第三章「汚れたセイクラム」

 それからというもの、その汚れた巨人……セイクラム?はしゃがんだ姿勢から微動だにしなくなってしまった。

 あれがセイクラムだとしたら搭乗者の安否が気掛かりだ。構造からみて胸部あたりがコクピットであることは間違いなさそうだが……。


「なにか解りましたか?」


 騒ぎを聞いたラメドの面々は遅い時間にも拘らずすぐさま駆けつけてくれた。

 機械技師のレナードが胸部あたりによじ登って機体を触りながら何か解りそうなことを探してくれてはいるが。


「いや、さっぱり。空を飛ぶ以前に二足歩行のセイクラムって時点で空想の産物だ。少なくともロックフォードの機体ではないし、オレイアスでも、他社産でもこんなのは見たことないな。」


 お手上げ、といった様子で降りてきた。バウムたちの前まで来ると、ゴーグル型のライトを消灯しつつ。


「そうだな、セイクラムだとすればコクピットがあるだろ?探しては見たんだが、ああいうのには緊急時コクピットのハッチに外部からアクセスできるスイッチなりレバーなりがあるはずなんだ。しかし奴にはそういうのが全く見当たらない。ついでに言うとメーカ型番とか所属、おおよそそういうものがわかる刻印やエンブレムも一切見つからなかった。」

「つまり……お手上げってことかしら?」

「残念ながら、こうまで外部からのアクセスができないとはな。二足歩行についてはロックフォードでそんな構想を聞いた覚えも薄っすらあるが、空まで飛ぶとなれば大陸の技術力を遥かに上回ってる。フィクションの世界だ。」

「……ふむ」

「上回ってる、んだが、それ以外にも不思議な点がいくつかあって」


 そういうと踵を返したレナードは「こっちだ」とバウムたちに手招きして例のセイクラムの手元に回る。


「まず装甲、一般的な霊樹材とは別物だ。金属っぽくもあるが……生物の外骨格っぽくもある。サキモリの装甲状外骨格が一番似ているか?いや、それともまた違った質感だ。少なくとも俺はこの素材を知らない。わかることはかなり年季が入っているということだけだな。」


 確かにそのセイクラムの装甲は経年劣化と見える傷やひび割れや汚れがそこそこ目立っている。

 これは手入れが余り行き届いていない状態で長年放置されていた証拠と見ていいだろう。埃が積もっているというよりはところどころに泥や土がこびりついている様子からもしかすると地中に埋まっていたのかもしれない。


「さらに武器、折れているが実体剣だ。見た感じ動力も備わっていないから本当に鋭さとか重量で殴り倒すああいう「塊」って武器だ。今日日こんなものを持っている奴は軍属の式典用モデル機ぐらいだろうな、その辺だって軽くて研がれていない模造剣が一般的だ。でもこれは……見ての通り、重量のある「武器」だ。」


 レナードに言われて視線を移すと、短剣かと思っていたその「剣」は先端がいびつな形状をしていた。中腹あたりで折れているが元々は長剣だったものなのだろう。


「現代の技術で動くとは思えない代物が骨董品みたいな武器を人間の指みたいなマニピュレータで握っていたと……お前たちがこんな質の悪い嘘をつく連中じゃないことは重々承知しているが、俺は未だに「実は全部嘘でした」って線の方がまだ現実味があると思ってる。」

「まあ、実際目で見た僕もまだ夢なんじゃないかと思っています。」

「レナード、バウム君たち、遅れてすまない。」


 話していたバウム達は今しがたラメドの方から来たのだろう男性に声をかけられる。昼に商店で話した保安官のチャールズだ。


「これが……『サキモリの亡霊』の正体かい?」

「いや、それはあっちだ。」


 汚れた巨人をまじまじと見つめるチャールズにレナードが奥の茂みを指さして伝える。そこには、胴体から真っ2つに分断された銀色の巨人「だったもの」が転がっている。

 チャールズは二体の巨人に向けた視線を2、3度行き来させ、頭痛を抑えるような仕草を見せた。


「……状況を飲み込めるようになるまで物凄く時間が掛かりそうな光景だ。」

「だろうな、この場にいる誰一人としてまだ飲み込めてない。」

「それで向こうにいるのが『亡霊』だとして、じゃあこっちは?」


 チャールズが汚れた巨人を指して問いかける。


「亡霊から彼らを守った所属不明機だそうだ。所属どころか製造元も不明だから実質的にはそこの亡霊と大差ないが。」

「……ふむ、お二人に怪我は?」

「いえ、軽い打撲程度です。」

「私も特にないわ。」

「それは何より。とするとあとは……この二機が一体何者なのかだね。」


 そう言うとチャールズは現場検証に取り掛かったようだ。様々な角度から写真を撮り始める。

 レナードもチャールズと一緒に各箇所を観察しに行った。そして丁度その二人と入れ替わりで。

 

「いよう、野次馬に来たぜ」


 爆音トレーラー娘が二人に話しかける。事の顛末は一通り他の住人から聞いたのだろう。特に二人を心配している様子はない。


「すごい騒ぎだな、セイクラムが空を飛んでたっていうから見に来たけどよ。」

「なんだ、てっきりお前のとこの実家が秘密兵器を投入して僕たちを暗殺しに来たのかと。」

「そんだけ悪態をつけるなら体調に心配はなさそうだな。こいつらの写真、親父に見せてもいいか?きっとすぐにでも調べたいって言いだすと思うけど。」

「ああ、そうして欲しい。」


 一応保安官ということもあり、チャールズに一言断ってから携帯端末で二機の写真を撮り始めたロディ。

 チャールズは元コーレルブルグの保安官ということで彼女の顔を知っていたらしく無駄に緊張して背筋を伸ばしていた。なんだあれ、おもしろ。

 ロディの実家はラメドから車両で3時間ほどの位置のコーレルブルグという大都市にあり、彼女の父親が先ほど話題に出た「ロックフォードグループ」の大会長様ということだ。

 ロックフォードグループは、セイクラムをはじめとした重機の製造メーカで大陸トップシェアと言えるロックフォード重工を含む超・大企業だ。

 そもそも元々鉱山地域だったコーレルブルグが大陸有数の大都市となった要因ともいえる企業である。

 つまるところ彼女はそんな大企業の会長令嬢ということだ。

 そうは見えん、と言っちゃなんだが。実際いつもの粗雑な振る舞いで忘れがちだ。あれが大陸でも有数のお嬢様だって?世も末だ。

 数枚写真を撮った彼女は続いて誰かと通話を始めた。しばらくそうして話していたが、途中で其方を遮ってバウムたちに話しかけてきた。


「今親父と話してるんだけどよ、一先ずうちの研究所で調べさせてほしいってさ。当時のことも聞きたいらしくて、疲れてるとこ悪いけどあんたらさえよければ一緒に来てくれないか?」


 不幸中の幸いとでもいうべきか、ここはセイクラムに大陸一詳しいと思われる彼らに委ねるのが最善だろう。何より銀色の巨人側からの追撃が来ないと決まった訳ではない以上、正規軍とも繋がりがあるロックフォードグループの庇護下となればより幾分か安心できそうだ。

 バウムたちはロディの提案を頷いて承諾し、ロディは頷くバウムたちにサムズアップで返答すると再び電話口に戻った。


「二人とも来てくれるってさ。……迎えは……ひとつなら乗りそうかな、?うん、うん、じゃあそうする。……準備出来次第向かう……ああ、わかった。その辺で落ち合おうと伝えておいて……」


 バウムはそんなロディを横目に見つつ。

 珍しく先ほどから終始無口だったリンデを気に掛ける。こんなことがあった後だから仕方ないと言えばそれまでだが。

 騒ぎの最中にリンデを背負って以降、今の今まで何となく降ろしてしまうのが怖く彼女を背負ったままだったバウムは、

 しかし長時間他人に背負われ続けるのもそれはそれで疲れてしまうだろうとリンデを座らせられそうなところを探す。

 大きめの岩……は冷たいからあまり座らせたくない。草の上は……湿っていたら濡れてしまうかも。土の上、もってのほかである。

 しかし普段滅多に人が入らない森の中だ。今でこそあの二機が暴れまわったせいで少し開けた感じになっているがベンチは愚か座れそうな切り株すら見当たらない。

 やむを得ない。バウムは近くにあるものの中で最も平らで乾いていそうな大きい石を選ぶと、リンデを一度降ろして肩を抱えて支え、器用に自分の上着を脱いで石に掛ける。

 ようやくその上にリンデを座らせることができた。

 終始あの鎧の様なセイクラムをじっと見ていたらしいリンデは上着の上に座るとどこか申し訳なさそうに視線をバウムに移し、正面にしゃがむの彼の手をきゅっと両手で掴む。


「再三聞いたが、怪我とかは無いんだよな?後になって痛んできたところとか……」


 バウムの問いかけにリンデは先ほどからと同じようにふるふると首を左右に振って返事する。


「ロックフォードの庇護下に入れば一先ず安心できそうだな。大分疲れてると思うけどもう少しの辛抱の筈」

「私はいいの。貴方に比べれば疲れているうちにも入らないわ。」


 バウムの言葉を半ば遮るようにそう言ったリンデは上着の上で少し腰をずらすと、「座りなさい」とでも言わんばかりに空いた空間をぽんぽん叩く。


「僕も大丈夫だ。疲れてな」


 ぱしぱし。

 今度は「お黙り」とでも言いたげな様子だ。こうなるとバウムは彼女に勝つ術がない。おとなしく隣に腰を下ろす。

 リンデ一人なら十分だった石の上だが二人で座るには小さい。必然的に肩から腕にかけてぴったりとくっついてしまう。

 窮屈だともとれるが「よろしい」と言いたげにうんうん頷く彼女を見る限り対応に誤りは無かったようだ。

 しかしおぶっていた時に比べれば密着度は低いはずだが、何だろうかこのむずむずとする居心地の悪さは。

 先ほどまで神妙な顔つきで現場を眺めていたラメドの面々+トレーラ女1匹が微笑を帯びてこちらをちらちらとみているような気がするが気の所為だろう。

 なんか今「相変わらず仲がいいなあ」と聞こえた気がするが絶対気の所為だ。そんな目で見るな。

 昔からそうなんだがリンデは自分で立って相手と話をすることがないからかこういう時の距離感が他人と比べて近い気がする。

 それも共に暮らしているからなのかことバウムに対しては少々バグりがちな距離感と言わざるを得ない。


「さっきはありがとう。あと、大変な想いをさせてごめんなさい。」


 努力ではどうしようもないこととはいえ自身の脚で歩けない以上彼に自身を預けるしか無かったこと、負担を掛けてしまったことに負い目を感じているらしく目が覚めてから数度目の感謝と謝罪を呟くリンデ。

 実際彼は強い身体的疲労を感じていたが、それよりも普段底抜けに明るい彼女がここまで弱っている様子は一緒に暮らしていても滅多に見たことがないためどう受け答えするか考えることに必死になっていた。

 数年開けていない錆びついた脳内引き出しを脳内バールで力づくでこじ開けているような感覚だ。

 今だけは普段寡黙寄りな自分を恨む。それこそリンデの様に日頃から饒舌だったらこういう時にぽんぽん慰めの言葉が出るんだろうか。


「気にしなくていいよ」


 そら見たことか。そんな言葉しか出てこなかった。

 そんな言葉しか出てこなかったものの、彼女に聞きたいことがあった。


「リンデ、1つ聞いてもいいか」

「崖から飛び降りてあのセイクラムに助けられた後の記憶が余りないんだけど……あの後のことで何か覚えていることはある?そうだな、例えば……自分の脚で立ったこととか。」

「立った?私が?」

「変なことを聞いて悪いけど。」


 リンデは少し考えるような素振りをするものの、直ぐに先ほどと似た仕草で首を横に振った。


「あの時私もすぐに気を失ってしまったから何も……どうしてそんなことを?貴方は何か見たの?」

「そうか……いいや、きっと僕の思い違いだ。忘れてくれ。」


 何かを隠しているような様子はない。彼女自身バウムが言っていることに一切心当たりがないという様子だ。

 バウムは彼女に自ら言ったように思い違いと考えることにした。

 実際彼の頭の中でさえ鮮明とはとても言えない記憶しかない。今リンデに聞いたのも忘れてしまう前に聞かなくては、というところが大きい。

 あの薄っすらと頭に残る光景は何だったのだろうか。あまりにも絶望的な状況に希望的な幻覚を勝手に作り出して見せていたとでもいうのだろうか。

 それにしては少々性格の悪い幻覚ではないか?とは思わなくもないのだが。

 しばらくきょとんとしていたリンデだったが、場の空気を切り替えるように言葉を続ける。


「私たちって今から軍基地?に移ってロックフォードと軍に守ってもらうのよね?」

「ああ、あの銀色のセイクラムの撃退には成功したみたいだけど……彼が僕達を追ってきた目的がはっきりしていない以上今後が安全かどうかも保障できない。ロックフォードの人たちからすればあのセイクラムについて調べたいというのが大きいんだろうけど、理由はどうあれありがたく庇護下に入らせてもらおう。」

「となると……しばらくお店は閉めないといけないわね。」


 なるほど、しばらく拠点が軍基地に移ることになる。つまり茶店を休業にする必要ができてしまうのだ。

 過去に数日程度の休業は何度か経験しているものの、今回は事態が事態だ、数日で終わるものなのか見当がつかない。

 寧ろ数日で終わることはほぼ考えられないといってもいいだろう。

 しかし仕事を命に代えることはできない。リンデには苦痛かもしれないが今回は涙を呑んで休業してもらおう。


「出発まで多少時間があるはずだ、一休みしたら茶店によって支度をしよう。」

「ええ、アーサーにも暫く店を空けることを伝えないと。」


 ロディに聞いたら、街からトレーラーを回してくるから件のセイクラムを積んだらすぐにでも出発したいと言っていた。

 あと遠征中の生活用品当諸々はロックフォードが補填するから何も持ってこなくていい……とも言っていたがリンデの車椅子をあの場に放り出してしまったからそれくらいは替えのものを取りに行きたい。

 土埃で汚れてしまったから軽くシャワーも浴びておきたいが、それくらいの時間はあるだろうか。


 ラメドの方へ歩いて行ったロディを見送ったバウムは再びリンデを背負うと茶店の方へと歩を進める。

 ここからなら歩いて数分といったところだろうか、ラメドよりも近いくらいだ。

 そういえばラメドにはセイクラムや巨大な重機が無かった筈だが、どうやってトレーラーにあの巨体を載せるつもりなのだろうか。

 ロディに聞いてみたが、「その辺は気にすんな、一時間もあればサクッと載せてやるからさ。」の一点張りだった。

 まああの年齢にして一人で大企業相手に運送をやってける敏腕だ、彼女なりの秘策があるんだろう。

 一旦その辺は気にしないこととする。

 ラメドと茶店の行き来をする道には点々と街灯があり視認できる程度に明るい。

 しかし今彼らが歩いている所は普段一切使われない半ば獣道といえる道だ。

 街灯は愚か舗装も当然されていない。時折歩く人々……それでも八割以上はバウムなのだが。によって歩いて踏み固められただけの道である。昼間に歩く時でも多少慎重になって歩く道だ。

 数メートル先が見えない真夜中、おまけにリンデを背負っている。

 あの大逃走劇を無事に乗り越えた後で普通の帰り道で滑落して怪我したとか笑い話にもならない。

 バウムは多少神経質ともとれるほど一歩一歩を踏みしめて茶店まで戻った。


 店内、玄関の戸を開けると、室内は明かりがついていたものの、あると思っていた出迎えが無かった。


「アーサー?……おかしいわね、充電中かしら?」


 リンデの呼びかけにも返事がない。本当に充電中なのかもしれない。

 ひとまずリビング奥のクローゼットから予備の車椅子を引っ張り出してリンデを座らせる。

 リンデに「様子を見てくる」と伝え地下室の充電ポッドを見に行くが、そこにアーサーは居なかった。

 特に出かける連絡が入っているわけでもないのに何故だろうか、と地下室の階段を上がるバウムだったが、一階から裏庭のビニールハウスに続く勝手口、その小窓から畑の淵にしゃがむアーサーの様子が見えた。


「アーサー?……充電切れか?」


 歩み寄るバウムに気づくどころか話しかけても返事がない。試しに肩を軽くたたいても微動だにしない。

 となるとおそらく故障か充電切れだ。室内に入ることもできなかった事や手元に土いじりの道具があることから、咄嗟の出来事だったことが伺える。

 故障の可能性が高いだろうか。

 等身大のオムニックはかなり重い。年相応、もしくはそれ以下の筋肉量しか無いバウムには持ち上げて運ぶなんて到底不可能なため脚を引きずるようにして室内に運び込み、そのまま階段を下って充電ポッドに座らせる。

 そういえばついさっきリンデにも似たようなことをしたな。

 充電ポッドに着いたアーサーの胸部に充電中のマークが浮かんだ。


「……故障じゃなかった?充電切れか、珍しいな。」


 アーサーの充電ポッドには事故防止のために故障時は充電を行わない機能がついているはずだ。

 今充電が始まったということは、土いじりに夢中になったアーサーが充電切れのタイミングを見誤ったか。

 はたまた充電ポッドにも感知できない故障をしたかだ。

 正直後者の可能性は薄いだろう。以前は充電に一切関係ない関節部のベアリング損傷とかまで検知してたし。

 とはいえ前者もレアケースだ。過去に同じようなことの覚えがない。

 しかし起こったことは起こったことだ。故障がないなら良かったと思っておこう。

 直接口頭で伝えるつもりだったが、しばらく店を開けることは後で連絡を入れておくことにする。

 説明が大変そうだ。


「アーサー、見つかった?」


 リビングではリンデもアーサーを探していたようで、茶葉の壺を棚から降ろして中を覗いていた。

 少なくともそこにはいないと思うなぁ。


「ああ、畑でしゃがみこんでた。今充電ポッドまで運んできたよ。」

「充電切れだったの?」

「土いじりに夢中にでもなってたのかも。」

「珍しいわね、今までそんなこと無かったのに。」


 やはりリンデでも珍しいと思うようなことだったらしい。確かにアーサーがそんな凡ミスをしでかすとは聊か考えづらいが……完璧は無いという点は人間もオムニックもそう大差ないのだろう。

 しかしアーサーが充電中となるともう1つ問題が生まれてしまった。

 足が不自由なリンデは手助け無しでシャワーを浴びる事が難しい。普段はその役をアーサーが担っていた。

 やむを得ずアーサーが動けない場合はワンデーのヘルパーを雇っていたが、今はそこまでに時間もなさそうだ。

 むむ、と困った様子のバウムを察してかどうかはわからないが。


「シャワーは宿泊先に着いてからにするわ、あまりゆっくりしている時間も無さそうだし。」


 リンデがそう進言した。確かにリンデもどうせならゆっくりと入浴したい事だろう。ヘルパーは軍基地で頼むことにしよう。

 バウムはどこか申し訳ない気持ちになりつつその提案に同意した。

 二人は身体を軽く拭き取ってから着替えるだけに留め、最低限の荷造りを急いだ。

 その後程なくしてロディから連絡が入った二人はラメドの広場へと向かった。

 そこにはすでにロディのトレーラーが二人を待っており、荷台には仰向けでがっちりと固定された件の汚れたセイクラムが居るのだった。

 見た感じラメドに実はあったのであろう重機だかクレーンだかを使った痕跡はあれど、やはり小一時間で積み終わってしまうというのはもはや一種の魔法の類と思えてしまいそうだ。

 という話をロディにしたら何故か奥の方で聞いていたラメドの屈強な男衆達がどこか誇らしげな顔をしていた気がするが……。

 ……まさかそんな、ご冗談を。

 ロディのトレーラーは座席が2つしかない。まあ一般的なトレーラーの通りといえばそうなんだが。

 座席の後ろに一応人が寝転がれるくらいのスペースはあるものの、リンデを助手席に乗せ、バウムは荷台に乗ることにした。

 荷物番という意味合いもあるが、どうにもあの汚れたセイクラムがやはり気になってしまう。

 緩衝材用の毛布なんかも一緒に積まれてるから仮眠をとるにも問題はなさそうだ。

 少し埃っぽいが……さっきの件でこっちはもともと土埃まみれだし大差はないだろう。

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薬の器、毒の脚。 廣戸 憂 @EADAplace

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