電話のなる音・挑戦編~危ないのでマネしないでね~

泊波 佳壱(Kaichi Tonami)

電話のなる音・挑戦編~危ないのでマネしないでね~

 家の電話を解約した人が多い。

 携帯・スマホが普及してコストの面でも、それから家族の誰かが出て取り次いで……という、そういう昔懐かしい風景も、なんだか双方にばつがわるい。

 そんなことだから、おっくうで環境変化に即応しないでいるお年寄りばかりが家の電話に出るという状況が生まれている。

 さらに困ったことに、昔ながらに電話帳に載せていたりすると、電話番号と苗字と住所までつらつらと一覧でわかってしまうから、犯罪集団のターゲットとして狙い放題になってしまっている。

 

 このお話しは、会話のやり取りだけで、そういった問題にどこまで対処できるか挑戦してみた記録である。


 最近であれば、いきなり知らない番号から携帯にかかってきて、怪しい相手なら、すぐさま切って、ブロックと通報、この一手。とにかく気を付けて、マネしないでほしいのだが、挑戦してみた。



 電話のなる音がリビングに響く。さぁ、挑戦開始


「はい」


「こんにちは、※◎△★彡証券の営業担当で、Qと申します」

とても物腰の柔らかな、穏やかな感じの口調で、Qと名乗る男は話しかけてきた。

「A様のお宅で間違いないですか?」


「はい、そうですが、なんでわかったんですか」


「いまお客様がお電話で」

こんな嘘を言ってくる時点で~チーン~と電話を切りましょう。ここはあえて挑戦なので、心の声『いやいや名乗って無いし、適当だな』と思いながらも、挑戦を続けてみる、あくまでこちらも優しく丁寧な声で。


「えーはいしか言ってませんよ、そちらの記憶違いでしょ、誰から聞きました?」


「そうでしたか、それは失礼しました。実はA様のお友達で、お名前はご本人の希望で明かしてほしくないという事なのですが、あ、そのかたも弊社のお客様でして、その方が、とても弊社サービスを気に入ってくださいまして、それならお友達のAさんにも紹介してあげたいと…」この後、反応を待つ相手の間


「そうですか、私の友はみんな、いいものを紹介してくれるなら、本人からまず一報くれる奴ばっかりなんですが、まあ、なにか急いでたのかな、で、誰ですか?」

 少し間があった、対応を考えたのだろう


「あの、その方から『私の場合は、名乗らない方が伝わるし、それでAさんはわかるから』と、そう伝えてほしいとのことでした」

『おいおい、考えたなぁ、まるで愛人かなにか、後ろめたさに付け込もうって感じか?』


一つの「おれおれ」ロジックだなぁ……と感心しつつ、ここまでくれば必殺の対処方法は、

「残念、Aじゃないよ、いいかげんすぎ」~チーン~なんて手が有って、そうすると相手は他の名前を探すなど、多少は掛け直しにくくなる。

もっとも、もっと簡単なのはいつだって~チーン~だけなのだが。


まあ、今回は挑戦なので続けてみる。あくまでこちらも優しく丁寧な声で。

「ほ~そうきましたか、なるほどね」『なははこの発言は~信じてないぜ~と伝えてるんだが、まあひっかけないといけないと相手はそっちばかり考えてるから、こちらの不信感は逆に「もっと信用させなきゃ」って反応になりがちなんだよな~』


案の定、相手はすぐにたたみこんできた。

「実は、そのお友達も喜んでくださった、今回Aさんにお勧めしたいのは、先物取引なんです。わかりますか先物取引」


「は、はあ、まあ一応は」ここはあえて曖昧に答えてみる。


「さすがですAさん、株式指数先物とかオプション取引とか、いろんなものを扱ってますが、今回はわかりやすく、しかもちょうど今大きなもうけが見込める先物取引で、いくつかの銘柄をご紹介してます」


「はあ」


「今ですと3種類おすすめがありまして、1・貴金属・宝石類、2・資源材料、3・農作物 Aさんはどれが一番興味がありますか?」


『キター、本物の証券会社なら、いきなり電話だけでこんなこと言ってこないって、話しまとめて、「では今から、〇〇の口座に振り込んで」とかなるパターンだな、あぶない』

 これだけ怪しくなってても、例えばこのやり取りを録音してどこかに駆け込んでも、まあ「それだけでは対処が~」とか言われがち。まったく物騒な世の中だ。


長く対応するほど、相手は狙いやすいと思って、より詳しくこちらの情報を引き出したり人が入れ替わって、後日違うネタで掛けてきたり、最悪な場合、金目のものが有ると思われると強盗に入られるなんてことにもなりかねない。


自分の情報を一切出さずに、怪しいと思ったら~チーン~

「いりません」とか「まにあってます」~チーン~を推奨する向きもあるが、いかにも体育会系な男の声で言うのなら多少効果はあるかもしれないが、声を出すこと自体、かなりの個人情報をさらすことになるので、怪しいと思った瞬間、すぐに無言で~チーン~が吉。


どうしたものかなーと思案しながら無言のまま繋いだままにしていると、それだけでもちょっと危険。無言だと電話機の周り5メートル圏内くらいは音を拾うので、背景音で情報を与えてしまう。家庭環境で半径5メートルの円はかなり広い。

やはり、怪しいと思った瞬間、すぐに無言で~チーン~と電話を切った方がいい。


まあ、今回は挑戦なので続けてみる、あくまでこちらも優しく丁寧な声で。

「その中だと3番ですね」最後の必殺の断り方を思いついたので、ここはあえて急に元気に答えてみる。


すると相手も

「さすがAさん、よくご存じですねぇパッと見人気がない分、ここが今一番儲けが大きいんです。今一番のおすすめの品物は小麦です」


「へー小麦ですかぁ聞きたいなぁ、じゃあ詳しい取り扱い最小単位と、その単位あたりの金額から教えてください」


「え、あ、ちょっと待ってくださいね、いま資料出しますね」


『いやいや「え」じゃなくて、正確な関係情報とか、ネタとして用意してないのかな?最終金額さえ提示できれば「一か月で運が良ければ倍やそれ以上に……」とかいって細かい設定すっ飛ばしちゃう気なのか、ますます嘘がひどすぎなんだけど……』


 本物の証券会社なら、一度や二度はその会社の窓口で担当が挨拶してそこからしか取引案件の話しは始まらないし、会ってパンフで会社情報を提示とか法律的に必要だし、紙面やタブレットかPCなどでその企業のサイトを見せるなど、詳細なリアルタイム情報の開示をするなど、そういうの全部必要だからー。

 

 つくづく、電話だけでお金案件とか、詐欺しかない、すぐに~チーン~と電話切って!


まあ、今回は挑戦なので続けてみる、あくまでこちらも優しく丁寧な声で。『もうこのくだりいいかな。』


「それ、上がりそうですか」


「実際、こういう取引に絶対はないんですが、ここだけの話し、これは絶対ですよ」


キター、もう『絶対って絶対ダメ』なやつ


「それ信用していいの?」


「はい」


「御社を信用していい?」


「もちろんです、〇〇年創業で都内に本社が、ああだ、こうだ……」


「こちらのことも、相互に信用の上での取引ですよね」


「もちろんです」


「わかりました、では取引しましょう。サイト(期間)は一か月でいいですか」


「はい、そうしたらまずは・・・」その言葉をさえぎって


「それではまず、ウリから入ります」


「え、あ?」


「直近がたぶん550くらいですか?今現在の正確な値段と、一連の手続き開始資料送ってくれますか?」


「あの~まずは買って頂いて、値が上がるのでそれをお返しするんです」


「まあ、上がる下がるは相場だから、都度まさに変動しますよね

とにかく、今回わたしはウリから入ります」


さあ、これで電話切ってくるだろ、どんな捨て台詞?そう思っている間も、たぶん電話口の向こうで「なんだか『ウリから』って言われた」とか相談してるのか時間が有って

「わかりました、それでは初めてのお取り引きなのでお手続きの費用がですね……」

なるほどそうきたか


「ええ、わかりますよ。証券会社さんの儲けは取引手数料ですから、実際にお金が動いた時に、そこから法に基づいた範囲でしっかり引き去って下さいね。

お取引口座はどこに用意していただけますか?」


「はい、そのためにも、まずは最初の費用をですね……」


あああ、むこうが面倒になってるみたい、なのにながく手をかけたから、終わらせる踏ん切りがつかない?じゃ、こっちから引導わたしてあげよう。


「値上がりは本当に確かなんですか?」


「はい、絶対です」


「そうですか、じゃあウインウインで、まずはそちらにしっかり儲けさせてあげますよ」


「え、それはなんと?」


「実は、親戚が農家で、小麦は今倉庫にたしか何トンか有るんです。あ、場所は他県なんですけど、電話で物は揃うので。値上がり確実なら、いくらか今すぐ、今の相場で買い取ってくださいよ。なるべく多く買ってくれる方が、うちは助かるー」


~チーン~

むこうから切られちゃった。無言かよ。



(C),2025 泊波佳壱(Kaichi Tonami).

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電話のなる音・挑戦編~危ないのでマネしないでね~ 泊波 佳壱(Kaichi Tonami) @TonamiKaichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ