第17話 美咲と兄の味

春の夕方。シェアハウスの玄関に、見慣れない影が立っていた。派手なパーカー姿の葉山美咲が「おーい!」と声を上げると、その後ろから落ち着いた雰囲気の男性が現れた。


「紹介するよ。俺の兄、悠人」

 美咲が照れくさそうに言う。


「初めまして。弟がお世話になってます」

 悠人は穏やかな笑みを浮かべた。美咲とは対照的に、落ち着いた雰囲気を持つ。


米田ひかり、塩見晴、茶谷崇は驚きながらも歓迎した。

「兄弟で料理するのは初めてですね」ひかりが笑う。


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悠人は料理人を目指して修行中だという。今日は弟に会いに来たついでに、みんなで料理を作ろうと提案した。


「弟は見た目ばかり気にするけど、料理は味が大事だ」悠人が冗談めかして言う。

「兄貴は堅いんだよな。でも今日は俺が映えも味も両立させる!」美咲が負けじと笑う。


選んだ料理は「餃子」。家庭的で、みんなで包む楽しさがある。


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キッチンに並んだ材料は、豚ひき肉、キャベツ、ニラ、しょうが。悠人は手際よく刻み、調味料を加えて餡を作る。


「味の決め手はしょうがとごま油だ」悠人が説明する。

「俺は包み担当!形をきれいにして映えさせる」美咲が張り切る。


ひかりは「俺も手伝います!」と声を上げ、崇は「餃子は栄養バランスが良い。炭水化物、タンパク質、野菜が揃っている」と真面目に言った。晴は「焼き加減は俺に任せろ」と落ち着いた声でまとめた。


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餃子を包む時間が始まった。美咲は形にこだわり、ひかりは不器用ながらも一生懸命。崇は理屈を語りながら慎重に包み、悠人は慣れた手つきで次々と仕上げていく。


「兄貴、速すぎ!」美咲が驚く。

「慣れだよ。料理は手数を重ねて覚えるんだ」悠人が笑う。


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焼きの時間。晴が鉄板に油をひき、餃子を並べる。じゅっと音が響き、香ばしい匂いが広がった。水を加えて蓋をし、蒸し焼きにする。やがて蓋を開けると、黄金色の焼き目がついた餃子が並んでいた。


「完成だ」晴が静かに言った。


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テーブルに並べられた餃子を前に、4人と悠人は箸を手に取った。


「いただきます!」声が重なる。


ひかりが一口食べると、肉汁がじゅわっと広がり、野菜の甘みとしょうがの香りが絶妙に調和していた。

「美味しい……!家庭的なのに本格的です」


美咲は自分の包んだ餃子を見て「映えも最高!」と笑う。

崇は真面目に「栄養的にも理想的だ」と評価した。

晴は静かに頷き「兄弟で作る料理は特別だな」と呟いた。


悠人は弟を見ながら微笑んだ。

「見た目も大事だけど、味を大切にする心も忘れるな」

「わかってるよ。俺は両方追い求める!」美咲が胸を張る。


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食卓は笑い声で満ちていた。兄弟のやり取りに、ひかりたちも温かい気持ちになった。料理はただの食事じゃない。家族や仲間との絆を深めるものだ。


窓の外には春の夜風が吹いていた。餃子の香りと笑い声が、シェアハウスを温かく包んでいた。

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