短編 なきりぼっくす

じゃじゃうまさん

三角ミルクケーキ

ケーキが好きだ。

甘くておいしくて、幸せな気持ちになれる。

これは持論だが、チョコケーキはケーキではない。

あれはチョコ風味のなにかである。


そんな独白をしている理由は、私、黒金くろがね まいが、ケーキバイキングへ向かうから。

普段は財布と相談し、二個買って満足することがほとんどだが、今日は違う。

三十分4300円に、夢と希望、わずかばかりの不安を抱え、私は足を前に進める。




「おかしい。」

「なにが?」


7月20日。

中学三年生の私は、友達である手加賀美てかがみと教室の隅で話す。

放された席で、華のない席で。

頭から離れない現象を、話す。


「体重が増えた。」

「…」


反応が薄い。

いつもの相談だと勘違いしてしまったのだろうか?


「いや、おかしいの。おかしいんだよ手加賀美。」

「おかしいというか、おかしくなったというか…」

「…そんな目で私を見ないで。いや、おかしいのは私の頭じゃなくて、体重なの。」

「…なにがおかしいの?」


一応聞いてやるかみたいな感じで、仕方がなく、めんどくさそうに聞いてくる。

女子とは思えないほど股を広げ、もしこの中学に思春期男子がいたならば卒倒してしまうような足の開き方をする。



「私、何も食べてないのに体重が増えたの!」

「黒金がそこまで声を張り上げて言うのがそんなセリフだなんて…私、そんな子に育てた覚えないよ?」

「いや、私手加賀美に育てられてないし…」


私は必死に、決死で、九死に一生のように、説明する。


「…つまり、つまれり、17と。…ごめん、言われてもわけわかんない。」

「なんでわからないの?」

「…人間ってね、ケーキを食べたら太るんだよ?物を食べたら代金も払わないといけないんだよ?」

「いや、そんなこと知ってるけど。」






「は?」


手加賀美はフリーズした後、響き渡る低音で言い放つ。


「だから、私は30って話。」

「…黒金、私より偏差値とか頭とかいいのに、なんでそこまで頭がよくないの?」

「そこまで言うならもう馬鹿って言ってよ。」


実におかしい。

私は30分4300円のケーキバイキングに向かい、元を取っただけなのに、なぜ体重が増えて一万円札が減ったのだろう?


「…黒金はケーキを食べたんだよね?」

「…食べた…?」


食べたか?

それはケーキバイキングでケーキを食べたかと言うことだろうか?

ん。


んん?



んんん?


「…新作の三角ミルクケーキ9個と、モンブラン2個、肉まんケーキとショートケーキを一つづつ…」

「がっつり食べたね、30分で。」

「お腹すいてたんです…」


そうだ、だから体重が増えたのか。

よく考えれば、かなり食べた。

さすが私。


いや、まだ問題は解決していない。


「おかしいんだよ!」

「今度は何?」


私は机をバンとたたき、手加賀美に詰め寄る。


「私の選んだコースの料金は4300円なのに、財布の中のお金が全部なくなってたの!」

「…ケーキバイキング以外でお金使った?」

「ううん。」

「…じゃあ問題2。その日財布にはいくら入ってた?」

「7000円。5000札一枚と、1000札二枚。間違いはないよ。」

「…はぁ。」


大きく、あるいは深くため息をつく手加賀美。


「…じゃ問題3。黒金が9個食べた三角ミルクケーキは一つおいくら?」

「一つ三百円!休日セールですごく安かった!」


三角ミルクケーキ。

一見武骨な三角形に秘められている、美しさと芳醇なミルク。

甘すぎず、かといってミルクが強すぎない。

主張を抑えながらも、甘みとうまみを味わえる、至極のケーキだ。


「問題4。黒金が挑んだコースの条件を、今一度読み上げなさい。」

「?コースの条件?」


私はバックの中からケーキバイキングのチラシを取り出し、条件を読む。

残したケーキは持ち帰り不可。

延長は不可。

トッピングは自由。



「…新作ケーキは、食べ放題コースに入らない…」

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