天国庁御悩み相談課!!

@Nesaka

天国庁御悩み相談課に命ず!

気がつくと僕は、赤を基調とした大きなホールにいた。何となく周りの空気が重い。

顔を上げると目の前には赤い顔をした大きな人。

左右を向くと両脇には筋骨隆々な人。頭には角が生えている。

茂森満しげもりみつるだな』

目の前の赤い人が話しだした。地響きのような声をしていた。話すだけで、空気がビリビリと痺れる。

「……はい」

『お前、ここがどこか分かっているか?』

「冥界への入口、ですか?」

『さよう。なぜここに来たか覚えているな?』

「いえ」

『そうか。では、これを見るが良い』

節が太い指が右側を指す。僕がそこに目を向けると、鏡があった。

ピッ、とこの場に似つかわしくない現代的な音がして鏡に映像が流れ出す。

そこには小さな女の子と女の子に迫るトラックが映っていた。

運転手は眠っているのか、目の前に女の子がいることに気づいていない様子だ。

「あ」

女の子を庇おうと、1人の男の人が駆け出した。

追いつき、女の子を歩道側に押し、そしてー

そこで映像が止まった。

『思い出したか?』

「……はい」

そうか、僕は死んでしまったんだな。

走馬灯のように頭に今までの思い出が駆け巡る。自分的にはかなり楽しく暮らしていた人生が終わってしまったことに驚き、途方に暮れる。

目の前の赤い人が右手に持った勺を持ち上げた。

『思い出したところで、判決をいい渡そう』

その言葉で、閻魔大王って右利きなんだなと、他人事のように思った。

尺が振り下ろされると同時に、閻魔大王の野太い声がホール中に響き渡った。

『お前を、天国庁御悩み相談課に命ず!』

「…………は?」

突然のことに思考が追いつかなかった。

生まれてきて1度も聞いたことがない言葉。漢字の変換すら思いつかない。

『この後は、お前の上司となる者が引き継ぐ。あっちにいるから早く行け』

未だ混乱する頭で閻魔大王が手を振るほうを見ると、平安時代の装束に身を包んだ人がたっていた。確か、狩衣という衣装だ。何故か飛び跳ねて手を振っている。

『こっちー!こっちだよー!しーげもーりくーん!』

端的に言うと不審者だ。あまり近づきたくない。

『後ろが詰まってるんだ。早く行け』

その声に押されるようにして、よばれているへ向かう。

狩衣の人は満面の笑みでこちらに語り掛けてきた。

『茂森君、これからよろしくね!満くんの方がいいかな』

「茂森でいいです……」

『急に言われて大変だったろ。詳しいことは歩きながら話すから私について来てくれる?』

「……はい」

溢れんばかりの陽の気にやられながら着いていく。

これ着てるってことは平安時代の人だよな、なんでこんな元気溌剌なんだ、しずしずしてたりするんじゃないのか。

『いま、なんでこんな元気な人間なんだって思ったでしょ』

「え!……はい」

『そんなにびっくりしなくても。茂森くん、顔によく出るから。すぐわかるよ』

「……そうですか」

『元気な人間なのは否定はしないけどね。さ、閻魔ホールも抜けた事だし、天国庁について話そうかな』

「天国庁……?」

『簡単に言うと天国に関することの様々だね。現世の省庁とあまり変わりはないよ』

「と言うと、文部科学省とか、国土交通省とかですか」

『そうだね。天国と言っても広いから、ある程度の秩序がないと成り立たない。その秩序を維持する役割を担ってる場所だ』

「そんな場所があるんですね」

『現世には、ほとんど知られてないね。伝える手段がないってのもあるけど』

「でも、閻魔様のこととかは知られてますよ?」

『それは、ほら、閻魔様の前だと叩き帰されることもあるから。聞いたことない?そんな怪談話』

「ああ、ありますね」

『あれ、半分ぐらいほんとに体験した人の話だよ。みんな印象が強烈だったんだろうね。自分の前に並んでた人たちの判決、ほとんど覚えちゃって。地獄の細かい部署まで現世に知れ渡ってる』

「へぇ、そういう理屈で……」

目の前を歩いていた狩衣の人が突然止まった。

「わっぷ」

勢い余って背中に突っ込んでしまう。その事を気にせず、目の前の人物は話し出す。

『着いたよ。ここが御悩み相談課の部屋だ』

「ここが……」

一見すると普通のビルの部屋だ。壁には【天国庁御悩み相談課】という看板がかかっていた。ただ扉の隙間から漏れる光が、この場と部屋の中の違いを指し示していた。狩衣の人が振り返って扉を開けながら言う。

『紹介が遅れたね、僕は安倍晴明あべのせいめい。ここの課長をしているよ。改めてこれからよろしくね!』

その言葉に、今日1番の驚きを得た僕は廊下いっぱいに響き渡る声で叫んだ。

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2025年12月15日 08:00

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