のことも、ブランシュットって呼んでくれると嬉しいわ。……さて、お母様がラザレットに行かれること、認めてくれてありがとう。あなたはとても聡い子だって伺っていたけれど、本当にそうだわ。あなたの勇気を、心から尊敬します」

返す言葉の浮かばぬまま、ウルシュラは頬を赤らめて目を逸らす。ブランシュは続ける。

「それで、ねえ、ウルサ。訊いてもいいかしら。なぜあなたは、お母様の留守を一人で待つと決めたの?」

「だって」ウルシュラはきっと睨むようにブランシュを見据える。「母さまはじょぜっぷをうむんだもの」

「ジョゼップ?」ブランシュは訊き返す。「男の子なのね? 女の子かも知れないけれど……」

「男の子よ!」

拳を握りしめてそう叫んだウルシュラの目に涙が光る。それを見て、ブランシュはそれ以上問うことをやめる。──この子は何か、確信を持っているのだ。

「わかったわ、ジョゼップよね。それがあなたの弟なのね。……お母様がジョゼップを産むことが何より大事だから、だからあなたは承諾したのね」

ウルシュラは再び黙って頷く。そして拳の甲で乱暴に涙を拭う。

「わたしはお姉さんなんだから、ここでまつの。わたしがわがまま言ったら、母さまがあん心してじょぜっぷをうめないでしょ」

「そうね……あなたの言う通りだわ」

ブランシュは心底から得心する。この子は噂通りに聡い子だ、何も心配は要らない。

「お話はこれで終わりよ。来てくれてありがとう、あなたとお話できてよかった」

 ……たとえこの時、ブランシュが何かを見落としていたのだとしても、それを責めることは誰にもできなかったであろう。ウルシュラは幼いその身に抱え切れぬものを、実に巧みに隠していたのであったから。


 ブランシュはマリアに、大事をとって九月中にはアウトリウァのラザレットに移ったほうが良いと勧めた。しかしマリアはそれをひと月遅らせ、出立は十月末として譲らなかった。八月も過ぎると腹は目立って丸みを帯び、いよいよ腰痛や息切れに苛まれた。それでも時にウルシュラに腰をさすってもらったり横になったりしながら、気分の良い日は洗濯や炊事に体を動かして過ごした。

 そして十月二十一日、ウルシュラは七歳の誕生日を迎えた。マリアは悪心を鎮めて厨房に立つと、姉妹ジョゼフィーヌの手を借りて子どもたちにポロニアの菓子、ピェルニキを焼く。夕食に添えられた生姜と蜂蜜の香る焼き菓子に歓声を上げる子どもたちと、彼女らに囲まれて笑顔のウルシュラを見届け、マリアはこれで心置きなく出立できると思い定めた。

 ウルシュラが眠った後でマリアは一人荷造りをしながら、娘がこれまで描いてきた絵を改めて見返す。何枚か、離れて過ごす娘を思うよすがに持参しようと思ったのだ。紙面には幼子の眼差しを通した屋敷の庭や旅の道中の景色が生き生きと留められ、マリアはその一枚一枚に懐かしく見入った。そして、ふと一枚の絵に手が止まる。

 画面の上半分に散る無数の十字の星、左下に首を反らせた狼、その右隣に従うようにユゼフ、マリア、ウルシュラの三人──ユゼフがタルタリとの戦に出る前、ウルシュラが午睡の夢を描いた絵だ。ウルシュラはあの日、これと同じものを何枚も描いていた。その時は大して気にも留めなかったが、今マリアはこの絵から目が離せない。何となれば三年前の、この地に至る道中のある出来事がこの絵によって鮮明に思い出されたからだ。

 あれは黒い森に分け入った最初の夜──二股に分かれた道でユゼフが狼の足跡を見つけた時、ウルシュラはなぜか狼が去った方へ行きたいと言い張った。もしかしてあの時、この子にはこの夢のことが頭にあったのだろうか。

 荒唐無稽な連想だと思いながら、マリアは想像せずにはいられない。もしあの時、ウルシュラの言う通りに進んでいたら、今とは違うその後が待っていたのだろうか。ユゼフが去ることなく、三人で再び屋敷に帰ることのできた未来が──。

 静かにかぶりを振ると、マリアはその絵を他の数葉とともに荷に潜ませた。

 翌朝、女子修道院の前に再び馬車がつけられたが、今回は一人の馬上の騎士が随行していた。白いマントの背とサーコートの胸にそれぞれ大きく緑のマルタ十字を縫い取った若い騎士が颯爽と降り立つと、マリアを見送りに集まっていたウルシュラの学友たちは小さく歓声を洩らす。馬車を降りたブランシュは、門前で待っていたマリアやウルシュラ、そして姉妹クレマンスとしっかり抱擁を交わし、マリアの荷を馬車に積み込む。

 マリアは身を屈めると傍の娘の目をまっすぐに捉えて言う。

「それじゃあ、母様、行ってくるわね。待っててね、できるだけ早く帰るから」

ウルシュラは唇を引き結んだまま頷き、母の腰に腕を回して大きく迫り出した腹に耳を当てる。

「早く会おうね、ジョゼップ」

 ブランシュに手を引かれ馬車に乗り込んだマリアは、再びウルシュラを見つめる。その顔は一瞬歪み、しかしすぐに娘に倣って口を引き締め笑顔を取り戻す。そして見送りの姉妹たちや子どもらに深々と頭を下げると、騎士は再び馬にまたがり馭者に合図を出す。馬車は身重のマリアを気遣って慎重に進み始める。

 身を乗り出して手を振っていた母の姿が坂の向こうに消えても、ウルシュラは微動だにせず佇んだ。

「……よく頑張ったわね、ウルシュラ」

姉妹クレマンスは傍に膝を折ると、その肩を抱いて静かに労う。ウルシュラはこくりと頷く。

「お姉さん、だから」

そしてもう一度だけ麓を一瞥すると、修道院へ戻る学友らの後を追った。


 奉献児童らが暮らす部屋に移ったウルシュラは、これまで学友であった三人の少女、すなわち十一歳のマルグリット、九歳のアデル、八歳のベルトと寝起きまでをともにする姉妹となった。

「あなたの寝台はここよ、ウルサ」

 部屋を移った最初の日、姉妹クレマンスの指示で部屋まで運ばされたウルシュラの荷物を、マルグリットは入り口脇の寝台に無造作に放って示す。

「私はあなたのママじゃないから、一から十まで面倒は見ないわよ。それでなくたってベタの面倒で手一杯なんだから」

そう言ってちらりとベルトを見やる。ベルトは新入りに興奮して自分の寝台の上で飛び跳ねながら、マルグリットにしかめ面を返す。

「大じょうぶ。じぶんのことはじぶんでやる。ありがとう、マルガレタ」

「ウルサ、しっかりしてるね。わたしたちよりお姉さんみたい」

アデルが寄り添うように言う。

「アデタ、あなたもしっかりしなさいね。年下にまで甘えるんじゃないわよ?」

マルグリットから檄が飛び、アデルは首をすくめてウルシュラに微笑みかける。

 こうしてウルシュラの新生活は賑やかに始まった。母と離れた小さき姉妹にとって、それは主の与えたもうた何よりの慰めであったに違いない。

 十一月の待降節の頃、アウトリウァから、マリアが無事男の子を出産したとの報が届いた。生日の三十日は聖アンデレ使徒の日であったから、司祭からはアンドリューの名を提案されたが、マリアは迷わずジョゼップと名付けた、とあった。知らせを受けたウルシュラはその場でうずくまり、そして力一杯飛び跳ね欣喜の叫びを上げた。取り巻く学友も口々に寿いだ。

 続く降誕節、そして明けての主の割礼、主の顕現、主の洗礼……さまざまな祝祭が来ては去る目まぐるしい日々は、子どもらにとって何よりの楽しみであり、ウルシュラはしばし寂しさを忘れて過ごした。彼女が時折描いて見せる皆との思い出の場面に、部屋の姉妹らはその都度目を丸くし賞賛した。部屋の壁は次第にウルシュラの絵で埋まっていった。


「姉妹コンスタンス。これがほしい、です」

 姉妹は、ウルシュラから差し出された黒い欠片を手のひらに受けるとまじまじと検分する。

「これは……炭、かしら?」

子どもは真剣な面持ちで頷く。

「これで、絵をかきたいの」

「炭なら暖房室にあると思うわ。ついていらっしゃい」

 あたたかく火の盛る暖炉の脇に積まれた炭の山から、姉妹は手頃な炭の欠片をいくつか摘み上げ、子どもに示す。

「ほら、いくらでも持って行っていいわ」

ウルシュラは手のひらに載せられた歪な塊をしばらく見つめて首を振る。

「違うの、もっと細長いのがいいです」

姉妹は炭の山をしばらく崩して漁ってみたが、子どもの気に入る形状のものは見つからない。

「そういうのは、なさそうね……」

真っ黒に煤けた手を払いながらそう返した姉妹は、子どもが思いのほか差し迫った表情をしていることに気づいた。ウルシュラは自ら炭の山を掘り、次々と床に擦り付けてみては放っていく。

「ウルシュラの使っていた炭は、細長かったのね?」

子どもは必死に炭の山を崩しながら訴える。

「フベルトが作ってくれたの、細くて、もちやすくて、ぬのをまいてくれたの。あれがないと、うまくかけない」

姉妹は小さく溜息をつくと、宥めて言う。

「あなたが描きやすいように、丁寧に作ってくれたのね。でもここにはそういうものを作る人はいないわ。ねえ、試しにここにあるものを使ってみたらどう?」

ウルシュラは手を止め、散らばった欠片をのろのろと拾い集める。姉妹は安堵し、立ち上がった子どもを促して暖房室を出た。


 雪が溶けるまでの間、姉妹クレマンスは子どもたちを温かい自室に招いて勉強を教えた。

 その朝も、姉妹は書棚から今日の授業に用いる本を選んでいた。──本当は詩篇やウェルギリウスがふさわしいのだけれど、ベルトは退屈してすぐに舟を漕ぎ始めてしまう。少し俗っぽいかも知れないけれど、たまには『ローランの歌』など読んでもいいかも知れない──姉妹は叙事詩集を引き抜いて頁をめくり微笑む。──それに、私もこういうものは好きだ。

 その時、突然部屋の扉が忙しなく叩かれ、マルグリットの声が姉妹を引き戻す。

「姉妹クレマンス、大変です……ウルサがいません!」

姉妹が扉開けると、マルグリットとアデルが転がり込んでくる。

「ウルシュラが、何ですって?」

「朝起きたら、どこにもいないんです。廊下にも、厠にも、どこにも」

息を切らせて報告するマルグリットの傍で、アデルはすでに涙に暮れ取り乱している。子どもたちだけで方々探し回った様子が見てとれた。

 姉妹は本を書棚に戻すと、子どもたちを率いて急いで部屋を出た。


 同じ頃、アリスはニオール家の屋敷の食堂で朝食を摂っていた。傍の侍女がふと窓の外に目をやって、おや、と頓狂な声をあげたので、アリスは「どうしたの?」と自らも窓辺へ歩み寄る。窓の下の通りを、見覚えのある小さな少女が必死に駆けていくのが見え、アリスは目を凝らし、慌てて部屋を飛び出した。


「……そう、ありがとう、アリス。本当に助かったわ。あなたが見つけてくれてよかった」

 姉妹クレマンスはどっと押し寄せる疲労に耐えかね、自席に腰を沈めると深く息をつく。午前中いっぱい授業を取りやめ、子どもらや手の空いている姉妹総出で探し回っていたのであった。失踪した子どもが見つかったという知らせ受けて、姉妹たちはほっと胸を撫で下ろし解散したが、聖務日課が損なわれたことに影で漏れる苦情も、姉妹の耳には切れ切れに届いた。

「ウルシュラ。どうしてこんなことを? みんな、とても心配したのよ」

 姉妹はアリスの傍で頑なに俯いたままのウルシュラに訊ねる。子どもは答えようとしない。

「ウルサ、私には話してくれたじゃない。姉妹にも話してあげて?」

アリスが水を向けると、ウルシュラはようやく顔を上げ、絞り出すように言った。

「母さまに……会いたい」

「ああ、ウルシュラ」

姉妹は席を立って子どもの前に跪くと、その小さな肩を抱き寄せる。

「そうでしょうね、会いたいわね。でもお母様は今、ジョゼップ──あなたの弟を育てるのに一所懸命頑張っていらっしゃるの。わかるでしょう? もう少し待ちましょうね。できるわね?」

ウルシュラは姉妹の腕の中で長い間黙っていたが、やがてしっかりと頷く。姉妹はほっとして、部屋に返すようアリスを促す。

 しかし、ウルシュラの脱走はその後も二度、三度と繰り返された。その度に姉妹たちは時に修道院の外にまで繰り出し、子どもの捜索に駆け回るのであった。事態は本院も知るところとなり、修道院長から姉妹クレマンス宛に、厳重に対処するように、という指示が届く。姉妹はあくまでこの不遇な子どもに寄り添いながらも、内心頭を抱えていた。


 この時期の騒動については、集落から修道院へ通いで奉仕する婦人らを通じても院外に漏れ伝わっていた。とりわけ子どもの捜索の際、院内の姉妹以上に奔走させられるのが彼女らであった以上、その憤懣も遣る方なかったであろう。

 彼女らの口伝てに、たびたび騒動を起こすのは異国より来た子どもであり、母親は数年前にマグダラのマリアを演じた名うての器量良しだが、いかな成り行きか修道院内で身籠り他所に移され、子は一人取り残されたらしいという噂が囁かれた。子に同情する声も聞かれはしたが、大半は、ようやく異端騒ぎが鎮まった矢先にこれ以上の騒動を巻き起こされることをあからさまに厭うものであった。相談は教会の司祭のもとにも持ち込まれた。

 その上で、一部の村人らによって恐るべき禁忌が犯される。ことにあたって集落の教会司祭が教唆したとされているが、関係筋の内に秘匿され公には伝わっていない。聖職者は言うに及ばず、敬虔な信徒であれば恥じて語らぬでものであろう。以下の記述は、唯一、間近に成り行きを見守っていた村人のご子息の証言に依っている。


 三月に入って山の空気が温む頃、ウルシュラは再び修道院の目を盗み母の去った道を駆け降りる。この道を辿れば母に会えるはず──その一心が、幼い姉妹に同じ試みを繰り返させた。

 大人たちも流石に慣れて、集落の奉仕姉妹らは目抜通り沿いの住人らと協力して交代で目を光らせた。そして、その朝も子どもはあえなく捕らえられた(関係者の家族への影響を鑑み、以下、仮にこの朝子どもを捕らえた男をC、彼に協力を依頼した奉仕姉妹をA、以前より教会司祭に子どもの扱いを相談していた男をBとする。後年、証言を寄せたのはCのご子息である)。

 男Cが奉仕姉妹Aに子どもを引き渡すと、Aは男Bを呼びに行った。やって来たBは得心顔でAとCに頷いて見せると、子どもに、母親に会わせよう、と請け負ったと言う。そして三人を促し、集落から外れた林を流れる小川のほとりへと連れて行く。

 Bは親切そうに子どもに言う。母親に会う前に身綺麗になる必要がある、着物を脱ぎなさい。Cがすぐさま異議を唱える。春先とはいえまだ寒い、水辺で裸になれば凍えて死んでしまう。Aが、定められた手順通りにするべきだ、と割り込み、しばらく三人は言い争う。結局AとBはCの意見を入れて、子どもに肌着までは許す。子どもは母親に会いたい一心で指示に従う。

 肌着ひとつになった子どもをBは二本の幹の間に立たせ、その周りに蝋燭を並べ始める。Cが恐ろしくなり帰ろうとすると、Aが罵って引き戻す。全ての蝋燭に火が灯されると、Bは子どもにそのまましばらく待っているように、母親はじきに来るから、と言い残し、AとCを急き立ててその場を後にする──


 ……主よ、このような不信心極まる光景を書き記す不徳を、どうかお赦しください。

 三人が行ったのは世俗に伝わる古い異教の儀式、俗に「取り替え子」と呼ばれるものであった。奉仕姉妹をはじめ、子どもの脱走に煩わされた大人たちは、子どもにはこの世ならざる悪しきものが憑いたと考えたのである。もしこの儀式が妨げに遭うことなく最後まで執り行われていたなら、しばらくのちに大人たちは引き返し、子どもを川の水に沈めて、牧神が憑き物のない健康な子どもに取り替えてくれたかどうかを確かめたであろう。


 さむい──

 子どもは肩を抱いて身を縮こめる。脱いだ着物は高い枝にかけられてしまって降ろせない。でも、母様が来るまでの辛抱だ。

 周囲で静かにゆらめく蝋燭の炎を見渡す。近寄って手をかざすと少し暖かい。川のせせらぎに耳を澄ませ、炎を見つめていると心が安らぐのを覚える。

 不意に一陣の風が吹きつける。身をすくめ、目を開けると炎は残らず払われてしまっている。寒さが再び小さな体を苛む。しゃがみ込みきつく膝を抱く。目を瞑り川の声だけに心を傾ける。

 どれだけの間そうしていただろうか。

 突然近くの茂みが音を立て、子どもは目を開ける。音のした方を見、そして釘付けになる。全身灰色の毛で覆われた仔犬のような生き物が這い出して大きく身を震わせると、目が合った。

 しばらくの間見つめ合った後、子どもはそっと手を差し伸べる。仔犬がそろそろと子どもに歩み寄ると、やがて手に暖かな毛が触れる。子どもは小さな生き物をそっと抱き寄せる。とても暖かい。腕の中で小さく脈打つ体は、確かな命の灯火を子どもに知らしめる。その温みを柔らかく抱きしめて、しばし暖をとる。

 再び茂みが鳴る。先ほどよりずっと大きな音。この子の兄弟だろうか。しかし枝を掻き分けて姿を現したのは、腕の中の仔犬をずっと大きくした、けれども犬でも狐でもない獣であった。

 いつかの父の言葉が耳元によみがえる。

──狼はとても怖いのだから、もし見かけたら父様に教えてくれるかね。

 獣はしゃがみ込んだ子どもを優に見下ろす大きさで、微かな唸り声にも聞こえる息を吐きながら、品定めをするように子どもの周りをゆっくりと歩く。子どもは抱いていた仔犬をそっと地に降ろす。お母さん、この子をつれもどしに来たのでしょ? それじゃあこの子もおおかみなの?

 子どもは引き寄せられるように獣の瞳をまっすぐに捉える。仔犬、否、仔狼は子どもの膝から離れようとしない。

 獣は今や子どもの顔に生暖かい息を吹きかけるまでに近づく。しかし子どもに恐れはない。互いの瞳の奥にあるものを探り出そうとするように見つめ合ううち、子どもは己の胸のうちに狂おしいほどの温かみを覚える。それを言い表す言葉を、子どもはやはり父の言葉に見出すのだ。

──懐かしいな、あの屋敷が。皆は元気でいるだろうか。

 なつかしい──子どもは微笑み、両腕を広げて獣を迎える。


 この林のすぐ外に、別の集落へと続く山道が通っている。今この道を、幾分気忙しい速度で登って行く一台の馬車があった。

 モンス・ラヌンクリ集落からさらに深山を分け入った先に、シトー修道会が開く女子修道院がある。馬車に揺られる姉妹ベアトリクスは、その院長である。

 容赦のない揺れに辟易としながら、姉妹は帰途の間ずっと、苛立ちを燻らせていた。


 華美と贅を募らせるクリュニー会への反発から、一〇九八年、モレーム修道院の兄弟ロベールらによってシトーと呼ばれる荒れ野に新しい修道院が設立された。労働と清貧に立ち返るという理念を掲げたシトー修道院は、やがて教皇庁の賛同を得て司教管轄からの免属特権を得る。世俗での人気も高まり、入会希望者は後を絶たない。大修道院は女子修道院の編入や合併を繰り返し、娘修道院は増えていく。

 一二二〇年、手に余る管理業務を理由に、総会は以後の女子修道院の編入を禁じる。しかし各地の修道院は路頭に迷う入会希望者を捨て置かず、その後も編入は続けられた。業を煮やした総会は編入禁止の決議を再三発布し、違反する修道院を激しく呪う。女子修道院はこれに反発して教皇インノケンティウス四世に直訴し、編入継続を支持する教皇勅書を取り付ける。総会はこれを取り下げるよう教皇庁に手をまわす。そうした鼬ごっこがこの数年、果てしなく繰り返されていたのであった。


 何という不条理だろう、と姉妹ベアトリクスは改めて歯噛みする。女子修道院の管理に手が回らぬと言うのなら、いっそ運営を全てわたくしたちに任せてくだされば良い。司牧のための司祭さえ用立ててくれたなら、あとは畑仕事だろうと大工仕事だろうと、日常の仕事は自分たちで如何ようにも賄えるのだ。女には何もできぬと頭から決めつける総会には心底腹が立つ。昨日の女子修道院長らの会議でも同様の不満が噴出した。もはやこの上は、何とか教皇様が総会の圧力に屈して翻意なさらぬよう祈ることしかできぬのか。

 思い巡らせていた姉妹はふと、片方を過ぎゆく林の中にちらりと白いものが過ったことに気づいて振り向く。

「ちょっと……停めなさい、早く!」

牧杖で小突かれた馭者が慌てて手綱を引き馬車が停まると、姉妹は飛び降り、道を戻りながら林に目を凝らす。

 枝葉を透かして朝日の射し添う林の中ほどに、子どもが座っている。真っ白な肌着をまとい、剥き出しの白い腕に差し込む光が照り映える。子どもの傍に眷属のように侍る獣の親子を見て、姉妹は息を呑む。この世ならぬその光景の美しさに、すわ天使の顕現かとしばし目を疑った。

 しかしやがて姉妹は我に返る。否、あれは天使などではない、紛う方なき人間の子どもだ。

 姉妹は手にした牧杖を体の前に押し出し、ゆっくりと彼らに近づく。獣が気づいて振り返り、敵意を滲ませた唸り声を上げる。それにつられて子どもも振り返る。

「待っていて、今助けるわ。そこを動かないで」

姉妹は大声で呼びかける。ややもすれば腰の引ける己を叱咤するように大声で叫び、二度、三度と牧杖を振ってみせる。獣はいよいよ歯を剥き出し、毛を逆立てて姉妹を睨みつける。

 馭者が異変に気づいて鞭を手に駆けつけ、繰り広げられている光景に悲鳴をあげる。

「叫びなさい、大きく!」

姉妹の叱責に馭者は盲滅法鞭を振りながら大声を上げる。獣は立ち上がり、唸り声を上げながら後ずさる。姉妹と馭者はここを先途と一層声を張り上げそれぞれ手のものを振り回す。

 ついに獣は子どものそばを離れると茂みに飛び込み姿を消した。獣の仔も弾かれたようにそれに続く。その場にへたり込む馭者を捨て置き、姉妹は子どもに駆け寄って抱き止める。

「あなた、怪我はない? 一体どうしてこんな──」

 そして改めてその場を見渡し、姉妹は凍りつく。子どもを中心に円を描いて置かれた蝋燭と、枝にかけられた着物──その光景には見覚えがあった。子どもの頃、村で一番の親友が変わり果てた姿で見つかった夕方、そばに同じものがあった。姉妹の目には今もその様が焼きついて離れないのであった。

 誰がこんなことを。激しい怒りが込み上げる刹那、腕の中で震えている子どもに気づく。姉妹は急いで立ち上がると、枝にかけられた服を苦心して下ろし子どもに着せた。

「歩ける? とにかく一度、あなたを修道院に連れて帰ります」

「しゅうどういん……」子どもが初めて声を発する。「もう、あそこでまってるのはいや」

姉妹は聞き咎める。

「あなた、修道院にいたのですか? どこの?」

子どもは曖昧に腕を伸ばして方角を示す。それだけで、姉妹にはそれがクリュニー会のことだと知れ、憂鬱になる。できればあそことはあまり関わり合いたくない。しかし──目の前に残された忌まわしい痕跡とこの子どもを捨て置くことはできない、と意を決する。

「わたくしはあなたがいたのとは別の修道院へ帰るところなの。あなたにはいろいろ訊かなければならないことがあるわ。一緒に来てくれますね?」

そして馭者を急き立て、子どもを己と馭者の間に押し込むと馬車を出させた。


 ウルシュラの脱走とそれに付随して試みられた異教の儀式が、他会派の姉妹によって明るみにされたことで、波紋はより大きな広がりを見せることになった。

 シトー会女子修道院の院長ベアトリクスは、帰り着くとすぐさま修道院付きの司祭を訪ね、悪習によって汚された畏れのある子どもに祝福と悪魔祓いの祈りを捧げさせる。それが済むと子どもを食堂へ連れて行き、温かな食事を与えながら事情を聞き出した。そして手近な姉妹に子どもを預けると、自室に副院長と書記修道女を呼び、クリュニー会のモンス・ラヌンクリ修道院宛に、子どもを保護した旨と現場に忌まわしい儀式の痕跡を認めた旨を報告する書簡をしたためた。副院長は卒倒しかねないほどに青ざめながら十字を切り、書記修道女は義憤に筆が走りがちになるのを姉妹ベアトリクスに制されながら文を綴った。

 書簡はすぐさまクリュニー会に届けられ、朝から子どもの捜索に走り回っていた修道院に震撼が走る。よりによって因縁浅からぬシトー会の手で子どもが保護された上、その場に異教の儀式の跡が残っていたとなれば、神の家たる修道院にとって致命的な不祥事である。姉妹クレマンスは慌てて、その朝捜索に走っていた全ての姉妹と奉仕姉妹を呼び集め、ことの真偽を厳しく問いただす。奉仕姉妹の一人が観念して口を割り、集落の教会司祭までも関与するおぞましい企みが日の下に晒されることとなった。

 温厚で知られる姉妹クレマンスもこの時ばかりは烈火の如く怒り、積極的に関わった奉仕姉妹はその場で放逐される。しかしそれで収まる問題ではないことは姉妹も重々承知していた。

 報告を受けた本院は、急ぎ教会へ遣いを出した。司祭は知らぬ存ぜぬとしらを切り、逆に、つまらぬ詮索は己の身を滅ぼしますぞ、と修道院を静かに脅迫したという。

 シトー会同様、免属特権を有するクリュニー会は、有事の報告を逐一教区監督に上げる義務はない。居直る司祭に押されて、本院の修道院長はことの次第を丸ごと不問に付す心算を固める。

 しかし──

 院長も姉妹クレマンスも、たとえ自分たちが口を閉ざし通したとして、神の槌が己の頭上に振り翳されていることに変わりがないことを知っていた。何となれば、今や《要石》となった子どもを擁したシトー会が、教区や教皇庁に一言でも漏らせば全て終わりなのである。

 姉妹クレマンスは懊悩した。シトー会からの静かな怒りを滲ませた書簡を何度も読み返し、一睡もできぬまま朝を迎えた。そして決断を下す。

「姉妹コンスタンス、ウルシュラの荷物をまとめてちょうだい。シトー会に、会いに行きます」

 書記姉妹はその意を汲めず、おずおずと訊き返す。

 直接シトー会の門を叩く──それはクリュニー会にとって、最後の禁じ手であった。


「ここでは、このようなものしかお出しできませんが……」

 姉妹ベアトリクスは客間で身を固くする二人の黒衣の姉妹に薬草湯の盃を差し出す。カモミラのほのかな香が、簡素な部屋に満ちる張り詰めた気を僅かにほぐす。二人の姉妹は遠慮がちに手を伸ばすと豊かな草の香で乾き切った喉を湿らせる。

「……まこと、異なものですね」白衣の姉妹が物思いに耽るように呟く。「こたびの巡り合わせ、他に表しようがございましょうか。相見えるはずもないわたくしたちがこうして向かい合い、言葉を交わす……一人の異邦の少女を介して。これも主のお導きなのでしょうか。たとえあの子が、主の御心に沿わぬ姿で見出されたにせよ……」

姉妹ベアトリクスの言葉に、姉妹クレマンスは耐え兼ねて平伏する。シトーの院長は続ける。

「……あの子にあらましを聞きました。この地に来てまだ数年だというのに、ラテン語もオック語もそれは達者なこと……姉妹クレマンスにとても優しく教えてもらったと、そう言っていましたよ」

姉妹ベアトリクスは姉妹コンスタンスに向き直る。

「そして、姉妹コンスタンスはどんなお願いでも一所懸命に聞いてくれて嬉しかった、と。あの子はお二人のことを心から愛しているようですね」

姉妹コンスタンスは天井を仰いで胸に小さく十字を切る。姉妹ベアトリクスは二人をまっすぐ見据えると静かに言い切る。

「……それでも、わたくしたちはあの子を、あなた方のもとにお返しすることを強く躊躇っています」

「ええ、承知しております。今の私どもに一体その資格がございましょうか。まことに恥ずかしい限りです……」

姉妹クレマンスは消沈して返す。そして、縋るように訴える。

「勝手ながら、あの子をしばらくお預かりいただきたく、あの子の着物も持って参りました。このようなことをお願いできる立場ではございませんが、どうか、伏して……」

「姉妹クレマンス、姉妹コンスタンス」姉妹ベアトリクスは心なしか語調を和らげ呼びかける。「せっかく主が与えたもうたこのような機会です。お互いに腹を割ってお話ししませんか」

クリュニーの姉妹たちは揃って顔を上げる。

「会は違えど、わたくしたちは同じ神の花嫁同士。花嫁には花嫁にしか解らぬ苦労がありましょう」

 それから三人の姉妹は実に半日近く語り合った。神の家の運営の苦労、種々の制約、本院や総会からの理不尽な圧力、教会との軋轢、地域から望まれる姿と実際に強いられるありようの相剋。膝を交えて語り合った末に両会の姉妹たちが知ったのは、会派の違いを遥かに超えて共通する経験と認識の多さであった。

 そしていま一度、子どもの事件に立ち戻る。何が一番の問題であったのか。己の信仰に問い、決して揺るがせにできない信条を確かめ合う。

「教会も修道院も共に神の牧場、この地を清浄に保つのが牧者たるものの務め……たとえ腐った杭が一本であろうと、見過ごせばそこから荊は忍び込むでしょう」

姉妹ベアトリクスが言うと、姉妹クレマンスが後を受けて呟く。

「そして、私たちが沈黙すれば、それはこの地の常となる──」

三人は目を見交わす。それはもはや退くことのない一歩であった。

 姉妹ベアトリクスは一旦中座すると、副院長と書記姉妹を連れて戻る。そして厳かに一同を前に告げるのだ。

「モンス・ラヌンクリのシトー会女子修道院長の名において、教会司祭を告発します」


「──はあ? ベタ、あんた何言ってるの。そんなの駄目に決まってるでしょ」

 部屋からウルシュラの荷物が慌ただしく引き上げられたあと、あの子はシトー会へ移りました、とのみ告げられた同室の少女らは呆気に取られ、説明を求めた。しかし姉妹たちは口を濁すばかりで要領を得ない。業を煮やしたベルトはその夜、シトー会の修道院なら場所を知っているからウルサに会いに行って確かめよう、と言い出したのであった。

 マルグリットは部屋の最年長としてこれ以上の騒動を見過ごせない。

「私たちは姉妹と同じなの、この敷地から出ちゃいけないの。わかってるでしょ」

「じゃあマルガレタはこのままでいいのか?」小さなベルトが凄むように言う。「見なよこのかべ、あいつの絵がこんなにいっぱい! なのにあいつだけいない、そんなのあたしはいやだ!」

「マルガレタもベタも落ち着いて……姉妹が来ちゃう」

アデルがおろおろと二人を宥める。

 そうよ、私だって嫌だ──マルグリットはそっぽを向いたまま思う。私だって今すぐウルサが元気でいるのか確かめに行きたい、でもどうすればいい。悶々とするうち、頭に居座る《敷地から出てはいけない》という戒めの足元から、よからぬ考えが這い出ようとしている。

「じゃあ──」マルグリットは匙を投げるふりをして突慳貪に言う。「あんたたちだけで行ってきなさいよ」

ええっ、とアデルが素っ頓狂な声を上げ、慌てて口を押さえる。よしきた!、とベルトがもぎ取った勝利に拳を突き上げる。

「ただし時間は午睡の間、姉妹たちがお昼ねしている間だけよ。気づかれないように行って帰って来られる?」

「だいじょうぶ、走ればよゆうだって。な、アデタ」

「わたし、場所知らないから置いていかないでね、ベタ」

「あんたたち、クリュニーから来た、なんて絶対言っちゃだめよ? お祭の日に仲良くなった村の子って言うの、わかった?」

気を揉みながら念を押すマルグリットに、ベルトは自信満々に、わかった!、と請け負った。


「お嬢ちゃんたち、何ぞ修道院に用かえ」

 翌日の昼、門前でうろうろしている子どもたちに、門番の老姉妹が声をかける。ベルトはかしこまって声を張る。「あたしたち、クリュ」

アデルが慌ててベルトの口を押さえ、前に出る。

「村の者です。お友達のウルサに会いに来ました。アデルとベルトといいます」

少し耳の遠い老姉妹は何度か訊き返し、ようやく承知すると中へ呼びに行く。しばらく待つうち、老姉妹に連れられてウルシュラが姿を現した。

「ウルサ!」

驚いて立ち尽くすウルシュラに二人は駆け寄って手を取る。

 三人は門のすぐ内側の草叢に車座になり話に花を咲かせる。たった一日離れていたに過ぎぬのに、互いにまるで古い友人と会ったように話は尽きない。

 やがてアデルが名残惜しげに切り出す。

「ベタ、もう帰らなくちゃ」

ベルトは立ち上がってウルシュラに宣言する。

「いいか、ウルサ。これきりあたしたちとはお終いなんて、させないからな。何度でも会いに来るからな」

「ありがとう、ベタ、アデタ。来てくれてうれしかった」

クリュニーの二人の子どもはそれぞれに、シトーの子どもの手を強く握ると走り去っていく。ウルシュラはその後ろ姿を木々が隠し去るまで見送るのだ。


 ……ここに至るまでのいとけなき姉妹の歩みは、その幼さゆえに、奔流に運ばれる一葉の如く弄ばれるばかりにも見える。

 しかし、彼女の存在が周囲にもたらす種々の越境に目を向ける時、私たちは微かな一つの兆しを見出すであろう。

 小さき姉妹は、シトー修道院というこの新しい住処で思いのほか長い年月を過ごすことになる。私たちはここで一度筆を置き、彼女にしばし短い安息を捧げることにしよう。何となればいみじき難渋の荒波は、今しばらくこの小さき魂を手放しはしないであろうから。

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