「その喧嘩、俺が買ってやる!」オークション

渡貫とゐち

第1話


 良く言えば懐かしい、悪く言えば古臭いアーケードゲームが並んでいた。


 令和にしては、よくぞまあここまで集めたものだと思うようなラインナップである。


 ゲームセンター自体が姿を消しつつある今、規模は小さいものの、昭和と平成に戻ったかのような雰囲気は、当時を生きたおじさんたちの『少年の心』を鷲掴みにするだろう。


 そして、ここは小さな田舎町だった。

 周囲にこれと言った娯楽がない中、地元の子供たちがこの場所へ集まるのは必然とも言えた。


 サブスク含め、最新ゲームに慣れているとは言っても、インディゲームも遊ぶ子たちである。目の前にあれば遊んでみるのが少年だった。


 今日もまた、ほぼ店員がいない無人ゲームセンターに、学生たちが集う――



「おい、ジャンプしてみろ」


 と、これまた古臭い風貌で、まさかのリーゼント姿の青年が、使い古されたセリフを吐いた。

 目の前にいるのは、一回り小さく見えるように、体を丸めた中学生だ。

 怯えたふたりは互いに見合って、『こっちがお金もってます!』と、相手を売り出した。


「は? おまえの方が持ってるだろ!」

「こっちは借りたお金あるしっ、返すよ――これでそっちの方が大金持ちだろ!」


「あ! ずりぃ!! 今ここで返すのはノーカンだろ、認めないぞ!」

「じゃあこのまま一生返さないからなっ!?」


 目の前でわちゃわちゃとけんか(笑)をする中学生。

 腰の入っていないパンチとキックが入り乱れている。本人たちは必死だろうが、リーゼントの高校生からすれば、小動物がじゃれ合っているようにしか見えなかった。


「待て待てオマエら……喧嘩はやめろ。どっちにしろ、オマエらふたりから金を巻き上げるんだから、意味のない喧嘩だっつの」


『ちょっと待ってよ!』


 どちらかひとりが犠牲になれば、残った側は助かる、と勘違いしたのはふたりである。

 いつ、誰が、片方は助けると言った? どちらも財布を差し出してもらうつもりだ。


『横暴だー!』と、けんかしていたことも忘れ、ふたりが協力してデモを起こしていた。

 手を取り合えば倒せる相手だと思われているらしい……。

 リーゼントが威嚇として機能していない。

 ぴきぴき、と、額の血筋が浮き上がる青年である。


「オマエら……調子に乗るなよ?」


 ドスの利いた声に、中学生ふたりが「う、」と下がった。

 互いに相手を盾にしようとして、じりじりと後退していっている。

 下がったのを見て、青年が前に出た。


「おら、ジャンプしてみろ、小銭くらい持ってんだろ?」

「ジャンプしても音は鳴りませんけど!?」


「そ、そうそうっ、だってまだ崩してないし――あ」


「なるほど、札を持ってるのか……金持ちだなあ、オマエら」


 ついつい言ってしまった……、と、ふたりが顔面蒼白になる。


 中学生の全財産なんてたかが知れている。

 八百円ほどあれば満足だった青年だが、札と言われたら、少なくとも千円はあるわけだ。


「その札、よこせ」

「い、嫌だッ、あげるわけねーし!」

「おまえにあげるもんか!!」


「いい度胸だな。つーかふたりとも札なのか? 片方しか持っていなければ、片方の売り言葉はおかしいだろ。やっぱオマエら、喧嘩売ってるよな?」


 さっきから、人を馬鹿にしたような態度が目についていた。

 中学生だから素でやっているだけかと思っていたが、不仲を演じて、年上を馬鹿にしているようにも思えてきた。

 なにより馬鹿にされている、とアンテナが反応したのだ……これは見逃せない。


「う、売ってない! 売ってるのはそっちじゃんか!」

「かか、金がないやつは、帰れ!」


「売ってるなあ……いいぜ、その喧嘩、俺が買ってや、」



「いいや、僕が買うね」



 と、アーケードゲームをプレイしていた青年が声を上げた。


 懐かしのシューティングゲームのラスボスを倒したようで、スコア加算の音が鳴り響いている。……ゆっくりと立ち上がった彼が、二周目に入ったゲーム画面を放置し、近づいてきた。


 糸目の青年だった。


 年齢はリーゼント男とそう変わらなさそうだ。


「その喧嘩、僕が買おう。そうだ、殴り合いは野蛮だから、ゲームでしようじゃないか。あっちに格闘ゲームがある……どうだ、やるかい、少年たち?」


「え、あ、まあ……。殴られるよりは、まあ……」


「金を賭けてもらうけど、いいかな? 殴られるよりはマシだろう?」


 貴重なお小遣いを、別の形で巻き上げられると思った中学生たちが、頷く前に踏みとどまった。ふたり、見合って悩みながら…………、



「その喧嘩、おれも買いたいんだが、乱入してもいいか?」



 今度はイケメンの青年だった。

 高身長で、ファッション雑誌に載っていそうな、整った顔の無個性なイケメンである。

 彼はスポーツゲームを指差した。


「サッカーに、野球、バスケット。体感ゲームもあるね……、それで勝負ってのはどうかな? ああ、お金を巻き上げるつもりはないけど、しかしキミたちの時間は提供してもらうよ――部活の雑よ……――手伝いが欲しくてね。だからその喧嘩、おれが買うよ」


「ざけんな、オマエら……これは先に、俺が買った喧嘩だ!」


「『買おうとした』、喧嘩だろう? まだ、正式に落札されたわけじゃない……。より良い条件を出した者に売る――それはこの子たちの自由じゃないか」


「喧嘩を買うと言ったが、手順を踏む必要はねえんだよ。オマエらの意見は無視で、俺がこいつらを殴って、金を奪っちまえばそれで終いだろ」


「通報するけど」

「やってみろ」


「まあまあ、この子たちも怯えちゃうし、それくらいにしておこう。お兄さんであるおれたちがちゃんとしないとね――とにかく、殴るのはダメだ。ゲームセンターにいるのだから、ゲームで勝負をするのが、この場所の決まりだよ」


「……チッ。ゲームは得意じゃねえんだよなあ……」


「そんな奴がゲームセンターに来てなにがしたいんだい? 練習……するタイプには見えないけどね。まさか、年下から金を巻き上げるためだけに来たって? おいおい……、わざわざゲームセンターにこなくとも、そういうのは学校でやってくれよ、不良生徒くん」


「学校だとチクられるだろうが」


「リスクヘッジを考える頭はあるんだねえ」


 と、中学生からすれば大人の三人が、顔を見合わせて探り合っている。

 ……この騒ぎの落としどころは?


 ……そもそも、ただ遊びに来ただけで、喧嘩を売るつもりは毛頭ないのだが……。

 中学生のふたりはこそこそと逃げようとしたが、糸目の青年に肩を掴まれてしまった。


 よく見ている……糸目なのに。


「さて、少年たち。この三人の中の、誰と喧嘩したい……? いや、言い方を変えるね。誰とゲームで勝負したい?」


「べ、べつに、誰とも……ソロプレイ、したいですし……」

「うんうんっ」


「ふうん? スコアアタックねえ……、確かに、少年側の意見も取り入れるべきだよねえ――よし分かった。スコアアタックで勝負をしよう。なにがいい?」


「あの、だから――」


「おい、あのゲームが面白そうだぞ」


 と、リーゼント男が指差したのは、このゲームセンターの中では比較的新しい、体感型ガンシューティングゲームだった。

 車の運転席へ乗り込み、目の前に設置されているガトリング砲を操作して、森の中にいる化物たちを倒すゲームだ。


 リーゼント男は、顔に出すまいとしているが、やりたそうにそわそわしている。


 中学生ふたりは、そんな様子に毒気を抜かれて、


「じゃあそれ、やりましょう」


「マジか!? ……なら、先にやってくれ、最初は見てる……。観察しておけば後攻が有利にな――っ、これ、ズルじゃねえよな!?」


「りーぜ……お兄さんは初心者ですよね? なら、ハンデとしていいと思いますけど……。あの、負けた人はどうなるんですかね……?」


 おそるおそる、中学生が聞くと、


「あん? あー、そうだな……、じゃあ、一発ギャグでもやればいいんじゃね?」


 既に、金を巻き上げることなど興味がなさそうなリーゼント男だった。

 糸目もイケメンも、彼の様子にお兄さん気質が出てきたようで……。


「まあ、その時に考えようか。ひとまずあれをやってみよう」


 高校生、中学生がまとまってガンシューティングゲームへ。

 先に運転席へ乗り込んだ中学生ふたりが、プレイを開始し、そして――――



「――オマエらっ、あと少しでクリアできるんだろ!? だったらこれ使え、俺の小銭だ――次はぜってぇミスるんじゃねえぞ!?」


『はいッ、任せてください!!』


 リーゼント男が小銭を投入。

 ガトリング砲を握った中学生が、巨大なラスボスへ弾丸を撃ち続ける。体力ゲージはあと少し……、これが第三形態だから、さすがにこれを倒せば、エンディングのはずだ。


「いけ……ッ、倒せオマエら!!」


『もう、ちょッッとぉッ!!』


 そして、ボスの体力ゲージが完全に0となり、ラスボスが倒れた――――

 正真正銘のエンディング画面が出てきて…………完全クリアだった。


 熱くなったリーゼントが、少し垂れてきていた。

 応援で汗だくになったリーゼント男が、中学生たちを後ろから抱きしめる。


「よくやったっ、オマエら! あっちでアイスでも奢ってやる!!」


『はいっ、ありがとうございます!!』


 そうして、三人は仲良く、アイスを買いに自販機まで向かっていった。





「…………人は見た目によらないねえ」


 と、糸目。

 隣にいたイケメンの男が頷きながら、


「まあ、ここは昔懐かしのゲームが集まる場所だしね。見た目だけを当時に合わせた人も、そりゃいるんじゃないかな? ま、喧嘩にならなくて良かったよ」


「ある意味、あれはあれで、中学生が高校生から金を巻き上げているようなものだよ」


 プレイ金額、そしてアイスを奢っている……リーゼント男は損しかしていない。


 いいや、損はしていないかもしれないが……。


 三人のあんな無垢な笑顔が引き出せたなら、少しの小銭くらい安いものだろう。





「――ちょっと待て! オマエらチョコミントを買うとは正気か!? こんなん歯磨き粉を固めただけだろーが!!」


「は? 美味いし!」

「食べてから言えよばーか!」


「ッ、調子乗んなよ――喧嘩売ってんのかテメーらぁ!!」


 言いながらも、彼もまた、チョコミントアイスを買って、おそるおそる齧っていた。



「あ、意外とイケるぜ、これ……」


『だろー?』



 昔と今。


 変わらない面白さがあれば、変わる好みもある。





 ・・・おわり

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