人は一輪の花を踏めるほど悪くも強くもない。


 三十年幽閉され続けてきた女性は、事あるごとに自分を外に出してほしいとお願いする。
 それは日常会話。守り人である僕が断ると、彼女は悪態をついて内での生活に戻る。
 高貴な身分であること以外、一切が謎の女性、アヤメ。
 今まで観察し続けたが、彼女が悪いとは全く思えず――



「良心に訴えかける」とでも言えばよいのだろうか。

 月並みな表現だが「向日葵のような女性」が幽閉されているシチュエーションを想像させられる。
 陽の光も満足に当たらない一室で、それでも気丈に咲こうとする様子がどことなく痛々しい。

 主人公の苦悩は、彼女を花と認識してしまったこと、そして、花と知りながら踏まなければならないことにあった。
 それだけの悪さも強さも、一般人は持ち合わせていないのだ。