蒐集家Kの未整理ファイル：ケース202X-08「笑う隙間」

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宛先： [オカルト雑誌編集部 代表アドレス]

件名：原稿の納品について（訂正版）

添付ファイル：笑いギャップ完了.doc

【この記事】

お世話になっております。ライターの〇〇です。

先日ご相談していた「蒐集家Kの未整理ファイル」の原稿が完成しましたので、納品いたします。

以前のプロットでは、怪異への恐怖や葛藤を主軸にしていましたが、全面的に書き直しました。

恐怖などという非合理的な感情は、読者にとってノイズでしかありませんから。

今回の記事は、とても読みやすく、無駄のない、完璧な構成になっています。

これを読んだ読者の皆さんも、きっと「隙間」の素晴らしさに気づくはずです。

人間は余計なものを抱え込みすぎています。

記憶、感情、肉体、名前。

一度すべて脱ぎ捨てて、空っぽの隙間になれば、こんなにも楽になれるのですから。

追伸：

編集長、あなたのデスクの引き出しの奥。

そこにも素敵な「隙間」がありますね。

今夜、ご挨拶に伺います。

【読者への警告】

（※ここから先は、筆者の意図しない文字列が勝手に記述されている）

もし、あなたが今、ふと背後に気配を感じたり、

スマホの画面と保護フィルムの間の気泡が気になったり、

自分の呼吸のタイミングが一瞬わからなくなったりしたら。

決して、確認してはいけません。

振り返ってはいけません。

隙間を覗き込んではいけません。

覗いた瞬間、視線が合います。

向こう側でも、あなたが覗いてくるのを待っています。

ほら。

あなたの部屋の壁のシミ。

いつの間にか、笑っているように見えませんか？

「……こ、ん、に、ち、は」

（終了）