第5話 レアの温もり

「なんだ? 家出がそんなに可笑しいことか?」


 絶句している俺に不満げなレア。機嫌悪そうに睨みをかせている。


「いや、だって……。家出の規模が大きすぎる。――ここはレアにとって異世界だぞ?」


「良いじゃないか。旅行だと思えば、気も楽になる。……それにわらわが住んでいた魔王城は厳しすぎて居心地が悪いのだ」


「例えば?」


「宿題が多い」


「……」


「今、無礼なことを考えなかったか?」


「ごめんって! だからその黒い手を仕舞ってください!」


「忘れているようだが、吾は悠久の時を生きる魔族の王なのだぞ。敬意を払え」


 彼女は呆れたように溜息を零す。


「宿題ってどんなことをするの?」


「主に領土の運営だな。魔族が住んでいる大陸と人間が住んでいる大陸との貿易だったり、領地の視察だったり。まぁとにかく、やることが山積みで遊ぶ暇がないのだ。それは吾にとって辛すぎる。……というわけで、自分で異世界へ渡る魔法を生み出し、こうして家出しているわけだ」


「へぇ。ちゃんと王様してるんだね」


「だから何度も言ってるだろ。吾は魔族の王だと」


 現代で言う所の、総理大臣みたいな。俺は素直に感心した。


 そして改めて、レアの見た目と年齢には差があることを知った。喋りも知的で、だからこそ頭脳も聡明なのだろう。


「いつまでこの世界に居るの?」


「未定だな。この日本とやらに飽きたら異世界に帰る」


「……そうなのか」


 分かり易く肩を落とす俺。それを見たレアはふっと微笑む。


「可愛い奴だな、貴様は」


「自分でもよく分からないんだ。出会って間もないのに、寂しいって思うのは変だと分かっているんだけど……」


「この日本とやらは楽しいことで溢れているそうじゃないか。吾が読んでいる漫画や、貴様が言っていたアニメ? もある。……だから安心しろ。当分は帰らないつもりだ」


 長年の引きこもりによって、こんなにも弱弱しい人間になってしまった。なんとなく人が怖くなって信じられなくなり、せっかく入った高校も段々と行けなくなって。


 だから長い間、人と関わってない。話すのは母親とコンビニの店員くらい。


 人とのつながりなんて必要ないと考えていたが、レアと出会った今の俺はどうやら『寂しい』という感情を抱いているらしい。我ながら女々しい。情けない男だ。


 そんな俺を優しく抱き締める彼女。久しぶりに人の温もりに包まれ、心が安らいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

ニートとロリ魔王のグルメ生活 ナマムギ @namamugi333

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ