私の文章のルーツ・将来の夢は『小説家』
甘木智彬
私の本質はおそらく読者
私が赤ん坊のころ、親いわく、すでに本をめくって遊んでいたそうです。
大人の手のひらサイズの、革の装丁の辞典。三省堂のGEM英和・和英辞典です。これを興味深げに、じっと見つめながら、1枚1枚ページをめくっていたとのこと。もちろん文字が読めていたわけがないのですが、私は生まれつき、本という物体が好きだったのでしょう。
私の記憶に残っている一番古い書物は、L.L.Beanというアウトドア・ブランドのカタログです。テントや防水ジャケット、寝袋などを、金髪碧眼のアメリカ人家族のモデルが、雄大な自然を背景に笑顔で着たり使ったりしている――そんな画像的な記憶がうっすらとあります。
親としては、ひとりで興味津々にカタログを読み込んでくれるのであまり手がかからず楽だったそうですが、私自身は「いい加減コレ見飽きたな……」とうんざりしていた覚えがあります。おそらく、当時はまだろくに喋れなかったので、『見飽きた』という内心を伝えることもできず、また、要請すれば新たな書物が与えられていたであろうことも予想できなかったのだと思います。
ある程度言葉を操れるようになってからは、色々な絵本も事典も(カタログも!)読ませてもらえるようになり、文字を覚えてからはそれはもう立派な本の虫になりました。本好きかつ、空想好き。特にファンタジーが小さい頃から大好きでした。フォア文庫や青い鳥文庫はもちろん、デルトラクエスト、ハリポタ、ダレン・シャンのようなメジャー海外ファンタジー、モスフラワーの森やミラードリームス、サブリエル・ライラエルのようなちょっとマイナーなものまで、貪るように読み漁りました。背伸びして指輪物語なんかも読んでましたね。地元の街の図書館では読むものがなくなってしまい、隣町や市の図書館まで遠征もしていました。
幼い頃より、私はまだ見ぬ空想の世界に焦がれ、面白い物語を探し続けていたわけです。もっと凄い世界を! もっと面白い物語を! そうしてただ『あるもの』を求めていた私に、ひとつの転機を与えてくれたのが小学校2年の国語の授業でした。
『ものがたりを作ろう!』
国語の教科書に宝島の地図が描いてあり、男の子と赤いワンピースの女の子が、様々な障害や怪物がひしめく宝島に挑もうとするイラストが載っていました。
背景情報は他に何もなく、ただそのイラストをもとに想像を膨らませて、物語を書いてみる。そんな授業でした。これがもう楽しくて楽しくて、原稿用紙20枚ほどの冒険を書き殴りました。私が初めて『完結』させた物語です。
受け身の読者であり続けた私が、作者という立場を意識した瞬間でした。
それからは、「そうか自分で書いてもいいのか」と思い至り、アイデアが浮かぶたびに新しいノートを買っては、冒頭を書き殴っていました。ただ残念ながら私は三日坊主で、ことごとく完成させられず、冒頭だけ書いて終わりというパターンに終止しました。いわゆる「構想はあるんだ」状態です。そういう意味では、この頃から立派な小説家だったのかもしれません。
そんな私に、ひときわ強烈なインパクトを残したイベントは、小学4年の春に発生しました。親の都合で半年ほどフランスに移住することになったのです。しかもパリのような都会ではなく、ノルマンディーの片田舎。本好きの私にとって、日本語の本屋も図書館も存在しない(しかも当時はロクにネットも使えない)、極めて厳しい環境が予想されました。
仕方がないので、私は当時のお気に入りの本50冊を厳選し、フランスに持っていきました。
飽きました。2ヶ月もちませんでした。全部5~6回読み込んでしゃぶり尽くして流石に出涸らし、味がしなくなりました。新しい本が読みたい! 新しい本が読みたい! 新しい本が読みたい! 新しい本が読みたい新しい本が読みたい新しい本が読みたい新しい本が読みたい新しい本が読みたい新しい本新しい本新しい本新しい本本本本本本本本本本本本本本本本本本!!!!!!!!!!!!!!!!!
ウオオオオオオオオオオアアアアアア!
そうして、私は思い至ったのです。
――ないなら自分で書くしかない――
親のパソコンを借りて猛烈に書き始めました。『シェーラひめのぼうけん』のような冒険ファンタジーです。『シジロンの冒険 凍れる人々をすくえ』というタイトルだったと思います。三日坊主の私も、重度の物語欠乏症を発症しており、他にマジで読むものがなかったので、飽きることなく1週間ほどひたすらキーボードを打ち続けました。
そして、原稿用紙100枚ほどの物語を完成させました。出来上がって、読み直して、満足しました。「小説書くのってマジでいいもんだな」と思い、この時から明確に、私は将来の夢として小説家を意識するようになりました。
そのあと、「せっかく完成させたのだから」と帰国後に講談社様の青い鳥文庫編集部に(厚かましくも)原稿を送りつけ、「デビューできるんじゃないか」と子供ながらにワクワクして過ごしました。今となっては赤面の至りですが……
ただ驚くべきことに、半年後に編集部から原稿が小包で届き、「読ませてもらった、熱意があってとても良い、ただ商業的には少し難しい」といった旨を何重にも柔らかくオブラートで包んだ、とても丁寧で優しいお返事を頂戴しました。ご多忙の中、子どもの夢と熱意を摘まないよう最大限に気を遣ってくださったのだなぁと、今となってはありがたいやら申し訳ないやら……当時の編集部の皆様、その節は改めてありがとうございました。あの思い出は今でも宝物です。
お陰様で、夢と熱意を摘まれることなく、立派な(?)小説家になりました。
小学校を卒業して、中学に入るとラノベの全盛期が到来し、勉強そっちのけで読み耽りながら自分も似たようなものを書き続け、高校に入っても受験勉強をサボりながらラノベやファンタジーを読みつつコソコソと書き続け、大学に入ってもなんだかんだ書き続け、そうこうしているうちに『小説家になろう』のWEB小説時代が到来し投稿した作品が書籍化の機会に恵まれ……現在に至ります。
私が物語を書く動機は、小4の海外での経験――「なんか面白いもんが読みてえ」という渇望と、自給自足しなければ本の虫的な意味で死ぬ、という危機感――が根幹にあるのは間違いないです。
私の中のファンタジー好きな読書少年は、今でもまだ見ぬ空想世界を追い求め続けています。自分で書かないと、自分で思い描いた物語が読めないのが、辛くも面白いところですね。AIにお願いしても私が思う世界を100%正確に出力してくれるわけではないので、この渇望が枯渇するまで、なんだかんだ、書き続けるのだと思います。そして書いたものを読み直しては、「面白いな……」とほくそ笑むわけです。
小学校の頃の自分が、今の自分を見たらきっと喜んでくれるでしょう。
これからも面白いファンタジーを書いて、読んでいきたいです。
私の文章のルーツ・将来の夢は『小説家』 甘木智彬 @AmagiTomoaki
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