第18話 兄の訪問と安心の味

春の昼下がり。シェアハウスの玄関に、少し緊張した面持ちの男性が立っていた。米田ひかりの兄、翔太だ。

「……やっぱり来てしまったな」

彼は心の中で呟いた。弟が家を出てシェアハウスに住むと聞いたとき、正直あまり良い気持ちはしなかった。家族の目が届かない場所で、ちゃんとやっていけるのか。勉強も生活も、途中で投げ出してしまうのではないか。そんな不安があった。


だが今日は、弟の暮らしぶりをこの目で確かめるために訪ねてきたのだ。


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玄関を開けると、ひかりが笑顔で迎えた。

「兄さん!来てくれたんだ」

「まあな。……元気そうだな」翔太は少し照れくさそうに答えた。


リビングには晴、美咲、崇が揃っていた。

「ひかりのお兄さんですか!ようこそ!」美咲が明るく声をかける。

「弟さんがここで頑張ってる姿、見ていってください」晴が穏やかに言う。

「料理も一緒にどうですか?」崇が真面目に提案した。


翔太は驚いた。弟が仲間に囲まれ、自然に受け入れられている。その姿だけで少し安心した。


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その日の料理は「春野菜の天ぷら」。菜の花、アスパラ、新玉ねぎ、そら豆。春の香りが漂う食材が並んだ。


「兄さん、一緒に作ろうよ」ひかりが声をかける。

「……俺が?」翔太は少し戸惑った。

「みんなで作るのがこの家のルールなんだ」ひかりは笑った。


翔太は渋々包丁を手に取った。だが弟の手際を見て驚いた。玉ねぎを薄く切り、菜の花を下茹でし、アスパラを斜めに切る。以前は料理なんてほとんどしなかった弟が、今は自然に動いている。


「……お前、ちゃんとやれてるんだな」翔太が呟いた。

「ここでみんなに教わったんだ。料理も生活も」ひかりは少し誇らしげに答えた。


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油の中に衣をまとった野菜を落とすと、じゅっと音が響いた。香ばしい匂いが広がり、春の天ぷらが次々と揚がっていく。


「兄さん、これ食べてみて」ひかりが皿を差し出す。

翔太は菜の花の天ぷらを一口食べた。ほろ苦さと衣の香ばしさが広がり、春の味が舌に残った。

「……美味いな」翔太は思わず笑った。


美咲は「映えも最高!」と写真を撮り、崇は「栄養的にも理想的だ」と真面目に評価した。晴は静かに頷き「弟さん、ここで立派にやってますよ」と言った。


翔太はその言葉に胸が温かくなった。弟がただ暮らしているだけでなく、仲間と支え合い、成長している。その姿を見て、不安は消えていった。


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食卓は笑い声で満ちていた。翔太は心の奥で思った。――弟はもう子供じゃない。自分の居場所を見つけ、仲間と共に歩んでいる。


「ひかり。……頑張ってるな」

「うん。兄さんにそう言ってもらえて嬉しい」


窓の外には春の夕暮れが広がっていた。冷たい風の中で、天ぷらの香りと笑い声が、シェアハウスを温かく包んでいる。翔太はようやく安心した表情を浮かべた。

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