消費

白川津 中々

「給料安いなぁ」


 振り込まれた25万円の給料に、そう呟いてしまった。

 5年前の俺は額面18万。手取り15万で生活していた。生きていくだけで消える金の厚みは着古したパーカーよりも薄く心許ない。それが仕事を変えて、一気に貰える金額が増えて、まるで世界が変わったように思えた。コンビニで金額を気にせずに物を買える。食事を我慢しなくてもいい。この上なく幸せで満たされていたはずなのに、今はもう、物足りなくなってしまっている。求めるものの質が上がって、良い飯を食い、良い品を買い、どこかに出かけるという事を続けていると、収入が増えたのに、以前よりも生活が厳しく感じられるのだ。


「あと5万……いや、3万あれば、貯金もできるのになぁ」


 5年前は月に1万貯めていたが、できなくなってしまっていた。それどころか少しずつ崩していて、いまはもうほとんど残っていない。何に使ったのかは……


「転職かなぁ……」


 そんな気もないのにスマートフォンを眺めていると、いつの間にかショート動画をスクロールしている。無意味な時間、無意味な行動で、どんどんと鬱屈としていく。


俺は自分に今以上の価値はないと知っている。それでもなお多くを求めてしまう強欲が全く不憫で、哀れに思えた。身の丈以上に金を得て、身の丈以上の使い方をしてしまう。金に対する見方、価値観が変わった俺はもう、どれだけ給料が上がっても「金がない」と言い続けるしかないのだろう。ただ欲し、求める。底の抜けた桶に水を注ぐような、不毛な人生だ。


「満たされないなぁ」


 呟いたその言葉は空気と混じってどこかに消えて、また腹底に戻ってくるのだった。


金が欲しい。できるだけ沢山。

もっと、もっと。

 

 

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