アホ・徒然草
船堀パロ
第1話
フゥン、ケフェインリス。ケフェインリスアエスコォヒィ。ケフェインの無いコォヒィだ。僕は大学で英語を学んでいるから、この程度の単語は容易く読めてしまう。
そしてコイツ面妖だ。実に怪しげだ。
僕は良く知り合いとアイデンテティというモノを語り合う。語り合うなどとあたかも友人と行う桃鉄の様にソレを言ったが、僕の方は大抵その討論という名の政治集会のように一方的に意見を喚き散らす行為にはてんで乗り気でなくて、偉い偉い相手方の説法をまるで馬のように聞き流し、へぇだのふぅんだの頑張れば猫でもできそうなテキトウな相槌を打って、コーヒーの代金を奢って貰うのデアル。僕は吝嗇なのだ。学の無いキミたちにも分かり易く言ってやると、ケチなのだ。悪く言えば古事記(時代錯誤なコンプライアンスによる伏字)だ。誘いが無ければこんな洒落たサテンに来るようなことはせぬ。
そんなこんなで今日もアイデンテティを語り合うよう命じられ、しめしめとコーヒー一杯を楽しみに付いて来た訳である。
僕がメニュゥ表にその不思議極まれりな文字列を見つけたのはそんな時であった。どうしてかこのサテンは日本人の客を入れる気が無いのか、汚らしいミミズのような筆記体でメニュゥの文字が書かれているのである。その為に、非常に読みづらいことこの上ない。僕がその文字列を発見するのに量の指では足らぬほどの来店回数を要したのは、こういう理由なのである。
「一寸、テンインサン」
僕は流暢な英語で長身のウェイタァを呼びつけた。
「ヘイラッシャイ」
下手くそな日本語で金髪青目の外人が言った。魚屋でもあるまい。
「コの、ケフェインリスアェスコォヒィトは、℃のヨウなMONOデショウか¿」
店員は僕の英語の上手さに感心したのか、何やら顔を顰めていた。
「アー、アェスコォヒィ?」
「イェ」
「ソレ、ハ、ケフェインリスアェスコォヒィデス」
何を言っているのか分からん。
「イェ」
ので再び繰り返した。
するとウェイタァはすごすごと首を傾げながら店の奥に戻っていく。私の前に座っている友人は注文の機会を逃がしてしまっていた。その時の顔は阿保面である。
テェブルゥに置かれた角砂糖の分子を観察していると、百二十個目あたりでようやっと店員がケフェインリスアェスコォヒィを持ってきた。
僕はそれを飲んで一言、
「麦茶だ是!」
アホ・徒然草 船堀パロ @HUNABORI_PARO
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