【掌編】僕の時計は魔法の時計

波白雲

僕の時計は魔法の時計

 おじいちゃんに貰った大事な時計。僕のお気に入りだ。

 お父さんは片手で持っていたけど、僕は両手を使わなきゃ持てない。大きくて格好いい時計。

 この時計があれば、僕は何だって分かる。

 青くて格好いい長い針が八になって、赤くて格好いい短い針が十二になったのを見れば、もうすぐお母さんが「寝る時間よ」って言うんだって分かる。長い針が六で、短い針が七と八の間なら、お父さんは車に乗ってお仕事に行くんだ。


 でも、この時計の凄いところはこれだけじゃない。秘密のモードがたくさんあるんだ。

 時計の後ろにある秘密のボタンを押すと、チッチッチって音が鳴り始める。「これはタイマーだね」ってお父さんは言ってた。でも、違うよお父さん。これは『偉いねモード』って言うんだ。

 このチッチッチが始まると、僕の身体は凄く軽くなって、速く動けるようになる。お片付けもすぐに終わるし、お出かけの準備だってあっという間に準備完了! ……そうすると、お母さんが「偉いね」って言ってくれる。だから『偉いねモード』。凄いでしょ。


 『偉いねモード』は、お父さんとお母さんの前でも使ったことがあるから、二人も知ってるモード。お父さんはタイマーだって思ってるけどね。でも、他のモードは二人も知らない、僕だけの、本当の秘密のモード。

 今日は特別。みんなにだけ内緒で、教えてあげるね。


 時計には数字がたくさん書いてある。だから数字を押せば、電話が出来るに決まってる。これは『もしもしモード』。当たり前のモードなのに、誰も使ってないのは何でだろう?

 さっきおばあちゃんに電話したら、「元気だよ」って言ってた。お父さんとお母さんには内緒で、こうやってみんな元気か確認してるんだ。お父さんもお母さんも、いつも忙しい忙しいって言ってるけど、僕だって忙しい。


 次も僕のお気に入り、『おはようモード』。僕が作った街の中に時計を置くだけで、このモードになる。街に暮らしているパンダさんも馬さんも、シャチさんもジンベエザメさんも、普段はみんな眠ってる。だけど『おはようモード』になればみんな目を覚まして、一緒に遊んだりお話してくれたりするんだ。

 あ、そうだった。昨日ティラノサウルスさんがお風呂に入りたいって言ってたんだっけ。ウサギさんと一緒に入らせてあげよう。ウサギさんはいつもあちこちを跳ね回ってるから、砂だらけだもんね。


 ……あれれ? 大変だ。ティラノサウルスさんがウサギさんを食べちゃった! お腹が空いてたんだね。……僕もお腹が空いてきちゃった。時計の長い針は六と七の間、短い針は三と四の間だ。あのね、おやつを食べてもいいと思うよ。お母さんに言ってみよう。


   ◇


 おやつも食べたし、ショベルカー発進だ! ダンプカーも付いてきて!

 まずはティラノサウルスさんをお風呂からすくわなくちゃ。お風呂は大きくて深いけど、ショベルカーなら大丈夫。すくったティラノサウルスさんは、ダンプカーに乗せるよ。急いで空港に行こう!


 空港ではジャンボジェットが待ってる。タラップ車を繋いで、準備オッケー! ダンプカーから降りたティラノサウルスさん、早く飛行機に乗ってくださーい。……はい、まもなくりりくいたします。

 飛行機でビューンと飛んだけど、ちょっと遅すぎちゃう。だから、ロボットに変形しよう! 白いブロックを集めて……ここを繋げて……ほらね、大きなロボットになったでしょ? このロボットは、めちゃめちゃ速く飛べるんだ。すぐに病院が見えてくるよ。ポーンッ、ポーンッ。ちゃくりくいたしまーす。


 病院にはお医者さんが居るから、最初はモシモシして、あーんして、チックンします。……うん、これは手術が必要ですね。大きな注射が必要です。……チックン!

 ……ああ、良かった! ウサギさんが元気になったよ! ティラノサウルスさんも元気みたい!


 あ! 長い針と短い針が七の近くで重なってる! もうすぐお父さんが帰って来る時間だ!

 『おはようモード』は終わりにして、『偉いねモード』で僕もお風呂に入らなきゃ。お風呂に入ったら、ご飯を食べて、お休みの準備。お話しする時間がなくなっちゃうから、その前に、とっておきのモードを教えるね。


 それは、『おはなしモード』。とっておきだから、このモードにする方法は秘密です。このモードは『もしもしモード』と似てる。色んな人とお話しできるんだ。違うのは、『おはなしモード』の方がたくさんの人とお話しできるってこと。電話番号が分からなくてもいいんだよ。

 『もしもしモード』では上手く喋れないことも、『おはなしモード』なら大丈夫。僕が考えるだけで、色んな人とお話しできちゃうんだ。今日はもうおしまいだけど、まだまだ話したいことがたくさんあるから、また『おはなしモード』を使うつもり。

 え? まだどんなモードか分からない? そんなことないよ。みんなも分かってる。


 だって、僕の声、聞こえてるでしょ?

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