第2話 いるよ?





 分かり合えないと理解するまでそんなに時間はかからなかった――。


 小学生になったばかりの頃だったかな? 俺には普通に過ごしていて、普通に話をしていた人がいた。そう『いた』と表現しているように、今はもういないということなんだけど、引っ越ししていったとか、碑文が引っ越したとか、転校したとかそういう話じゃなくて、本当に目の前から、いやこの世界からいなくなったのだ。


 幼稚園に上がったころは活発というかやんちゃというか、ガキ大将のように周囲で一緒に遊ぶ人たちを引っ張るというか、引き連れて歩くような子供だった。


 自分から連れて歩いていたわけじゃなく、自然と一緒に遊んでいく中で、俺という存在がそういう立場になってしまったといった方は伊かもしれない。


 しかし、周りの大人たちはそういうところをあまりよく思ってなかったみたいだ。

 それは俺は時々周囲の人にすれば『ふしぎ』で『不気味』なことを言い始める子供だったから。


「おかしいなぁ……」

「どうしたのせんせい」

「あら俊介君。どうしたの眠れないのかな?」

「ううん。せんせいが何かさがしてるみたいだったから……」

「そっかぁ。ごめんねぇ。先生ね、ちょっと探し物をしてるの。俊介君は気にしないで寝てていいからね」

 お昼寝の時間ということもあり、周囲の古賀寝てしまって間もなくすると、部屋の中に先生が入ってきて、いろいろなところ音が出ないようにと静かに動かしながら、きょろきょろと何かを探していた。


 はじめは気にせずに眠ろうと思った俺だったけど、あまりにも真剣な表情をしながら四つん這いになりながらも隅々まで探そうとしている先生を見ていたら、気になり始めてしまって眠れなくなってしまった。


「何をさがしてるの?」

「え?」

 布団に入り、眠るものだと思っていた先生だったが、俺がすぐ後ろに立っていて、声をかけられたことに驚く。


「何を探してるの?」

「俊介君は寝てていいからね?」

「何を探してるの?」

「……はぁ~。えぇっとね――」

 何を言っても聞く耳を持たないと思ってあきらめたのか、先生は大きなため息をついて俺に向き直り、自分がいま何を探しているのかを話してくれた。


「――というわけで、先生は大事な指輪を探してるのよ。でもこれだけ探して見つからないってことはきっとここじゃないのかもしれないわね。ううん。もしかしたら園にはないのかも――」

 先生があきらめましたっていう表情をして俺に話しかけてきたとき、おれはふと先生がいつも座っている椅子の後ろへととことこと歩き出した。


 俺の突然の行動にちょっと戸惑う先生。


 そうして椅子の後ろにある、引き戸になっている小さな棚の中へと頭を突っ込んで、奥の方をゆっくりとみていくと、明かりの届かない暗くなっている奥で、きらりと鈍色に何かが光ったのを見逃さなかった。


 光が差した方へと手を伸ばし、手探りで目当てのものを探していく。しばらくいろいろなところを探していると、人差し指の先にちょっと固い感触がした。それを取るためにグイっと体をさらに伸ばしていく。


「とれた……」

「え? 何が?」

 いつの間にか俺の後ろに立っていた先生が、自然と出てしまった俺の独り言に返事を返す。

 

 棚の中から体をゆっくりと出していき、頭まで出たところで「ふぅ~」っと小さくため息をつく。そうして先ほどシッカリと握ったものを収めている手を先生の前へと出して、ゆっくりと開いた。


「これ?」

「!?」

 広げた小さな手の中には、一つの指輪が握られていた。せんせいはそれを確認すると、ゆっくりと自分の手に取って確認する。


「……先生が探していたのはこの指輪。間違いないよ」

「そうなの? よかったぁ~。じゃぁこれゆっくり寝ることができるかな?」

 何事もなく、それが当たり前という感じで俺はてくてくと自分の布団がある場所へ歩いていこうとしたとおころで、先生に腕をつかまれた。


「俊介君」

「なに?」

「どうしてこれがここにあるってわかったの? 先生もここは何度も探したんだけど、ぜんぜん見つけることなんてできなかったんだけど、どうしてここだってすぐにわかったの?」

「どうしてって」

「全然迷いなく、まっすぐにここにきて、この棚の中へ体を入れてたよね? どうして?」

 先生が腕をつかみながらちょっと怖いくらいに早口になって俺に聞いてきた。


「せ、せんせいちょっといたいよ」

「あ、ご、ごめんなさい!! でも……」

「どうしてっていわれても、きいただけだからそりゃぁわかるよ」

「聞いた? 誰に? ほかの先生に聞いたの?」

「ううん」

 俺は先生の質問に首を振る。そうして教室の隅へとスッと右手を上げて指をさした。


「あそこにいるおばあちゃんにきいたんだよ」

「は? え? お婆ちゃん?」

 先生は指さす方へと顔を向け、ばっと俺をかばうように背に隠すようにした。


「え? お婆ちゃんなんて……いないじゃない」

「え? いるよ?」

「どこにいるの? 知らない人よね? 先生たちに知らせないと。不審者が入ってきたってことなら大変!! 俊介君いつ見たの?」

 教室を見渡して誰もいないと思った先生は、くるりと俺の方へ体の向きを変え、今度は俺の方をつかんで聞いてきた。


「え? いるけど……」

「どこにいるの? さっきまでいたってこと!? 大変!! お布団に入って俊介君はお昼寝しててね」

「え?!? あ!! ちょっとせんせい!!」

 俺を布団の方へと手を握って連れてきた先生は、そのまま俺を無理に布団の中へと潜り込ませると、起こさないようにと教室の中ではゆっくりと、しかしドアを開けて静かに占めると、パタパタという音を立てて遠ざかっていった。


「ろうかははしっちゃいけないんだよ……ねぇ?」

 俺は布団から這い出して、先ほどまで見ていた教室の隅へと視線を向けて声をかける。



 すると、白髪の円の先生たちと同じような格好をして、円のエプロンを身に着けた一人のお婆さんが、右手の人差し指を口に当て、口で「しぃ~!!」っと言っている格好で、まだその場にいた。


 これが後々に俺の両親を呼び出されることになる騒動になってしまうなんて、この時の俺にはわかってなかったけれど、この時初めて、俺の見えているものがほかの人には見えていないんじゃないのかな? とぼやっと思ってしまった瞬間だった。

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噂になっている訳ありなモノたちが集う小さな喫茶店 武 頼庵(藤谷 K介) @bu-laian

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