血と涙の学者トーナメント

椿 桜

第1話

皆さん、大変お待たせ致しました!

これより


⫘学者トーナメント⫘


を開催致します!!

司会は、この私〈ピエンティ・ジャクソン〉が致します。


学者にとって、研究成果は人生に等しい。

否!人生そのもの!!

このトーナメントでは、各々の研究成果を披露

そして、賭けていただきます。

勝てば研究成果は歴史に刻まれ

負ければ全て失う。

命を懸けたトゥ―――――ナメントだーーーーーーー!


えー、ごほん。

10人の対戦カードをご紹介致します。


          一戦目

  幽灯学者     vs    白骨学者

ライル・ゴッシュ       ボン・カプー


          二戦目

  影鎖学者     vs     魔獣学者

ダーク・シュティ       ナズ・コリン


          三戦目

  夢界学者     vs     幻霊学者

マール・ポップ        アザ・ハルフェ


          四戦目

  空界学者     vs    星紋学者

アスノ・ヨミ         サジュ・ブッチ


          五戦目

 黒夢学者     vs    月華学者

ミル・ミルネ        ワーツ・マジュ


以上が、選手となります。


ルールは、至ってシンプル。

①戦闘方法は、研究成果のみ

➁戦闘不能のみが敗北条件(場外OK)

③殺しは禁止(危険と判断した場合、即刻退場とする)

④敗北者の研究成果は全て没収とする。


深呼吸の後、ピエンティは空を見上げた。


「初戦を消化試合だと思うな。勝つ学者が最初から決まっていると思うな。

 学者は戦わないと決めつけるな。選手達は本気で命を懸けて戦っている。

 最後まで見届けろ。それが出来ないならページを閉じろ」


観客達が、誰に言ってるのかとざわついている。

そして、ピエンティが観客に向き直り


レディース&ジェントルメン!

学者達の本気の戦いが見たいか~?(マイクを観客側に向ける)


「「「「「オオオォォォオオォォォ!!」」」」」


伝説の目撃者になりたいか~?(再びマイクを観客側に向ける)


「「「「「オオオォォォオオォォォ!!」」」」」


OK!OK!

では、入場していただこう。

第一試合目の選手入場だーーーーーーー!


本当は、幽霊なんじゃないのかと密かに囁かれている…

幽灯学者の〈ライル・ゴッシュ>


対するは・・・


初対面の相手に「骨をくれないか?」と頼み込む

イカれたサイエンティスト…

白骨学者の〈ボン・カプー>


レデイィーーーーーーーファイ!!


静かに睨みあう二人。

どちらが先に動くのか。

このピエンティも観客も固唾を飲んで見守る。

先に動いたのは…カプーだった。


「ヒヒっヒヒヒ…解析完了ですよ」


不気味な笑い声を上げながら、顔を覆うカプー。

全く動じないゴッシュ。


喉の奥から、一本の骨を取り出し地面に突き刺した。

地面のタイルの線に沿って、木の根のようなものが張られていく。


「これで、終わりですよ…ウヒ…」


カプーの声に呼応するように根から無数の骨が生え

ゴッシュに襲い掛かる。

勝負あったか?その場に居る誰もが思った。

ただ一人、ゴッシュを除いて、、、


「その程度で私を倒せると思わないでいただきたい」


懐からランタンを取り出しランタンを振る。

ゴッシュの身体がユラユラと揺れ始め

躱す、躱す、躱し続けた。

骨の間を縫うように。

だが、躱しただけでは無かった。

躱しながら骨に触れ、触れられた骨は光り輝きながら弾け飛んだ。


観客からは、地面が震える程の熱狂した声。


な!な!なんと!!

カプーの絶体絶命な攻撃を軽くあしらったーーーーー!!

こんな展開、誰が予想したでしょう。

そう、我々はこれが見たかった。

もっと、魅せてくれ。我々に。


「あれ?あの骨あんなに大きかったか?」


観客の一人が立ち上がり、発した言葉で周囲は静まり返った。

全員が、骨に注目する。

その骨とは、最初に地面に突き刺した骨。


「ヒャヒャヒャ。やっと、気付きやがりましたか。遅いですねぇ」


ゴッシュの顔から、余裕が消えた。

大きいなんてレベルじゃない。

最初のサイズの二倍、三倍、、、いや、まだ大きくなっている。


「貴様、何をした」


顔には、明らかに焦燥が見える。


「私の研究は…骨によるエネルギーの吸収と錬成。

 ありとあらゆる衝撃から、身を守るをテーマとしてますよ…フヒ…」


カプーの見た目や言動は、受け入れがたいものを感じる。

だが、研究内容は世界の役に立とうとしていた。

これを聞いた瞬間、全員が心の中で謝った。

当然、私も含め。


「勘違いしててごめん」


と。


どうする、ゴッシュ。


「博士、、、何してんすか。一人で余裕だとか言いながら、酷い有様ですね。

 正直言って、無様ですよ」


ゴッシュの横に、突然現れた謎の青年。

は?

一体何処から。

いや、それより乱入は禁止行為。

今すぐ止めなければ。


「ゴッシュ選手。禁止行為を破ったため退場とす」


あれ?よく見たら、青年に足がない。

浮いてないか?


「待ってください。これは、私の立派な研究成果ですよ。

 何故なら、私の研究成果は幽霊を誘う灯を研究し、光と霊を操る。

 そして、幽霊と人間の融合

 不死身の人間を作るがテーマです」


ゴッシュは、イカれていた。

カプーは、世界の役に立とうとしている。

だが、ゴッシュは禁忌に手を出している。

勝たせてはいけない。

誰もがそう感じた。

こんな人間が、トーナメントに参加していたなんて…


「それと、私は半分人間。半分幽霊です。

 半幽人とでもいいましょうか」


不死身を望む人も居る

が、幽霊と人間が融合、、、それは触れてはいけない領域だろう。

生者と死者を…倫理観がぶっ壊れている。


「私よりイカれてるなんて許せませんよ」


カプーは、親指を嚙みながら悔しそうにしている。

いや、行動は十分イカれてるから安心して

と、内心全員が突っ込んだ。


「次で終わりにしましょう。いいですね?ウヒ…ウヒヒ…」


「あぁ、構わない。勝つのは私だからな」


もっと見ていたい。

この戦いも次で終わる。

カプーは、挑戦的な表情。

ゴッシュは、勝ちを確信した表情。


「クック…力を示せ。私の研究が正義だと証明する」


「あいあいさー」


クックと呼ばれた幽霊の青年は、軽い返事をしながらも

隙が一切ない。

ゴッシュが、ランタンを真上に投げ指を鳴らす。


パチン


音が鳴った後、無数の光がクックを囲み

カプー目掛け突進していく。


対するカプーは、腕を広げ。


「開きなさい。そして、全てを喰らえ」


その言葉の後、巨大な骨が花開く。


これで、勝負が決する。

私としては、カプーに勝って欲しい。

司会は、中立な立ち場であるべきなのだが

ゴッシュのイカれた研究には賛同出来ない。

勝ってくれ…カプー!


両者が激突し煙が舞う。

静寂が、会場を包み込む。

果たして、勝敗は、、、


徐々に、煙が晴れていく。

立って居たのは——は?

そこには、誰も居なかった。

カプー、ゴッシュ、そして、、、クック

全員消えていた。


「何処に行ったんだ?」


会場がざわつき始める。

無理もない。

私自身、状況を理解出来ない。

何が起こった?


「ウヘ…アハハハハハ…私の勝ちですよ」


声だけが聞こえる。

カプーの声で、間違いはない。

だが、姿は依然として見えない。


「皆さん、上を見上げてください」


カプーの声が再び聞こえ、全員が上を見上げる。

そこに居たのは、ゴッシュとカプー

あれ?何だこの違和感。

あぁ、そうか。

ゴッシュは、半幽人と言っていた。

空を飛べたとしても不思議ではない。

しかし、カプーは人間だ。

つまり、『飛べるわけがない』


「そろそろネタバラししていい?博士」


「その発言で、バレただろうな」


おいおい、まさか。

あのカプーは、クックなのか?

どういう事だ。意味が分からん。


「皆さんに、分かるように言いますね。

 博士の研究テーマは、幽霊と人間の融合と言いましたよね?

 今、私クックはカプー学者と融合してます。

 審判、これで決着でいいですか?」


嘘だろ…と誰かが呟き

周囲に伝染し、やがて大きな声となった。

反則でしょ、こんなの。

決着は決着。

私は、私のするべき事をしなくては。


「第一試合は——カプー選手が戦闘不能に陥ったため

 ゴッシュ選手の勝利です」


会場からは、悲鳴に似た声が轟いた。


私自身、忘れかけていたのだが

この試合は、まだ一戦目に過ぎない事を。


「では、敗者のカプー選手には退場していただきましょう」


試合終了後、ゴッシュとカプーは握手を交わした。

そして


パカッ


カプーの足元の床が開き、落ちて…いった。

これが、負けるという事。


「実は、まだ話していないルールが存在します」


スゥー…と深呼吸をしピエンティは、言葉を発した。


「敗北後、研究成果と存在自体も消える事になります

 負ければ全て失う。命を懸けたトーナメントと言ったでしょ?」


ピエンティは、不敵な笑みを浮かべる。

敗北とは、即ち『死』であると明かされた。

観客は理解した。

学者の、生き様を見ているのだと。

最後かもしれない瞬間を。


興奮した熱狂が、会場を包み込む。

そうだ、命を懸けた戦い程、、、

人は

魅了されるのだから


「では、第二戦に参りましょう」


その一言で、会場は静まり返る。


「選手の入場です」


彼女に縛られたい男が続出~

ドSな彼女は貴方も魅了する!

影鎖学者の〈ダーク・シュティ〉


対するは・・・


魔獣は友達。

友達を傷つける相手には容赦しない

可愛い顔とは裏腹に、狂気に歪む笑顔

魔獣学者の〈ナズ・コリン〉


空気がピリつく

無理もない。

第一戦で明らかになった。

敗北=『死』


レディー...


「審判、始める前に少し時間をくれないかしら?」


シュティが、私のセリフを遮った。

何か考えがあるのだろう。


「あぁ、構わない」


「ありがとう。さて、審判から許可も貰ったし私の研究テーマについて話すわ 。

私は、あらゆる物体の影を捕まえる鎖。

そして、人間の心に潜む影。それらを鎖で捉え解放するのが私の研究テーマよ」


戦闘前に手札を明かして良いのか。

シュティは、一体何を考えているのか。

だが、これだけは確信して言う事が出来る。

シュティは、人の為になる研究をしている。


何故なら、誰もが影に縛られながら生きているのだから。

ここで整理しておこう。

人間の心に潜む影。

自分にとって受け入れ難い側面を心の影と呼びます。

私にもあります。

それをシュティは解放しようとしている。

それは、すなわち人類の救済ではないでしょうか。

観客の皆さんもそう思いませんか?


「ちょっと待ってください!!審判はシュティさんに肩入れしてません?

ズルくないですか?コリンの事わすれちゃやです。

もう、私だって人の為になる研究してるんですよ?(地団駄を踏みながら)」


命を懸けた戦いの場であるはずなのに

何というか、微笑ましい光景ではないでしょうか。


「もう、コリンの事バカにして!!これでも、22歳ですからね?

子供扱いしないでください(プンプン怒りながら)」


温かい目で、観客がコリンを見つめる。


「ぶー、分かりましたよ。私の研究テーマ発表します。それで私の方が凄いのを証明しますから。

魔獣と人間が共存して暮らせる世界。これが私のしようとしてる事です。

魔獣は、討伐する生き物じゃない。心を通わせれば人と共存が出来る。

そして、それはこの世界をより良くする為に必要な事。争いがなくなります。

ですが、魔獣に手を出す人間には、私は容赦しませんよ?(微笑みながら目の奥が笑っていない)

襲うから襲われるんです。魔獣にだって心はありますから」


会場が静まり返る。

コリンの研究テーマを聞き、誰もが考えさせられる。

魔獣=討伐するもの

そう思ってきた。

だが、その根底を覆す研究テーマ。

子供のような発想だと一蹴するのは簡単だ。

しかし、彼女の言う通り本当に共存出来るのなら

争いはなくなるのかもしれない。

少なからず、私はコリンの発言を信じたい。


「ふっ、子供のような考えね。でも、私はその考え嫌いじゃないわよ?」


「シュティさんより、年下だからって子供扱いして!この戦いで私の方が大人だって証明します。」


「ほう、面白い。良い度胸ね」


シュティ選手とコリン選手は、既に臨戦態勢という事で

第二試合を始めます!


レディーファイ!!


開始の合図と同時にシュティが動いた。

首からぶら下げていた鎖を投げる。

だが、コリンは軽々躱す。


「鎖に当たらなきゃ、何も出来ないんですよね?それなら、この勝負は私の勝ちですね」


俊敏な動きでシュティを翻弄していく。

シュティが投げる鎖は一向に当たる気配がない。


『万事休すか』


誰もがそう感じた事でしょう。

しかし、違ったのです。

外していたように見えた鎖は、コリンの動きを制限していたのです。

とうとう、壁際に追い込まれてしまったコリン。


「捕まえた」


シュティの鎖がコリンを捕らえた。

その瞬間、コリンの表情が歪み始めた。


「見せてみなさい、貴方の影を」


コリンの心の影を捕らえたようだ。

純粋無垢なコリンの心の影は、どんなものか。


──静寂の中、ゴクリと唾を飲み込む音だけが聞こえた。


「え、何よこれ。嘘でしょ?そんな訳ない。あってはならない」


シュティが焦り始めた。

何故?

明らかに優勢のように見えるが、、、


「コリン、貴方って人は。心の影が存在しないの?どんなに純粋無垢な子供でも心の影はあるわ。

でも、貴方は本気で人と魔獣が共存して暮らせる世界が来ると信じて疑ってない。真っ白な心...ね」


「「「コリン!コリン!コリン!」」」


突然、観客からコリンへの声援が出始めた。

彼女が本気で目指している世界に

賛同する人が声を上げたのだ。

1人、また1人と徐々に大きな声援に。


「私は、夢見る子供じゃありません。次は、私の番です。来て!タァタ!!」


タァタ?

なんだそれは。

彼女の首飾りから魔獣が現れた。

もしや、魔獣の名前なのか?


「皆さんに紹介します。私の大切な友達、タァタです」


やはり、魔獣の名前らしい。

見た目は、ピンクのもふもふで、、、

ダメだ...私には、言語化出来ない。

仕方ない。奴に頼むとしよう。

〈椿〉説明を頼む。


「突然、ピエンティから無理難題を押し付けられたので私が紹介します。

タァタと呼ばれた魔獣は、ピンクのもふもふで見た目はハムスターに近しいですかね。

全長は32mほど。では、現場にお返しします」


ありがとう〈椿〉

こちらの世界には、ハムスターなんて存在しないのでね。

助かった。


「やめよやめ。棄権するわ」


シュティは、鎖を地面に捨てた。


「だって、彼女と私。どちらかしか生き残れないのなら

 生き残るのは、彼女がふさわしい。純粋な心。

 それは、この世界に重要。私の研究で為そうとしていた事だもの」


シュティが棄権という事で、勝者はコリンとする。

では、敗者には退場していただきましょう。

ポチっとな


パカッ


「タァタ!」


タァタが、シュティが落ちる前に救出した。


「何で、、、敵である私を助けたの?」


「私は、貴方を殺したいわけじゃないから。

 これからは、私と一緒に理想の世界を作りませんか?」


「ふっ…何処までも甘いのね貴方は。良いわ。

 この命は、既に失ったも同然。

 これからは、貴方の手足となる事を誓うわ」


(チッ…コリンめ、、、余計な事を)

まさかのまさか、コリン選手がシュティ選手を助けたーーーーー

判決は、既に下されました。

よって、第二試合を終了といたしま~す!!


パンパン


「いや~実に素晴らしい試合だった。ポップ。

 あんたもそう思うでしょ?」


「ミルネと同意見なのは、不服だけどね。良かったわよ今の試合」


背後からした声は、黒夢学者のミルネ選手と

夢界学者のポップ選手。

出番までお待ち下さい。


「何か、不都合な事でもあるのかしら?」


ハハ…まさか不都合な事なんてありませんよ。

観客の皆さんの楽しみが減ってしまう心配ですよ。


「ミルネ行くわよ。もう用は済んだわ」


「ちょっとポップ~。待ちなさいよ~」


(厄介な二人組だな。要注意人物…か)


では、何も無かったことにして第三試合に参りましょう。


「選手の入場です」


可愛い名前に反して、性格はクール

このギャップがファンを魅了する~~

夢界学者の〈マール・ポップ〉


対するは・・・


彼に出会ったが最後

気付いた時には、幻の中

ここは、現実か?幻か?

幻霊学者の〈アザ・ハルフェ〉


今回は、どんな戦いが見られるのでしょうか

レディーファイ!!


「はぁ…この戦いに意味なんてない。

 だから、さっさと終わらせるわよ」


ポップの強気なセリフだ。

しかし、「この戦いに意味はない」とはどういう事なのか。

観客がザワついた。


(やはり、気付いてやがるか)


「開け!夢の扉よ!!そして、彼を閉じ込めたまえ」


「キターーーー。ポップの口上。

 何度聞いても良いわね」


まるで、魔法発動の呪文のようなセリフ。

そして、私の横でうるさく叫んでいるミルネ選手。


(早く何処かに行かないかな)


ハルフェは、為す術なく夢の扉に取り込まれてしまった。

速攻で決着がついた。

そう、誰もが思ったでしょう。


「甘いわ」


何処からともなく声が聞こえてくる。

ハルフェ選手の声なのか?


「我は、幻使いぞよ。

そなたが捕らえた者は幻影である。

残念だったのう」


ポップ選手の先制が決まったと思いきや

ハルフェ選手は、既に幻影と入れ替わっていた。

これには、私も驚いております。


「最悪...時間かけたくないのだけど。

それにしても...(チラッとミルネを見る)うるさい」


ミルネは、ずっと私の横でポップに向かって

声援を送り続けている。

司会...私なんだけどな、、、


「では、行くぞよ。惑え惑え

我が幻の手中にて永遠に眠りたまえ

幻霊達が、そなたを幻の中に導かれん」


ポップの周囲に白い霧が発生した。

徐々に霧が人の形になり始め5人出現。

そして、5人の霧がポップに触れた。

きっと、彼女は今

幻に囚われているのだろう。


しかし、私の横に居るミルネは一切心配をしていない。

それ所か「あーあ、ハルフェの負けね」と呟いた。

いやいや、どう見てもハルフェが優勢だろう。


一切動かなかった、ポップがため息を吐いた。


「はぁ...」


その反応にビックリするハルフェ

頭を掻き毟っている。


「何故...何故!我が幻に囚われているそなたが

言葉を発せるのだ。

おかしいおかしいおかしいーーーーーーー」


発狂のような声をあげるハルフェ


「まだ気づかないのね。

 始まった時点で既に夢の中に居たのに

  口上は、パフォーマンスに過ぎない

  チェックメイトよ」


ハルフェは、膝から崩れ落ちた。

ピクリとも動かない。


「えー、ハルフェ選手を戦闘不能と判断し

勝者は、ポップ選手です」


パカッ


と床が開き、ハルフェはそのまま落ちていった。

終われば呆気ない勝負だった。


「お疲れポップ♪」


「ミルネ、やるべき事忘れてないでしょうね。もっと気を引き締めて」


観客の皆さんが呆然としていますが

テンポよく第四試合に行きましょう。


「選手の入場です」


人が空を自由に飛ぶにはどうしたら良いのか

空気を自在に操り活用するには?

第四元素(水、風、火、地)とは別で

第五元素が存在するのではないか

この世の神秘を解明したい

空界学者〈アスノ・ヨミ〉


対するは・・・


星・星紋が綺麗で何よりも美しいが口癖。

星に魅了され取り憑かれたように

星に関する事だけを研究している

星紋学者〈サジュ・ブッチ〉


レディーファイ!


「アスノ・ヨミさん。貴方は美しい。

しかし、星の方がもっと美しい。

ほら、上を見あげてください。

あの美しい星々を!」


ブッチは、手を後ろで組みながら歩き始めた。

彼の「上を見あげてください」の台詞後

会場に居た全員が上を見上げた。

今は、昼過ぎ頃。

空には、夜空のように光る星々があった。

だが、そんな事どうでも良くなるほど星は綺麗だ。

時間を忘れてしまう程に、魅入ってしまった。


「綺麗...」


ヨミの口から漏れ出た声

その声が合図かのように、空気が変わる。

先程まで青かった空が、黒色に染る。

まるで、夜になったかのように。

そして、気温が徐々に下がり始める。

温かい気温から肌寒い気温に。

更に、風が吹き始める。

次に、雨が降り始め、、、徐々に氷の礫に


「痛い」


観客から悲鳴が上がり始める。

当然、私も痛い。

不思議なのが、ヨミの周りだけは晴れている。

これが、空気を操るという事なのか?


ブッチはというと、床に何かを描いている。

周りが見えない程に、没頭している。


「書けました。見てください

この素晴らしい星紋を!」


確かに、素晴らしい。


ドクン


ドクン


星紋を見た後、身体に違和感が。

でも、嫌な感覚ではない。

何というか、温かい?

それと、鼓動がうるさいほどに聞こえる。

何だこれは。


ヨミは、胸を抑えうずくまり始めた。


「何を...したの?」


何とか声を振り絞り、ヨミはブッチに問いかけた。


「星紋を見ましたね?

この星紋には、相手を魅了する効果があるんです

ヨミさん、貴方は星の虜になったのです」


丁寧な口調で優しく答えるブッチ

その姿はまるで...まるで...教祖様


「つまり、その星紋が無くなればいいのね

 ネタが割れればこっちのもの」


苦悶の表情を浮かべながら、手を天に掲げ下ろしたヨミ。

星紋の位置に雷が落ちた。

舞台が破損する。

そして、星紋の効果は消えた。


「やりますね。そうでなくては楽しめません」


ブッチは、意外にも楽しそうだ。

研究成果をぶつけ合う。

これは、学者にとっては至高の時間なのかもしれない。


研究が上手くいかず血を吐くほど、没頭した事もあるだろう。

悔しさで涙を流したこともあるだろう。

悔しくて唇を嚙み締めて血を流したこともあるだろう。

上手くいったときは、嬉しくて泣いたこともあるだろう。


学者にとって、研究は人生そのもの。

だからこそ、研究成果をぶつけ合う。

この行為は、楽しくて仕方ないのだと思う。


「では、これならどうでしょう?」


舞台に寝そべり上を向いたブッチが叫ぶ。


「星たちよ、私に力を与えたまえ!」


しかし、何も起こらない。

ヨミは、待ってくれている。


数分が経った。

何も起こらないまま。


「もういい?」


深呼吸を一回


スゥーハ―


「水金地火木土天海降り注げ」


空から惑星が、ブッチを目掛けて振ってくる。

私自身、何を言っているか分かりません

が、見たままの景色を実況しております。


ド ド ド ド ド ド ド ド


〈司会者〉

STOP THE TIME


少しだけ、この世界の時間を止めました。

今は、読者である貴方に話しかけています。

疑問に思わなかったですか?

最初に私が挙げたルール

③殺しは禁止(危険と判断した場合、即刻退場とする)

惑星が降ってくる

どう考えても危険だと。

ノンノン

この程度で死んでしまう学者は、このトーナメントには居ません。

では、また


TIME STOP RELEASE


「これですよ。私が求めていたものは。

 ヨミさん、ありがとう」


惑星が顔に直撃したにも関わらず、満面の笑みのブッチ


「惑星とは、星のエネルギーを常に浴びている存在

 つまり、これは星からの愛の抱擁なのです!」


何を言っているかは理解不能。

とりあえず、ブッチは無傷。

星を愛し星に愛された学者という事…なのだろう。


「エネルギー大爆発!」


ブッチがやばそうな攻撃をしようとしている。

私は、観客を守る為、使う予定のなかった

防衛システムを作動させた。


「防御フィルター展開」


何とか間に合った。

舞台を、フィルターで囲んだのだ。

舞台は、煙に包まれている。

煙が徐々に晴れていく。

立って居たのは、ブッチのみ。

ヨミは、倒れている。


「えー、ヨミ選手が戦闘不能のようなので勝者は…」


ブッチ選手と言おうとした時、ブッチが笑顔で倒れた。

力を使い果たしたようだ。

全く動く様子がない。


「両者戦闘不能と判断し、勝者は無しです」


ヨミとブッチは、奈落の底に落ちていった。

観客席は、ざわついている。

無理もない。

勝者が居ないのは、本来あってはならない。

だが、私には役割がある。


観客席の皆さん、落ち着いてください。

第五試合に参りますよ。


「では、選手の入場で…」


私のセリフを遮る声


「その必要はないわよ~。ね、ポップ」


「えぇ、準備は整ったもの」


(また、この二人か。邪魔者め)


ザッ…ザッ…


二人が出てきた後、勝ち残った学者が次々と現れた。

まだ未試合のワーツ・マジュも含め。

そして、その中には居る筈のない人物も。


「カプー学者、何故あなたが居るのです?」


カプーは、負けて落ちていった。

この場の全員が目撃している。

おかしい、おかしい——

私の計画が狂い始めている。

そう、全ての元凶はポップとミルネ

あいつら二人組だ。


「それに関しては、私から説明いたしましょう」


ゴッシュが、声を上げた。


「まず、カプーさんは穴に落ちてはいません。

 あれは、カプーさんが骨で作った偽物です。

 ピエンティ・ジャクソン。貴方の企みは霊たちから聞いてますよ。

 試合が始まる前からね。」


クソ、、、ゴッシュは何を言う気なんだ。

でも、ここで止めれば観客の不信感が増す。

黙って聞いてやろうじゃないか。


「簡単に話します。クックとカプーさんが衝突して融合した。

 そして、クックと融合した事で記憶を見せたんです。

 一か八かの賭けでしたが、カプーさんは瞬時に理解してくださり

 共闘関係を結んだんですよ。これが、煙の中で起きていた事実です」


この私を欺くなんて許さんぞ。

計画がバレてしまっているのなら仕方がない。

全員、この私が手をかけるだけだ。

だが、この人数相手にするのは…


「椿、居るんでしょ?そろそろ出てきなさいよ。

 それとも、このまま茶番を続けるつもり?」


ポップが、椿を引きずりだそうとしている。

しかし、何故椿の事を知ってるんだ。

バレてる以上、隠すのも意味がないか。


「椿、ご指名だぞ」


仕方ない。

私は、椿をこの場に呼ぶ事にした。


「えー、俺は表に出てくる気なかったんだけど。

 創造主が、出てきたらダメじゃん?」


私の真横の空間が歪む。

酔いそうになる。

そこから、椿が現れた。


「やっぱり、あんたがこの世界を作ったのね」


どういう事だと、観客が騒ぎ始める。

ミルネは冷静だ。

ポップも。

しかし、他の学者は動揺している。

怪しいと思った時点で、二人を消しておくべきだった。


「そのイベント。私も混ぜてくれない?」


は?誰?

いやいや、あんた誰だよ。


「何で、ここに居るんですか!?

 元天才詐欺師が異世界来訪!掌握!の詐欺師さん」


椿が動揺している。

ははーん。

椿関連のお客様って事だな。

面白くなってきた。

計画の為に、利用させてもらいましょうかね。


「誰か知らないけど、私達の邪魔をするなら容赦しないよ?」


「あらあら、強気なお嬢さんだこと。私が用があるのは、椿だけ。

 その他には一切興味ないわ」


ポップと詐欺師の女がバチバチだ。

女の戦いってやつだな。

よし、それならば私が舞台を整えてあげよう。


観客の皆さん。

これは、サプライズイベントです。


学者達 vs 椿 vs 詐欺師の女


勝ち残るのは一体誰なのか!

レディーーーーーーーーーーーファイ!!


「おい、ピエンティ。何勝手な事を!?」


椿が焦ってる。

お前さえ、居無くなれば世界の主導権は、私のもの。

クク…クック…

邪魔な学者も一掃出来て、最高だな。

ま、研究成果だけは私が貰うけどね。

有効活用させてもらうよ。


踊れ、踊れ、踊り狂え。

後少しで、この世界。

いや、全世界が私のものに。


ピエンティは、空を見上げ不気味に笑いながら


「君たちの世界も、私が支配する。震えながら待ってな?」


宣言の直後、全員が私をめがけ向かって...向かって??

私は審判だぞ?

何故、私に襲いかかろうとしている?


「まずは、あんたを」「ピエンティを」「邪魔な要素は」


「「「先に倒す!!!」」」


結託するなんて予想外の展開だ。

はぁ、仕方ない


「防御フィルター展開」


あれ?展開しないだと!?


「あぁ、そのシステム厄介そうだからここに来る前に無効にしといたわよ」


何してくれてんだこのアマ

ぜってぇ、殺す




なーんてね

隠し通すのも無理そうだし披露してあげよう。


「巻き起これ嵐よ、降り注げ隕石、そして全てを呑み込めビッグバン!」


これで、俺の勝ちさ。

クク...アハハハハハハハ


「ミルネ!」


「めんどいけど、ポップの頼みなら断れないわね」


ミルネが真っ直ぐにピエンティに突っ込む

そして、触れた


「あんたの心...掴まえたわ」


〈創造主〉

ここは、創造主である私が説明しよう。

ミルネは、相手に触れる事で心に干渉できる。

触れられた相手は、悪夢のような体験をする。

彼女の研究成果はそれだけではないのだが。

語る時が訪れたらその時に語るとする。


「何よこの心...黒すぎてダメ...弾かれる」


ミルネが、吹き飛んだ。

咄嗟に駆け寄るポップ。

仲が悪そうな二人だったが

今は誰よりもミルネを心配している。

そして、ピエンティを睨みつけた


「えっとさ、この状況やばくね?」


「創造主の癖に、何とか出来ないの?」


〈司会者〉

椿も、詐欺師も打つ手なしのようだな

まぁ、これは幻覚だがな

手に入った研究成果は三種類と少ないが

こけおどしには丁度いい


今すぐにでも、こいつら全員奈落に落としたいが

戦闘不能にならないと床が開かないシステムが厄介だぜ

椿め、俺の裏切り防止のつもりかよ

チッ...食えねー奴


「ピエンティ、あんたを私は許さない。ミルネを傷つけた報いその身体で受けてもらう」


〈創造主〉

ポップが詠唱を唱え始める

ピエンティは、身体が動かない。

逃げたくても逃げれない。

奴は拘束されていた

シュティの鎖によって


「ミルネはね、めちゃくちゃ鬱陶しいけど

私の大切な友人なの。

昔からずっと一緒だった。

何をする時も...そのミルネを...

死ねピエンティ!!」


〈創造主〉

ポップの詠唱が終わり

真っ黒な鋼鉄の扉が現れた。

扉がゆっくりと開かれる。

中から現れたのは、トロルの大軍。

ピエンティに襲いかかる


「やらせない!タァタ!!」


〈創造主〉

コリンがピエンティを守った。

彼女にとっては、ピエンティでさえ

救うべき人間なのだ。

騙されていたとしても、殺すのは違う。

それがコリンの美学。

彼女は、決して誰も見捨てない。


「コリン、邪魔するならあんたも消すわよ」


「ポップさんの気持ちは分かります。でも、殺してしまってたらこの人と同じになるんですよ!

それを、ミルネさんは望むんですか?」


〈創造主〉

ミルネは、死んでいないのだが、、、

気を失っているだけ

それに気づいてるのは、私と詐欺師だけ。

ピエンティは、それ所じゃないだろう


「さて、あちらは彼女達に任せて。私は詐欺師さんを止める事にするよ」


「そんなに焦らくても良くない?」


〈創造主〉

システムを掌握した相手。

油断は出来ない。

私が生み出したとはいえ、もう彼女は

私の知る彼女ではない。

予測不能


だが、それでもやるしかない

この世界を守る為に

私は、懐からペンを取り出す。


空中に氷結と書く


私の能力は、書いた言葉が実態化する

これで、彼女の足を氷漬けに出来た

このまま拘束させてもらう


「偽炎」


〈創造主〉

偽炎?偽の炎?

私の知る彼女に能力なんかなかった

人を騙す詐欺能力以外は。

炎が彼女の氷を溶かしていく。

嘘だろ...いつの間にそんな能力を


「焦ってるわね。フフ...とことん殺りあいましょう」


〈創造主〉

私は、観測者で居たかったんだがな。

手を抜くと私が殺されかねないか。


斬撃


「偽盾」


〈創造主〉

偽ってなんだよ

斬撃を盾で防ぎやがって。

何処が偽の盾なんだ

勝てる気が全くしないな


「偽毒」


カハッ...


〈詐欺師〉

ふふ、もうこれで椿も終わりね。

結構呆気なかったわね。

もっと、楽しめると思ったのだけど。

トドメを刺して終わりにするとしますか。


「偽切断」


〈詐欺師〉

バラバラになったわね。

さよなら、椿

もしも、何処かでまた会うとしたら

その時はもっと楽しませなさい


あっちは、どうなってるのかしら

少女と...ハムスター?が

トロルを頑張って倒してるわね。

でも、倒れるのも時間の問題でしょうね。

それまで待つとしようかしら


「ポップ、もうやめて...」


〈詐欺師〉

倒れてた娘が止めに入ったわね

あーあ、良い所だったのに


「ミルネ!体は大丈夫なの?」


「大丈夫よ、ポップってば心配性ね♪」


〈詐欺師〉

痛みを我慢してる顔ね

そこまでするなんて理解出来ない。

何故、他人にそこまで出来る?

所詮、人なんて裏切るか裏切られるかの関係なのに


〈ナレーション〉

鋼鉄の扉が消えていく。

扉が消えた事で、トロルも消滅した。

ピエンティは、未だに鎖で拘束されている。


「偽操形」


〈ナレーション〉

これを好機と見た詐欺師。

能力を発動。

ピエンティを操る。

学者には効果が無かった。

体を捻じり鎖の拘束をすり抜ける。

再度、拘束を試みるシュティ


「偽壁」


〈ナレーション〉

壁が出現し、学者を分断。

ピエンティ、コリン、ポップ、ミルネ、詐欺師と

その他の学者に分断された。

学者達の方が数は有利だが、コリンとミルネは

立つだけでやっとだ。

ポップも、限界が近い。

絶体絶命な状況。


「皆、力を貸して!」


〈ナレーション〉

コリンが最後の声を振り絞り観客に叫んだ。

しかし、観客は動かない。

これが現実。

助けを求めようと人は助けてくれない。

人の為に身を削っても見返りはない。

どの世界でも同じ。

では、人でないものなら?


遠くから地鳴りのような音が聞こえてくる。

徐々に近づいてきた。

コリン達を守るように現れたのは魔獣。


安心したのか倒れそうになるコリン。

そのコリンを支えるように寄り添うタァタ

これが、彼女が信じた


魔獣と人間が共存して暮らせる世界


ではないだろうか


「これは、分が悪いわね」


〈ナレーション〉

詐欺師は、そう言い残し逃げた

この場から瞬時に姿を消した。

彼女は何がしたかったのか。


彼女が消えた事により

ピエンティのマリオネット化も解けた。

意識を取り戻したピエンティは、目の前の状況を見て

顔が青ざめていく。


無理もない。

目の前には、人よりも遥かに大きい魔獣が何十体と居るのだから。

コリンがピエンティに近づく。

ピエンティは、恐怖で後ずさる。


そして、壁際に追い詰められた。

「殺さないでくれ」と必死に懇願するピエンティ

無様だ。

人を利用し嘲笑った事による因果応報

コリンは、無言で手を差し出す。


背後からシュティがボソッと

「何処までも甘い事。でもそれが貴方が周りを引きつける魅力」


こうして、一件落着


ピエンティは、ポップとミルネの監視下に置かれる事になった。


この学者トーナメントで敗北し

奈落の底に落ちた者は

研究成果、存在、命全てを失った。

後日、人々の記憶から綺麗さっぱり消えた。

最初から居なかったかのように。


血と涙の学者トーナメントはこれにて終幕

私は、パタンと本を閉じた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

血と涙の学者トーナメント 椿 桜 @tubazaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る