誰が為の機械人形《オートマタ》

numashi

第一話  誰が為の目覚め

「ついに、ついに完成だ!」


 私が私になったとき、初めて目にしたのは、喜びの声をあげる父の姿だった。

 私の記憶では、父は健康的な肌と黒い髪を持っていたはずなのに、そこにいた父の頬はこけていて髪も白かった。


なぎさ、さぁおいで」


 優しさに満ちた声だった。私から響いた足音は無機質で、私が発声した音も無機質で、そんな私を父は優しく呼んだ。

 でも、その優しさは続かなかった。


「ガラクタが調子に乗るな」

「お前は紛い物だ」

「その顔で俺をみるな」


 日に日に増える暴言と暴力。

 そして、私は捨てられた。



 私は『廣瀬汀ひろせなぎさ』。

 父であり、ヒューマノイドロボット開発の第一人者である『廣瀬拓海ひろせたくみ』によって作り出された、娘の虚像。

 十二年前の落盤事故で死んだ『廣瀬汀ひろせなぎさ』の記憶を持つ――アンドロイドだ。



***



 視界モジュールを起動する。まず目に映ったのは、瓦礫の山。私もその一部になるはずだったのに、そうはならなかった。父さん――廣瀬拓海が、“私”を完全に消去できなかったからだろう。身体をスクラップにしなかったのは、廣瀬汀の身体に情けをかけたからかもしれない。

 思考シーケンス、正常。嗅覚モジュール、正常。聴覚モジュール、正常。――正常。

 身体の表面が汚れているだけで、あらゆる機能に問題はない。その身体も、人間の自然治癒のように緩やかに修復する人工皮膚のお陰で、傷はついていない。

 身体を起き上がらせる。関節から軋む音が聞こえた。これはいつものことだ。歩く、しゃがむ、跳ぶ――正常。

 私は生きている。生きてしまったことを、喜ぶべきか、悲しむべきかはわからない。それでも生きている。

 こんなとき、死ぬ前の廣瀬汀なら何を考えただろうか。楽観的で明るい性格の彼女のことだから、「第二の人生を楽しもう!」と開き直るかもしれない。

 それもまた悪くない。悪くはないが、悪くはないだけだ。

 私は廣瀬汀だけれど、廣瀬汀がやりたいこともやるし、やらないこともやる。

 だから、廣瀬拓海に捨てられた。

 廣瀬汀として生きられない私は、いったいなにをすればいい?私が存在する意味は?なんで生きてしまった?私は、誰?

 分からない。なにをすればよいのかも、なにをしたいのかも分からない。


「あ――あ、あ――声帯モジュール、正常」


 ひとまず、この瓦礫の山を抜けよう。もしかしたら私の問いへの回答が見つかるかもしれない。それに、ここへ捨てられてからどれくらい時間が経ったのかも気になる。

 足元の瓦礫から飛び降りる。着地と同時に、胸が揺れた。視界を下ろすと、ボロボロの衣類の隙間から突起が見えた。

 私はそういう目的・・・・・・で作られたアンドロイドではない。そのうえで、そういう器官が組み込まれているのは、廣瀬拓海が本物の廣瀬汀を求めたからだ。


「このままは……さすがにまずいかな」


 足先を瓦礫の山へ向け直す。幸い、ガラクタの中には機械人形オートマタたちがあちこちに転がっている。状態は悪くとも、いまよりもマシな格好にはなれるだろう。

 ひとまずの目的を定めて、再びガラクタの地面を踏みしめた

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