幼馴染というバフ、デバフ。

時雨(旧ぞのじ)

《俺》視点。①


 ずっと、悩んでいる事がある。



「オマエが羨ましいわぁ〜、あんな美少女のがいてよ〜」



 そう、幼馴染ソレ



「おぃ、聞いてんのかよ〜。実際どうなんだよ、ソウ?」

「あ、あぁ。スマン、何も無い、幼馴染だよアイツとは」


 『本当かぁ?俺だったら...』と前席で反対向きに座り俺の顔をニヤニヤしながら話す友人の姿からピントをずらして、離れた場所で女友達に囲まれてお喋りしている女子を見る。


 〈学年一の美少女〉とか言われている俺の幼馴染。

 確かに整った容姿、文武両道、性格も良く周りの生徒だけでなく教師からの信頼も厚い。昔から知っているの俺でも凄い人だと思う。



 だが、



 いや、だからこそ、か。




「(俺を巻き込まないでくれ)」



「あ?何か言ったか〜?あ、やべ、次物理じゃん!?やべぇ!?ソウ、課題写させてくれん!?」

「無理、ヤダ」

「そんな事言わないでぇ!?俺とソウの仲じゃん!」

「出会って2ヶ月の仲だな...薄いな」

でしょ!?」



 ...『時間の問題じゃない』か。



 『ほらよ』、と物理のノートを目の前で両手を合わせ頭を下げる友人に渡せば、『助かる!』と慌てて前に向き直り急いで写し始めた。


 椅子を慌ただしく動かしたせいでズレた自分の机を調整する。

 ふと視線を感じたので顔をあげると、離れた場所でお喋りに興じていた幼馴染がコチラに視線を向けていたようだった。


 少しだけ、手を動かして挨拶をしたものの、何のリアクションもせず興味無さげに周りとのお喋りに戻っていった。





 正直に言えば、俺も淡い恋心を抱いたこともあった。

 なんというか、流行病インフルエンザのような、周りの誰かの恋バナに感化うつされてしまい、意識してしまうと熱が上がって。


 だが、それもの事。


 きちんと安静冷静になれば次第に熱は下がり、元に戻る。

 なんて慣用句がピッタリな表現だと思った時に、ふと気づいた。



 俺、阻害魔法デバフかけられてた?

 ゲームとかである、魅了魔法チャームみたいなものをかけられていて、とか。


 なんて厨二的な考察に至った中学二年から早三年。

 まるでこの馬鹿げた考えがさも正しいと言わんばかりの出来事が何度もあって...いや、今現在も続いている。



 俺は、幼馴染から〈周りから嫉妬される〉というデバフをかけられている。



 幼馴染という立場に対する羨望をありがたいと思うに必要な執着心のような恋心を俺は抱いていない。

 事実、俺は幼馴染だからといって普段から仲良くしていないし、家族ぐるみのお付き合いなど小学生になったくらいまでだった。連絡先なんか知らない。家は二軒隣りだし、親同士が知っているから特に必要とも思わない。小学生の頃は集団登下校の都合上一緒だったが、他の同級生も居たし。中学に上がれば部活の関係上朝も放課後も会わない、クラスも違ったから。


 人によっては支援魔法バフだと考えるかもしれない。


 でも、よくよく考えてみてくれ。

 幼馴染なんて関係性は、親がその土地に、その場所に居住を構えて、偶々同年代の子を授かったがため、同学区の為に発生するお付き合いがあってこそ、だ。言ってしまえば成りたくてなったんじゃない、完全な成り行きによるものだ。自分達で築き上げた関係性じゃない。



 そもそもーーー

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る