第2話 神とゲス総理 (試作品)
俺の名前は大和修平、日本国の総理大臣だ!
だが安心してくれ。俺ほど総理に向いてない総理も珍しい。
国の舵取り? 無理。外交? 胃が死ぬ。政治家特有の忖度と根回し? 俺にそんな高等スキルは備わっていない。
ん?なぜ俺が総理なのかって?知らん!ただ単に顔がよくて国民受けが良く、総理に向いた人材がいない中で、扱いやすいって国と自身のことを考えている自由党のお偉いさんが考えたのだろうよ。
今の国会の状況はねじれ国会だ……つまり与党の自由党が過半数を占めていないってことだな。しかも野党は極右から極左まで幅広いときた。こんな状況になったのは与党で連立を組んでいた政党が抜けたせいなんだが……そこは最後の決め手だっただけで他にも前兆はあった。
総理に出馬したのは自由党でいろいろな謀略の中、運よく勝ち進んできた俺と、後はアメリカ式の陰謀政党の党首と、沢山ある野党で勝ち上がった、小規模中道政党のカリスマ党首だ。……俺よりも野党のカリスマ党首がよかったって?いやそれも修羅だ、基盤が弱く、党首や幹部のカリスマ性で成り立っている政党だ。他の野党をまとめられないし(まとめられるわけがない思想ラインナップ)、そもそも本人が「自分が総理になったらやばい(まとめれない)」と一番理解してそうだ。
そんなわけで総理になったわけだがそれは荒れに荒れた。
「積極財政して国内の経済を回さないのか?」
「緊縮、縮小財政は悪!」
「馬鹿が国を壊そうとしている」
などなど、極めつけに
「「雰囲気が空気の世襲野郎」に総理が務まるのか」という国会では名物の暴言コレクション。日本って怖いところだな!だが、俺も黙ってはいない。
それに俺はこう返してやったよ
「そもそも、湯水のような金はうちにはありません。」
ド正論である。鋼の錬金術師ですら等価交換が必要なのだ。国家運営にタダの魔法なんて存在してたまるか。
――が、それがなぜか炎上するのが日本政治である。
案の定、国会は大荒れした。そして、とある防衛大臣の失言が重なり……そして今に至るわけだ。
冷静に考えてみれば意味が分からない。総理が国会でぶちぎれて失言を連発し、議場が阿鼻叫喚になり……そのタイミングで空に謎の不審者が浮かんで、国会内に侵入し、しかも開口一番が「これから大事な話があるのじゃ」……だ。
自分で状況を整理してみても、意味が分からない。なにこれ?政治? ファンタジー? 夢? 地獄?
(いやもうほんと、自分でも何言ってるかわからん……)
思考が完全に混線した、その瞬間。
『おほん』
その一言で現実に引き戻された。
『わしは神じゃ、そして今、この国会の様子は日本中の人々の網膜に流れておる』
胸を張り、まるで世界の王様にでもなったかのような態度で、狐の少女はそう言い放った。
議場の空気が、再び石みたいに固まる。
……は、はぁ?
いや、なんで神が狐少女の姿で偉そうに胸張ってんだ?
なんで国会がバーチャルライブみたいに全国へ直送されてんだ?
ていうか網膜に流れておるってどういう状況だよ。
俺は今、政治の場にいるんだよな?ファンタジーじゃなくて?
思考が鈍り、軽くめまいが来そうになる。
(……え、ちょっと待て……俺の政治人生の最後の日が、国民全員に強制公開してんの……?)
最悪だ。これ以上の悪夢があるか?
俺は、人の不幸を見る分にはそこそこ楽しめるが、自分の不幸で国民に飯を食われるのだけは、ぜっっったいに許せない。
胸の奥に怒りがじわっと湧く。
(やめろ国民……! 勝手に実況したり切り抜きしたりするなよ……!「総理、壊れる」とか「狐っ娘神様降臨w」とか絶対トレンドにするなよ……!)
だが、俺の願いなど知る由もなく、狐少女――いや、神は満面のドヤ顔で続けるのだった。
『我々、神々はこの人類の中から異世界召喚されるものを探しておってな、それに……アメリカ合衆国がなったのじゃ』
………。
………………は?
人々の、思考が止まった。
「いっ……!? 今、なんと……?」「ア、アメリカが……召喚……?」「え、ちょっ……ま、まってください神様、それって……うちの安保どうなるんですか……?」
神はその全員の常識人の声を完全スルーし、なぜか誇らしげに胸を張り直した。
『うむ、あやつらは勇者として異世界へ赴いたのじゃ。急に消えたのはすまぬが……まあ、そういうことじゃな!』
(いやそういうことじゃねぇよ!!!)
心の中で俺は絶叫した。
世界最大の軍事大国が異世界召喚された?国際秩序の要が居なくなる?いや、それよりもなによりも――
(なんでそんな重大発表を、ドヤ顔で言ってんだこの自称神は!!)
議場のあちこちから悲鳴とも怒鳴りともつかない声が上がる。
「日米安保は!?」「世界経済は!?」「NATOは!?」「ドルはどうなるんだ!!」
自身の網膜から見てる国民も同じ顔をしてるだろう。
『てことで、頑張ってくれ!そして、世界で アメリカ合衆国 がいなくなって、一番”かわいそう”な国――つまり 日本!その首相である大和修平の要求を、ひとつだけ聞くぞ!』
………。
………………はあああああああ!?
議場が、再び爆発した。
「バカなの、ねえバカなの!?」「要求って……要求って何の!?条件は!?」「終わった!」
俺はというと――
(……神がかわいそうって言うということは、つまり文字どおり、『これから世界で一番不幸になる国です』って、神の公式認定が出たってことだよな……?)
脳が追いつくより先に、胃がキリキリ鳴った。
(日本が、
神様の口からかわいそう枠にぶち込まれたって……
それ、もう終末宣言では?)
世界最大の軍事大国である アメリカ合衆国 が異世界へ行き、国際秩序は崩れ、経済は死にかけ、為替も地獄で、安全保障も紙くず。
そして神はそれを全部ふまえた上で、「日本、かわいそうじゃし!首相、なんか一個だけ望み言って良いぞ!*ただし従うとは言っていない」……と、ドヤ顔で言っている。
(いやこれ、もはや救済じゃなくて遺言では?国家に対するトドメでは??俺、今から神に国家の延命措置を選ばされてるのか???)
頭の中で警報が鳴りっぱなしだ。
そんな俺の混乱なんて、神はこれっぽっちも気にしていないらしい。
『さて総理よ──時間がないからの、ちゃちゃっと考えろ』
は? 時間がないのはお前ら神々の都合だろ。
『望みは一つだけ。せいぜい”身の丈に合った”ものを考えるのじゃな』
(身の丈?今、国際秩序が吹き飛んで世界一のかわいそう枠にぶち込まれたタイミングの俺に身の丈に合った望みを言えって!?)
「身の丈て何基準!?」
「舐められてないか我が国!?」
「総理個人から望みを一個だけって状況おかしいだろ!!」
それなら――――――「俺が一番、生き延びられるものをください。」
「総理!?」「開き直りすぎだろ」「気持ちはわかるけども!」
神は、なぜかめちゃくちゃ満足そうに頷いた。
『……よかろう。ならば、日本国総理よ、お主に与えるのは――』
世界が静まり返った。議場も、国民の網膜も、俺の心臓も。そして神は、とんでもなく軽い声で続けた。
『長としての力。
お前の生存率を最大化するスキルじゃ』
アメリカが消えたので地球が修羅場です @tanakalucky777
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