モナリザって、「世界でもっとも知られた、もっとも見られた、もっとも書かれた、もっとも歌われた、もっともパロディ作品が作られた美術作品」といわれているんだそうです。
つまり、絵画オブ絵画ということですね。
これには牛乳女もびっくりです。
さて、そんな有名すぎるモナリザの肖像画ですが、度々その作品は謎めいたものを人々に投げかけます。
「彼女はなぜ微笑んでいるのか」とか、「彼女はどういう人物なのか」とか、「そもそも彼女は実在したのか」とか。
つまり、彼女はとてもミステリアスな存在……謎の美女なわけですね。
そういうよくわからないものには、「未知の恐怖」と呼べるものの影があったりするわけで。
そういうものを、幼心の独特な感性で痛烈に感じ取ってしまったのでしょうね。
彼の精神にモナリザの姿は焼き鏝による刻印のように深く刻まれてしまい、以後彼の人生を壊し続けます。
謎に満ちたあの微笑が、ずっとあなたを見つめ、追いかける。
寝ても覚めても、あの顔がいる。
心休まるときなど、ない。
そんな彼が、最終的にどうなってしまったかは……モナリザだけが知っているのかもしれません。
芸術。それは狂気と紙一重の領域にあるものだ、としばしば語られることがありますね。
天才の精神の発露。それを形にしたものである以上、それは「正気」とは別の領域に所属するものなのかもしれない。
そんな芸術作品に取り憑かれることは、日常、ないしは正常な世界を徐々に侵食されることになるのかもしれません。
本編の主人公も、幼いころに見た「モナ・リザ」の迫力に心を奪われます。
あの不思議なアルカイック・スマイル。それが常に頭から離れなくなり、ずっとそのイメージに追い回されるような日々を送ることに。
結果、ガールフレンドが出来てもうまく関係が長続きせず、「幸せ」をつかみ損ねる日々。「モナ・リザ」の微笑は確実に彼の人生から「何か」を奪い取っていた。
そうして大学生になった彼の前に訪れた一つの出会い。それが更なる「影」を落とすことに……。
結局のところ、彼が見ていたものはなんだったのか。
モナ・リザという突出した芸術というのは、人知の及ばぬ「何か」の領域に踏み入ったものなのかもしれない。だからその先には、やはり人の頭では理解できない「魔」のようなものが宿ることもあるかもしれない。そんな何かに魅入られて、彼は人生を奪われることになったのかも。
様々な解釈ができるストーリーとラストで、読み終えた後に強烈な余韻を残してくれます。
「芸術」が人の心にもたらす作用とか、改めて「深淵」のような何かについて想いを馳せてみたくなりました。
モナリザ×ホラーとかいう「どっから湧いてきた」みたいな組み合わせが面白いです。柔軟にこういう結び付け方できるのセンスを感じますよね……!
主人公の「私」は小学生時代に美術館を訪れた際、レオナルド・ダ・ヴィンチの絵画『モナリザ』のレプリカを鑑賞します。そのとき「私」は美術としての美しさと同時に、底知れぬ恐怖を感じとります。
それからというもの、モナリザの微笑にだんだん脳が侵されて発狂していく「私」。
読んでいるこちらまで頭がおかしくなってきそうな描写の数々に唸らされました。
ラストも「これしかないな」と納得させられるようなオチで大いに頷きました。
全体としてはストーリーにスピード感があって非常に読みやすく、人間の狂気を描いたホラー作品として素晴らしい出来だと感じました。