第3話
結論。死にはしなかった。落下のダメージと落ちてきた瓦礫のダメージでHPを9割がた削られたもののかろうじて生き残り、手持ちの回復アイテムでHPを満タンまで持っていく。
回復ののち、瓦礫をどかして外に出ると、周囲の様子は一変していた。グランドーザーが大暴れしたためにあたり一帯が瓦礫だらけの廃墟となり、それをやった犯人はといえば、少し離れたところでマシンガンを連射していた。それは先ほど、ミサイル持ちが隠れ潜んでいたあたりで。
「あ、もしかしてこれ、そういうこと? ブチギレたわけじゃなくて、大量の爆炎と土煙で自分の姿を隠して遠距離攻撃から射線を切ったとか」
ミサイルも、熱源感知とかではなくゲームらしい謎誘導だけど、見えている場所でなければロックしてくれない仕様。崩壊で派手な音も出ていたし、それらで気づかれないうちに接近したらしい。
「無茶するなー。これ、結構耐久減っただろ」
もっとも取れ高おいしいのでじぇい的にはよし。ただこれ以上追いかけても狙われたらただで済まないので、そそくさと距離を取る。
グランドーザーを観察している間にゲームは進み、生き残りは26人。ちょうど次のエリア縮小で今いる場所は範囲外になるようなので、移動を開始する。
エリア縮小に伴う移動方法についてはいろいろなスタイルがある。なるべくエリア端をとり、エリア縮小もぎりぎりまで粘ることで後ろを気にせず動くスタイルや、逆に早め早めに移動して有利ポジションを確保するスタイルなど。じぇいは後者だ。これがトップクラスのプレイヤーともなれば、直後のエリア縮小だけでなくさらに先の縮小範囲まで予測する嗅覚を持っていたりするのだが、じぇいはそこまではできない。隠れ場所が最終地点になったらラッキーくらい。
警戒しながらマーキングした場所まで移動。ワイヤーは使わない。音が大きく無駄に目立ってしまう。ただへヴィギアは移動速度に難があるし足音も大きいので、どちらにせよ移動のリスクは大きめだ。とはいえ移動のたび敵に出くわすわけでもなく。次の潜伏先にいるうち、残り人数は10を割る。
「さて、こっからがきつい時間帯だ」
強いプレイヤーが残っているのもあるが、エリア縮小で狭い範囲にプレイヤーが集まってきている。視聴者からすれば見どころのクライマックスだ。エリアが狭くなってきた分観戦自体もしやすい。
「左の建物に誰か入ってきたね」
足音からわかったことを視聴者に伝える。ゲーム的には面倒。すぐ隣だから放置するのは先々の憂いとなるし、かといって下手な戦い方をすればほかの全員に居場所を知らせる羽目になる。ただし配信者としてはおいしい展開。
「俺の今のスタイルだと狭い場所は不利。壁壊そうとすると音もガッツリ出るからあまり積極的には攻めたくないな」
言いつつもしっかり警戒。
「攻めてきたらしっかり迎撃するけど、そうでなければとりあえず放置かな。幸い次の縮小は範囲内だし」
別に戦うことだけが見せ場じゃない。戦術を解説しうまく立ち回ることもまた需要があるのだ。
「ちょうどいい具合に敵が来た」
範囲外になる場所から移動してきたのだろう。このまま何もしなければ挟まれる。だが、うまく利用できる状況だ。
「手投げ爆弾。バトロワの使い捨てアイテムもうまく使えると便利だよね」
狙うは隣の家だ。窓を割って中に三つばかり投げ込み、すぐに今いる建物を脱出する。
「隣の敵は、今来た敵をずっと籠っていた相手と思い込む。敵同士潰し合ってる間に悠々脱出だ」
ここまで来たら装備は十分そろっているし、生き残るためには勝手に戦ってくれた方が都合がいい。ワイヤーフックを使って一気に距離を取る。
「っと、敵がいたね」
ビルとビルの隙間。相手はまだこちらを見つけていない模様。
「ここは攻めるか」
一瞬見えた相手の装備から有利と判断。どうせ移動中だし、ここは倒してしまった方がいいだろう。
接近したじぇいに、相手もさすがに気づいたようだ。だけどもう遅い。相手は両手に銃を装備した遠距離型。近接装備を持たない場合、近接装備持ち相手に接近戦を許した時点でほぼ勝ち目はなくなるのだ。どかんどかんと音を鳴らし、多少のダメージは無視してハンマーを打ち付ける。どうにか逃げようとする相手にワイヤーフックを撃ち込んで引き寄せ、近づいてきたところをボールを打つようにハンマーで叩けば、体力のすべて吹っ飛んだ相手プレイヤーはその場で粉砕された。
じぇいが戦っている間にほかでもプレイヤーが減ったようで、残り4人。ひとりは先ほどの二人のうちのどちらかだろう。前方から銃声が聞こえてきたので、そちらにもひとり。最後の一人は不明。
次の縮小まであと10秒。少なくとも前方にいた相手は移動するしかない。
「あの家がいいな」
じぇいは次のエリアの外ぎりぎりにある家に目を付け、中に入る。
「銃声のあったタイミングからして崩壊に追われてるはず。だから大体のルートを予測して待てば……ほら来た」
崩壊に追われているので移動しながらクリアリングの余裕がなく、そして崩壊に追われていたからこそ、範囲に入った後もエリアの内側だけに警戒を向ける。無防備に通り過ぎていった相手の裏から、容赦なく殴りつける。
「うっそ! じぇいまだ生きてたんかよ!」
「生きてたよっ!」
すごく失礼なことを言ってくる相手にもう一撃。バックステップでかわされアサルトライフルを向けられる。ワイヤーフックを斜め上方に発射。巻き上げを利用した大ジャンプで離された距離を詰め、大振り。とっさに直剣でガードされるも、それだけで防ぎきれる威力ではない。さらに殴る。殴る。殴る。直剣も、まあ普通に強い武器ではあるが、へヴィギアプラスハンマーの重装備を相手にするには分が悪い。距離を離されさえしなければ、じぇいの勝ちだ。
「と、もう一人も来たか」
戦闘音を聞きつけたのだろう。じぇいが回復できないうちに、次の敵、たぶんさっきじぇいの隣の家にいたプレイヤーが向かってくる。
「へヴィギア、グレートソード、タワーシールド。ガッチガチの重装備ビルドかよ」
できればいったん引いて回復したいが、位置が悪い。じぇいの背後は崩壊していて、逃げるにも一度前の相手を抜けないといけない。
かといって正面衝突は厳しい。起動ハンマーのビルドは片腕にワイヤーフックを装備している分、完全近接タイプと真っ向から殴り合いをするのは不利となる。
「そういうわけで上に逃げる」
相手が近接型なら、機動力を活かして立ちまわるべき。そばのビルの壁にワイヤーを撃ち込み、窓から室内に退避。さらに壁をハンマーで殴り壊し、瓦礫の雨を降らす。さすがにそれでは倒せないが、目的は足止め。瓦礫を避けて相手が立ち止っている間に手早く回復アイテムを使い、すぐに跳び下りる。機動力を活かすには外で戦いたい。
狭い場所に入り込む可能性も考えられたが、どうやらそのまま迎え撃つつもりらしい。グレートソードを振り上げ、盾を掲げた相手の周りを、ワイヤーを使って飛び回る。正面から殴って盾でガードされれば、生じた隙にグレートソードを叩きつけられる。それをさせないためには、ひと工夫。
勢いをつけて飛び込み、ハンマーで、地面を思い切り殴りつけた。どがんと、地面が砕け、衝撃で瓦礫が飛ぶ。そんなものは盾で防がれるが、地面を叩いた分彼我にはまだ距離があり、グレートソードは届かない。届かせるために踏み込んできたのに合わせ、ワイヤーを巻き上げる。大ジャンプで頭上を跳び越し背後を取る。相手は慌てたように振り返るが、一手遅い。盾が間に合う前に、一撃。腕に伝わる確かなインパクト。頑強なへヴィギアはそれでも吹き飛ばされることなく切りかかってくるが、まともにぶつかるつもりはない。下がってダメージを抑えつつ、背後にワイヤーを飛ばして距離を取る。
戦闘は、一種の持久戦になり始める。どちらも高火力高防御。きっちり嵌められれば一瞬で勝負がつくが、相手には盾があるし、じぇいは距離を取ることで仕切り直すことができる。追いつかれないので、アイテムの続く限りは回復可能だ。これはじぇいにとって大きなアドバンテージ。
だけどそううかうかとしていられるわけでもない。戦闘のたび、周囲の建物は破壊され、辺りは瓦礫に埋められていく。機動力を活かすには広い場所が必要だが、ワイヤーフックは何かに突き刺して使うもの。突き刺すための建物が無くなれば使えない。相手もそれはわかっており、先ほどから周囲を破壊するよう動いている。
「更地で殴り合ったらまず負ける。それまでに決着をつけないと」
次でけりをつけるべきだ。そう判断したじぇいは、瓦礫をハンマーで吹き飛ばす。ビルの上からコンクリを落とした攻撃をずっと派手にした、言い換えればそれだけに見える攻撃を相手はタワーシールドで受け止めて防御しようとし、そこで発生したいくつもの爆発に晒される。
「これぞバトロワ専用! ハンマーボンバー!」
何のことはない。時限式の爆弾を瓦礫と一緒に吹き飛ばしたのだ。ネタと言われているけど使い方によっては凶悪な攻撃手段。狙いがおおざっぱだから与えられるダメージは不安定だが、真の攻撃対象は相手プレイヤーではなく、足元。重装備のへヴィギアは確かに頑強だが、爆破で地面を砕いてバランスを崩せば、重量故に復帰に時間がかかる。それはわずかに数秒だが、戦いにおいて数秒の隙は致命的だ。
正面から力の限り振り抜いたハンマー。ワイヤーフックで飛び込んだ勢いを乗せた一撃は体勢を崩した状態で受け止めるには重すぎる。ドゴンッ、と金属同士がぶつかり、支えきれなかった上半身がのけぞる。重量級同士の殴り合い。姿勢が流れればコンボにつながり、それは致命的な大ダメージを叩き出す。振り上げたハンマーを振りおろし、倒れてきた体を蹴り上げ、最後にもう一度真上から叩きつける。質量という暴力は純粋な破壊を生み、金属の重装備は地面にしたたかに打ちつけられたまま、二度と立ち上がることなく塵と消える。
「よっしゃーっ!!」
思わずガッツポーズ。プロゲーマーとはいえ動画配信で稼いでいるじぇいは、こうも大きな舞台で、このような激戦の果てに勝利した経験というものがない。だからこその歓喜。こういうとき、配信者であるため必要以上のリアクションをする癖がついていたというのもあるだろうが、それを置いてもなお、じぇいは勝利に心ふるわせ、直後、頭を撃ち抜かれて死亡した。
このゲームはバトルロイヤルで、最後に立っていたものが勝者。あんな派手に戦って、気づかれないはずもなく……
ただ、まあ、動画的にはおいしいか。
ワールドブレイカー じぇいの100人バトルロイヤル すばる @subaru99
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