《俺》視点。②、《私》視点。①

 パタっと、読んでいたラノベを閉じた昼休み。午後の日差しはまだ柔らかく、後ひと月もすれば攻撃的なものに変わるのだろう。


 昼食後の教室は穏やかで、賑やかな雰囲気で彼方此方から談笑する声が飛び交う。


 久しぶりのボッチ昼。


 去年までは部室で仲間達と食べていたが、退部したので、次第にソイツらとも疎遠になってしまった。

 学年が変わってからは、なんだかんだで前の席の友人といつも食べていたのだが、今日は部活のミーティングがあるらしく、昼休みになるとともにコンビニの袋を持って走り去っていった。


 のんびりと弁当をつつきながら読んだラノベは、負けヒロイン役が恋人に断罪されたのちにイケメン幼馴染と冤罪を証明してざまぁからのハッピーエンドもの。だいぶ端折ってはいるが、だいたいのあらすじはそう。

 物語として面白く、描写もしっかりとしていてテンポも良い。

 最近の売れ筋上位作だと書店で見たPOPに間違いはなかったと思う...だが、


 なんで〈幼馴染〉という設定キャラが出てくるのかと思ってしまうのは、俺が捻くれているからだろうか。

 なんでつい最近まで恋人が居たのに、裏切られたとはいえすぐに幼馴染くんに恋心を抱けるのだろうか。


 幼馴染だからと、傷心中の心の隙間に入り込むべく幼馴染ちゃんに自分に意識を向けるようにデバフをかける幼馴染くん。

 傷ついた心に寄り添ってくれた幼馴染くんのチカラをもとに自分にバフをかけて元恋人に立ち向かう幼馴染ちゃん。


 恐るべしでしょ、幼馴染魔法バフ・デバフ

 確かに物語として盛り上げるべく、誇張した表現や行動はあるだろうけど、それを加味しても、


 なんで皆、


 周りの人達も『幼馴染だからしょうがない』とかヒロイン達の親達も『幼馴染同士やっと付き合うことになったか』とか。

 俺の意見の方がマイノリティであるのは理解しているが、それでも、だ。


 ...物語フィクションだから受け入れる事の出来る内容だと俺自身は思う。


 読了の達成感の奥から込み上げる何とも噛み合わせの悪い鋏のような歯痒さが残る昼休みとなった。



〜 〜 〜 〜 〜


「ミカの幼馴染クンってさ、ちょっとクール系でミステリアスな雰囲気だよね〜」


 ほらきた。


「良く言い過ぎ。ただ人見知りなだけだよ」


 ここまでは定例文。

 幼馴染に色目を使う女は許さないんだから。


 私がこれまで、どれだけ努力してきたと思っているの?


 幼馴染というアドバンテージを最大限に利用する為に、

 睡眠時間を削って勉強をして、

 苦手な運動も頑張って、

 自分磨きも決して怠らず、

 人から信頼されるように、品行方正に振る舞ってきた。


 そして出来上がった、〈学年一の美少女〉の私。


 私が高嶺の花であればあるほどに、幼馴染の彼は私を意識するはず。


 周りの男子から冷やかされながら、私と幼馴染という事を自慢するはず。


 逆に。


 私が輝けば輝くほどに、幼馴染の彼は隠れる。私という灯台のすぐ側に居るからこそ、私以外の女の意識が届きにくくなるように。


 普段は会話も碌にしない、接点の無い、高嶺の花とボッチ。


 そこに〈幼馴染〉という前提が加わるだけで、物語は鮮やかに彩られる。



 私は、幼馴染バフ魔法が掛かっているヒロイン。




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幼馴染というバフ、デバフ。 時雨(旧ぞのじ) @nizzon

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