25年前の思い出
スライムさん
第1話
これはもう25年も前の話になる。私は高校生だった。部活動は演劇部に入ったが、舞台に立って演じるのではなく、裏方をやるという立ち位置だった。
演劇部にも大会というのがあり、夏休み明けの9月か10月か忘れたがその辺の時期に地区大会があった。地区内にある劇場に5,6校が集まり60分以内の劇をやる。その中から優秀な2校が県大会に進む。県大会でも上位2校が地方大会に進むという仕組みだ。
私の高校は地区大会止まりだったが、勉強の為に県大会の手伝いに行った。というのも翌年、地方大会がうちの県で行われるので、県大会の時に、県内の各高校から予行練習として裏方を見学できたのだ。県内の色々な高校から人が集まった。この時に色んな人に出会えたというのが、今考えてみたらとても幸運なことだったように思う。
その時出会った一人に、県北の男子高で一つ上のTさんがいた。ちなみに私は県南在中だ。
気が合って何でも話していたような気がするが、もはや何を話したかは覚えてはいない。ただただ、あの時の楽しかったという思いと、儚さを孕んだ一度しかない瞬間という記憶だけが残っている。
Tさんがネットにチャットルームを設置してくれたので、そこで話すのが日常になった。25年前なのでSNSは無かったし、チャットもテキストのみだった。ブラウザのページもインタラクティブに反応する時代ではなかったので、相手のテキストが来たかどうかは手動で更新して確認していた。今の時代から見たらなんて不便なんだと思うが、Tさんと繋がる場があるというだけで楽しかったのだ。
Tさんのチャットルームだったか、一緒に観に行った劇だったか思い出せないのだが、Eさんという、おじさんとすぐに出会った。年齢はちゃんと聞いたことがなかったけど、頭に白いものが混じり始めていたので、少なくとも40代半ばは過ぎていたように思う。Eさんは観劇が趣味らしくて、プロ演劇部から高校生の地区大会のような小さい劇まで何でも観ていた。そんな中だったので、TさんはEさんと知り合ったようで、私もその中に加わることになった。
Eさんに連れられて、色んなものを観に行った。大学の演劇部の公演とか、片道3時間電車に乗って県内最北端の高校に行って、その演劇部の公演とか。今週末はここでこれがあるから行こうぜ的な話をTさんのチャットルームでいつもやっていた。
演劇関係者の年齢層は幅広くて、下は高校生から上は普通に働いている社会人まで色んな層の人が居た。不思議なもので、「高校で演劇やってるんですー」ってな顔をしてると、Eさんのような、おじさん達が可愛がってくれた。(ロイヤルホストに初めて入ってパフェを奢ってもらったり。パフェ大きかったなぁ。)
例に漏れず、Eさんにも色々奢ってもらった。もう時効だけど、お酒を一緒に飲むことも多かった。(弁解しておくと、まず自宅で親の前で酒を飲んで、アルコールに十分耐性があることを確認したのよ。それで、飲みに行くときはちゃんと「Eさんに誘われたので、飲んできます!」って言って行ってたからね。)
ビール専門店的なところに呼ばれて、
「何飲む?」
と聞かれて
「とりあえずビール」
と言ったら
「ここにあるのは全部ビールだよ!」
とコントみたいなことをやっていた。そりゃ、そういうお店があるのを知るわけもないので。
今考えると凄いことをしてたなと思う。いい歳したおじさんが、高校生を飲みに誘っていたのだから。しかも私にそんなお金もないので、毎回Eさんの奢りだ。私の「また女の子に振られたんですよぉ!」みたいな話を肴にしてEさんは飲んでいたように思う。それがEさんにとって楽しかったんじゃないかと、今になって思う。
自分も同じような年齢になってきたので、なんとなく感覚が分かり始めた。普通に過ごしていたら、異なる年代の人と交流することなんて、まず無い。だから演劇という趣味で繋がった私のような存在は貴重だったのではないか。一回一万円程の奢りで楽しい話ができるなら安く感じる。そんな気持ちだったのかもしれない。いやぁ、趣味で繋がるというのは凄く良い。
だから、もし今の自分が同じような立場になったら、若い人たちには奢ろう。これはEさんから貰った分を返しているだけなのだ。そしてもし、私が奢った若い人たちが同じような立場になった時に、同じようにしてくれれば、思いが連鎖してくれるかもしれない。
(あ、今の時代、アルコールは問題になりそうだから駄目だね。)
25年前の思い出 スライムさん @slaimsan
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