四〇四号室の魔法少女
月読二兎
四〇四号室の魔法少女
スーパーマーケットの閉店間際。店内に『蛍の光』が流れる時間は、
精肉コーナーの冷気が、制服の薄い生地を通して肌に張り付く。未優は半額シールを手に、売れ残った豚小間切れ肉のパックに機械的に貼り付けていく。
「おい、川上。シール貼るの手が遅いぞ。客が待ってんだろ」
バックヤードから顔を出した店長の怒鳴り声が飛んできた。
「すみません」
未優は小さく頭を下げる。客なんて、もう店内には数人しかいない。閉店時間を狙って徘徊する、目つきの鋭い中年男性と、疲れ切った顔の主婦だけだ。
店長は舌打ちをして引っ込んだ。
彼は高校生のバイトを、安く使える消耗品としか思っていない。「これだから片親の子は」という陰口を、未優は休憩室で聞いたことがあった。
午後九時三十分。タイムカードを切る。
廃棄になった弁当を一つもらう。これが今日の夕食であり、明日の朝食になるかもしれない。
従業員通用口を出ると、生温かい風が頬を撫でた。空は重く垂れ込め、遠くで低い音が響いている。雷だ。
未優はリュックを背負い直して歩き出した。
駅から徒歩二十分。川沿いに並ぶ巨大なコンクリートの群れ。県営団地。
昭和四十年代に建てられたその場所は、かつてはニュータウンと呼ばれ、夢の象徴だったらしい。けれど今は、社会の
外壁の塗装は剥がれ、駐輪場にはパンクしたまま放置された自転車が錆びついている。
エレベーターのない四階建ての四号棟。その最上階、四〇四号室。
階段を上るたびに、足取りが重くなる。踊り場の蛍光灯はチカチカと点滅し、羽虫が群がっていた。
鉄製のドアの前に立つ。郵便受けには、赤い文字で『督促状』と書かれた封筒がねじ込まれているのが見えた。
未優はそれを見なかったことにして、鍵を回した。
ガチャリ、と重い金属音が響く。
それは、現実という檻に自ら鍵をかける音に似ていた。
◆
「ただいま」
靴を脱いで上がり込むと、独特の匂いが鼻をついた。
湿気を含んだ畳、防虫剤、安売りの線香、そして微かなアンモニア臭。さらに今日は、朝から煮込んでおいた大根の匂いが混ざっている。どれだけ換気扇を回しても、この部屋に染みついた「貧しさ」という生活臭は消えてくれない。
時刻は二十二時を回ったところだ。
未優はキッチンの換気扇の下で大きく息を吐き、スマートフォンを取り出した。画面の明かりだけが、今の未優と外の世界を繋ぐ命綱だ。
LINEの通知が三件。クラスメイトのグループチャットだった。
『明日カラオケ行かない?』
『いいね、駅前にできた新しいカフェも行きたい』
『スタバの新作、マジで美味しいよ』
添付された写真には、クリームがたっぷりと乗ったフラペチーノが写っている。
その一杯の値段が、この廃棄弁当よりも、今日の夕食の材料費よりも高いことを、あの子たちは知らない。
知らなくていいことだ。住む世界が違うのだから。
未優は「ごめん、明日も用事ある」とだけ打って、画面を伏せた。
「……来る。また、来るよ」
和室の奥から、しわがれた声が聞こえた。
未優は無表情でガスコンロの火をつける。作り置きしていた鍋の中の大根は、飴色を通り越して泥のように崩れかけていた。
「おばあちゃん、ご飯温めるから待ってて」
「違う、そうじゃないんだ未優。結界が、薄くなっている」
襖を開けると、祖母のキヨが万年床の上に正座していた。
白髪は乱れ、瞳はどこか中空を見つめている。痩せ細った体は、古びた花柄のパジャマの中で枯れ枝のように見えた。
「黒い霧が、団地を取り囲んでる。あいつらだ。あいつらが、また私から奪いに来たんだ」
キヨの声には切迫した響きがあった。
(また始まった)
未優は心の奥で重いため息をつき、感情のスイッチを切る。
ここ半年、キヨの認知症は急激に進んでいた。最初は鍋を焦がす程度だったのが、やがて曜日がわからなくなり、最近ではこうして「見えない敵」に怯えるようになった。
調子の良い日は昔のように優しく笑ってくれるのだが、気圧が低い日や夜になると症状が悪化する。ひどい時には、目の前にいる未優の名前すら思い出せず、「あんた誰だい」と怯えた目で見られることさえあった。
医師はレビー小体型認知症の疑いがあると言った。リアルな幻視が見えるのだそうだ。
「おばあちゃん、大丈夫だよ。戸締まりはしたし、誰も来ないよ」
未優は慣れた手つきで介護用の防水シーツを整えながら、宥めるように言った。
しかし、キヨは未優の腕を掴んだ。骨と皮だけの指の、驚くほど強い力。爪が食い込む。痛い。
「甘く見ちゃいけない。今回の敵は『虚無』だ。人の心にある隙間に入り込んで、希望を食いつくす。私が……私が変身して食い止めないと」
「はいはい、変身ね」
未優は乱暴にその手を振りほどいた。
「変身してどうするの。腰も痛いんでしょ。ご飯食べて、薬飲んで、寝て。私、明日も朝からバイトなんだから」
冷たい言葉が出た。自分でも嫌になるくらい、刺々しい声だった。
キヨは悲しげに目を伏せ、小さく呟いた。
「……すまないねぇ。私が魔法を使えれば、こんなことには」
「魔法なんてないよ。現実はこれだけ。この四畳半が世界の全部」
未優は狭く薄暗い部屋を見回した。
父は未優が幼い頃に借金を残して蒸発し、母は過労で体を壊して入院中だ。生活保護と未優のバイト代、そしてキヨの僅かな年金。それが未優を構成する成分だった。
ヤングケアラー。
学校の先生は同情的な目でそう呼ぶ。可哀想に、と。でも、名前がついたところで何が変わるわけでもない。
おむつを替えて、体を拭いて、食事を食べさせる。その繰り返しの中で、未優の心は摩耗し、透明になっていく気がした。
ふと、仏壇の横にある古いアルバムが目に入った。
背表紙が取れかけたそれを開く。色あせた写真の中で、十年前のキヨが笑っていた。
あの頃の祖母は、強くて、大きかった。
母が入院した夜、泣きじゃくる未優を背負って、「大丈夫だよ、ばあちゃんがついてるからね」と一晩中あやしてくれた背中。
小学校でいじめられた時、相手の家に乗り込んで啖呵を切ってくれた姿。
『未優はばあちゃんの宝物だ。誰にも傷つけさせやしないよ』
そう言って抱きしめてくれた腕の温かさを、未優は覚えている。魔法使いみたいに、どんなトラブルも解決してくれるスーパーおばあちゃんだった。
それが、どうして。
目の前にいるのは、失禁を恐れておむつを履き、見えないお化けに怯えるだけの小さくなった老婆だ。
時間は残酷だ。愛も尊敬も、介護という泥沼の中で少しずつ腐っていく。
未優はアルバムを乱暴に閉じた。過去を振り返っても、惨めになるだけだ。
◆
その夜、嵐が来た。
予報になかった激しい雷雨が、団地の窓ガラスを暴力的に叩きつけた。古びたアルミサッシが悲鳴を上げ、隙間風が部屋の空気を冷やす。
未優は浅い眠りの中で、ガタガタという不穏な音を聞いて目を覚ました。
時計を見ると、午前二時を過ぎている。
雷光が部屋を一瞬、青白く染める。
隣の布団が空だった。
「おばあちゃん!」
心臓が跳ねた。徘徊だ。雨の中、外に出て行ってしまったらどうする。四階から落ちでもしたら。
跳ね起きてリビングへ向かう。暗闇の中、ベランダの窓際に立つ人影があった。
キヨだった。
彼女は窓を全開にして、吹き込む雨風を全身に浴びていた。パジャマはずぶ濡れで肌に張り付き、足元には水たまりができている。
「何してんの! 風邪ひくでしょ! 戻って!」
未優は駆け寄り、窓を閉めようとした。だが、キヨは動かない。
その手には、玄関にあったビニール傘が握られていた。骨が一本折れてテープで補修された、コンビニで買った五百円の傘だ。
「下がっておいで、未優」
キヨの声は、夕食の時とは別人のように凛としていた。背筋が伸び、濁っていた瞳には鋭い光が宿っている。
「ついに『将軍』がお出ましだ。この嵐はただの気象現象じゃない。奴の魔力だ」
「何言ってるの、ボケるのもいい加減にしてよ!」
未優が強引に腕を引こうとしたとき、空が裂けるような雷鳴が轟いた。
バリバリバリッ、という音が鼓膜を打つ。近くの変電所に落ちたのか、ふっ、と団地一帯の明かりが消えた。
完全な闇。
その中で、キヨがビニール傘を構えた。剣士のように、あるいは指揮者のように。
「……契約履行。我が魂を魔力へ変換。対象、第四種特異災害」
キヨが低い声で詠唱のようなものを呟く。
その瞬間、未優は見た。
暗闇の中で、キヨの持つボロボロのビニール傘の先端が、微かに青白く発光したのを。
いや、見間違いだ。雷の残像だ。未優は頭を振った。
しかし、キヨは畳を強く踏みしめ、見えない「何か」に向かって傘を突き出した。
「させないよ! この子の未来は、誰にも食わせない!」
キヨの気迫に、未優は言葉を失った。
普段はトイレに行くのも手すりが必要な老婆が、今は嵐に立ち向かう戦士のように仁王立ちしている。
窓の外、雨のカーテンの向こうに、団地の給水塔が黒々とそびえ立っているのが見えた。
未優の目に、奇妙なものが映った。
給水塔の影が、巨大な人の形をして蠢いている。そこから溢れ出した黒い霧のようなものが、触手のように四〇四号室へ伸びてきていた。
「……え?」
未優は目をこすった。恐怖と寝不足が見せる幻覚か。
黒い霧は窓の隙間から、まるで生き物のように侵入しようとしていた。それは不定形で、それでいて強烈な「圧」を持っていた。
霧の一部が変化し、顔のような形になる。
それは、未優がよく知っている顔だった。
バイト先の店長が、口を歪めて笑っている。『お前は一生、底辺だ』
進路指導室の担任教師が無感情に見下ろしている。『推薦は無理だと言っただろう』
未読無視をする同級生たちがヒソヒソと噂している。『あの子の服、いつも同じだよね』『貧乏くさい』
ポストに入っていた督促状が、赤い紙吹雪のように舞い散る幻影が見えた。
これは、未優が日々感じている息苦しさそのものだった。
自分を押しつぶそうとする社会の重圧、逃げ場のない閉塞感、将来への絶望。それらが凝縮されたような、粘り気のある闇。
「ひっ……」
未優は腰を抜かした。あれに触れられたら、心が壊れてしまう。二度と立ち上がれなくなる。直感的にそう思った。
だが、キヨは退かなかった。
「大丈夫だ。お前は後ろに隠れていなさい」
キヨは震える手で傘を開いた。バッ、という音が室内に響く。
「私はね、未優。若い頃、魔法少女だったんだよ」
唐突な告白だった。嵐の音に混じって、その声は静かに、けれど確かに届いた。
「世界を救う代わりに、私は一番大事なものを対価として支払った。それが『幸せな老後』さ。愛する人との平穏な日々、健康な体、そして……鮮明な記憶。それらを引き換えに、私は力を借りた」
キヨが傘を振るうたびに、青白い火花のようなものが散る。
黒い霧が傘に弾かれ、ジューッという音を立てて蒸発していく。だが霧は次々と湧き出し、キヨを飲み込もうとする。
「弾が足りないねぇ……なら、装填だ」
キヨが悲しげに、けれど決意を込めて呟いた。
「未優が、初めて立った日の思い出。……装填」
傘が強く輝く。キヨの目から一筋の涙がこぼれ、光となって傘に吸い込まれていく。
ドォン!
光の弾丸が放たれ、霧の一部を吹き飛ばした。
未優はハッとした。
祖母の認知症が進むたびに、彼女は「何か」と戦っていると言っていた。
あれは妄想ではなかったのか。
彼女は、自分の記憶――大切にしまっていた宝石のような思い出たちを、弾丸として込めて、迫りくる「絶望」という怪物を撃ち払っていたのか。
今日、一瞬私の名前を忘れたのも、昨夜の戦いで「私の名前」の一部を弾丸にしてしまったからなのか。
「あぁ、まだ来るか……なら、次はこれだ」
キヨは躊躇いなく次の記憶を取り出す。
「未優が小学校の入学式で、ランドセルを背負って笑った顔。……装填」
また一つ、光が放たれる。
その光景が、未優の脳裏にもフラッシュバックした。桜の下、真新しいランドセル。隣で誇らしげに笑う祖母。あの日、祖母は「大きくなったねぇ」と泣いていた。あんなに大切にしていた思い出を、彼女は今、トリガーを引いて撃ち尽くそうとしている。
「やめて、おばあちゃん!」
未優はキヨの背中に抱きついた。濡れたパジャマが冷たい。体は小さく、震えていた。
「もういいよ、戦わなくていいよ! 記憶を消さないで! 私を忘れないでよ!」
涙が溢れて止まらなかった。
辛い現実に耐えられず、祖母を邪魔者扱いしていた自分。けれど、祖母はこの理不尽な世界から未優を守るために、たった一人で、誰にも知られず戦い続けていたのだ。この四〇四号室という最前線で。
「……未優か?」
キヨの手が止まる。その隙に、黒い霧が二人の足元に絡みついた。
冷たい。氷のように冷たい絶望が、心臓を鷲掴みにする。
『お前になにができる?』
霧の中から声が聞こえた。
『一生この団地から出られない。親と同じように、お前もここで朽ちていくんだ』
『お前は誰からも必要とされていない』
無数の呪詛の声。
それは未優自身が、毎晩布団の中で自分にかけていた呪いの言葉だった。貧困の連鎖が、未優を離さない。
未優は膝から崩れ落ちそうになった。もう、楽になりたい。このまま闇に溶けてしまえば、明日のバイトに行かなくて済む。
その時、温かい手が未優の頭に置かれた。
しわだらけの、節くれだった手。何千回、何万回とオムツを替え、未優の手を引いてくれた手。
「未優。魔法っていうのはね、願う力だよ」
キヨが優しく言った。
「現実は厳しい。意地悪で、汚くて、救いようがないかもしれない。でもね、だからこそ私たちは願うんだ。明日はきっといい日になる、って。その根拠のない思い込みこそが、最強の魔法なんだよ」
キヨは傘を未優に手渡した。
「おやり。お前なら撃てる。お前の未来は、お前が切り開くんだ」
未優は震える手で、折れかけたビニール傘を握りしめた。
ただの傘だ。コンビニで買った、どこにでもある安物の傘。
でも、祖母の手から渡されたそれは、確かに熱を帯びていた。祖母が命を削って守ってきたバトンだ。
黒い霧が鎌首をもたげ、二人を飲み込もうとする。その中心には、未優自身の「諦め」の顔があった。
未優は奥歯を噛みしめ、叫んだ。
「ふざけるな!」
私はまだ十七歳だ。まだ何も始まっていない。こんなカビ臭い部屋で、絶望になんて食われてたまるか。
「私は、生きてやる! ここから出て行って、幸せになってやるんだ!」
未優は渾身の力で傘を突き出した。
その先端が、黒い霧の核を貫く。
カッ!
視界が真っ白に染まった。
稲妻が落ちたような衝撃。あるいは、心の中で何かが爆ぜた音。
光の中で、未優は見た。
若かりし頃の祖母――フリルのついた不思議な衣装を着て、ステッキを構えて微笑む少女の姿を。彼女が、未優にウインクをした。
『よくやったね、四〇四号室の新しい魔法少女』
光の粒子が部屋中を舞い、黒い霧を浄化していく。
腐った臭いが消え、代わりに日向のような、懐かしい匂いが満ちた。
◆
気がつくと、朝だった。
未優はリビングの床で、キヨと折り重なるようにして眠っていた。
窓の外からは、雀の鳴き声と、通勤する人々の足音が聞こえる。雨は上がり、雲の切れ間から朝日が差し込んでいた。
部屋はいつも通りだった。
散らかった雑誌。飲みかけのペットボトル。壁のシミ。そして、介護特有の澱んだ空気。
昨夜の光景は、すべて夢だったのかもしれない。停電と雷雨が見せた、集団ヒステリーのような幻覚。
「……うぅ」
キヨが呻き声を上げて目を覚ました。
「おばあちゃん」
未優が声をかけると、キヨはぼんやりとした目でこちらを見た。その瞳は、昨日よりもずっと澄んでいて、そして恐ろしいほどに無垢だった。
そこに、かつての「戦う意志」も「苦悩」も見当たらなかった。
「あぁ、あんた……誰だったかねぇ」
心臓が早鐘を打つ。
「おばあちゃん、私だよ、未優だよ。孫の未優」
必死に呼びかけるが、キヨはきょとんとしている。
「ミユ……? はて、聞いたことのない名前だねぇ。親切な娘さんだ」
未優の目から、ぽろりと涙が落ちた。
昨夜までは、調子の悪いときだけ忘れていただけだった。普段はちゃんと私のことを覚えていてくれた。けれど、今は違う。完全に消えてしまっていた。
昨夜の最後の一撃。あれに装填されていたのは、「孫の未優」という存在そのものの記憶だったのだ。
彼女は私を守るために、私を忘れることを選んだ。自らの歴史を白紙に戻してでも、私の未来を守ろうとしたのだ。
「ご飯、まだかねぇ。お腹が空いたよ」
キヨは無邪気な子供のような顔で笑った。
未優は涙を袖で乱暴に拭った。
泣いている場合じゃない。彼女が命がけで守った日常を、私が続けなきゃいけない。
部屋の中は奇妙なほど清々しかった。
未優の心に巣食っていた、鉛のような重さが消えている。現実は何一つ変わっていない。母の入院も、貧乏も、介護も続く。督促状もポストに入ったままだろう。
けれど、不思議と「なんとかなる」という気がした。
未優は立ち上がり、床に落ちていたビニール傘を拾い上げた。
骨が折れ、ボロボロになった傘。
けれど、その先端には、焦げたような跡と、微かに虹色に光る粒子が付着していた。
「……ありがとう」
未優は小さく呟き、傘を丁寧に畳んだ。それはもう、ただの雨具ではなく、託された聖剣のように見えた。
「ご飯にしようか。今日は卵焼き、甘いやつにしてあげる」
「おぉ、卵焼きかぇ。それは豪勢だねぇ」
キヨが嬉しそうに手を叩く。
未優は冷蔵庫を開けた。空っぽに近い冷蔵庫だけど、卵は二つある。
これからバイトに行って、また店長に怒鳴られるだろう。役所に行って手続きもしなければならない。この先も、きっと何度も「黒い霧」はやってくる。
それでも、未優はもう、夜を恐れてはいなかった。
この四〇四号室には、かつて世界を救った英雄が眠っている。そしてその意志と力を受け継いだ自分が、ここに立っている。
未優はエプロンの紐をきゅっと結んだ。
そして菜箸を手に取り、くるりと回して構える。
それは、この小さな世界を守るための、新しい魔法のステッキだ。
「……美味しくなあれ」
小さく呪文を唱え、フライパンに卵液を流し込む。
ジュッという音が、新しい一日の始まりを告げた。
四〇四号室の魔法少女 月読二兎 @29432t0
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