コミック書評:『神様、おろします』(1000夜連続11夜目)

sue1000

『神様、おろします』

――混沌を束ね、合意を生みだす儀式エンタメ


『神様、おろします』は、ビジネスパーソン必読の"合意形成エンタメコミック"だ。主人公・斎宮空也は、肩書きは“儀式プロデューサー”、別名“神媒師”。無神論者で超合理主義なのに、場がうまく回る瞬間を「神が降りる」と呼び、依頼者の要望に応じて合意形成へと導いてく。臨時助手の江波アカリは、特定の信仰は持たないが神仏を信じるタイプで、語り部として「混沌から統一を生む」斎宮の現場を目撃していく。


各話のクライマックス――神が降りた瞬間とは、混沌とした場のなかで、複数の人の無意識がとある1点へと集約し合意が立ち上がる——その“立ち上がり”を彼は「神」と呼ぶ。外から与えられる権威ではなく、儀式を通して内側から湧きあがる集合的な現象。それが無神論者の彼にとっての「神」であり、ゆえに「これはただの催眠です」と嘯きさえする。アカリはその言葉に眉をひそめるが、現場で空気が噛み合う瞬間を見るたび、その技術におもわず息をのむ。


第1話は、離職者が続くあるスタートアップ企業の再起の式の依頼が舞い込む。斎宮はありがちな社是朗読を切り捨て「3分間の沈黙」という一手で場の空気を一瞬で入れ替える。派手さはないシンプルな演出だが、それでバラバラだった参加者の呼吸が収束していき、それぞれが内面と向き合うことを経て合意へと至っていく。その様は深淵にして壮観だ。


他にも「PTAの会議」や「葬儀」など、さまざまなシーンで斎宮は次々を神をおろしていく。依頼者の意図、そして参加者たちの思いを受け止めながら、理性的な説得などではなく肉体的な儀式を通じて解決を図るアプローチは、もしかしたらより人間的・本質的なのかもしれない。1巻終盤では、事故会見と追悼を同時にやりたいという依頼が届く。弔いと広報、どこで線を引くのか。現実でもありそうなリアルなシーンを提示して1巻は終わり次巻への期待が高まる。


斎宮の職業はこの世に存在しない“儀式プロデューサー”、しかも彼の技術は一見して気づかれにくい。だが、作中で描かれる場面は、読者が必ず一度は経験したことのある場であり、フィクションでありながらもリアリティに溢れている。儀式(リズムや装飾、合図)がどう人の無意識を束ね、合意へ導くのか、その仕組みを別角度から追体験できるというまったく新しいエンタメ体験だ。


次の会議、あなたは何を外し、どこに布をかけ、いつ拍手をする?きっと読後にその段取りが変わるはずだ。





というマンガが存在するテイで書評を書いてみた。

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