ヒュペリオン 〜世界の記憶〜
石水秋
ヒュペリオン 〜世界の記憶〜
「あーもう歴史の報告書作るのめんどくせぇ!」
「この世界作ったばかりですもんね。」
俺たちは,神さまだ。でも,その中でも底辺。亜神と変わらない。
俺たちがいる世界ー神界は神様の暮らす場所。神様は各自で自分たちの世界を創造し,時にはやばい人間を裁いたり熱心な信者に神託を送ったりして世界を「経営」する。
その仕事の一つに歴史の記録,そして報告がある。そしてそれがめちゃくちゃ詳細に書かないといけないので非常に時間がかかる。
「あー。もう早く発展してほしい。発展してくれれば従業員もっと雇えんのに。」
「発展したら出来事がめっちゃ増えるのでもっと忙しくなりますよ。」
メガネをかけた女神がいう。
「まぁそれもそうだけども!」
「あーどうしよ…
そのとき神の頭に電流が走った。
「そうだ!人間に歴史を記録させる使命を与えればいいじゃん!」
「あんまり良くないです,それ。」
メガネ女神がぴしゃりと注意した。
「まぁいいじゃん、いいじゃん。」
俺は嬉々として使命を与える人間を探す。
「おっこの家系の娘とかどうだ?」
「信心熱心な家系の1人娘ですか。まぁこういう使命を与えるのはそういうところがいいでしょうね。」
「よしじゃあこの人間に神託と生きるための力を与えるとしよう。」
私の家は気持ち悪いくらい信心熱心だ。毎日の祈りを欠かさず教典にあることは何があっても守る。それだけなら別にいいんだけど問題は両親がそれを私にもさせてくることだ。
「根はすごいいい人だし優しいだけどそればっかりはね…。」
小さくため息を吐く。
「◼️◼️◼️◼️ご飯だよー」
「あっ今行くー」
私,これからどうなるんだろう。
その晩はなんだか眠くて仕方がなかった。
「今日あんまり動いてないんだけど…」
気づくと真っ白なところにいた。
「やぁ。気がついたかい。」
変な人がいる。
「どちら様?ていうか私寝てたんだけど…」
「あぁ。寝てるよ。君の身体はね。」
胡散臭すぎる。身体が寝てるんだったらこれは夢かなんかか?
「自己紹介がまだったな。私は神様だ。今日は君に使命を与えに来た。」
「そんなわけないでしょ。そんなこと行って私になんかするつもりだね?」
「ふむ。なら少し失礼するよ。」
えっ?動けない。今まで閉塞感なんてゼロでどこまでもいけそうだったのに。
まさかコイツマジの神様か?
「信じてもらえた?」
少し嫌な顔をしながらも私は首を縦に振る。
「では君の使命の話だ。君の使命。それは歴史を記録すること。そしてそれを毎日私に報告することだ。」
それを聞いた瞬間私は思った。
「絶対に嫌だ。めんどくさい。私はいろんな所を気ままに冒険したいんだ。旅したいんだ。それは神様だろうがなんだろうが否定されるのは無理!」
神様は目を丸くした。
「私の命令でもか。」
少し怒った顔をしたがそんなの知らない。
「うん!」
神様は大きくため息をついた。
「仕方ない。少々調整を入れるとしよう。」
今まで見た事がないような明るさの光が光った。
気がつくと布団の上にいた。
少しだけ世界が変わった。
私の人格が変えられた。
今まだ残っているこの心も極めて短い時間でなくなることがすぐに分かった。
あぁ。
人間は神様には逆らえないのか。
元の私の心は消えてしまった。
「カルア!朝ごはんよー。」
母のいつもの声が聞こえる。
昨日の夜神託を受けた話をした。
両親は今までにないくらい大喜びした。
すぐに神様の像に行き感謝をしていた。
私も一緒に感謝を伝えた。
今日の夜神様が来て明確な仕事内容を説明してくれた。
どうやら仕事をするために私には
・永遠の命(不老不死)
・転移の魔法
・千里眼の魔法
・特別な攻撃魔法
・スパイ用眷属の召喚魔法
この5つが備わっているらしい。
この魔法を駆使して毎日各地域を周り出来事を記録する。とにかく詳細に記録してくれとのことだった。
仕事が始まるのは17歳の誕生日。いわゆる成人年齢からでいいそうだ。それまでに肉体の成長も止まるらしい。
両親はそのために戦闘の訓練や元々の歴史を勉強させてくれた。
私も一生懸命やった。
神様に何を言われるかわからないから。
そして17歳になった今日仕事が始まった。
始めはすごく楽しかった。
でも3ヶ月もたてば毎日同じことの繰り返しに少しずつ嫌気がさしてきた。
それでも頑張った。
気づいたら100年がたっていた。
私の見た目は変わらない。
両親はすぐに死んでしまった。
でも仕事があったから親の死に目に会えなかった。
親も許してくれた。
神様のためだから,って。
また200年経った。
両親が死んで少ししたら村の人たちに魔女と言われるようになってきた。
このまま住む理由もないし村を出た。
世界は少しずつ発展している。
私は誰も立ち入ることのない森の奥に家を建てて住んだ。
1人は大して苦痛じゃない。
ずっと1人であることと変わらなかったから。
ただ仕事を続けていたら千年が経っていた。
村同士での戦争が生まれた頃よりもずっと多くなっていた。
武術や馬術も発展し戦争が複雑化していった。
自分の無力さを感じる事もあった。
でも記録者に過ぎない私は戦争には関わってはいけなかった。
結果どうでも良くなった。
三千年が経った。
帝国というものができた。
戦争の規模がとんでもなく大きくなった。
兵器が発達した。
それでも争うことは辞めず死んでいく。
人の命がだんだん軽くなっていくことが実感できる。
私にとってはただ仕事が増えるだけのくだらない出来事でしかなかった。
どうして死ぬ未来しか見えないのに敵軍に突っ込むのか。
どうして死ぬ未来しか見えないのに兵士を突撃させるのか。
祖国の未来のためとかいって誰かを服従させて,弄んで、殺して。
どうしてこんなことをしているのか理解ができなくなった。
どうやら帝国には貴族制度というものがあることがわかった。
大して実力もないくせにただ指示してる人間が多かった。
まともな人間も結局どうしようもない人間の意見に押し流されて抗えてない。
貴族のトップにいる皇族というのがこれまた酷かった。
理由もなく着飾り,豪華な暮らしを享受する。
人間の命をなんとも思っていない。
まるで命の価値は人によって違うというかのように。
そしてその価値が自分達が一番上だというように。
ただ上から指示だけを出す皇族より自分の家族のために戦っている兵士の方がよっぽど良かった。
人間たちは愚かである。
私の結論はそれしか思い浮かばなかった。
戦争が終わったらしい。
小さな子供がものの5分で出せるような結論を
30年も人の命を奪いあってようやくでた。
皇族たちは戦争の罪で裁かれた。
他の貴族たちも同様になった。
ようやくまともな貴族が国を治めるようになり世界はいい方向に向かっているようだ。
くだらない。
戦争なんてやるバカは誰なんだろうと時々考える。
これによって世界の誰もが経験しただろう。
戦争の無意味さを。
貴族の自堕落さを。
人間の愚かさを。
「はい。今日の報告書です。現在各地で平和に復興を進められているようです。帝国の頭もすげかわり戦争をする愚者(バカと読む)がいなくなって嬉しそうです。」
私はフルベリさんというメガネをかけた女神様に報告書を渡す。
「相変わらず他人事ですね。もう少し自分の事だと思ってした方がいいのでは?そっちの方が報告書の質も上がると思うし。」
フルベリさんがのんびりと話す。
普段はのんびりとした話し方をしているが怒ったときは怖いし人間のことを考えないあのクソ神様にはちゃんと厳しいらしい。
「私は時間の流れが違うあなた方神様とは色々違うんです。ここまで途方もない時間を過ごしているとどうでもよくもなりますよ。」
「でもあなたは人助けとかしないですもの。
それくらいはあなたにも認められてますよ?」
「いやです。仕事で常に忙しいのでそんな暇ありません。そもそも何度も戦争をして何度も命が灰に消えても戦争をやめられなかった幸せ中毒の人間たちをなぜ助けるというのですか?」
フルベリさんが少し疲れたようにため息をつく。
「そうですか。それもあなたの生き方なんでしょう。」
「すでに私は生き方決められてますけどね。主にあなたたちから頂いた使命のおかげで。」
視界の横にフルベリさんが微笑んだ顔が見えた気がした。
「ところでカルアさん。知ってます?世界のどこかに私たちのいる神界に一時的に行ける物があるらしいですよ。カルアさん神界興味ありません?」
「へぇ…知りませんでした。でも神界には興味はありません。」
神界には私もいったことはない。半神半人みたいな立場の私だがそれでは行くことができないらしい。まぁ今までもこれからも行くつもりはないから別に良い。
「あっ!そういえば明日人間が来るので11時から15時ごろまで空けておいてください。」
「あっはい。ってえぇぇえぇええ!?」
「なんでですか⁉︎いやです!面倒です!」
絶対に嫌だ。できれば人間と会いたくない。話したくない。面倒くさい。
「なんでも帝国の歴史を研究している方がいてそれの考証のために世界の記録者のカルアさんにどうしても会いたいと…」
フルベリさんがほんわかした調子で話す。
ぬぅ…もー〜
「断るに断れないじゃないですかそんなの…」
そしてついに今日が来る。
フルベリさんの話によると転移魔法陣を使ってここに連れて来るらしい。地味に緊張する…」
11時15分。まばゆい光が転移魔法時から光り研究者がきた。
「すっすごい。こんな魔法があるなんて,」
「あなたが研究者の方ですか?私がカルアです。」
「あっあなたがカルアさん!?はっ初めまして。リックスと申します。歴史の研究をしています。」
かなり驚いている様子だ。まぁ私の肉体年齢は17だから無理もない。
思っていたよりもずっと若かった。
30代程度だろうか。いや20代かもしれない。
綺麗な肌に、整った茶髪。顔もかなり良いタイプだ。
正直研究者にはあまり見えない。
「では、どうぞ。」
私はリックスさんを家に招き入れる。
椅子に座ってもらいお茶を入れる。
「それで…今日はどんな質問をしに来られたのですか?」
彼は好奇心に満ちた顔をしながら答える。
「はい。記録者であるあなたに当時の詳細な様子を教えてもらいに来ました。」
「いつの時代ですか?建国のときだったり長い戦争の時代だったりありますが。」
「では建国のときから…」
そう言って資料を出し現在ある帝国の歴史の説明から始めた。
「本当にありがとうございました。有益な情報がどんどんでてきて…研究者にとっては宝の山ですよ!!!」
彼は目を輝かせ言う。
「いえいえ。でも歴史書に嘘が多く紛れているのは少し驚きました。」
「はい…なぜなんでしょうか…」
ハテナが見えるような顔をする。
「まぁ今日は一旦帰ってはいかがでしょうか。私もそろそろ仕事をしないといけないので。」
もう16時だ。彼との話は楽しかったけどさすがにこれ以上いられると報告書を渡せなくなる。
「そういうわけにはいきません。もう一つ聞かねばならないことがあるので。」
なんだ?フルベリさんは歴史の話をするだけといっていたけど。
「カルアさん。」
「”桜の魔術師“を知っていますか?」
「い,いえ…聞きませんね。」
私は出来るだけ普通の顔をしつつ答える。
「最近世界を騒がせている魔術師です。戦場に現れ魔法の桜を咲かせ争いを止める。謎に満ちた魔術師です。」
私は驚きを隠せなかった。
当然かもしれない。
桜の魔術師は私だから。
仕事の途中,よく村が戦争の混乱に紛れて盗賊や敵軍兵士などに襲われていることがある。私はどうしても見ていることができず
桜の魔法を発動してしまった。
桜魔法は炎や氷などの魔法より殺傷能力が低い。また,直接攻撃しないため相手を死なせてしまうことが少ない。そして私はあまりにも長い戦争に嫌気が差して私の分身を使って強引に複数の戦場を停止させてしまった。それがかなり戦争の結果に響いたらしい。
◇
「桜の魔術師はおそらくこの世界でも最強だと思われます。私たちはその魔術師の正体も追っているのですが,,何か情報は持っていませんか?」
彼が少し疑うような目でこちらを見る。
嘘はあんまりたくさん作りたくないんだけど仕方ない。
「存じ上げません。戦場を停止させたものがいたという情報は入っていますがそれ以上は,,」
「、、、そうですか。つかぬことをお聞きしましたね。私は帰ります。本当にありがとうございました。」
彼は家から出た。
◇
,,,,「仕事しよう。」
私は現実から逃げるように仕事を始めた。
私は死ぬわけにはいかない。死にたくない。まだやりたいことが山程残っている。仕事のせいで全く進まない。
どうするか,,
その夜,いつものように報告書を渡した。
「いつもありがとうございます。」
フルベリさんが言う。
少しの沈黙が走る。
「それと今日はあなたに言うことがあります。」
ま,まさか,,
「あなたはクビです。」
やってしまった。リックスさんの話でボロが出た。
「記録者の決まりー歴史に過度に干渉してはいけない。あなたはこれを破りました。」
「そして神界の禁を破った人間はもれなく死刑です。」
「処刑日はいつですか?」
震えるような声で聞く。
「5日後。多少は時間がありますね。それと神による公式処刑ですから魂そのものが死亡。まぁ要するに輪廻転生のサイクルから外れてしまいやり直すことも不可能になります。そういうわけで処刑日までにやり切った方がいいですよ。カルアさん。今まで…
今までありがとうございました。」
フルベリさんは感情もないように言い放つ。
でもその奥には私へも哀しみの感情が垣間見えた気がした。
◇
「や,やってしまった…」
私は大きくため息をついて机の上に伏せる。
これからどうすれば良いんだろう。
私にはまだやりたいことがある。使命のおかげで全く進まないけどいつか叶えたい。それがここで潰えてしまうなんてもってのほかだ。
私は処刑を回避する方法を考える。
処刑に使われる魔法は「神雷」。
何重もの魔法防御を紙屑のように破り
どんなに雷耐性がある対魔術師特化の熟練の戦士でも一撃で即死する。
万が一対策できても神が使えてさらに私を殺せる魔法なんて星の数程あるから対策は不可能だ。
処刑時どこにいようと勝手に追いかけてきて殺してくれるし,
魔法で時間を歪めても神様には関係ない。
…脳の全神経をフルで回転させても何も出てこない。そう思っていた矢先,ふいにフルベリさんの言葉が脳裏を掠めた。
なんだったか…「この世には…」
それだそれだ。その言葉だ。あともう少しで出そう。
この世には…「この世のどこかには神界に一時的に行けるがあるんですよ。知ってます?カルアさん。神界とか興味ありません?」
それだ。
神界に行ってその中の偉い人に直談判するか
あのクソ神様を倒せばいいんだ。
「そうとなれば…」
私は家の中にある魔法薬製造の部屋に行く。
「あと5日しかない。だったら不眠不休で動けるように魔法薬を作っておかなきゃね。」
魔法薬製造の部屋には大きな鍋と大きな材料棚がある。
魔法薬は作るのは非常に難しい。材料の比,混ぜ方、材料の部位など制約が山程あるからだ。でも不眠不休の魔法薬は何度も作ってる。仕事が多いときには何度もお世話になったからね!さすがに5日ものは初めてだけど
レシピは確立済みだ。
じゃあ…「始めよう!」
私は材料棚から材料をひと通り出し
魔法薬製造ようの神聖水を魔法で創り出す。
温度は78、14度。ただの0、01度も揺らいではいけない。
まずコルテ草の根本を31本持ってきて必要な部位を切り落とし5,61秒間隔で順番に鍋に入れる。これももちろん完璧にする必要がある。魔法薬は質の良い神聖水と恐ろしい程緻密な計算でできる奇跡の薬。大昔の人が実験と予想を幾度もなく繰り返し奇跡的に完成し,そのレシピの順番を0、01の単位で逆算する。まさに努力の結晶である。
「よし!完成!」
金色の光輝く魔法薬ができた。
「あとはこれを飲んで探すだけ。」
すぐに魔法薬を飲み干した。
信じられないくらいの活力が出てくる。
そして神界に行くための物。実はもう見つけている。世界の最西端マグマの地方にそびえ立つ火山山脈の最高峰,
グランドマウンテンだ。
私は常に大量の召喚獣を出し各地域を巡回,探索している。そのとき,約300年前にたまたま見つけた。そして肝心の置かれている場所,それはグランドマウンテンの頂点の火口その中にある溶岩洞窟の中。私だったら強引に侵入できる。やるしかない。
「なら転移魔法でちゃっちゃとーー?
ん?」
転移魔法が発動できない。それだけではない。特式攻撃魔法も召喚魔法も千里眼も使えない。
「…なるほど。やるじゃない。」
どうやら神様が与えた魔法は全て奪われたようだ。永遠の命はまだ残っているようだがいつ取られるかわからない。
「仕方がないか」
私は目を閉じた。詠唱を始める。
「魔法神よ。我に力を与えたまえ。」
「シンソク」
私はマグマの地方に走り出した。魔法で強化しているのであと3時間で着くだろう。
体力は不眠不休の魔法薬で実質無限だ。
「早くあのクソ神様の顔を拝んで差し上げないとね。」
◇
グランドマウンテンの火口まで来た。
そろそろ世が明ける。
夜明けと同時に私は火口に飛び込む。
「炎から守れ サラマンディアス」
「マグマよ凍れ エバーガーデン」
マグマを凍らせ洞窟の座標に合わせてさらに下へ行く。
「ここか。」
溶岩洞窟を見つけた。洞窟は一本道になっており迷うという概念がなく楽に行けた。
「まさか本当に来るとはな。」
剣を持った大男ー火神が座っている。
正直驚いた。フルベリさんがやったのだろうか。
「どうやってこのスピードでここを見つけた?」
「もともと見つけておりました。私はそこに急いだだけです。」
「貴様の召喚獣か。恐ろしいものだな。主神は貴様に力を与えすぎたな。」
うわぁ。あのクソ神様主神なのか。酒神くらいでちょうど良いのに。
「どうでもいいですから通してくれます?私神界に用がありまして…」
「悪いが無理だ。ここは私が守っているのでな。」
火神が剣を抜く。戦うことは避けられない。
「仕方がありませんね。私が勝ったら通してください。」
「あぁ俺も戦神の端くれ。それくらいはわかってるさ。」
そう言って距離を詰めてくる。
「氷+桜 氷花永遠」
辺り全域ー火神も含め全てが凍結した。
「では私は行き…
「炎龍」
凍結を火神が燃やす。さすがにこれだけじゃ無理なようだ。
「百花繚乱・冷」
氷が辺りを埋め尽くし火神に攻撃が当たる。
さすがにこれで…
「炎龍」
またも燃やす。今回は龍と独立して動きすでに姿を消している。戦闘力はかなり高いようだ。ならば…
「氷桜 舞い散る 刃の花弁 集約の焦点」
「桜龍・氷」
氷の桜が咲き花弁が辺りを埋め尽くす。
花弁は刃のように鋭く変わり集まる。
それが龍となって火神を襲った。
火神は倒れたようだ。
私は天駆の宝珠というものに触れ祈る。
私は神界に飛ばされた。
◇
神界は至るところに花が咲き,雲を見下ろし,人間を嘲笑うような遥か高くの天空にあった。
そこまで大きな場所ではなく神様の仕事場のような建物があるのみだった。
私はその建物に入る。誰もいない。少なくともこの周辺には私しかいないようだ。私は至るところにある四角い箱を見る(コンピューターのような物)。
そこにはありえないことが書かれていた。
ヒュペリオン 世界の記録者
人格に乱れがあったため3300年前に調整済み
現在の名前はカルア
初期化・記憶返却可能
隣には私の5歳頃と今の精密な絵(写真)があった。でもヒュペリオンという名前に見覚えはない。
だが記憶返却可能とある。
私は迷わずそれを押した。
その瞬間私の記憶と人格が雪崩込んできた。
今の人格を守るのに精一杯だった。
視界が白くなってくる。
◇
気がつくと真っ白な部屋にいた。
「おまえ,このままだと死ぬぞ。」
聞き覚えのある声だ。3300年前のあの時のー
「クソ神様…」
「ひどくないか?それ。」
「まぁそれは置いておいて、おまえ調整前の記憶を引き出したな。」
「それがどうしたの?」
「今のおまえには2つの人格ーヒュペリオンとカルアがいる。それは非常に危険な状態で永遠の命を持ってしてもすぐに死ぬ。」
「どうせ死刑になるなら同じことでしょ。後悔なんてしてない。でも,それはそれとして
死刑は取り消して欲しい。悪いことをした気はないよ。」
「おまえはあの世界から外れた人間。俺たち神に近い。神が必要以上に歴史をいじってはならない。それが世界を運営する柱の義務だ。」
「ならまた世界の中に入る。もともと外れてたって関係ない。私は私だよ。」
私はそう言って杖を向ける。コイツを脅してでもやってやる。
「…驚いたな。おまえは人間が嫌ではなかったのか?」
「うん。もともと人間は愚かな生き物だと私も思って疑わなかった。」
カルアの頃は人間なんてどうなってもいいとずっと思っていた。だけどーーー
「でもね。修正前の人格をよく見て気付いたんだ。人間は愚かな生き物である。それは変わらない。けど,その愚かさが、醜さが、心が、想いが。とても美しくそれが人間の魅力である。そうわかった。
今日も人間は非合理的な事をする。
でもその分学び,その分考え,その分愛する。
私はー…私はその手伝いをしたい。」
「私の望みは2つ。1つ。死刑を撤回する事。
2つ。記録者としての使命を今日限りで外すこと。それが無理だと言うのであればー…
武力を行使してでも認めさせます。」
そう言って私は笑った。
…「わかった。いいだろう。ただー…おまえの身体は2つの人格がある状態。このままだと
生きられるのは永遠の命があってももって数年だぞ。それでもなのか?」
「フッ」
笑ってしまった。
「問題はないよ。」
私は杖を持った。
「闇 人格融合」
「今,魔法で人格を融合させた。これで晴れて1つの人格だ。これで問題ないよね?」
神様は目を丸くした。
「…おまえの力は底知れないな。では,使命解除の儀式を始める。」
私は無言でうなずく。
「私,この世界の主神コルニアが命じる。
ヒュペリオン・カルアの『記録者』としての使命を解除する。」
私の中から光が出ていく。
光はここよりもずっとずっと高い空に昇って消えた。
「これで問題ないな?」
「うん。じゃあ私は帰ります。お疲れ様でした。」
私は深々とお辞儀をし神界から飛び降りた。
「きれい…空ってこんなきれいだったかしら。」
私は「自宅帰還」の魔法を使い家に帰った。
◇
「お疲れ様。」
聞き慣れた声。おそらくこの人はー
「フルベリさん!?どうしてここに!?」
「死刑を免れて使命もなくなったと聞きましてね。せっかくだし挨拶をと。」
「そうですか…あっ!そういえば天駆の宝珠
の事なんで教えてくれたんですか?神界に遊びにきて欲しかったんですか?」
完全に忘れていた。そもそもあの宝珠はフルベリさんから聞いた物だ。
「用意したのは私ですよ。あなたが“桜の魔術師”であることはあの時もうわかっていたので。カルアさんがいなくなるのは寂しいですし。」
えぇ…もしかして一番抜け目ないのフルベリさんなのでは…
「本当にありがとうございました!おかげで使命から解放されました!」
精一杯の感謝を込めて言う。
「いえいえ〜また会いましょう?私寂しいですよ。カルアさん、いやヒュペリオン・カルアさん!では私は仕事があるので戻ります。
では またどこかで。」
そう言ってフルベリさんは消えた。
少しの間私は放心してしまっていた。
「はっ!私も準備しなきゃ!」
私は家に戻って荷造りを進めた。
◇
一カ月後。
私はここにバイバイすることにした。
各地を巡って人を助けてのんびり観光して。
楽しく行き先も決めず旅をしようと思う。
使命からも解放された。
私の命は永遠。
この世界が滅ぶまで私はともにある。
この世界の守護者にでもなんでもなってやりますよ。
でもこの家はずっと残す。誰かが住むかも知れない。
長い時間をかけてなくなるかもしれない。
悠久の時を私は見守る。
「世界が滅ぶまであと何年あるかな…?」
何年でもいい。世界を見て回るには十分な時間だ。
「じゃあね。またきっとここに戻って来るよ。いつになるか,わからないけど。」
終わり
ヒュペリオン 〜世界の記憶〜 石水秋 @zdf
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